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22 ツェラの店
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ツェラと呼ばれたヒトは少し驚いたように口を開けてハルタカを見て、それからじっとマヒロを見た。目隠しのレース越しに視線を感じ、ぺこりと軽く会釈をする。ツェラはふっと息を吐いて笑顔を作り、ハルタカに返事をした。
「龍人様、お久しゅうございます。愛らしい方ですね。今保護されていらっしゃる方ですか?」
「そうだな。番いではないかと私は思っている」
えっ、そういうの平気で他人に言っちゃうんだ。
マヒロはそう思ってハルタカを見た。特に何も気にしていないように顔色を変えていない。だがそう言われたツェラの方はわかりやすく「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。
「な、何と‥番い様をご確認に?おめでとうございます!ああ、何という慶事でしょう!」
そう言うと目にうっすら涙を浮かべて喜んでいるようだ。
待って待って、多分だけど全然番いじゃないって。
「あの、すみません、私多分その番いじゃないと思うので‥ハルタカがちょっと勘違いしているだけだと思ってます」
ここはしっかり訂正しておかなければならないだろう、ハルタカが人々に尊敬されている立場ならなおさらだ。あとから「お前風情があのような立派な方に!」的な文句をつけられるのは困る。今は自分がどう生きていくかだけでも精一杯なのだ。
だが、その言葉を聞いた二人はそれぞれ違う反応を見せた。ツェラはまた「ひいっ」と小さい悲鳴をあげて固まってしまったし、ハルタカは最上級のむっすり顔でこちらを見ている。そしてぐいとマヒロの身体を抱き寄せてきた。
「ハルタカさんっちょっと」
「否定するな」
耳元に口を近づけて、ハルタカが囁く。低く色気のある声に身体がふるっと震えたのがわかった。イケボ、ってすごい。
まだ少し震えているマヒロに向かって、ハルタカは言葉を継いだ。
「私はお前を番いではないかと思っている。確かめてみないと確定はできないが‥お前にそうやって否定されると胸が騒ぐ。否定しないでくれ」
そう言ってマヒロの頭に額をつけてきた。たくましい身体に抱き込まれて全く身動きができない。どうすればいいんだとじたばたしながらツェラの方を見やれば、なぜかまたうっすらと涙を浮かべてこちらを見ている。
どういう心境で自分を見ているんだろうか‥と思っていると、ツェラが話しかけてきた。
「龍人様、番い様はまだ、ご自分の運命を受け止めきれておられないのかもしれません。ゆっくりとお気持ちが落ち着くのをお待ちになられるのがよろしいかと思います」
「‥ふむ」
そう言われて、しぶしぶといった感じながらマヒロの身体を解放してくれた。ようやくこっぱずかしい状況から解放されてふーと息をつく。そんなマヒロの様子を観察していたツェラは、涙を拭ってにこやかに話しかけてきた。
「番い様、よろしければあちらの試着室の方で私とともに色々と着てみられませんか?その間、龍人様はこちらでお茶でもお召し上がりいただきましょう」
そう言いながら別の店員らしきヒトに合図をする。店員は流れるように奥にあるテーブルセットへハルタカを誘導していく。マヒロは軽く手を引かれて大きなカーテンがあるところに連れてこられ中に入れられた。
カーテンが閉め切られ、ハルタカが見えなくなるとツェラはきゅっと厳しい顔になってマヒロを見た。あれ、これなんか嫌なことを言われるパターンか?と身構えていると、息が洩れるくらいの小さな囁き声で話しかけられる。
「監禁されていますか?困っている?嫌なのに閉じ込められているの?」
「えっ」
「‥龍人様が番い認定をされたら、なかなか逃げることは難しいと思うけど時間を稼ぐぐらいならできる。やってほしい?」
このヒトはおそらく、マヒロが無理にハルタカに引きとめられているのではないかと心配してくれているようだ、とようやく気付いたマヒロは、慌てて自分も小声で返事をする。
「いえいえ、あの、怪我しているところを助けてもらって。今は龍人の住処ってところにお邪魔させてもらってるんで、確かに好き勝手に出かけられたりはしませんけど、そんなに困ってないです」
マヒロの返事を聞いて、ツェラはわかりやすくほっと身体の力を抜いた。眉間を揉むようにしながら「よかった‥」と呟いている。だがまだ腑に落ちない部分があるようで、すぐにまた小声で尋ねてきた。
「龍人様はあなたの事を番いだと思っていらっしゃるようだけど、あなたはあの方をお好きではないの?」
マヒロはうーんと考え込んでしまった。何と返事すればいいのだろうか。だがこのヒトは信用できそうだし、結構大人に見えるから胸の内をさらけ出してもいいかもしれない。
「えっと、とても綺麗な人でかっこいいとは思ってますし、好きですけど、恋愛的な意味で好きかって言われるとまだわからないんですよね‥まだ出会ってから三日くらいしか経ってないんで‥」
そういうマヒロの返事を聞いて、少し困ったような顔をした。マヒロの顔を正面から真っ直ぐ見てまた話しかけてくれる。
「あなたはひょっとしてあまり龍人様のことを知らない?‥龍人様は普通こんなにヒトに感情を揺らさない。ああまで言い切られる、ということは、もうあなたはかなり龍人様に執着されている。‥‥多分、この先逃げることは難しいと思うわ」
え。
待ってくれる、という感じで話してたけど‥やっぱり恋愛的に好きにはなりませんでした、っていう結末はあり得ないってこと?
ていうかもう番いで確定って感じ‥?どっちにしろあの美青年と自分が。どうにかなるしかないっていう流れなの‥?
マヒロは色々な事を考えて、頭の中が収拾がつかなくなってしまった。わかりやすく戸惑っているマヒロを見て、ツェラは困ったような顔をしながら優しく背中をなでてくれる。
「ごめんなさい、怖がらせるつもりはなかったんだけど‥知っておいた方がいいかと思って。相思相愛なら番い様の確認は素晴らしい慶事だけど、そうでないなら‥辛いわね。でもきっといつか好きになれるんじゃないかと思うわ」
優しくそう言ってくれるツェラの言葉はありがたかったが、自分の未来が自分の意思とは関係なく決まっていきそうなことにじわじわとした不安を感じていた。そんなマヒロの様子に、ツェラはニコッと笑顔を見せてトン、と少し強く背中を叩いた。
「不安にさせてごめんなさい。でも、できうる限り私が力になるわ。とにかく今は衣服を選びましょう。ほしいものは色々あったわね。まず何が見たいかしら?」
そう言いながら商品を手に取っているツェラに、今考えても仕方がない、と頭を振って返事をした。
「あの、下着ってあります‥?」
「龍人様、お久しゅうございます。愛らしい方ですね。今保護されていらっしゃる方ですか?」
「そうだな。番いではないかと私は思っている」
えっ、そういうの平気で他人に言っちゃうんだ。
マヒロはそう思ってハルタカを見た。特に何も気にしていないように顔色を変えていない。だがそう言われたツェラの方はわかりやすく「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。
「な、何と‥番い様をご確認に?おめでとうございます!ああ、何という慶事でしょう!」
そう言うと目にうっすら涙を浮かべて喜んでいるようだ。
待って待って、多分だけど全然番いじゃないって。
「あの、すみません、私多分その番いじゃないと思うので‥ハルタカがちょっと勘違いしているだけだと思ってます」
ここはしっかり訂正しておかなければならないだろう、ハルタカが人々に尊敬されている立場ならなおさらだ。あとから「お前風情があのような立派な方に!」的な文句をつけられるのは困る。今は自分がどう生きていくかだけでも精一杯なのだ。
だが、その言葉を聞いた二人はそれぞれ違う反応を見せた。ツェラはまた「ひいっ」と小さい悲鳴をあげて固まってしまったし、ハルタカは最上級のむっすり顔でこちらを見ている。そしてぐいとマヒロの身体を抱き寄せてきた。
「ハルタカさんっちょっと」
「否定するな」
耳元に口を近づけて、ハルタカが囁く。低く色気のある声に身体がふるっと震えたのがわかった。イケボ、ってすごい。
まだ少し震えているマヒロに向かって、ハルタカは言葉を継いだ。
「私はお前を番いではないかと思っている。確かめてみないと確定はできないが‥お前にそうやって否定されると胸が騒ぐ。否定しないでくれ」
そう言ってマヒロの頭に額をつけてきた。たくましい身体に抱き込まれて全く身動きができない。どうすればいいんだとじたばたしながらツェラの方を見やれば、なぜかまたうっすらと涙を浮かべてこちらを見ている。
どういう心境で自分を見ているんだろうか‥と思っていると、ツェラが話しかけてきた。
「龍人様、番い様はまだ、ご自分の運命を受け止めきれておられないのかもしれません。ゆっくりとお気持ちが落ち着くのをお待ちになられるのがよろしいかと思います」
「‥ふむ」
そう言われて、しぶしぶといった感じながらマヒロの身体を解放してくれた。ようやくこっぱずかしい状況から解放されてふーと息をつく。そんなマヒロの様子を観察していたツェラは、涙を拭ってにこやかに話しかけてきた。
「番い様、よろしければあちらの試着室の方で私とともに色々と着てみられませんか?その間、龍人様はこちらでお茶でもお召し上がりいただきましょう」
そう言いながら別の店員らしきヒトに合図をする。店員は流れるように奥にあるテーブルセットへハルタカを誘導していく。マヒロは軽く手を引かれて大きなカーテンがあるところに連れてこられ中に入れられた。
カーテンが閉め切られ、ハルタカが見えなくなるとツェラはきゅっと厳しい顔になってマヒロを見た。あれ、これなんか嫌なことを言われるパターンか?と身構えていると、息が洩れるくらいの小さな囁き声で話しかけられる。
「監禁されていますか?困っている?嫌なのに閉じ込められているの?」
「えっ」
「‥龍人様が番い認定をされたら、なかなか逃げることは難しいと思うけど時間を稼ぐぐらいならできる。やってほしい?」
このヒトはおそらく、マヒロが無理にハルタカに引きとめられているのではないかと心配してくれているようだ、とようやく気付いたマヒロは、慌てて自分も小声で返事をする。
「いえいえ、あの、怪我しているところを助けてもらって。今は龍人の住処ってところにお邪魔させてもらってるんで、確かに好き勝手に出かけられたりはしませんけど、そんなに困ってないです」
マヒロの返事を聞いて、ツェラはわかりやすくほっと身体の力を抜いた。眉間を揉むようにしながら「よかった‥」と呟いている。だがまだ腑に落ちない部分があるようで、すぐにまた小声で尋ねてきた。
「龍人様はあなたの事を番いだと思っていらっしゃるようだけど、あなたはあの方をお好きではないの?」
マヒロはうーんと考え込んでしまった。何と返事すればいいのだろうか。だがこのヒトは信用できそうだし、結構大人に見えるから胸の内をさらけ出してもいいかもしれない。
「えっと、とても綺麗な人でかっこいいとは思ってますし、好きですけど、恋愛的な意味で好きかって言われるとまだわからないんですよね‥まだ出会ってから三日くらいしか経ってないんで‥」
そういうマヒロの返事を聞いて、少し困ったような顔をした。マヒロの顔を正面から真っ直ぐ見てまた話しかけてくれる。
「あなたはひょっとしてあまり龍人様のことを知らない?‥龍人様は普通こんなにヒトに感情を揺らさない。ああまで言い切られる、ということは、もうあなたはかなり龍人様に執着されている。‥‥多分、この先逃げることは難しいと思うわ」
え。
待ってくれる、という感じで話してたけど‥やっぱり恋愛的に好きにはなりませんでした、っていう結末はあり得ないってこと?
ていうかもう番いで確定って感じ‥?どっちにしろあの美青年と自分が。どうにかなるしかないっていう流れなの‥?
マヒロは色々な事を考えて、頭の中が収拾がつかなくなってしまった。わかりやすく戸惑っているマヒロを見て、ツェラは困ったような顔をしながら優しく背中をなでてくれる。
「ごめんなさい、怖がらせるつもりはなかったんだけど‥知っておいた方がいいかと思って。相思相愛なら番い様の確認は素晴らしい慶事だけど、そうでないなら‥辛いわね。でもきっといつか好きになれるんじゃないかと思うわ」
優しくそう言ってくれるツェラの言葉はありがたかったが、自分の未来が自分の意思とは関係なく決まっていきそうなことにじわじわとした不安を感じていた。そんなマヒロの様子に、ツェラはニコッと笑顔を見せてトン、と少し強く背中を叩いた。
「不安にさせてごめんなさい。でも、できうる限り私が力になるわ。とにかく今は衣服を選びましょう。ほしいものは色々あったわね。まず何が見たいかしら?」
そう言いながら商品を手に取っているツェラに、今考えても仕方がない、と頭を振って返事をした。
「あの、下着ってあります‥?」
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