【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
12 / 120

12 この気持ち

しおりを挟む
マヒロは、これまで異性とつき合ったことはない。好きになった異性がいなかったわけではないが、それも熱烈に好き!という感じではなく、何となくあの人かっこいいなあ、というくらいの淡い程度のものだった。だからこそ自分から告白してみようとか付き合ってみたいとか思ったこともなかった。
周囲の友人たちはそれぞれ色々な付き合いをしていてその話も見聞きしてはいたが、あまり自分の事としては捉えられなかったのだ。
大学に進学すればまた違った出会いがあったりそこで何かが生まれたりするのかな、などと漠然と考えていた程度のマヒロにとって、この二日間のハルタカとの接触は刺激が強すぎる。まだたった二日しか経っていないのに精神的疲労が休まる暇がない。
「自分がこんなに美形の顔面に弱いとも思ってなかったな‥」
ひとりごちるといつのまにかそのまますうっと眠りに落ちてしまった。


ハルタカはテンセイを駆ってマヒロと出会ったところまでやってきていた。丸二日経っているが、異生物の亡骸はまだそこにある。異生物は生きている時は生き物に害を及ぼす『ニゴリ』を発生させるので厄介だが、死んでしまえば『ニゴリ』も発生せずその亡骸の素材は様々に有用な素材として取引されることがほとんどだ。にもかかわらず亡骸がそのままというのは、いかにここが人通りの少ない場所であるかを示している。
「やはり、ヒトが通った形跡はないか。‥ここはほとんどもうヒトの通らぬ道だろうからな‥」
そう考えれば、この異生物が発生したことによってマヒロはハルタカに発見されたのだから、かなり運がよかったと言える。この道の先は凍てつく山岳地帯で人家なども今はない。反対方向に進んでいたとしても、ヒトが住むところまで徒歩では一か月くらいかかるかもしれない。
「見つけるべくして私が見つけたということか‥」
ヒトの手に負えぬものの処理を、時として任されるのが龍人タツトの宿命だ。マヒロの身柄を預かるのも龍人タツトの役割なのかもしれない、とハルタカは思った。

しかし、やはりハルタカにもわからない部分はある。なぜマヒロを抱きしめたくなるのだろう。あまつさえ、タツリキを流すでもなく口づけまでしてしまった。これまで、どんなにヒトにせがまれても望まれても口づけや抱擁、性交をすすんで行なったことはないハルタカなのに。
マヒロは特別、美しい顔立ちという訳ではないとハルタカは思う。もとは黒髪黒目だったらしいが、赤い髪は全く珍しくはないし、身体つきも少し痩せてはいるが普通だ。
カベワタリだから、気になるのか。おのれの知らぬ知恵を持っているからか。
「‥‥わからぬ」
だが、マヒロが龍人タツトの住処を出て街へ移動したい、と言ったときハルタカは非常に不快だった。その時ハルタカの胸を占めていたのは(なぜ?)という気持ちだった。
なぜ、私のところから去ろうとするのか。
私のところにいるべきなのに。
そんな思いが自分の胸の内を走り抜けたのを、ハルタカは覚えている。
‥早く出て行ってほしいと思っていた当初の気持ちがどこへ行ってしまったのか、それも全くハルタカにはわからない。
本来、龍人タツトとヒトは同じところに長くいるべきではないとされている。生きる時間が違うから、というのももちろんだが、龍人タツトの持つ力は強大すぎて、ヒトによくない影響を与えることの方が多いから、というのがたいていの場合言われる理由だ。
ヒトは、便利であったり都合がよかったりするとどんどんそちらの方へ流れてしまう生き物だ。龍人タツトの強大で便利な力は、人間には毒にもなってしまう。
だから龍人タツトたちは極力、ヒトと仲を深めないし、つき合いもあまりしない。便宜上、各国首脳とくらいは顔繋ぎをしているがその程度だ。例えば、どこかの国がよほどの悪政を敷いていたとしても龍人タツトは介入しない。ヒトの世はヒトの手で変えられるべきだと龍人タツトらは考えているからだ。

だが、先ほどハルタカは自分の意志によって住処にマヒロを引きとめてしまった。
自分自身でも驚き、そして混乱した。なぜ、そういう振る舞いに及んだのか、いくら考えてもわからない。
異生物の亡骸の様子を見るとともに、少し頭の中の整理をしようとここまでやって来たのだったが、全く整理はされなかった。ただ、自分でも処理しきれない事柄がそこにあるのを再認識したに過ぎなかった。

周囲を見回して異常がないのを確かめたハルタカは、異生物の亡骸を人里まで運んでやろうかと思ったのだが、まだ二日しか経っていないと思い直した。もう少し様子を見てからでもいいだろうと思ってそのままにしておく。できるだけ介入しないに越したことはない。
そしてテンセイに乗ろうとして、少し離れたところに何か落ちているのが見えた。近くに寄ってみると、異生物に轢かれたのか少し変形したと思われるものが転がっていた。おそらくは円形のものが二つ付いていたのだろう。円形は車輪のように見えたが今は無残に潰されてしまって車輪の役割を果たせそうにない。籠のようなものもついていたようだがそれもへしゃげており、何も入っていなかった。
だがその物体より少し離れたところに、鞄のようなものが落ちている。変なものがいくつかくっついており、それは一つもハルタカが見たことのないものばかりだった。
これらはおそらくマヒロの持ち物だろう。‥ここに放置していては、ヒトに見つかって色々都合が悪いかもしれない。
ひゅっと口笛を鳴らしテンセイを傍に呼ぶ。二、三度の羽搏きで寄ってきたテンセイは不思議そうにそれらの残骸を軽く嘴でつついた。
「テンセイ、鞍に縛り付けるからこれを運んでほしい。大丈夫か?」
こんなものを運ぶくらい負担でも何でもない、とでも言いたげにテンセイはアオオオ!と軽く鳴いた。頼もしい相方の背を軽く叩き、何かの残骸とマヒロのものとおぼしき荷物を細いが頑丈なクープ紐で鞍とテンセイの身体に固定する。
これらを見れば、少しは喜ぶだろうか。考えてみればハルタカはマヒロの笑顔を見ていない気がする。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...