憧れの世界は牙を剥く

奈倉ゆう

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3章 白髪の獣人

ブラックボア

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 ビギシティで起こったヒューデットの発生。それはSランク悪魔のフロウアの神の欠片によって強化されたEXスキルによるものだった。
 俺とリーフは無事とはいかなかったがフロウアを追い返し、ヒューデットも発生しなくなった。
 事件を解決した俺達は魔法専門学校、ハーパン学園に入学するため、ビギシティで借りた馬を使い、王都に向かっていた。




「あー……おしりが痛い。」

 馬の手綱を握りながら俺はぽつりと呟いた。少し前にもビギシティのギルドマスター、ガローの愛馬であるSランクの魔獣ウェルメンに乗ったが、ウェルメンに乗った時はかなりスピードがでていたのにも関わらず、ほとんど揺れず、おしりも痛くなることもなかった。

「おしり痛いんですか、私代わりましょうか?」

 俺の呟きが聞こえたのか、荷台で周りを見ながら座っているリーフが俺を見る。

「いや大丈夫だ。さっき交代したばかりだし、馬を使うことは今後もあるだろうから今のうちに慣れておかないと。」

 ビギシティを出て二日が経過したが、数時間ごとにリーフと俺は手綱を持つ係と周りの魔物を警戒する係を交代で行っている。リーフにばかり手綱を持たせるのも申し訳ないし、この世界には車もないため遠いところに行く時は馬をメインで使うだろうから今のうちに慣れておく必要がある。ありがたい申し出だが断ることにする。

「頼ってくれてもいいんですけどね。まぁ、ユウキさんがそういうのなら私は周りの警戒をしておきますね。おしりが限界を迎えたら言ってくださいね。代わりますから。」

 にこにこと笑いながら言うリーフにハイハイとため息をついて答える。まるで俺が途中でギブアップするかのような言い方で少し癪だ。

「リーフは馬の扱いには慣れてるよな。リーフが手綱を握る時は俺の時より揺れも少ないし。」

「村で馬も何頭か飼っていましたからね。その時に馬に乗って慣れたんです。将来馬を使うことが必ずあるから慣れといて損は無いって両親から言われたので。」

 風に揺れる髪を手で直しながらリーフは懐かしい思い出を思い出すかのような表情で呟く。

「そろそろ森に入りますね、どこから魔物が飛び出してくるか分かりません。少し警戒を強めます。」

 平原から森の中へと入り、森の木々が太陽の光を遮断し薄暗くなる。心なしか肌を撫でる風が少しが冷たくなった気がする。
 森は魔物が多く生息しておりこっちとしては木も多く、見渡しずらいため戦いにくい。

「ブモォッー!!」

「っ、リーフ!」

 馬車の音を聞きつけたのか木々の間に何やら大きな影が動き、それが姿を現し俺達の進路に立ち塞がった。

「ブラックボアっ……」

 後ろのリーフが目の前の魔物を見てそう呟く。事前に魔物についてある程度調べておいたが、見た感じブラックボアで間違いないだろう。

 200kgはありそうな巨体に大きな牙を持っているイノシシのような魔物。その巨体から放たれる突進は熟練の冒険者でもまともに食らうと大怪我をする。だが、頭はそこまで良くなく動きはそこまで速くもないため遠距離攻撃が出来れば大した敵にはならないEランクの魔物だ。

「リーフ戦ってみるか?」

 後ろを振り向きリーフに聞いてみる。格上との戦闘を積めば今はFランクのリーフも以前の力を取り戻すのも速くなるだろう。

「えぇ、やってみます!」

 俺の問いにそう言い荷台から飛び降り、リーフはブラックボアの前に立つ。俺は馬を道の端に手綱で誘導し、戦闘を見守る。もちろん他に魔物がいないか、警戒しながらだ。

「ブモッー!!」

 顔を空に向け大きく叫んだ後、ブラックボアはその大きな牙で攻撃しようと突進してくる。

「〈輝け光よ〉!」 

 魔力を貯めた右手を突き出し『フラッシュアウト』で一気に魔力を解放し、突っ込んできたブラックボアの視界を奪う。ブラックボアの突進は、リーフにぶつかる直前にリーフの左側にずれて後ろにあった木にぶつかる。

「マジかよEランクでもこの攻撃力か……。異世界の魔物やっぱ怖すぎだろ。」

 ぶつかった木はバキバキっと音を立て、完全には折れていないが半分ほどまで亀裂が入る。それを見た俺はリーフに聞かれないよう思わずブラックボアの突進の威力にドン引きする。生きているブラックボアを見るのは初めてだがEランクだからといって少し油断していた。リーフはFランクということもあり使える魔法に限りがあるし、魔法攻撃力もF-だ。

 ここは加勢した方がいいか?そう考えると同時にリーフは再び魔力を高める。

「〈小さな火球よ〉、行って!」

「スキルを変更したのか。」

 ビギシティを出る前のリーフは、Fランクになったことにより二つのスキルをセットしていた。スキルを回復魔法の効果が上昇する回復魔法使いと初級魔法の詠唱が一節に短縮できる詠唱省略(小)の二つだ。だが、今リーフは『ファイア』を一節で二発放った。つまり詠唱省略(小)はそのままにもうひとつリーフが所持しているスキルデュアルアクションを回復魔法使いと入れ替えたということだ。

 二発の『ファイア』がブラックボアの背中に着弾し爆発する。

「……やりましたかね?」

「いやリーフおまそれ……」

「ブムォォォ!!」

 お決まりのフラグを立てたリーフに突っ込もうとすると、ブラックボアの怒りの声が聞こえ、煙が晴れるとそこには黒い体毛を焦がしたブラックボアがリーフに向かって足で地面を引っ掻きながら突進の準備をしていた。

「やっぱりその図体をしているだけあって耐久力あるな、リーフ!」

「大丈夫です、〈弾けよ雷〉!」

 加勢しようか、と言う前に突進するブラックボアの左前足にリーフは『スパークエッジ』をデュアルアクションで放った。
 針のように細くて小さな雷は一発目は当たらなかったが二発目がヒットし、ブラックボアは急な刺激に狙いを外し、またもやリーフから狙いを外してリーフの真横に突っ込み、振り返って威嚇のつもりか唸っている。『スパークエッジ』が効いたのか左前足が若干痙攣している。  

「〈集いし魔力よ〉!」

 その左前足を狙い、リーフは『マジックショット』を放つ。元々痺れていたのもあったのか簡単に足を折って体制が崩れる。

「今の私で扱えるかは分からないけど……これに賭ける!」

 リーフはブラックボアの元まで走り出し、途中で初級魔石を取り出して砕き、詠唱を開始する。
  
「〈宿れ光剣我が手に〉っ!」

「一気に決めにいった!」

 現時点でのリーフの最高火力を叩き出すことの出来る『ライトソード』、魔力を光の剣へ変換して無防備に足を折って隙だらけなブラックボアの頭に向かって『ライトソード』を叩き付けた。

「ブモォォッ!?」

「くっ!」

 だが、『ライトソード』は中級光属性魔法。いくらリーフがEXスキルの光の魔法使いで消費魔力量や魔法制御力を軽減しているとはいえ『ライトソード』の発動規定値に届いていない。結果中途半端な魔力と中途半端な魔法制御力で質力と制御が疎かになっていた『ライトソード』では暴発こそしなかったが、充分な火力が出ずに途中で消滅してしまった。
 
「ブ……グッ……モッ!」

 だが生物の急所でもある頭に大きな衝撃を与えたことが影響し、軽い脳震盪を起こしたのか目は虚ろでふらふらと体を揺らし倒れ込む。

「〈我は力を求む〉、はぁっ!」

 ここでチャンスを逃すリーフではなかった。この前ビギシティで購入し、腰にぶら下げていた短剣を手にして、デュアルアクションで両腕に『パワーライズ』を発動してブラックボアのお腹目掛けて振り下ろした。





「うぅ……血の匂いが……」

「そりゃあ短剣で近距離から攻撃したら返り血は付くだろ。」

「だって『ライトソード』一回使っただけで初級魔石で回復した分の魔力を全部使い果たしちゃったんですもん。」

 ぷくっと目を逸らしながら頬を膨らませてリーフは呟く。
 新しく購入した革鎧とその下に着ている服、それに髪や肌にはブラックボアの返り血で赤く染まっていた。
 替えの服はもちろんあるが、早めに水で洗い流さないと血の匂いが染み付いてしまうだろう。

「近くに川とかあるのかな、無限水筒で一応血は落とせるけど2日間水を浴びてないから身体も洗いたいし……。」

「えーっとだな、森を抜ければ少し先に川があるみたいだ。」

「なるほど……とりあえずちょっと着替えてもいいですか?」
 
 貰った地図を見てリーフに答えると、リーフは荷車の自分の替えの服を取りだし荷車に積んでいた無限水筒を片手に若干申し訳なさそうに呟く。

「あぁ大丈夫だ。馬は俺が見ておくよ。」

 そう言って反対側を向いて目を瞑る。
 
「ありがとうございます。…………覗いてもいいですよ?」

「覗くかっ!!」

 リーフの言葉に一瞬ドキッとし、俺は思わず声をあげた。

「ふふっ、冗談ですよ。」

「冗談に聞こえないんだよなぁ。」

 リーフに聞こえるか聞こえないかのギリギリの声量で俺はミラン村のリーフの家での出来事を思い出しながら呟く。

「あ……あはは、あの時はちょっと私もどうかしてました。血を落として早く着替えますねっ、またいつ魔物が来るかも分からないですしっ!」

 リーフに聞こえていたのか早口になり、水が地面に垂れる音がした後、ごそごそっと着替える音が聞こえる。

「もう大丈夫ですよっ!着替え終わりました。」

「風邪ひくぞ、〈風よ阻め〉。」
 
 リーフの声に俺は振り返って髪が水で濡れたリーフを見て、威力を極限まで抑えた『ウィンドブロウ』をリーフの髪めがけて放つ。言うなれば異世界版ドライヤーだ。

「あ、ありがとうございます。」

 『ウィンドブロウ』で髪を乾かしやすいよう、リーフは頭を下げ、自分の脱いだ革鎧と服に無限水筒の水をかけて血を落とす。

「構わない。自分でやるのは勝手が悪そうだからな。
 それと一つ提案なんだがブラックボアだけど、全部は無理だが少し肉を取っていかないか?毎日干し肉に硬い黒パンはきつい。よし乾いたな。」

    この二日間でビギシティで買った干し肉と黒パンを何度か食べたが、毎回食べていると飽きが来る。リーフも同じらしくあの味を思い出したのか、眉をひそめている。

「確かにそうですね。慣れないといけないってのは分かってるんですけど、私もあまり食べたいとは思わないです。干し肉は塩でしょっぱいし、黒パンは硬いですし……。」 

「だよなぁ、毎回あれだと飽きるしやる気もなくなるよなぁ。」

「はい……」

 俺の言葉に遠い目をしながらリーフは頷く。

「えぇーと、これどこの部位がいいんだ……?」

 短剣を片手にブラックボアの亡骸を見てどこから手をつけていいのか悩む。

「〈我は力を望む〉、このモモの部分とかどうですか?見る感じ結構お肉ついてますよ。よいしょっと……。」

「流石に多すぎるだろ。食べきれないと思うぞ?」
 
 『パワーライズ』で筋力を上昇させ、短剣でブラックボアの右前脚の部分を切り離し、リーフは俺に見せてきた。

「確かに……じゃあこのくらいでどうでしょうか?」

 切り離した右前脚を更に小さく切る。大体2人で食べれば2食分だろうか。
 
「そうだな、そのくらいにしておこう。生肉だからすぐ腐れるだろうから残りはここに置いてあとは自然の魔物達が食ったりするだろ。」

「ですね、〈魔法のポケットよ〉。血の匂いに魔物が集まるかもしれません。そろそろここを離れましょう。」

    俺の言葉を聞いたリーフは満足そうに頷き、無限水筒の水で肉を軽く洗い、『マジックポケット』に肉を入れてリーフは荷台に乗り、俺も馬に乗って手綱を握る。

「まだ森の中なので警戒を強めときますね。」

「あぁ、また森の中から魔物が飛び出してくるかもしれないから俺も慎重に進む。」

 手網で馬を走らせる。やる気も失せるような食事だったが、しばらくは美味い肉が食べられる。そう思うと少しやる気も出てきて思わず俺は僅かに口角を上げながら、再び手網を握り直した。
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