【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
50 / 120

50 怖ろしさ

しおりを挟む
マヒロは肩を強く抱くハルタカの手をぱしっと強く叩き、ぐいぐいと押しのけてハルタカから距離を取った。むっとしたハルタカがマヒロに向き直りその顔を見れば、目には涙を滲ませながらも明らかに怒りの色が濃く出ていた。
それを認めてはっとする。今自分はどんな顔をしてマヒロを掴んでいたのか。
マヒロは低い声で言った。
「DV男ってのは、恋人や奥さんを暴力で支配するやつのことです!‥ハルタカは私をどうしたいの?私の生活全部を縛るつもり?」
「マヒロ」
「アーセルを呼び捨てにしただけでそんな態度?‥この先、私の生活に出てくるヒト全部にそういう態度するの?」
「マヒロ、そんなつもりはなかった、すまない」
マヒロは頭を振った。
「‥ハルタカに寂しい思いをさせて我慢させてることはわかってるつもり。‥でも、私の人生は私のものだよね?ハルタカに全部コントロールされたくない」
こんとろーるとはなんだろう、とハルタカは思ったが今それを聞ける雰囲気ではなかった。マヒロが初めて、全身で自分を拒んでいる、と感じられて辛かった。
「マヒロ」
「ごめん、ちょっとハルタカから離れたい」
マヒロはそう言って、その部屋を出ていってしまった。


マヒロはつかつかと廊下を歩きながら涙が溢れてくるのを止められなかった。
怖い。
初めてハルタカにそんな感情を持った。
ハルタカは、マヒロよりも随分体格のいいヒトでありしかもタツリキという不思議な能力まで持っている。
マヒロが抵抗したくても、ハルタカが本気を出せばねじ伏せることは造作もないことなのだ。それを身をもって感じさせられてしまった。
執着めいたハルタカの愛情はこれまで好ましいものとして映っていたが、今初めてその恐ろしさを見てしまったような気がした。
テレビで特集されていたストーカーやDVを働く人々の事が頭の中に勝手に浮かんでくる。
愛情って何だろう。
相手を自分の思うままに縛り付けておきたいと思うのは、愛情と呼べるんだろうか。

マヒロは広い廊下の途中で立ち止まり、壁に手をついた。そうでもしないとそこにうずくまってわんわん泣いてしまいそうだった。喉の奥が締め付けられるように痛い。胸の奥も‥痛い。
ハルタカの事は好きだ。
寿命が信じられないくらい長くなる、という恐ろしさを受け入れてもいいか、と思うくらいには好きだと思っていた。
だが、自分がもし番いでなくても、ハルタカには幸せになってもらいたいとも思っていた。
そういう気持ちはハルタカにはないんだろうか。
自分さえ側にいれば、自分の気持ちなんかはどうでもいいんだろうか。
自分が傍にいてハルタカが満足していればいいのだろうか。

そんな関係性は嫌だ。

マヒロはぐいっと涙をぬぐった。鼻水が詰まって苦しい。
自室に行って顔を洗おう、と歩き出した時、後ろからふわりと軽く抱きしめられて驚いた。

「マヒロ様」
アーセルだった。
アーセルにこのような直接的な触れ合いをされたことはなかったので、余計に驚いた。だが、アーセルの抱擁はいつでも抜け出せそうなくらいには緩く優しいものだった。
「‥何が、そんなにあなたを悲しませているんですか」
「アーセル‥」
「‥俺に‥話してもらえませんか」
優しいその声音に、押さえていた涙がまた溢れてくるのを感じた。「ふ、うっ」としゃくり声が出てしまう。
「‥いいですよ、ゆっくりで。俺は待っていますから」
そう言いながらアーセルは片手で頭をゆっくりと撫でてくれた。
マヒロはずっとしゃくりあげながら泣いていた。

随分長い間泣いていたように思う。
少し落ち着いたころに、アーセルに促されアーセルの部屋に移動させられた。部屋に入れば、アーセルが自らお茶を淹れてくれた。そして二人きりにならないよう、部屋の隅にメイドを呼んで配置させてくれる。
アーセルはいつもこのように、マヒロの気持ちや立場を慮って行動してくれるヒトだった。態度は無愛想だしぶっきらぼうなことが多いが、やはり領主という立場がそうさせるのか、このように周囲のヒトへの配慮はいつも細かかった。だから使用人たちも心からアーセルを慕っているのがわかった。

温かいお茶のカップを両手で包む。掌にじんわりとぬくもりが伝わってくる。中身を啜ればお腹の中もほこほこと温まる気がして、気持ちがふっと安らいだ。
「ありがとう、アーセル」
「いえ。‥何かあったのですか?」
アーセルが自分になぜか好意を寄せてくれるのは、このひと月余りでもよくわかっていた。気持ちを押しつけるようなことは決してしないが、それを隠すこともなかったからである。
そういう気持ちを持ってくれているアーセルに、言っていいことなのだろうか。マヒロは逡巡した。それを見たアーセルは更に言葉を重ねた。
「俺の事は構いませんから、何があったのかだけお聞かせ願えませんか」
重ねて優しい言葉をかけてくれるアーセルに、マヒロは不安定な気持ちを吐露せずにはいられなかった。

「ハルタカが‥ハルタカの気持ちって愛情なのか執着なのか‥なんかわからなくなっちゃって」
「‥どうしてですか?」
マヒロはまた溢れそうになる涙をぐっとこらえながら話した。
「アーセル、の事を呼び捨てにしたら‥いつからだ、ってすごく怖い顔で言われて。肩を強く掴まれて‥怖くなっちゃったんです」
なんか話してるとただの痴話げんかにしか聞こえないな。
マヒロは言いながらそう思った。だが怖い、と感じたのは確かだったのだ。
そんなマヒロを見つめていたアーセルはふっと息を吐いて柔らかく笑った。
「‥俺も、龍人タツト様と同じ立場なら同じことを言ってしまうかもしれません」
「‥え?」
思いがけないアーセルの言葉に、マヒロは顔をあげた。アーセルがそんなことを言うとは思わなかった。いつでも相手のことを思って行動しているように見えていたからだ。
「好いた相手にいつでも自分の事を見てもらいたい、他に目移りしないでほしい、と思うのは当たり前のことかと思います」
まさかにハルタカの肩を持たれるとは思っていなかったマヒロはうつむいた。
結局アーセルも体格のいい「男」のヒトだ。立場だって強い。
自分の感じたような怖ろしさを理解してもらおうというのが無理だったのだ。
マヒロはそう思って、ぎゅっとこぶしを握りしめた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...