【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

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21 アツレン

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街から少し離れた、開けた野原でテンセイから降りた。乗っていた時間は体感では一時間くらいはあったように感じたが、おそらく実際にはもっと短かったのだろう。テンセイは全く疲れていない様子で、足で翼を掻いたりしている。ハルタカはそんなテンセイの太い首をぽんぽんと優しく叩き「呼んだらまたここに来い」と声をかけた。するとテンセイは<ルアアア>と喉を鳴らしてばさりと羽搏き、瞬く間に高度を上げて飛び去っていった。
「呼んだらって、呼んだらわかるものですか?」
「そうだな、遠くにいてもテンセイは私の声を拾う」
便利。本場のウーバーみたい。
そう感心しているマヒロの顔を、ハルタカは少しかがんで覗き込んだ。急に目の前に現れた美しい男の顔に、ひゃっと驚いてマヒロは変な声が出てしまった。
「顔色がよくないな。‥調整していたつもりだったが、やはり寒かったか」
そう言うとサッとマヒロを抱き上げて自分の身体で包み込むようにした。ハルタカの体温が伝わってくるようでどうしていいかわからない。
「ハル、ハルタカさん!大丈夫だから、歩けますから!」
そう訴えて下ろしてもらう。多分あの顔してるだろうな、と思って見上げれば予想通りのむっすり顔だった。
「‥つらい時は早く言え」
「ありがとうございます」
そう言って歩き出したハルタカの後ろについていく。少し離れたところに、もう街並みが見えてきていた。

二人が訪れたのは、カルカロア王国の北部にある街では一番大きなアツレンというところである。カルカロア王国はいくつもの少数民族が集まってできたという歴史を持つ国で、未だにその民族性を持った人々が暮らしている国だ。長い間に民族の特徴は失われてしまったが、暮らしぶりや伝統文化などは色濃く残っているところが多い。このアツレンには、数百年前までこの北部で一番の勢力を誇っていたロアン族の伝統文化が強く残っており、人々は心の中に自分はロアン族である、という気持ちを持って暮らしている。
ロアン族は基本的には農耕、牧畜をよくする民族だったのでその技術や伝統文化が受け継がれており、ここでしか作られない野菜や果実、獣毛から作られる製品などが取引されている。
また、ロアン族にはレイリキシャ、マリキシャが多く、異生物相手に戦うことを生業とする者たちも多かった。異生物を倒すには、レイリキやマリキを流し込めた武器をもって斃すしかない。どの力でもいいのだが、特にこの二つの力が異生物退治には向いているとされていた。
そのせいで、アツレンにはカルカロア王国の対異生物騎士団が常駐しており、異生物の素材取引などを取り仕切る商隊も多く存在している。
つまりアツレンは、昔ながらの生産物と異生物退治で成り立っている中規模の商業都市であると言える。
それを裏付けるかのように、市場は様々なものが売られてかなり活気のある様相を呈していた。

マヒロは、初めて見るこちらの世界の人々や、彼らの住む建物、身につけているもの、売られている商品、を間近で見ることができ興奮していた。あまりにもハルタカが美しくてこちらの人はみな美形ばかりなのではないかとビビり倒していたのだが、街に来てみればそれこそ顔立ちは千差万別で色々な人々が行きかっている。人々の髪色が、聞いていた通り白や黒、青や赤といった色であるのを見て驚いた。割合としては白髪、黒髪の人が多く、残りを青、赤の髪の人が占め、ハルタカに聞いていた金髪の人は今のところ一人しか見ていない。
そしてハルタカの言った通り、銀髪の持ち主は一人もいなかった。だからハルタカはそこに立っているだけでかなり目立っている。
もっとも、この街の人がハルタカを見ることはままあるらしく、あちらこちらで「龍人タツト様」と声をかけられていた。
そう、「龍人タツト様」である。
こんなにハルタカが、尊敬されているというかとても偉い人、のように扱われているのを見て、何となくマヒロは身の置き所のないような気持ちになった。
人々が尊敬をこめて、様とつけて呼んでいる人に、自分は結構失礼なことを言ったりしたりしてきたような気がする。‥全くもって今さらだが、大丈夫なのだろうか‥?
まあ、ハルタカ本人に怒られたわけではないので、おそらく‥大丈夫なのだろう。
ハルタカに声をかける人々は、マヒロの方にもちらりと視線を寄せてくるが、特に話しかけようとかじろじろ見るなどといった行動には出てこない。
ハルタカに気を遣っているのか、ただマヒロに興味がないのかわからないが、特に話すこともないのでハルタカの斜め後ろでじっと気配を殺すことにした。
ハルタカは鷹揚に人々のあいさつを軽くかわしながら、市場を通り抜け、街の中心部にほど近い石造りの建物へと入っていく。看板や中の様子から見て、衣服を商っている場所のようだった。中に入れば、豊かな白髪を大きな二つの輪のようにして結い上げている、少し年嵩なヒトが出迎えた。見た目にはすこしふくよかで大きな胸もあり、マヒロには完全に女性に見えた。
(‥でも、あのヒトにも、あれついてるんだよね‥)
と、思わず下世話なことを考えてしまって一人で顔を赤くした。そんなマヒロに気づかず、ハルタカは白髪のヒトと話し始めた。
「ツェラ、久しぶりだな。今日はこのマヒロの衣服を整えたくて来た。適当に見繕ってくれ。防寒用の厚い上着、後寝る時のための衣服、普段着をいくつかと靴下、靴もいるな‥何か適当に出してくれ」
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