【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
89 / 120

89 案内人

しおりを挟む
許された時間は十分しかない。マヒロとルウェンは手早く話を詰めた。明日からはルウェンは騎士団本部の一般牢に入る。打ち合わせができるのは今日だけだ。勢い、話せることは全て今日話しておかねばと二人の気は焦った。
結局十五分ほども話し込んでいただろうか。遠慮がちにドアの外で警備をしていた騎士がノックをして、声をかけてきた。
「あの、ルウェン様すみません、もう時間を過ぎているので‥」
外からそう声をかけている騎士は、それでも五分ほどは目をつぶっていてくれたのだろう。ありがたい、と思いながらルウェンはマヒロと打ち合わせた紙を畳んで隠しへ入れた。マヒロはこの世界の文字はまだうまく読み書きできないので、二人はそれぞれ自分の書ける字で要点を書き記したものを持った。
「ではマヒロ様。一度くらいは何とか繋ぎがつけられると思います。とにかく今はお身体を大切にして、万全の状態にしてください」
「わかった、ありがとうルウェン。‥大変な時なのに、我儘を聞いてもらってごめんね。感謝してる」
そう言って寝台の上から深く頭を下げるマヒロに、ルウェンは苦笑した。
「俺は、マヒロ様に許されないことをしようとしたんですよ。俺なんかに頭を下げないでください。こんなことは罪滅ぼしにもならないくらいですから」
そう言って素早く部屋を出た。

本来ならこのまま真っ直ぐ騎士団本部に行くつもりだったが、予定を変える。まずはアツレンの街へ行かねばならない。
時間は今日一杯だ。遅くとも夜番の騎士に変わる頃までには騎士団本部についていないとまずいだろう。ルウェンは頭の中でどう動くのが一番効率的か、色々と思索し始めた。

ルウェンがまず向かったのは、市場の外れのカフェだった。以前この店の主人だったものが、ランガの実を取るために無謀な登山を何度もしていた話は有名だ。もし主人が存命ならその話を聞こうと思ったのである。
カフェはそこそこヒトが入って繁盛しているようだった。迷惑がられるかな、と思いながら中に入る。やってきた店員に、店主はいるか、と聞くと店員は薄く微笑んで自分が店主だと告げた。
「ああ、それは失礼した。私は退異騎士のルウェンだ。高山地帯に登山を試みていた店主というのは‥あなたのシンシャか?」
「はい、そうですが‥シンシャはもう亡くなっております。どういったご用向きでしたでしょうか?」
そう言われて少しルウェンは迷った。龍人タツトや『カベワタリ』の事を安易に告げていいものだろうか?しかしそこに触れなければ話は進まない。
「少し長い話になるかもしれぬのだが、今は忙しいのではないか?」
「ああ‥少しお待ちください」
店主はそう言って、一度奥に引っ込んだ。しばらくして別の店員を伴って出てくると、店主はお茶をのせた盆を持ってルウェンの席までやってきてお茶を置き、そのまま自分も座った。
「ちょうど休憩に入る時間でしたから。お話を伺います。店主のリーンです」
「リーンさん、休憩時間を取ってしまって申し訳ない。‥高山地帯に登りたいと言っている者がいる。無謀だと止めはしたのだが‥龍人タツトの住処にどうしても行きたいというのだ」
「ハルタカ様の‥?それは‥」
そう言ってリーンは眉を顰めた。ルウェンは店主リーンがハルタカの名前を知っていることに驚いた。
龍人タツトの名を知っているのか?交誼があるのか?」
リーンは少し答えるのに迷っている様子だった。ルウェンはその様子を見て、この慎重さがあるのであれば詳しく話しても大丈夫だろうと踏んだ。
「‥あまり他言しないでほしいのだが‥ハルタカ様は今眠りにつかれてしまっている。番い候補であるマヒロ様が、ハルタカ様に会うために住処のある高山に登りたいとおっしゃっておられるのだ。それで伝手を探してこちらを訪ねてきた」
リーンはそのルウェンの言葉を聞いて大きく目を見開いた。

いつだったか、珍しくハルタカがヒトを連れて店にやってきたことがある。華奢ななりをしたヨーリキシャの若者ワクシャだった。確か名前をマヒロと言っていたのではないか。
「マヒロ様が、高山に登ろうとされているのですか?」
リーンの言葉に今度はルウェンが驚いた。
「マヒロ様をご存じか?」
「ええ、少し前にハルタカ様と一緒にこちらを訪ねてこられました。‥あんな、華奢な方が‥あの高山に登ろうとされているとは‥無謀だという話を差し上げたのに‥」
そう言うと、リーンはハルタカ達がやってきたときどのような会話をしたのか詳しく話した。ルウェンはそれを聞いて少し顔をゆがめる。‥ではある程度無謀だと知っていて、それでもマヒロは登ろうとしているのか。
「‥マヒロ様は、もし俺がうまく伝手を見つけられなければ、自分一人でも登ろうとするだろう。だからできるだけ、安全に登れるような方策を考えたいと思い、助言を求めてこちらに来たのだが‥」
ルウェンとリーンはお互いに俯いて考え込んだ。

そもそも龍人タツトの住処は、ヒトが行きつけないところにあるから「龍人の住処」なのだ。簡単に行きつけるようなところであれば、「龍人の住処」である理由がなくなる。龍人タツトとは、それほど普通のヒトとは隔絶されるべき存在なのだ。
しばらく二人の間に沈黙が横たわっていたが、リーンが何かを決心したように顔をあげた。
「‥‥ルウェン様。案内人に当てがあります。ですが、その案内人の事を一切詮索しないでいただきたい。その条件をお守りできるのであれば、ご紹介致します。また、ある程度の金銭保証をしてくださること、その者の子どもを安全なところで登山が終わるまで預かっていただけることをお約束していただけるなら‥ですが」
その言葉を聞き、ルウェンはぱっと顔をあげた。登山をしていた店主が他界していると聞いてどうすべきかと思っていたのに、思わぬところから伝手が転がってきた。
「無論だ!私の責任においてすべての条件を飲む!ただ、私に残された時間は今日しかないのだ。今日、その者を紹介していただくことは可能だろうか?」

リーンは少し考えてから「少々お待ちください」と言ってまた店奥に引っ込んだ。
十五分ほど待っていると、奥から戻ってきたリーンは一通の手紙と一枚の紙をを手にしていた。
「ルウェン様、こちらに案内できる者の住所があります。タムというシンリキシャです。シンリキはあまりありませんが高山を抜けてきた経験を持っています。思慮深い人物ですからきっとお役に立つでしょう。ただし、とても用心深い人物ですからこちらに仔細をしたためた書状を用意致しました。こちらをお渡しくださればきっとタムも話を聞いてくれるはずです。住所は少し町から外れたところになりますから今からすぐ向かわれた方がいいでしょう」
そう言ってリーンは手紙と紙切れをルウェンに手渡してくれた。
ルウェンは重ねて礼を言い、心づけも添えて代金を支払うと急いで紙に書かれた住所を目指した。そこは本当に町の外れで、急がねば時間が無くなってしまう可能性があった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...