【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
82 / 120

82 怒りの行動

しおりを挟む
今日はルウェンが率いる特務隊が戻ってきてそのまま宴会になるのだ、とマヒロは嬉しそうに話していた。攫われていた工房の人質が無事だったことを何より喜んでいた。

嬉しそうにその事について話すマヒロの言葉を聞きながら、ハルタカはやはりマヒロはヒトの間で暮らす方が幸せなのかもしれない、と思い至って胸が苦しくなった。
「ハルタカは宴会来れない?」
「‥来てほしいのか?」
マヒロの言葉に、苦しかった気持ちがするすると溶けていくのを感じた。ああ、やはり、簡単に手放すことはできないかもしれない。
「うん‥もしあんまり忙しくないなら。最近、会ってなかったし‥」
今、カルカロア王国がある大陸から少し離れたところにいたハルタカだったが、マヒロのその寂しそうな言葉を聞いて、無理をしてでもマヒロに会おう、と思った。
「宴会に間に合うかはわからんが、ここでの用を済ませ次第すぐにテンセイで向かう」
ハルタカの返事を聞いて、マヒロは嬉しそうに言った。
「ありがとう!美味しいもの取っておくね!あ、でも、無理はしないでね」
マヒロの気遣いが嬉しくて、ハルタカは微笑みながら返事をした。

決壊を起こしそうだった大きな河川を見て回り、甚大な被害になりそうなところだけ少し修復の手を加える。全てをやってしまうと次に同じような災害が起こった時にヒトの手で対処ができなくなってしまうから、やりすぎないようにしなければならず、その加減はなかなか難しい。
神経を使って地形を整え、テンセイを駆ってカルカロア王国を目指した。アツレンはカルカロア王国があるサッカン大陸の中でも随分と北に位置している。少しずつ暗くなってきた空の中を、テンセイを励ましながら飛んでいた。

その時、ハルタカの胸を、ぞわりと恐ろしいほどの強い不快感が襲った。

これは、ハルタカの髪の腕輪を通して伝わってくる、マヒロの鼓動。マヒロが、何かで身体を害されている。何か毒物を身体に入れられ、そのせいでマヒロの身体が不調を訴えている。
マヒロの不調は、ハルタカの身体と同調してどんどん悪化していくことをハルタカに伝えてきた。
そして脳裏にマヒロの声が響いた気がした。

‥ハルタカ‥?

ハルタカは、テンセイの背から無意識にマヒロのもとへ転移した。


転移した部屋は薄暗かったが、目の前の長椅子に人が倒れているのが見えた。よく見ればそれは、ルウェンに組み敷かれている(ように見える)マヒロの姿だった。
マヒロは目元を赤らめてぼうっとルウェンを見つめている。マヒロの上半身は薄い下着だけになっていて、細く白い肩や胸のふくらみがはっきりとわかる格好になっていた。

ハルタカは一瞬、状況が理解できずその光景を見て身体が固まった。
だが次の瞬間、血が沸騰するかと思った。

マヒロが「ハルタカ‥」と言いながら、ルウェンの胸に身体を預けたのだ。ルウェンも優しくその身体を抱きしめた。

ハルタカはすぐさまルウェンからマヒロを奪い返し、ルウェンの身体を思いきり蹴り飛ばした。ゴキ、という鈍い音がしたが構っていられない。
マヒロはぼうっとハルタカを見あげた。顔が全体的に赤らんでいて目元が特に赤い。
「‥あれえ‥?こっちも、ハルタカだあ‥」
気の抜けたその声に、はっとしてマヒロに深く口づけた。

タツリキを流しながら毒物を解析し、解毒していく。この毒物は。

「パルーリア‥!」

使用回数が重なれば廃人になることもあるという恐ろしい性交強制幻覚剤。しかも強い媚薬まで付されている。
マヒロの舌に何度も自分の舌を絡めてタツリキを流し、必死に解毒した。何とか全て解毒できたが、そのために体力をごっそり奪われたマヒロは意識を失ってしまった。
赤みがひき、むしろ少し青白くなったマヒロの額に優しく口づける。

ぎゅっとマヒロの身体を抱きしめながら、ハルタカの心の中に恐ろしい怒りが燃え上がった。
誰がこんな目に遭わせたのだ。この屋敷は安全ではなかったのか。
研ぎ澄まされた意識をルウェンに向ければ、ルウェンも浮かされたように「アーセル‥」と呟いてぼうっとしている。こいつも同じ毒を飲まされたのか。

ハルタカは全身の力を込めてタツリキを屋敷内に展開した。同じ毒の匂いがするのはどこだ。そして誰だ。

犯人はすぐにわかった。あまり遠くない場所でこちらをうかがうように佇む、同じ毒の匂いの濃い人物がいるのがわかったのだ。
ハルタカは全てのタツリキを集めてその人物を捕まえるとぐん!と自分のいる方へ引っ張った。その人物はバリン!と大きな音を立ててドアをぶち破りハルタカの前に引き出された。

ティルンが、引っ張られて壁やドアにぶつかりあちこち怪我をして、血を流した状態でハルタカの前に引き出された。
怒りのタツリキの波動で燃え上がっているようなハルタカの姿を見て、痛みに呻いていたティルンは「ひっ」と短い悲鳴をあげた。
その顔を見て、ハルタカはこの人物が自分の欲望のためにしたことをすべて理解した。


そして、怒りのままにハルタカのタツリキは屋敷を破壊したのだ。



ティルンを睨みつけ今にも殺しそうな勢いのハルタカに、必死になってアーセルは叫んだ。
「お待ち、ください!ハルタカ様、ティルン様は‥まだ子どもです!もう、怪我をしています、どうかご寛恕ください!」

「許さぬ。もし、私が‥もし私が腕輪をマヒロに送っていなかったら‥もし私が間に合っていなかったら‥マヒロは‥」
ハルタカは震える声でそう言うとティルンを指さし、その指をさっと左に払った。指の動きに従ってティルンの身体は左へ吹っ飛び、崩れた壁に激突してぐじゃりと肉の潰れる音がした。
絶望的な声でアーセルは叫んだ。
「ティルン様!」

もはやティルンはピクリとも動かない。新しくその身体からじわじわと血が流れているのがアーセルのいるところからも見えた。‥もう、息絶えてしまったのか?
だがハルタカは容赦なかった。もう一度ティルンの方へ指を向けて動かそうとした。

その時、また夜空が真っ白に光った。


アーセルはあまりの眩しさに目を開けていられない。光はなかなか収まらず、随分と長い時間光っていたようだった。
ようやく光が収まったのを感じて、アーセルは目を開けた。


もう一人。
銀髪の人物が空に浮かんでいた。

龍人タツトが、もう一人‥?」

一度に二人の龍人タツトが現れるなど、聞いた事がない。何が起きているのかわからず、呆気にとられて新しく現れた龍人タツトを見つめた。

新しく現れた龍人タツトは、ハルタカに比べるとほっそりとした体格で、見た目には二十歳前後に見える。波打つ銀髪は無造作に後ろに下ろされ、膝裏まで届きそうに長かった。アーセルのところからは顔立ちはわからないが、龍人タツトのことだからきっと美しいのだろう。

よくよく見てみると、新しく現れた龍人タツトはハルタカに向けて腕を伸ばしていた。ハルタカはマヒロを抱きしめたまま固まっている。
新しい龍人タツトが、ハルタカを止めたのだろうか。

判断がつきかねて空を見上げていると、新しい龍人タツトとハルタカがゆっくりと下に降りてきた。龍人タツトはティルンの方を見て
「ああ、これはよくないな」
と言って今度はティルンの方に腕を伸ばした。ぼんやりとした青白い光がティルンを包む。ティルンの身体の下の血が広がるのをやめた。
「まあ、これで死にはしないだろう」
龍人タツトはそう言って今度はゆっくりとアーセルの方にやってきた。

「お前は何者だい?」
平坦な、感情の一切感じられないような声だった。ぞくりとしながらアーセルは答えた。
「‥フェンドラ領主、アーセルと申します。当屋敷の持ち主です」
「ふむ。龍人タツトハルタカが屋敷を壊してしまって申し訳なかったね。後で私の及ぶ限り修復しよう」
「あの、あなた様は‥?」
アーセルが尋ねると、龍人タツトはアーセルの方に顔を向けた。少し子どもっぽさの残る顔立ちではあるが、まるで作られた像のように美しかった。

「私はソウガイ。龍人タツトの中で一番長く時を経たもの」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...