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76 鍛冶職人たちの事情
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マヒロとヨーリキシャの話を聞いたアーセルとルウェンは、眉間に深い皺を刻みながら考え込んでいた。何らかの理由があって回路に阻害物質が後から埋め込まれた、というのがマヒロとヨーリキシャの一致した見解であることも説明している。
随分長い沈黙の後に、まずルウェンが口火を切った。
「これは、ダルゴに確認をするべきですね」
顔を歪ませながらそう言ったルウェンに対し、アーセルは言葉を返さない。その顔は苦渋に満ちていて、長年信頼してきた職人を飽くまでも信じたい気持ちと突き付けられた事実を認めたくない気持ちが渦巻いていることが見て取れた。
マヒロは、そのような顔をさせてしまったこと自体は心苦しかったが、今後のアーセルのことを思えば自分のしたことは必要だったのだと確信していた。
「アーセル、もしアーセルがそのヒトに確認するのが辛いんだったら、私が言ってそれとなく聞いてきてもいいよ。直接アーセルが聞くよりいいかもしれないしさ」
マヒロはそう提案してみた。それでもアーセルの顔色は晴れない。
説明を終えたヨーリキシャは下がっていったので、アーセルの執務室にいるのはアーセル、ルウェン、マヒロの三人だけだった。
何も答えないアーセルを見てルウェンは短い息を吐き、もう一度言った。
「アーセル、あなたが行きたくないなら俺とマヒロ様とで行ってきます。大剣を貸してもらえますよね?」
アーセルは目を閉じた。そして両手で顔を覆い、机に肘をつく。
アーセルはもともとそんなに感情がわかりやすい人物ではない。どちらかと言えば感情の起伏が少なく、騎士たちからはそこが遠巻きにされる理由でもあった。
だが、マヒロに出会い、その恋心を自覚してからは随分と感情の表現が豊かになってきていた。これまでの伴侶にしてくれと望む様々なヒトへの素っ気ない対応がまるで嘘のように、マヒロへ素直な愛情表現をする姿は、屋敷に住む人々や騎士たちを驚かせていたのだ。
無論、マヒロはそのような感情の起伏の少ないアーセルの姿はほとんど見ていない。だから今、目の前で感情を殺しながら苦悩しているアーセルの姿は、いつもと随分違っていて、辛そうに見えていた。
「‥アーセル、ごめんね。そんな辛い思いをさせちゃって‥でも、この回路の阻害物がなくなればきっとアーセルの力はもっと発揮できると思うんだ。それは、アーセルのためにもこの国のためにもなると思うから‥」
「わかりました」
緊張と苦悩をはらんだ声でアーセルがそう言った。そして深く、息を吐いた。
「‥俺も行きます。俺が‥行かなければならないのは、わかっているので」
アーセル、ルウェン、そしてなぜかマヒロも一緒にアツレンにあるダルゴという武器職人の工房に行くことになった。一般的に、武器職人と回路を書き込む者は同じ工房にいることが多い。稀に一人で兼任しているものもいるが、ダルゴの工房では専属の回路を書き込む職人を置いていた。
三人が工房の入り口について中に入ろうとした時、中にいてその姿を認めた者がすぐに動いて工房から出ようとした。反射的にルウェンとアーセルはそれを追って二手に分かれ、裏口のところでその者を拘束した。
あっという間の出来事に、マヒロはただただ茫然とその様子を眺めていたが、工房の中にいたヒトに促され応接室のようなところに通される。
ダルゴの工房は歴史もあり、優秀な職人もいるようで大きなものだった。隣には大きな武器の直売所も備えている。
ダルゴはゆっくりと部屋に入ってきて深く頭を下げた。
「こちらに急にお越しということは、お気づきになられましたか」
「っ!」
まるですべての事を察して認めたようなダルゴの言葉にアーセルは顔色を変え、思わず立ち上がった。ギリッと拳を固く握りしめ、昂奮を抑えようとしているのがわかる。隣にいたマヒロはそっとその拳を叩いた。
「アーセル」
「‥なぜだ?」
マヒロに宥められ、何とか喉奥から声を絞り出したアーセルの目は、相手を焼き尽くすかと思われるほど厳しく、激しかった。
ダルゴは入口に立ち尽くしたままだ。先ほど二人に拘束されたヨーリキシャもただ黙って床に座っている。
ルウェンが苛々とした様子を隠さずに問い質す。
「なぜ、何代にもわたって付き合いのある領主家に向かってこのような不誠実な真似をした?職人の誠は失われたのか?」
ダルゴも、床に座り込んでいるヨーリキシャも応えない。そこに、お茶を持ってダルゴの伴侶が入って来た。そしてテーブルにお茶を置くと静かに話し出した。
「申し訳ございません、アーセル様、ルウェン様。しかし、私たちにも事情がありました。決して誠を失った訳ではありません」
「そのわけを教えてもらえますか‥?」
マヒロが厳しい顔のまま黙ってしまった二人の代わりにそう言った。伴侶は、「失礼します」と言ってマヒロの前に腰かけた。
「私たちの子どもと、そこにいる回路職人のイルサの伴侶が、ニュエレンでダンゾに囚われています」
それを聞いたアーセルとルウェンは、ばっと顔をあげた。驚愕と苦渋の表情を浮かべている。ダルゴとヨーリキシャ‥イルサは、まだ何も話さないままだ。
伴侶は言葉を続ける。
「‥もう‥攫われてから三年にもなります。何度も探しに行ったり交渉したりもしましたがうまくいかず‥血気にはやったものが無理にも奪還しようとして、一人殺されました」
伴侶はそう言って目を閉じた。
「まだ、若い職人でしたのに‥気の毒なことをしました」
「‥‥そ、んな‥なぜ、俺たちに何も言ってくれなかったんだ?」
「言える機会などなかった!」
座り込んだままだったイルサが急にこちらを向いて激しく言い募った。
「領主様もルウェン様もお忙しいし、私たちには監視がつけられていた!今日だってどこかで見られているかもしれない!もう、もうラーレは殺されているかもしれない‥‥!」
随分長い沈黙の後に、まずルウェンが口火を切った。
「これは、ダルゴに確認をするべきですね」
顔を歪ませながらそう言ったルウェンに対し、アーセルは言葉を返さない。その顔は苦渋に満ちていて、長年信頼してきた職人を飽くまでも信じたい気持ちと突き付けられた事実を認めたくない気持ちが渦巻いていることが見て取れた。
マヒロは、そのような顔をさせてしまったこと自体は心苦しかったが、今後のアーセルのことを思えば自分のしたことは必要だったのだと確信していた。
「アーセル、もしアーセルがそのヒトに確認するのが辛いんだったら、私が言ってそれとなく聞いてきてもいいよ。直接アーセルが聞くよりいいかもしれないしさ」
マヒロはそう提案してみた。それでもアーセルの顔色は晴れない。
説明を終えたヨーリキシャは下がっていったので、アーセルの執務室にいるのはアーセル、ルウェン、マヒロの三人だけだった。
何も答えないアーセルを見てルウェンは短い息を吐き、もう一度言った。
「アーセル、あなたが行きたくないなら俺とマヒロ様とで行ってきます。大剣を貸してもらえますよね?」
アーセルは目を閉じた。そして両手で顔を覆い、机に肘をつく。
アーセルはもともとそんなに感情がわかりやすい人物ではない。どちらかと言えば感情の起伏が少なく、騎士たちからはそこが遠巻きにされる理由でもあった。
だが、マヒロに出会い、その恋心を自覚してからは随分と感情の表現が豊かになってきていた。これまでの伴侶にしてくれと望む様々なヒトへの素っ気ない対応がまるで嘘のように、マヒロへ素直な愛情表現をする姿は、屋敷に住む人々や騎士たちを驚かせていたのだ。
無論、マヒロはそのような感情の起伏の少ないアーセルの姿はほとんど見ていない。だから今、目の前で感情を殺しながら苦悩しているアーセルの姿は、いつもと随分違っていて、辛そうに見えていた。
「‥アーセル、ごめんね。そんな辛い思いをさせちゃって‥でも、この回路の阻害物がなくなればきっとアーセルの力はもっと発揮できると思うんだ。それは、アーセルのためにもこの国のためにもなると思うから‥」
「わかりました」
緊張と苦悩をはらんだ声でアーセルがそう言った。そして深く、息を吐いた。
「‥俺も行きます。俺が‥行かなければならないのは、わかっているので」
アーセル、ルウェン、そしてなぜかマヒロも一緒にアツレンにあるダルゴという武器職人の工房に行くことになった。一般的に、武器職人と回路を書き込む者は同じ工房にいることが多い。稀に一人で兼任しているものもいるが、ダルゴの工房では専属の回路を書き込む職人を置いていた。
三人が工房の入り口について中に入ろうとした時、中にいてその姿を認めた者がすぐに動いて工房から出ようとした。反射的にルウェンとアーセルはそれを追って二手に分かれ、裏口のところでその者を拘束した。
あっという間の出来事に、マヒロはただただ茫然とその様子を眺めていたが、工房の中にいたヒトに促され応接室のようなところに通される。
ダルゴの工房は歴史もあり、優秀な職人もいるようで大きなものだった。隣には大きな武器の直売所も備えている。
ダルゴはゆっくりと部屋に入ってきて深く頭を下げた。
「こちらに急にお越しということは、お気づきになられましたか」
「っ!」
まるですべての事を察して認めたようなダルゴの言葉にアーセルは顔色を変え、思わず立ち上がった。ギリッと拳を固く握りしめ、昂奮を抑えようとしているのがわかる。隣にいたマヒロはそっとその拳を叩いた。
「アーセル」
「‥なぜだ?」
マヒロに宥められ、何とか喉奥から声を絞り出したアーセルの目は、相手を焼き尽くすかと思われるほど厳しく、激しかった。
ダルゴは入口に立ち尽くしたままだ。先ほど二人に拘束されたヨーリキシャもただ黙って床に座っている。
ルウェンが苛々とした様子を隠さずに問い質す。
「なぜ、何代にもわたって付き合いのある領主家に向かってこのような不誠実な真似をした?職人の誠は失われたのか?」
ダルゴも、床に座り込んでいるヨーリキシャも応えない。そこに、お茶を持ってダルゴの伴侶が入って来た。そしてテーブルにお茶を置くと静かに話し出した。
「申し訳ございません、アーセル様、ルウェン様。しかし、私たちにも事情がありました。決して誠を失った訳ではありません」
「そのわけを教えてもらえますか‥?」
マヒロが厳しい顔のまま黙ってしまった二人の代わりにそう言った。伴侶は、「失礼します」と言ってマヒロの前に腰かけた。
「私たちの子どもと、そこにいる回路職人のイルサの伴侶が、ニュエレンでダンゾに囚われています」
それを聞いたアーセルとルウェンは、ばっと顔をあげた。驚愕と苦渋の表情を浮かべている。ダルゴとヨーリキシャ‥イルサは、まだ何も話さないままだ。
伴侶は言葉を続ける。
「‥もう‥攫われてから三年にもなります。何度も探しに行ったり交渉したりもしましたがうまくいかず‥血気にはやったものが無理にも奪還しようとして、一人殺されました」
伴侶はそう言って目を閉じた。
「まだ、若い職人でしたのに‥気の毒なことをしました」
「‥‥そ、んな‥なぜ、俺たちに何も言ってくれなかったんだ?」
「言える機会などなかった!」
座り込んだままだったイルサが急にこちらを向いて激しく言い募った。
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