【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
49 / 120

49 新しい環境

しおりを挟む
ハルタカとはほとんど毎日、あの腕輪を使って話をしていた。話ができるのは体感として三分くらいで、決して長い時間ではなかったがいつでもハルタカと話せる、という事実がマヒロの気持ちを安心させていた。
マヒロは日々の些細な変化をハルタカに聞かせるのだが、ハルタカはあまりそういう話を聞く事が好きではなさそうだった。一度、なんで私の話を聞くの嫌そうなの?と半ギレ気味に聞いたところ、自分のいない暮らしを楽しんでるようなのは辛かったから、と答えてきてマヒロを悶絶させた。
ハルタカはマヒロが滞在していた間、行けなくなっていた各国を飛び回り様子を見てきているようだった。マヒロはまだ今一つ龍人タツトの役割を理解しきれていなかったが、自分のせいで少しそれが滞っていたのだというのはわかったので、やはり離れたのはよかったのだ、とも思った。
しかしハルタカはマヒロと離れているのが本当に辛いようで、二十日ほど経つとハルタカはまたマヒロのもとにやってきた。そして三日ほど(無理矢理)アーセルの屋敷に滞在し、マヒロを抱きしめまくっていた。
アーセルは、日々マヒロと同じ屋敷に暮らせることに深い喜びを感じていた。無論領主としての仕事もある上、退異騎士としての役目もあるのでいつもマヒロにべったりという訳にはいかなかったが、ルウェンの策略でできるだけ一緒に過ごせるようにしてもらっていたので満足していた。
マヒロは贅沢を好まなかった。そこもアーセルにとっては好ましいと思える部分だった。何でも買っていいし要求していい、と言っているのにやたらに恐縮して、必要なものを買うのにも遠慮をする。曰く「特に何の役にも立ってないから」気が引ける、ということだったが、アーセルに群がってくる若者ワクシャたちにそういう気質のものは今までいなかった。
マヒロの一つ一つの仕草が、たまらなく可愛らしく見える。そう思う自分にアーセル自身驚いていた。他人にこのような感情を持ったことはなかった。自分は一生伴侶を持たずに生きていくのだろうと思っていたほどだ。
退異騎士団の中でも団長でもあり普段鬼のように厳しいアーセルが柔らかくなった、と騎士たちが言いあっていた。そしてその原因を、最近いつもアーセルの傍にいる赤髪で黒い目の若者ワクシャに求めるのも当然の帰結だった。
マヒロは、退異騎士団員からも慕われ「ずっといらしてていいんですよ!」「是非いてください!」と謎のラブコールを受けることが多くなって首をかしげていた。

アーセルはいつでもマヒロに優しく、紳士的に振る舞った。ハルタカとは違った優しさにマヒロも心がアーセルに傾くのを感じた。
だがそれは恋情というよりは、兄を慕うような気持ちだった。
ハルタカへの気持ちは、揺らがない。
アーセルの屋敷で暮らし始めてからひと月が経とうとする頃、マヒロの中でも少しずつ覚悟が決まりつつあった。

一方、焦っていたのはルウェンだった。
マヒロの心がハルタカに向いているのは明らかだった。だからこそ、邪魔なハルタカを追いやってアーセルの屋敷に囲い込んだというのに、アーセルもアーセルで全く積極的に動かない。騎士団一美しいと言われているその顔面をもっと利用しろよ、とルウェンは心の中で毒づいた。
かといって、無理にルウェンが何かを仕掛けようとすればアーセルが怒ることは間違いない。マヒロに心を奪われたアーセルは、ある意味もっと面倒になっていた。昔ならぶつぶつ文句を言いながらもルウェンが推し進めることには最終的に賛成してくれるアーセルだったのに、今はマヒロの気持ちを最優先に動いてしまっている。
ルウェンはじりじりとした気持ちで日々を過ごしていた。もう間もなく『国王選抜』が始まる。それまでに何とかマヒロとアーセルをくっつけたかったのに。

そうでないと、アーセルは『国王選抜』を勝ち抜けない。


『カベワタリ』によって力を増幅させるためには、『カベワタリ』との性交が必要不可欠なのだ。


この情報は、カルカロア王国でもごく一部の人しか知らない極秘情報だった。二十年ほど前、ゴリキ統治国に現れた『カベワタリ』によってその情報が確実視されたと言われている。無論公式にゴリキ統治国がそのようなことを発表したわけではないが、各国の諜報網を潜り抜けていくうちにその情報はごく一部の人間には共有されるものとなっていた。
アーセルは知らない。
知ってしまったらむしろマヒロを抱いたりはしないだろう。自分の欲望や望みのために、愛するヒトを利用するようなことは絶対にしないやつだ。
ルウェンは、パルーラ(強制性交幻覚剤)と‥パルーリア(強力強制性交幻覚作用剤)さえ手に入れていた。
たとえアーセルに軽蔑されても見限られても、アーセルが国王になれるなら何でもするつもりだった。
そうでないと、国民に未来はない。荒廃していく国を見ていたくはない。
だが、屈託なく笑って色々な話をするマヒロを見ていると、パルーラも、勿論パルーリアなどを使う気にはなかなかなれないのも事実だった。
じりじりと心を焦がしながら、ルウェンは自分自身にも苛立っていた。

マヒロがアツレンで暮らすようになって三十五日余りが過ぎ、とうとう『国王選抜』実施期間がやってきた。
開期式は、王都カルロで行われるとのことでマヒロもともに行くことになってしまった。それを聞いたハルタカは途轍もなく不機嫌になった。そしてすぐにまたアツレンにやってきた。
「私も行く」
「え、ハルタカいいの‥?何か仕事とかあるんじゃないの?」
「そんな色々な思惑を持った者たちばかりのところに、マヒロをやるわけにいかない」
「えーと、騎士団の人たちもいるよ?アーセルもいるし‥」
ハルタカは抱いていたマヒロの肩をぐっと引き寄せた。思いのほか力が強くマヒロは少し顔を顰めた。
ハルタカは低い声で訊いた。
「いつから、領主騎士の事を呼び捨てで呼ぶようになった?」
マヒロは、肩に食い込むハルタカの掌が痛くて拳で叩いた。
「痛い!ハルタカ痛いよ!どうしてそんなに強くするの?」
「マヒロ、答えろ」
「‥呼び捨てにしたくらいで何でそんなに痛いことするの?‥DV男みたい。やだ、そういうの」
「‥‥マヒロ、でぃーぶいおとことは何だ?いい言葉ではないよな?」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...