【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
87 / 120

87 アーセルとルウェン

しおりを挟む
ジャックはマヒロを部屋に入れるなり追い出されてしまった。マヒロは部屋の中に閉じ込められ、「お言いつけですので」とハウザに断られドア前に警備の騎士を配置されてしまった。
アツレンの街は寒いので、窓は二重になっていて外側の窓は嵌め殺しになっている。従って窓から外に出ることもできない。
マヒロは、すっかりくたびれた身体を寝台に横たえて目を瞑った。
(‥はあ‥)

情報量が多すぎる。
どうやって現状を打開すればいいのだろうか。

ハルタカに会いたい。
その気持ちと決意は揺るがない。
だが、その為にどうすればいいか、何が必要かなどの事柄が多すぎてどこから手を付けていいのかわからない。
しかも頼りのジャックとは引き離され、アーセルには同行を許可しないなら屋敷から出さない宣言をされてしまった。
『国王選抜』真っただ中のアーセルを同行させるなんてことができるはずもない。

どうすべきなのか考えねばならないのだが、マヒロの身体はまだ疲労が蓄積されていて思考に耐えられず、ずるずると眠りに引き込まれていってしまった。


「アーセル、いいか?」
「ルウェン」
執務室にノックの音とともに入って来たのはルウェンだった。アーセルは一つ息をついて立ち上がり、手ずからお茶の支度を始めた。ルウェンがやろうと横から手を出しかけたが、アーセルはそれを制して自分でお茶の支度を続けた。
茶葉を入れたポットにお湯を入れ、じっくりと蒸らす。お茶道具を見つめているアーセルの顔を、ルウェンはじっと見つめた。

この横顔を見つめて、もう二十年近い。五、六歳の頃からずっと、ルウェンの暮らしはアーセルとともにあった。
対異生物騎士団団長だったルウェンのシンシャとアーセルのシンシャが古い友人だったこともあり、気がつけば隣にアーセルがいた。幼い頃のアーセルは、可愛らしくルウェンは自分が守ってやらねば、と思っていたものだ。
ふわふわとした長い白髪と輝く黄色い目は、ルウェンの心を射抜いて離さなかった。
(俺の人生は、あの時にもう決まっていたのかもしれない)
ルウェンはぼんやりと考えた。
成長するにつれどんどんアーセルはたくましくなり、領主を目指す前に騎士になりたいと言い出した。そうなれば、ルウェンの生きる道も騎士にしかなかった。アーセルの隣に笑っていられる権利を得られるのならばなんでもしたかった。
アーセルが、なかなか恋愛感情を持ったことがないのをルウェンはよく知っていた。そして自分がそういう目でアーセルに見てもらえないこともよくわかっていた。

だから、自分の恋情は一生心の奥に閉じ込めて外に出すつもりはなかった。
アーセルが、幸せになってくれればいいと思っていた。

だが、『国王選抜』が行われることを知って欲が出た。
このヒトを、この国の頂に押し上げたい。
このヒトを王として仕え、一生を捧げたい。
そのためには、自分の知り得た情報を使って他を巻き込むことも辞さなかった。

たとえ、それが純朴な異界からの『カベワタリ』であったとしても。
たとえ、それが自分の恋を殺すことになるとしても。

そう考えていたのに。
自分の気持ちが、おそらく『カベワタリ』に知られてしまった。

アーセルの力を増幅させるという計画も崩れたが、それはマヒロの活躍により意外なところで解決された。
自分のような、腹黒な企みよりも純朴な『カベワタリ』の思いの方がアーセルには効果があるのだと言われたような気がした。

つまるところ、ルウェンはすっかり気が抜けてしまっていた。
自分の果たすべき役割が、もうなくなってしまったような気さえしていたのだ。

だがまだ、ルウェンにはやらねばならぬことがある。
マヒロには説明をした。マヒロがすぐさま出ていってしまったので謝罪はまだ済んではいないが、先にアーセルに事情を説明しなければならない。

きっと、アーセルの自分を見る目は変わるだろう。
もう、傍においてはもらえないかもしれない。
だが、計画のためパルーリアとパルーラを買った時に、いずれそういう日が来ると覚悟はしていたのだ。
ルウェンは、膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。

アーセルはゆっくりとした手つきで白磁のカップにお茶を注いで、ルウェンの前に置いた。ルウェンはそれを手に取って口に含む。温かさと芳醇な香りが口内に広がった。
「美味い。‥ありがとう」
ルウェンはそう言って、カップをテーブルに置いた。そしてアーセルを見た。
アーセルはルウェンの正面の長椅子に座り、自分で淹れたお茶を喫している。
「マヒロ様にはもう説明したけど」
「ああ。‥後で説明するって言ってたな」
ルウェンは、すうっと息を吸った。そしてゆっくりと吐く。
「アーセルは知らなかったと思うけどさ‥。『カベワタリ』による能力増幅のために何が必要か、俺は知ってたんだ
「そうなのか?‥なぜ、何も言わなかったんだ?」
素直に質問を返してくるアーセルの顔を見て、ルウェンは一瞬目をつぶった。そして目を開けてアーセルの顔を見た。
「増幅のためには、『カベワタリ』との性交が必要だったんだ。何度もすればするほど増幅される、と俺は聞いてる。‥だから最悪、俺はマヒロ様にパルーラかパルーリアを飲ませてお前には媚薬を飲ませようと思ってた」
アーセルは長椅子を蹴ってがたっと立ち上がった。ルウェンは、アーセルの足を見つめながら話し続ける。
「お前も‥マヒロ様の事を好きなのはわかってたから‥。結ばれてしまえば何とでもなると思ってた。俺は、何をしてでもお前に国王になってほしかった。国王になったお前に仕えたかったんだ」
「‥‥」
「でも、マヒロ様は結果的に、自分の力でお前の力を底上げしてくれた。‥俺の企みなんかなくても‥よかったんだ」
「‥ルウェン」
「それで持ってたパル―リアを、ティルン様に盗まれちまったんだな。何でティルン様が知ってたのかはわからないけど‥」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...