【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
25 / 120

25 騎士と退異部本部

しおりを挟む
ハルタカは甲冑姿の騎士二人に目をやった。
「騎士殿か」
ハルタカがそう言うと、豊かな白髪を後ろで三つ編みに結っている騎士が名のった。
「はい、王立騎士団退異部騎士、アーセルと申します」
その横に立っていた黒髪の騎士も名のった。こちらは艶やかな黒髪を飾り紐でシンプルに一つに結んでいる。人懐っこい顔をした騎士だ。
龍人タツト様、私も同じく退異部騎士のルウェンです。よろしくお願い申し上げる」
次々に名のった二人の騎士を、ハルタカはじろりと見つめて言った。
「騎士殿が何用か」
アーセルが言葉を続けた。
「はい、少し龍人タツト様にお伺いしたいことがございまして。‥‥できれば場所を移動してお話差し上げたいのですが」
そう言ってちらりとマヒロを見る。マヒロはお前は外せ、と言われたのかと解釈するが、ハルタカから離れてこの雑多な雰囲気の市場を一人で歩き回る度胸はなかった。
「えっと‥」
何といえばいいかな、と考えているとハルタカがぐっとマヒロの肩を抱いた。先ほどよりも強い力で抱き寄せられ、「ぶえ」と声が出た。
それを見て黒髪の騎士がぷっと笑った。何だよこいつ。初対面で遠慮なく笑うなあ。マヒロはそう思って、珍しくハルタカの腕の中に入り視線から外れるようにした。
ハルタカは笑った騎士に構うことなく、アーセルに向かって言った。
「これは私の番い‥候補のマヒロだ。私の行くところにはどこへでも連れて行く」
あっ、候補ってつけてくれてる!一応配慮してくれてるんだなあ、とマヒロは嬉しくなった。
番い、という言葉にアーセルは、はっと驚いたようだった。そしてまた言った。
「お連れ様もご一緒で構いません。おいでいただけますか?」
「‥‥‥行こう。領主屋敷か」
「いえ、退異部本部でお願いします」
ハルタカがすっと片眉をあげた。が、特に何も言い返すことなく頷いてアーセルの後ろについて歩きだした。マヒロの肩は抱かれたままだ。その後ろから黒髪のルウェンがついてきている。
アーセルの足は速かった。マヒロは買ったばかりの靴で歩いているので騎士の早足についていくと小走りのようになってしまう。それに気づいたハルタカがひょいとマヒロを抱き上げてそのまま歩き出した。子どもを抱き上げているような「縦抱っこ」に、マヒロは顔がカーッと赤くなるのがわかった。
「ハ、ハルタカさん!歩けますから!」
ハルタカは少し楽しそうにマヒロを抱き上げたまま言った。
「マヒロは、慌てた時だけ私のことをハルタカさんと呼ぶな」
「ひえ?」
全く意識していなかったが、言われてみればそうかもしれない。いやいや今はそうではなく。
「あの、歩けます」
「私がこうしたいのだ。‥許してくれると嬉しい」
そう言ってハルタカは両手でぎゅっとマヒロを抱きしめた。
ハルタカの腕の中は、素晴らしく安定していて筋肉に囲まれてて安心できる。
‥まだ恋愛的感情かもわからないのに、こんなに甘やかされていていいのだろうか。
そのうち、一人で立てなくなってしまうのではないだろうか。
この異世界にやってきてから三日ほどしか経っていないが、今は全てをハルタカに頼ってしまっている状況なのだ。
ハルタカが優しく甘やかしてくれるから、自分がどんどんだめになっていきそうな気がする。
そんなことを考えていると、また後ろからぷぷっと含み笑いの声が聞こえた。あいつ、また笑ってんな、とハルタカの腕の中から後ろをキッと睨むと、ルウェンが楽しそうにくすくす笑っている。マヒロと目が合ってようやく笑い止み、謝罪してきた。
「ああ、申し訳ありません。番い‥候補?様を笑ったんじゃなくて‥アーセル様が全然配慮しないなあと思っておかしくなったんです」
そういうルウェンの声を聞き、アーセルが足を止めた。振り返ってルウェンに声をかける。
「配慮しないとはどういうことだ」
くふふと含み笑いをしながらルウェンは言った。
「だって、番い候補様の足を見たら新しい靴だなんてすぐわかるじゃないですか。歩きなれない上に番い候補様は華奢で、騎士の歩く速度についてこれないのも一目瞭然です。なのに、全然アーセル様は気づかなくてどんどん進むし、結局龍人タツト様が抱き上げられて‥番い候補様は顔を赤くして恥ずかしがってらっしゃるのに、元凶のアーセル様が全然知らん顔で歩いていくのが‥もう‥」
そう言ってはははと声高く笑いだした。それを聞いてアーセルという騎士はブスッと不機嫌な顔になり、マヒロに「失礼した」と謝罪してきた。マヒロも「いいですよ」と返事をしようとしたが、アーセルはマヒロの返事を待たずくるっと前を向いてしまった。
ハルタカはアーセルに
「私が抱いているからいつもの速さで歩いてもらって構わない」
と声をかけている。結局抱っこで運ばれちゃうんだな‥と思ったマヒロは、せめて通行人に顔を見られないようにとハルタカの厚い胸に顔を埋めた。
マヒロからは見えなかったが、ハルタカは実に満足そうにマヒロを抱いて歩いていた。

市場から十五分ほど歩いて大きな建物の前についた。石造りの頑丈そうな建物だ。特に美麗な建物という訳ではないがところどころに彫刻が施されており、そしてそこにある黒ずみがこの建物が長くここにあることを示していた。
太い鉄の棒が何本も組み合わされた門扉をくぐり、重厚な扉を抜けるとヒトがたくさんいる部屋についた。かなり大きな部屋で、奥行きが10mくらいはありそうだ。簡易的な机と座面だけの椅子が真ん中に無数においてあり、壁際にはどっしりとした大きめの事務机と背もたれの高い椅子がいくつも並んでいた。
真ん中の簡易な机と椅子のところには、体格のいい騎士たちがざわざわと集まって何やら話をしており、壁際のどっしりした机には騎士とは違う制服を着た者たちが座って何やら書類仕事をしているように見える。
マヒロには何となく、以前落とし物を届けに行った時の警察署に雰囲気が似ているように思えた。‥ただ、そこにいる騎士たちの体格の良さは尋常ではなかったが。
ハルタカはそんな体格のいい騎士の中にいても全く見劣りがしない。やはり身長は190cm近くあるのではないだろうか。腕も太いし足も太いし、でもふくらはぎから下はしなやかに細くなっているし、腰も細くなっていて恰好いい。
知らず知らずのうちに騎士たちとハルタカを比べていた自分に気づき、またマヒロは一人で顔を赤くした。そんなマヒロを見てまたルウェンはくすくす笑っていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...