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75 美しい回路
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アーセルの回路もやはり複雑でとても美しかった。他の騎士や退異師たちのものよりかなり複雑に組まれており、一つ一つの回路を確認するのに時間がかかったほどだ。
「‥‥ん?」
しかしその中に、マヒロは違和感を感じた。何か、変だ。何かすっきりしない気持ち悪さがある。何か、通そうと思っても通らない、詰まりのような、でも詰まりとは違う、何か。
マヒロは重い大剣の柄を両手を使って掴み持ち上げた。鋭い剣先をテーブルにつけるようにして重さを支え、集中して少しずつヨーリキを流す。
目を閉じて意識をヨーリキの流れのみに集中させる。美しく複雑な紋様の中に光の粒子のようなレイリキの流れた跡が見える。他の騎士や退異師たちの武器にもあった痕跡だ。
だが、他の騎士や退異師たちの武器とは明らかに違う点があった。
「‥レイリキが通ってない箇所が、複数ある‥」
他の騎士・退異師たちの武器の回路には、余すところなくそれぞれの力が流された痕跡があった。回路全てにきちんと力が通ったという証拠だ。
だが、アーセルの大剣に付された回路は、複数個所に渡ってレイリキが通っていない箇所がある。通っていない箇所には、感覚で言うなら裁縫の玉結びのような、非常に細かな障害物が置かれているように見えた。
「これだ‥ここに通っていないから力が発揮されていなかったんだ‥」
マヒロが思わず発した言葉に、アーセルは驚いた。
「‥マヒロ様‥?力が発揮されていない、とはどういう‥」
マヒロは、こういったことに関してほとんど素人である自分が断言していいのか迷った。だが、あれだけアーセルが悩み、ルウェンが心配していたことの理由がもしこれであるならば。
言わない、という選択肢はとれなかった。
マヒロはどう伝えるのがいいか、迷いながら話し出した。
「アーセル。私は飽くまで素人だし、ヨーリキの使い方もまだ拙いけど‥多分この武器は、アーセルのレイリキを全てきちんと通していないと思う」
「‥え?」
アーセルはマヒロがはっきりそう告げても信じられない、という顔のまま一言そう言っただけだった。マヒロがゆっくりと大剣をアーセルに差し出す。アーセルは震える手で愛剣を受け取った。
「この、剣は‥我が領主代々において親交のある腕のいい鍛冶屋に鍛えてもらい、そこのお抱えである信用のおけるヨーリキシャに回路を書き込んでもらったもので‥」
訥々とそう語るアーセルに、マヒロは何といえばいいのかすぐにはわからなかった。おそらく長年信頼しているところで誂えた武器なのだろう。
今自分は、その信頼をぶち壊すようなことを言っているのだ、とマヒロは思った。
「アーセル、ごめんね。でも私、本当に不思議で。あれだけ対人戦で強いアーセルが、異生物に対して力を振るえないのが不自然に思えてしょうがなかったの。‥この回路の中にはアーセルのレイリキが通ってない箇所が複数ある。アーセルが流したレイリキがきちんと異生物に届いていなかったんじゃないかって思う」
「そ、んな‥ダルゴがそんなことをするはず‥」
アーセルは抜き身の大剣を握ったままそれを見つめ、呆然と立ち尽くしている。マヒロはこれ以上言葉を重ねるべきか迷ったが、一度言い出したものは最後まで言うべきだ、とおのれを奮い立たせて言葉を継いだ。
「‥‥信頼しているヒトを貶めるようなことを言って申し訳ないけど‥できればほかのヨーリキシャにも一度見てもらったらどうかと思う。多分、少し集中してみればわかると思うから‥」
茫然とただそこに立っているアーセルが、マヒロの言葉が理解できたのかわからない。ただおのれの大剣を見つめて沈黙しているだけだ。
マヒロは、大剣の柄を掴みしめているアーセルの手の上にそっと右手をのせた。そこで初めてアーセルははっと身体を起こし、マヒロの顔を見た。
「アーセル‥ごめんね。嫌なことを言ったと思うけど‥アーセルにこれ以上悩んでほしくないから。気は進まないと思うけど、他のヨーリキシャにもこの武器の回路を解析してもらってほしい」
そう言葉を続けたマヒロに対し、力なくアーセルは頷いた。
結果として、アーセルの武器は対異生物用の回路が阻害されていることがわかった。アツレンの街にある最近開業したばかりのヨーリキシャに頼んで解析してもらったところ、ほとんどマヒロと同じ意見だった。
マヒロはそのヨーリキシャと二人でかわるがわる詳しく回路を解析した。
その結果、回路自体は非常にすぐれていて通常に機能していればアーセルのレイリキを少々増幅して武器に通す素晴らしいものであることがわかった。だが、あとから玉結びのような阻害物が組み込まれていて、回路の機能が十全に果たされないものになっている。
ヨーリキシャは首を傾げた。
「マヒロ様、おかしいですよね」
「‥おかしいね。回路の阻害が目的なら最初からこんなすごい回路を書き込む必要はないよ。もっと雑な回路にしておけばわざわざ阻害物を仕込む必要もない」
ヨーリキシャは腕を組んで考え込んだ。
「そうですよね‥最初から阻害が目的というよりは‥きちんと作られた後に、阻害物を無理やり仕込んだ、という感じがします」
「私もそう思うな‥だって回路自体はすごく細かくて美しいよね」
そう言ったマヒロにヨーリキシャは激しく頷いた。
「俺もそう思います!俺にはまだこんなに複雑で繊細な回路は書き込めませんが‥腕のいい職人であることは間違いないです。ただ‥」
マヒロも大剣の刃の部分を注意深く撫でながら言った。
「なぜ、こんな素晴らしい回路を後から阻害するようにしたか、だよね‥」
「‥‥ん?」
しかしその中に、マヒロは違和感を感じた。何か、変だ。何かすっきりしない気持ち悪さがある。何か、通そうと思っても通らない、詰まりのような、でも詰まりとは違う、何か。
マヒロは重い大剣の柄を両手を使って掴み持ち上げた。鋭い剣先をテーブルにつけるようにして重さを支え、集中して少しずつヨーリキを流す。
目を閉じて意識をヨーリキの流れのみに集中させる。美しく複雑な紋様の中に光の粒子のようなレイリキの流れた跡が見える。他の騎士や退異師たちの武器にもあった痕跡だ。
だが、他の騎士や退異師たちの武器とは明らかに違う点があった。
「‥レイリキが通ってない箇所が、複数ある‥」
他の騎士・退異師たちの武器の回路には、余すところなくそれぞれの力が流された痕跡があった。回路全てにきちんと力が通ったという証拠だ。
だが、アーセルの大剣に付された回路は、複数個所に渡ってレイリキが通っていない箇所がある。通っていない箇所には、感覚で言うなら裁縫の玉結びのような、非常に細かな障害物が置かれているように見えた。
「これだ‥ここに通っていないから力が発揮されていなかったんだ‥」
マヒロが思わず発した言葉に、アーセルは驚いた。
「‥マヒロ様‥?力が発揮されていない、とはどういう‥」
マヒロは、こういったことに関してほとんど素人である自分が断言していいのか迷った。だが、あれだけアーセルが悩み、ルウェンが心配していたことの理由がもしこれであるならば。
言わない、という選択肢はとれなかった。
マヒロはどう伝えるのがいいか、迷いながら話し出した。
「アーセル。私は飽くまで素人だし、ヨーリキの使い方もまだ拙いけど‥多分この武器は、アーセルのレイリキを全てきちんと通していないと思う」
「‥え?」
アーセルはマヒロがはっきりそう告げても信じられない、という顔のまま一言そう言っただけだった。マヒロがゆっくりと大剣をアーセルに差し出す。アーセルは震える手で愛剣を受け取った。
「この、剣は‥我が領主代々において親交のある腕のいい鍛冶屋に鍛えてもらい、そこのお抱えである信用のおけるヨーリキシャに回路を書き込んでもらったもので‥」
訥々とそう語るアーセルに、マヒロは何といえばいいのかすぐにはわからなかった。おそらく長年信頼しているところで誂えた武器なのだろう。
今自分は、その信頼をぶち壊すようなことを言っているのだ、とマヒロは思った。
「アーセル、ごめんね。でも私、本当に不思議で。あれだけ対人戦で強いアーセルが、異生物に対して力を振るえないのが不自然に思えてしょうがなかったの。‥この回路の中にはアーセルのレイリキが通ってない箇所が複数ある。アーセルが流したレイリキがきちんと異生物に届いていなかったんじゃないかって思う」
「そ、んな‥ダルゴがそんなことをするはず‥」
アーセルは抜き身の大剣を握ったままそれを見つめ、呆然と立ち尽くしている。マヒロはこれ以上言葉を重ねるべきか迷ったが、一度言い出したものは最後まで言うべきだ、とおのれを奮い立たせて言葉を継いだ。
「‥‥信頼しているヒトを貶めるようなことを言って申し訳ないけど‥できればほかのヨーリキシャにも一度見てもらったらどうかと思う。多分、少し集中してみればわかると思うから‥」
茫然とただそこに立っているアーセルが、マヒロの言葉が理解できたのかわからない。ただおのれの大剣を見つめて沈黙しているだけだ。
マヒロは、大剣の柄を掴みしめているアーセルの手の上にそっと右手をのせた。そこで初めてアーセルははっと身体を起こし、マヒロの顔を見た。
「アーセル‥ごめんね。嫌なことを言ったと思うけど‥アーセルにこれ以上悩んでほしくないから。気は進まないと思うけど、他のヨーリキシャにもこの武器の回路を解析してもらってほしい」
そう言葉を続けたマヒロに対し、力なくアーセルは頷いた。
結果として、アーセルの武器は対異生物用の回路が阻害されていることがわかった。アツレンの街にある最近開業したばかりのヨーリキシャに頼んで解析してもらったところ、ほとんどマヒロと同じ意見だった。
マヒロはそのヨーリキシャと二人でかわるがわる詳しく回路を解析した。
その結果、回路自体は非常にすぐれていて通常に機能していればアーセルのレイリキを少々増幅して武器に通す素晴らしいものであることがわかった。だが、あとから玉結びのような阻害物が組み込まれていて、回路の機能が十全に果たされないものになっている。
ヨーリキシャは首を傾げた。
「マヒロ様、おかしいですよね」
「‥おかしいね。回路の阻害が目的なら最初からこんなすごい回路を書き込む必要はないよ。もっと雑な回路にしておけばわざわざ阻害物を仕込む必要もない」
ヨーリキシャは腕を組んで考え込んだ。
「そうですよね‥最初から阻害が目的というよりは‥きちんと作られた後に、阻害物を無理やり仕込んだ、という感じがします」
「私もそう思うな‥だって回路自体はすごく細かくて美しいよね」
そう言ったマヒロにヨーリキシャは激しく頷いた。
「俺もそう思います!俺にはまだこんなに複雑で繊細な回路は書き込めませんが‥腕のいい職人であることは間違いないです。ただ‥」
マヒロも大剣の刃の部分を注意深く撫でながら言った。
「なぜ、こんな素晴らしい回路を後から阻害するようにしたか、だよね‥」
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