憧れの世界は牙を剥く

奈倉ゆう

文字の大きさ
65 / 82
2章 ビギシティと出会い

ミラン脱出

しおりを挟む
 ――数十分ほど前――

「もうとっくにこっちの方は終わった……が」

 少し前にじゃがいもとさつまいもは茹で終わり、今は俺の『マジックポケット』の中に入っている。

「リーフ遅いなぁ。いや2時間くらいって言ったからまだ時間に余裕はあるけど。」

 リーフの家の壁についている時計を見る。現在時刻は昼の11時過ぎ。リーフがここを出て1時間と少し経っている。
 村の中にいる生存者は俺とリーフとウェルメンだけ。そのため外ではなに一つ物音がせず、静寂がこの村を包み込んでいる。
 
「話し相手もいないし、やることも無い。魔法の練習も魔力が少なくていざと言う時に残しとかないといけないし……暇だ。」

 ほんの数時間前は命をかけた戦いをしていたが、今は誰もいない家で一人、暇だと呟いている。

 あまりにも状況が変化しすぎてなんだか笑ってしまう。

「そうだ、新しく手に入った器の欠片を見てみるとしようかな。来てくれ器。」

 フロウアから奪った時は詳しく説明を見ることがなかったから今見てみようと、器の欠片を体から排出する。

「えーと、これだな。」

 3つあるうちの一つを手に取り、詳しく見てみる。

 〈魔力昇華〉
 魔法に使用する消費魔力量の制限を無制限にする。
 魔法制御力は使用する魔法のもとのステータスのままで、消費する魔力量に応じて、魔法制御力、消費魔力量以外の他の魔法のステータスを上昇させることが出来る。

「まだ3つしか器の欠片を持っていないけど、今持っている欠片の中で一番強いんじゃないか?」 

 俺の持っているほかの器の欠片は〈器の加護〉と〈マジックシェア〉。
 〈器の加護〉はこれを持っていないと器の欠片の効果を発動できない。だが、それ以外特に目立った効果は無い。
 〈マジックシェア〉は自分の魔力を他人に与えることが出来る。しかし、べシールから他人に自分が器の使徒だと言ってはいけないと言われているため、他人に自分の魔力を渡すことは基本ない。
 となると、もしまた神気解放をしなければならない状況になった際、込める魔力量によって魔法の効果を調整出来る〈魔力昇華〉は他の2つの権能に比べてかなり強力だ。
 
 効果は魔法に使用する魔力の調整が出来るというシンプルな効果だし、神気解放を使用する際は基本一人でいる時で〈魔力昇華〉は他人がいないと効果を発揮しない〈マジックシェア〉と比べて、自己完結型の権能だし。

「かなりいい拾い物をしたな。これだけはフロウアに感謝しないとな。」

 そうひとりで言いながら器の欠片を再度体に吸収する。
  
「……?なにか音が聞こえる。」

 静寂に包まれていた村に僅かに物音がなるのが聞こえた。

「だんだん音が近づいてきてる?」

 家の外に出て周りを見渡してみると、遠くからウェルメンが走ってくるのが見えた。
 なるほど音はおそらくウェルメンの足音だったんだろう。

 近くに来るのを待っていると、俺を見つけると俺の少し前で止まり、焦っているような声で声を掛けてきた。

「ユウキ、リーフの嬢ちゃんはいるか!?」

「えっ、いやさっきやり残したことがあるからって言って外に行ったぞ。」

「くそ、やっぱりか。ユウキ俺に乗るんだ!リーフの嬢ちゃんを探す!」
 
 それを聞いたウェルメンは膝を下ろすと俺に乗るように促す。なぜそんなことをするのか疑問に思うが、とてもふざけているような様子じゃないため、言う通りにウェルメンの背に乗る。

「スピード出すが舌噛むなよ!」

「お、おう。というかどうしたんだ?リーフを探すってなにかあったのか?」

 家や畑の間を飛ぶように走るウェルメンの背に振り落とされないように捕まりながらウェルメンに問いかける。

「野菜食い終わってお前達のところに行こうと気配を探っていたらお前達以外の気配を察知したんだ。あれは恐らく魔物だ。しかも、すぐ近くにリーフの嬢ちゃんの気配もあった。」

「はぁ!?リーフの近くに魔物って……リーフは今Gランクだからやばいぞ!」

 今リーフが勝てるような魔物はスライムくらいだ。もしもGランク以上のゴブリンやグレイウルフなんてものが相手なら……。

「だから急いでいるんだ、どうして外に出る時一緒について行かなかったんだ!」

「それは……リーフがひとりでやらせて欲しいって言うから。」

「一体何をしようとしていたんだリーフの嬢ちゃんは。」

「さあな、でもすごく真剣な表情をしてたからかなり大事な用があったんだろ。」

 ウェルメンは呆れるように言うが、実際にリーフの表情を見た俺はリーフを庇うように言う。

「む、いたぞあそこだ。」

 ウェルメンがリーフを発見したようでウェルメンの視線の先を辿ると、確かにリーフの背中が見えた。周りには大量のヒューデッドの死体が散乱し、血溜まりも多くまるで地獄をこの世で再現したかのような光景だ。

「本当だ、無事みたいだな。」

「誰ですかっ!」
 
 ウェルメンと共にリーフに近づくと、敵襲だと思ったのか敵意を持った表情で急に振り返った。

「俺だリーフ」

「えっ、あっユウキさん?」

 俺が声をかけると表情が一変し、驚いた表情になる。

「まだ時間に余裕があるが、ウェルメンがリーフの近くに魔物の気配を感知したらしくて急いできたんだが、大丈夫か?」

「あぁ……確かにさっきグレイウルフに襲われました。でも何とか倒せましたよ。ユウキさんが魔石をくれたおかげです。あれが無ければ今頃グレイウルフに食べられてました。ありがとうございます。」

「そっか、とりあえずリーフが無事でよかったよ。ところで一体何してたんだ?」

 リーフの後ろを見ると一部の土が掘り返したかのような状態になっていた。

「両親がここでフロウアに殺されてしまったんです。だから死体を見つけてせめて土に埋めるぐらいはしたいなって思って今埋めたところなんです。」

「そうか……両親もリーフにそうしてもらえてきっと天国で喜んでると思う。」

 そう言ってリーフの両親が埋まった土の目の前で手を合わせた。

「なるほど……ユウキから聞いたが、やり残したこととはこれのことか。確かに自分の親を埋葬するのは子どもである自分の手でやりたいものなんだろうな。」

 普段のふざけたような表情とは違い、落ち着いた声でゆっくりとウェルメンはそう言ってリーフの方へ振り向く。

「だがな今のリーフの嬢ちゃんはランクも低く、魔物と出会ったら危険な状態なんだろ?そういう時は俺に言うなり、ユウキに着いていってもらえば良かったじゃないか。今回は死ななかったが、次はどうなるか分からないぞ?いや、ランクが低い分、死ぬ可能性が高い。」

「ぅ……ごめんなさい。」

 さすがに反省したのか目を逸らしながらリーフはぽつりと謝った。

「反省してるのなら許すとしよう。さて、思ったよりも魔物が村の中に入ってくるのが早い。ここから脱出した方がいいと思うが2人はどうだ?」

「そうですね、私はもうやり残したこともないので賛成です。」

「俺も特に異論は無いが……ウェルメンの傷は大丈夫なのか?」

「野菜食ってたら治りが速くなったんだ。」
 
「ご飯食べたら治り速くなるってどういうことやねん。」

「俺はウェルメンだぞ?こういうことも容易いのさ。」

「いや、訳分からん。……とにかくウェルメンが大丈夫なら早速ここを出るとするか。」

 本人が大丈夫そうなのでウェルメンの提案に乗り、ウェルメンに乗ってミラン村を脱出することにする。




 
「さよなら……私の故郷」

 ウェルメンに乗り、10分ほどで入り口まで辿り着くことができ、やっと出られると思っていたところ、俺の後ろに乗っていたリーフが小さな声でぽつりと呟いた。

「…………。」

 ほんの少し振り返り、リーフの横顔を見る。その表情は悲しみに満ちていたが俺が振り返ったのに気付くとリーフは軽く笑みを浮かべ……下を向いた。

「ユウキさんに慰めてもらって……自分で死のうって思っていたあの時が馬鹿らしくなりました。みんなのために私は生きないといけない、仇をとってあげたい、そう思えるようになりました。
 でも……やっぱりちょっと……寂しいですね。」

 そう言って顔を上げたリーフは微笑みながらも目から一粒の滴が頬を濡らしていた。
 無理もない。突然故郷も親も大切なもの全てを失ってしまったんだ。
 
 ふと、自分が家族を失った時のことを思い出す。親が事故にあったと聞いた時、鏡に映った自分はどんな表情をしていただろうか。2年ほど前の出来事だがあの頃は急に両親を失い、当時まだ中学生だった俺は気持ちの整理にも時間がかかり、頭の中がぐちゃぐちゃになっていて当時の記憶は曖昧だ。

 目の前のリーフも俺とそう歳が変わらない。微笑んではいるが、心の中は未だに整理がつかず感情はぐちゃぐちゃだろう。

「リーフ、もしまた困ったことがあるなら言ってくれ。俺もお前と同じくらいに家族を亡くした。なんの予兆もなく急に……。人間ってのはいきなり親密にしていた存在がいなくなったらどうすればいいのか分からなくなっちまうんだ。特にまだ成人もしていない子どもの頃にそうなってしまったら。」

「え……ユウキさんも……その、家族を?」

 俺の言葉にリーフは目を開かせる。ウェルメンも一定のリズムで走っていたが俺の言葉が聞こえたのか僅かにそのリズムがズレる。

「あぁ……俺の場合はまだ祖父母がいたから立ち直ることが出来たけどリーフは……。まぁ……だから俺も家族を失う気持ちは分かるから遠慮せずに頼ってくれ。」

「わ、分かりました。」

「お前らまだ若いのに大変な思いをしてきたんだな。」

「ウェルメンってそういえば何歳なんだ?」

 走りながらぽつりと呟いたウェルメンになんとなく気になって質問をする。

「俺は6歳だな!」

「俺達に対して若いとか言える年齢じゃないだろ。」

「ふふ……」
 
 呆れながら俺は呟いたが、それを見て軽く笑ったリーフを見てまあいいかと心の中で思った。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

霊力ゼロの陰陽師

テラトンパンチ
ファンタジー
生まれつき霊力を持たない少年、西園寺玄弥(さいおんじげんや)。 妖怪の王を封じた陰陽師の血を引きながら、彼だけが“無能”と呼ばれていた。 霊術学院で嘲笑され、才能の差を突きつけられる日々。 それでも諦めきれなかった彼の前に現れたのは、王と対立する最強クラスの妖怪――九尾・葛葉。 「貴様の力は、枯れているのではない。封じられているだけだ」 仮契約によって解かれた封印。 目覚める霊力。動き出す因縁。 これは、無能と蔑まれた少年が、仲間と共に妖怪の王へ挑む物語。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...