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74 アーセルの回路
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二日ほどゆっくりと休んで、マヒロはようやく起き上がれるようになった。その間、ジャックがこれでもかと甘やかしてくれたので却って申し訳ないような気がした。
二回ほどやってきた医師は、アーセルの幼馴染で口の堅い人物であるということからマヒロの素性を明かされていた。その上のマヒロを診察してこう言った。
「断言はできませんが、マヒロ様はまだヨーリキシャとしての力が落ち着いていないように思えます。おそらく日によって使えるヨーリキの量が違うのでしょう。倒れてしまった日は、たまたま使えるヨーリキ量が少なかっただけで、力素欠乏とは少し違うように見えます」
「普段どういう事に気をつければいいんですか?」
そう尋ねたマヒロに、医師は少し考え込んだ。
「倒れる前に何か感じませんでしたか?」
「倒れる前‥」
気がつけば身体がかしいでいたような気がするが、懸命にあの時の事を思い出してみる。
「あ‥そう言えば、なんか目の奥でちかちかしました」
医師は深く頷きながら言った。
「それが不調の前兆かもしれません。とはいえ、まだわからないことがたくさんありますから、ヨーリキを使用される場合は絶対にお一人にならないようにしてください。それから、気休めかもしれませんが力素を多く含んだ薬湯を飲んでみることをお勧めします。屋敷の者にお渡ししておきますから」
「ありがとうございます」
という訳で、マヒロは今その薬湯を前にしかめっ面をしている。
薬湯は見た目は全く青汁と同じで、苦さが際立つ一品だった。少なくとも十日、これを服用するようにと医師が言い置いていったので、あと一週間は飲まねばならない。
なかなかの不味さで一回目にすぐ弱音を吐いたが、ジャックは絶対に見逃してくれない。寝る前に飲むものなので、すっかり就寝時が憂鬱になってしまった。
「マヒロ様、また倒れたらどうするんですか?ヨーリキ、色々使いたいんですよね?」
「ううう‥‥エグ不味いんだよ‥後味残るしさ‥」
「何か果物を持ってきましょうか?」
「その果物までエグ不味く感じちゃうからいい‥飲むよ、飲むけどちょっと私のタイミングで行かせて‥」
そう言ってジャックを躱しながら何とか飲み込むこと十日。
ようやく飲みきった時には思わずバンザイをしてしまうほどに、それは不味かった。
倒れたことはハルタカには言わなかった。きっと心配してここにやってくることがわかっていたからだ。忙しそうにしているハルタカに余計な心配をかけたくなかった。ただ、ヨーリキで回路を見て美しかったことだけを伝えた。
「確かにあれは美しいものだな。回路を書き込む者によって全く紋様も違って浮き出てくる」
「ハルタカもわかるんだ」
「タツリキは、すべての力の要素を含んでいるからな。ヨーリキができることはタツリキでも大体できる」
「本当にタツリキ、というか龍人って何でもできちゃうんだねえ‥そりゃあみんなに頼られちゃうよ」
「だからこそ、ヒトとは一線引いた関わりにせねばならぬということだ。いつでもタツリキが使える、と思われても困る。ヒトの世はヒトが動かしていくべきものだからな」
「なるほど‥」
「無理をするなよ、マヒロ」
「う、うん!だいじょぶ」
少し焦ったマヒロを見透かすかのような、ハルタカのくぐもった笑い声が聞こえた。
倒れてから十五日余りが経った。
その間にも異生物の討伐は続いており、一応アーセルが討伐した異生物は増えてはいたが、全体で言うとまだ三位の成績らしい。成績は異生物の数ではなく重さで決まる。つまり大物を討伐しなければなかなか上位に食い込むことが難しいのだ。
大物に対峙すると、アーセルのレイリキはなかなか剣を通らなくなり相手に致命傷を与えられない。これは以前からもそうだったようで、アーセル自身も悩みの種だったようだ。それを打ち消すかのごとく、討伐がない時はがむしゃらに鍛錬をしているのをマヒロも知っていた。
マヒロは不思議だった。あれだけの剣筋があり戦闘にもセンスを見せているアーセルが、なぜ異生物に対するときだけうまく剣が通らないのか。
この世界の常識を全てわかっているわけではないが、普段の強さと異生物に対する強さがそこまで違ってしまうのは不自然に感じる。
だが誰に聞いても、「まあ力というのは色々わからないところもありますから」という反応で、そこまで不思議に思っていないのだ。
色々と予定が合わず、なかなかアーセルに会う機会がなかったのだが、ようやく倒れてから初めてしっかりと会える日が来た。
「アーセル、ごめんね忙しいのに」
「いえ、俺もお会いしたかったですし。お身体はもう大丈夫ですか?』
「うん、あの不味い力素青汁も飲みきったよ!」
「アオジル‥?」
アーセルが不思議そうに首をかしげていたが、そこには触れずに自分の話を切り出した。
「ごめん、よかったらなんだけどアーセルの剣見せてくれない?」
アーセルは気づかわしげにマヒロの顔色を窺った。
「‥解析をされたいんですよね?大丈夫ですか?」
「うん、無理そうだったら途中でやめるし、今日は他に使ってないからいけると思う」
元気よくそう言ってマッチョポーズを決めるマヒロを見て、アーセルは少し微笑んだ。
「では持ってきます」
そう言って部屋から出ると五分ほどして戻ってきた。
アーセルの剣は両手で振るう大剣だ。マヒロが持つにはあまりに重いので、机の上に抜き身で置いてもらいその柄に手をかけた。
ゆっくりとヨーリキを流していく。
アーセルの剣は二つの金属が使われており、とても丁寧に鍛錬・精製されているものだった。腕のいい職人が作ったのだろうな、というのが一目でわかる。
もう少しヨーリキを流し回路の方に意識を向けた。
二回ほどやってきた医師は、アーセルの幼馴染で口の堅い人物であるということからマヒロの素性を明かされていた。その上のマヒロを診察してこう言った。
「断言はできませんが、マヒロ様はまだヨーリキシャとしての力が落ち着いていないように思えます。おそらく日によって使えるヨーリキの量が違うのでしょう。倒れてしまった日は、たまたま使えるヨーリキ量が少なかっただけで、力素欠乏とは少し違うように見えます」
「普段どういう事に気をつければいいんですか?」
そう尋ねたマヒロに、医師は少し考え込んだ。
「倒れる前に何か感じませんでしたか?」
「倒れる前‥」
気がつけば身体がかしいでいたような気がするが、懸命にあの時の事を思い出してみる。
「あ‥そう言えば、なんか目の奥でちかちかしました」
医師は深く頷きながら言った。
「それが不調の前兆かもしれません。とはいえ、まだわからないことがたくさんありますから、ヨーリキを使用される場合は絶対にお一人にならないようにしてください。それから、気休めかもしれませんが力素を多く含んだ薬湯を飲んでみることをお勧めします。屋敷の者にお渡ししておきますから」
「ありがとうございます」
という訳で、マヒロは今その薬湯を前にしかめっ面をしている。
薬湯は見た目は全く青汁と同じで、苦さが際立つ一品だった。少なくとも十日、これを服用するようにと医師が言い置いていったので、あと一週間は飲まねばならない。
なかなかの不味さで一回目にすぐ弱音を吐いたが、ジャックは絶対に見逃してくれない。寝る前に飲むものなので、すっかり就寝時が憂鬱になってしまった。
「マヒロ様、また倒れたらどうするんですか?ヨーリキ、色々使いたいんですよね?」
「ううう‥‥エグ不味いんだよ‥後味残るしさ‥」
「何か果物を持ってきましょうか?」
「その果物までエグ不味く感じちゃうからいい‥飲むよ、飲むけどちょっと私のタイミングで行かせて‥」
そう言ってジャックを躱しながら何とか飲み込むこと十日。
ようやく飲みきった時には思わずバンザイをしてしまうほどに、それは不味かった。
倒れたことはハルタカには言わなかった。きっと心配してここにやってくることがわかっていたからだ。忙しそうにしているハルタカに余計な心配をかけたくなかった。ただ、ヨーリキで回路を見て美しかったことだけを伝えた。
「確かにあれは美しいものだな。回路を書き込む者によって全く紋様も違って浮き出てくる」
「ハルタカもわかるんだ」
「タツリキは、すべての力の要素を含んでいるからな。ヨーリキができることはタツリキでも大体できる」
「本当にタツリキ、というか龍人って何でもできちゃうんだねえ‥そりゃあみんなに頼られちゃうよ」
「だからこそ、ヒトとは一線引いた関わりにせねばならぬということだ。いつでもタツリキが使える、と思われても困る。ヒトの世はヒトが動かしていくべきものだからな」
「なるほど‥」
「無理をするなよ、マヒロ」
「う、うん!だいじょぶ」
少し焦ったマヒロを見透かすかのような、ハルタカのくぐもった笑い声が聞こえた。
倒れてから十五日余りが経った。
その間にも異生物の討伐は続いており、一応アーセルが討伐した異生物は増えてはいたが、全体で言うとまだ三位の成績らしい。成績は異生物の数ではなく重さで決まる。つまり大物を討伐しなければなかなか上位に食い込むことが難しいのだ。
大物に対峙すると、アーセルのレイリキはなかなか剣を通らなくなり相手に致命傷を与えられない。これは以前からもそうだったようで、アーセル自身も悩みの種だったようだ。それを打ち消すかのごとく、討伐がない時はがむしゃらに鍛錬をしているのをマヒロも知っていた。
マヒロは不思議だった。あれだけの剣筋があり戦闘にもセンスを見せているアーセルが、なぜ異生物に対するときだけうまく剣が通らないのか。
この世界の常識を全てわかっているわけではないが、普段の強さと異生物に対する強さがそこまで違ってしまうのは不自然に感じる。
だが誰に聞いても、「まあ力というのは色々わからないところもありますから」という反応で、そこまで不思議に思っていないのだ。
色々と予定が合わず、なかなかアーセルに会う機会がなかったのだが、ようやく倒れてから初めてしっかりと会える日が来た。
「アーセル、ごめんね忙しいのに」
「いえ、俺もお会いしたかったですし。お身体はもう大丈夫ですか?』
「うん、あの不味い力素青汁も飲みきったよ!」
「アオジル‥?」
アーセルが不思議そうに首をかしげていたが、そこには触れずに自分の話を切り出した。
「ごめん、よかったらなんだけどアーセルの剣見せてくれない?」
アーセルは気づかわしげにマヒロの顔色を窺った。
「‥解析をされたいんですよね?大丈夫ですか?」
「うん、無理そうだったら途中でやめるし、今日は他に使ってないからいけると思う」
元気よくそう言ってマッチョポーズを決めるマヒロを見て、アーセルは少し微笑んだ。
「では持ってきます」
そう言って部屋から出ると五分ほどして戻ってきた。
アーセルの剣は両手で振るう大剣だ。マヒロが持つにはあまりに重いので、机の上に抜き身で置いてもらいその柄に手をかけた。
ゆっくりとヨーリキを流していく。
アーセルの剣は二つの金属が使われており、とても丁寧に鍛錬・精製されているものだった。腕のいい職人が作ったのだろうな、というのが一目でわかる。
もう少しヨーリキを流し回路の方に意識を向けた。
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