20 / 120
20 抱擁と名前
しおりを挟む
ハルタカの住まいである、龍人の住処は、周りを高い山々に囲まれたごく狭い土地に建っている。周りを見ると険しい山ばかりで、道らしき道もあるように見えない。街に出かけるということだったが、どのようにしていくのだろう、まさかテレポートなんてできちゃったり?と漫画などの知識を総動員させて考えていると、こちらに飛ばされてきた日に見かけた翼竜をハルタカが連れてきた。なかなか怖い顔をしているし、でかい。とにかくでかい。あの時はあまりわかっていなかったのだが、今こうして近くで見てみると翼竜は少し大きめの物置小屋くらいの大きさはある。ときどきばたつかせている翼は、完全に広げてしまえば全長で5,6mはありそうだ。
「マヒロ、少し大きめの鞍に付け替えたからお前も乗れると思う。ここに乗ってくれ。私が後ろからお前の身体を支える」
「えっ」
やはりこの翼竜にのるのか。マヒロはお腹の底がひゅっとなるのを感じた。絶叫マシンに乗る前と乗った時になる、あの感じだ。
だが、道がないということは街に行くにはこの翼竜にのらないといけないのだろう。こわごわと翼竜の顔の方を見てみれば、意外に瞳は真っ黒でまん丸く、愛嬌のある顔をしているようにも、見えなくはない。
「えー、と、ごめんね、乗せていただきます‥」
そう言いながらおっかなびっくり翼竜の傍に近づく。すると<ルアア>と小さく鳴いて翼竜はその身体をゆっくりと沈めて、マヒロがのりやすいように低くしてくれた。意思が通じる!と嬉しくなったマヒロは、翼竜に近づいてその太い首元を撫でた。細かい鱗に覆われている肌はザリザリするが、触り心地は意外によかった。
「賢い翼竜ですね!」
ハルタカは少し首を傾げた。
「マヒロの国ではこれはヨクリュウと呼ぶのか。こちらでは飛竜と呼んでいる。かなり賢い動物だな。乗せてもらうには何年もつき合わねばならない。だからほとんどヒトは乗らないな。龍人がよく乗る動物だ」
「いやいや、私の世界ではこういう生き物はもう生きてないんです、いただろうね、とわかっているだけで」
そういうマヒロに対して、少しハルタカは悲しそうな顔をした。飛竜の身体を優しくなでる。
「マヒロの国には、竜は他にいるか」
「えーと‥基本的にいないですね‥」
「そうか‥竜はいい生き物だがな。賢いしよく飛ぶ。主人と決めたらよく仕えて飛んでくれる」
「なるほど‥えっと、この飛竜?は何か名前がありますか?」
竜がいない、という事実が結構ハルタカ的には悲しかったらしい、ということをマヒロは見て取り、話題を変えた。
「テンセイ、という。龍人の中では飛竜の名前も龍人の名前もある程度決まっているからその中から選ぶんだ」
「へえ!何か意味があるんですか?」
話題を変えるために聞いた事だったが、興味を惹かれて重ねて質問した。ハルタカも少し柔らかい顔になって答えてくれる。
「テンセイは空高く飛ぶ、という意味だ。私の名前も、空のかなた遠く、という意味だから似たような名前を付けた」
マヒロは目を丸くして、目の前の龍人と飛竜を見た。こんな偶然ってあるんだろうか。
「私の名前、天尋も似たような意味ですよ!高い空‥天の幅いっぱいまで成長するように、ってつけてくれた名前らしいです」
今度はハルタカが目を見開いた。飛竜や龍人は空にゆかりのある名前が多い。たまたま自分が拾う羽目になったカベワタリも似たような意味の名前を持っているとは。
やはり、このカベワタリに自分が出会ったのは、運命なのかもしれない。この先、大事に囲うべき番いなのかもしれない。
そう思って嬉しそうに自分を見上げてくるマヒロの顔を見つめた。頬を少し赤くしてにこにこしている。思わず、ハルタカは傍に近づいてぎゅっと抱きしめた。予想外の行動に驚いたマヒロからは「ぐえ」という声が上がった。
「はるたは、くうひいれす(ハルタカ、苦しいです)」
太い腕を必死にタップしているマヒロに気づいて、すぐに腕の力を緩めた。小さすぎないだろうか。抱きしめるとちょうどハルタカの胸辺りにマヒロの頭が来てしまうのでいつも顔を胸で潰してしまっている。鼻がぎゅっと潰れてしまったらしく、腕の中でもがきながら何とか手で鼻の先を撫でている様子がかわいらしかった。また、頭を軽く引き寄せそこに口づけてしまった。
「ハルタカさん!そ、そういうの、だめですって!」
そしてまた怒られてしまった。
だがハルタカは、自分に怒って顔を赤くしているマヒロもかわいらしいな、と思うようになってきていた。
つまり、あまりマヒロの羞恥や怒りは伝わっていなかった。なので、その怒っているマヒロを見てもう一度抱きしめてしまった。
「ハルタカさん!もう!やめてくださいってば!」
顔を真っ赤にして非力なくせにぐいぐい自分を遠ざけようとしているマヒロはかわいらしい。ハルタカは微笑みながらその様子を何も言わずに見ていて、マヒロはいたたまれないような恥ずかしさを感じた。
「も、もう、行きましょう!行きたいです!」
そう言ってハルタカの腕から抜け出し、一生懸命飛竜の鞍に乗り上がろうとしているマヒロをひょいと抱き上げ鞍に乗せた。そして自分もその後ろに飛び乗った。
「空気は私が調整する。苦しくなったり身体が重くなったりしたらすぐに言え。いいな」
「はい、ありがとうございま‥す‥」
自分のお腹にぐっと回されたハルタカの腕に驚いた。ずっとこの腕に抱かれて乗るのか‥?
と、思っていたことなど、テンセイが大きく羽搏いて空に勇躍するとすっかり忘れてしまった。
怖い!
高い!めっちゃ高い!
そして、速い!
テンセイの羽搏き一回で相当な飛距離を稼いでいるように感じる。マヒロは高いところも絶叫マシンも全然平気なたちだったが、これは別格に怖い!びゅうびゅうと顔を吹きすぎる風に口も目も開けられない。耳もちぎれるように冷たくなる。お腹に回されたハルタカの腕に必死にしがみついていることしかできなかった。
(お、お出かけ、命がけじゃん‥)
「マヒロ、少し大きめの鞍に付け替えたからお前も乗れると思う。ここに乗ってくれ。私が後ろからお前の身体を支える」
「えっ」
やはりこの翼竜にのるのか。マヒロはお腹の底がひゅっとなるのを感じた。絶叫マシンに乗る前と乗った時になる、あの感じだ。
だが、道がないということは街に行くにはこの翼竜にのらないといけないのだろう。こわごわと翼竜の顔の方を見てみれば、意外に瞳は真っ黒でまん丸く、愛嬌のある顔をしているようにも、見えなくはない。
「えー、と、ごめんね、乗せていただきます‥」
そう言いながらおっかなびっくり翼竜の傍に近づく。すると<ルアア>と小さく鳴いて翼竜はその身体をゆっくりと沈めて、マヒロがのりやすいように低くしてくれた。意思が通じる!と嬉しくなったマヒロは、翼竜に近づいてその太い首元を撫でた。細かい鱗に覆われている肌はザリザリするが、触り心地は意外によかった。
「賢い翼竜ですね!」
ハルタカは少し首を傾げた。
「マヒロの国ではこれはヨクリュウと呼ぶのか。こちらでは飛竜と呼んでいる。かなり賢い動物だな。乗せてもらうには何年もつき合わねばならない。だからほとんどヒトは乗らないな。龍人がよく乗る動物だ」
「いやいや、私の世界ではこういう生き物はもう生きてないんです、いただろうね、とわかっているだけで」
そういうマヒロに対して、少しハルタカは悲しそうな顔をした。飛竜の身体を優しくなでる。
「マヒロの国には、竜は他にいるか」
「えーと‥基本的にいないですね‥」
「そうか‥竜はいい生き物だがな。賢いしよく飛ぶ。主人と決めたらよく仕えて飛んでくれる」
「なるほど‥えっと、この飛竜?は何か名前がありますか?」
竜がいない、という事実が結構ハルタカ的には悲しかったらしい、ということをマヒロは見て取り、話題を変えた。
「テンセイ、という。龍人の中では飛竜の名前も龍人の名前もある程度決まっているからその中から選ぶんだ」
「へえ!何か意味があるんですか?」
話題を変えるために聞いた事だったが、興味を惹かれて重ねて質問した。ハルタカも少し柔らかい顔になって答えてくれる。
「テンセイは空高く飛ぶ、という意味だ。私の名前も、空のかなた遠く、という意味だから似たような名前を付けた」
マヒロは目を丸くして、目の前の龍人と飛竜を見た。こんな偶然ってあるんだろうか。
「私の名前、天尋も似たような意味ですよ!高い空‥天の幅いっぱいまで成長するように、ってつけてくれた名前らしいです」
今度はハルタカが目を見開いた。飛竜や龍人は空にゆかりのある名前が多い。たまたま自分が拾う羽目になったカベワタリも似たような意味の名前を持っているとは。
やはり、このカベワタリに自分が出会ったのは、運命なのかもしれない。この先、大事に囲うべき番いなのかもしれない。
そう思って嬉しそうに自分を見上げてくるマヒロの顔を見つめた。頬を少し赤くしてにこにこしている。思わず、ハルタカは傍に近づいてぎゅっと抱きしめた。予想外の行動に驚いたマヒロからは「ぐえ」という声が上がった。
「はるたは、くうひいれす(ハルタカ、苦しいです)」
太い腕を必死にタップしているマヒロに気づいて、すぐに腕の力を緩めた。小さすぎないだろうか。抱きしめるとちょうどハルタカの胸辺りにマヒロの頭が来てしまうのでいつも顔を胸で潰してしまっている。鼻がぎゅっと潰れてしまったらしく、腕の中でもがきながら何とか手で鼻の先を撫でている様子がかわいらしかった。また、頭を軽く引き寄せそこに口づけてしまった。
「ハルタカさん!そ、そういうの、だめですって!」
そしてまた怒られてしまった。
だがハルタカは、自分に怒って顔を赤くしているマヒロもかわいらしいな、と思うようになってきていた。
つまり、あまりマヒロの羞恥や怒りは伝わっていなかった。なので、その怒っているマヒロを見てもう一度抱きしめてしまった。
「ハルタカさん!もう!やめてくださいってば!」
顔を真っ赤にして非力なくせにぐいぐい自分を遠ざけようとしているマヒロはかわいらしい。ハルタカは微笑みながらその様子を何も言わずに見ていて、マヒロはいたたまれないような恥ずかしさを感じた。
「も、もう、行きましょう!行きたいです!」
そう言ってハルタカの腕から抜け出し、一生懸命飛竜の鞍に乗り上がろうとしているマヒロをひょいと抱き上げ鞍に乗せた。そして自分もその後ろに飛び乗った。
「空気は私が調整する。苦しくなったり身体が重くなったりしたらすぐに言え。いいな」
「はい、ありがとうございま‥す‥」
自分のお腹にぐっと回されたハルタカの腕に驚いた。ずっとこの腕に抱かれて乗るのか‥?
と、思っていたことなど、テンセイが大きく羽搏いて空に勇躍するとすっかり忘れてしまった。
怖い!
高い!めっちゃ高い!
そして、速い!
テンセイの羽搏き一回で相当な飛距離を稼いでいるように感じる。マヒロは高いところも絶叫マシンも全然平気なたちだったが、これは別格に怖い!びゅうびゅうと顔を吹きすぎる風に口も目も開けられない。耳もちぎれるように冷たくなる。お腹に回されたハルタカの腕に必死にしがみついていることしかできなかった。
(お、お出かけ、命がけじゃん‥)
12
あなたにおすすめの小説
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる