【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

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90 タムの家で

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教えられた住所を頼りにアツレンの街外れまでやってきたルウェンは、ごみごみと立て込んでいる家並に迷ってしまい、住民に尋ねながら目当ての家を探した。
ようやくたどり着いた時には、少し日が傾きかけていた。扉を叩くが応答がない。留守か、留守だとしたらいつ戻ってくるのだろうか。ルウェンはせわしなく時間の猶予を考えた。いざともなればだれか信頼のおけるものに頼むしかないが‥
大人タイシャ、俺んちに何か用か?」
後ろから子どもの声がした。振り返ると荷物を持った子どもとそのシンシャらしきヒトが立っていてこちらを怪訝そうに窺っていた。
「ああ、すまん。俺は退異騎士のルウェンだ。タムさんを訪ねてこちらに来たのだが」
「タムは私です‥騎士の方がどのような御用でしょうか?」
退異騎士、と名乗ったのがよくなかったのか、タムは顔色をあからさまに悪くしてこちらを見た。右手に子供の手をぎゅっと握り、片足は軽く後ろに引いている。いつでも駆け出して逃げ出せるその姿勢を見て、ルウェンは(これはかなりの修羅場をくぐってきたヒトだな)と感じた。
そこで努めて明るい声を出していった。
「リーンさんから紹介を受けたんです。こちらを読んでいただけますか?」
そう言ってリーンが書いてくれた手紙を差し出す。タムは恐る恐る手紙を片手で受け取った。そして宛名の筆跡を見て肩から力を抜いた。
「‥何もありませんが、どうぞ中にお入りください」
そう言って家の中に招き入れてくれた。

タムの家は、石造りではあったがところどころ壁が剥がれ落ちており、外の気温と変わらないほど寒かった。子どもが「さむさむ!」と言いながら今にある暖炉の方へかけていき、慣れた手つきで薪を組み上げ火をつけた。
「ナシュ、燃用石一個使っていいから。早く暖かくして」
「わかった!」
子どもはそう答えて、暖炉の傍に置いてあった小箱から燃用石のかけらを取り出し暖炉の中に放り込んだ。一気に薪に火がついて燃え上がる。暖炉の方から暖かい空気が流れてくるのを感じた。
「ありがとうございます」
「いえ‥とにかくお茶でも淹れますからこちらにおかけください」
タムはそう言って粗末なテーブルの傍にある二脚しかない椅子の、多少なり綺麗な方を手で示した。
ルウェンは如才なく持ってきた小包を差し出した。
「お茶をご馳走してもらえるなら一緒にこれを食べませんか?ここに来る前に買ってきたんです」
差し出した包みは、アツレンの街で最近流行っている軽い焼き菓子だ。子どもがいると聞いていたので菓子がある方がいいかと思い、ここへ来る前に買ったものである。何人いるかを聞いていなかったので、結構な数を買ってしまった。
「ありがとうございます」
タムは短くそう礼を言うと、変に遠慮をすることなくその包みを受け取ってくれたので、ルウェンはほっとした。
タムがお茶を淹れ始め、ふわりとお茶の香りが立ちのぼる。今日は一日、色々なことがあって気が張っていたルウェンは、その香りにふと癒されるのを感じた。屋敷でも茶は飲んだはずなのに、この寒々しい家で香るお茶の匂いが今日初めてルウェンの心を溶かしていった。
「どうぞ。いただいたお菓子も‥美味しそうですね。ありがとうございます」

武骨なカップに入れられたお茶はありふれたものではあったが、ルウェンにとっては甘露に感じた。タムの持つ雰囲気は不思議だ。こんな貧しげな家の中なのに、それを全く感じさせない。やはりシンリキシャだからだろうか。
タムは自分もルウェンの向かいに座り「失礼します」と言って手紙を読み始めた。子どもは暖炉の前に陣取っていてこちらにやってこない。タムは子どもの分もお茶を淹れていたので呼び寄せようかと思ったが、椅子が二脚しかないことに気づいた。
ルウェンは子どもの分のカップを持ち、暖炉の方に近づいた。
「悪いな、お前の椅子をおれがとっちゃったんだな」
子どもはカップを受け取り、赤くなっている小さな手をカップで温めながらにこりと笑った。
「いいんだ、俺は暖炉の近くの方が温かいし!大人タイシャは騎士なんだって?『国王選抜』にもついていってんのか?」
こんな子どもも『国王選抜』については興味があるのか、と思いながらルウェンは答えた。「俺の事はルウェンと呼んでくれ。‥そうだな、ついていったこともあるぞ。お前、騎士に興味があるのか?」
子どもはずず、とお茶を飲んでから言った。
「俺はナシュだよ。いや俺はかっこいいとは思うけど騎士にはならないかな。美味いものを作ってみんなに美味いって言ってもらえる方が好きなんだ。今でもピルカの団子は俺が作ってるんだぜ!」
「偉いな。ピルカを売ってるのか」
「うん、選抜期間中は色んな人が動くからまあまあ売り上げも上がるんだ。今日も店を閉めるのが少し遅くなったしな」
ルウェンがナシュと話していると、後ろからタムが声をかけてきた。

「ルウェン様」
呼ばれてルウェンはもう一度椅子にかけた。
「ルウェンと呼んでくれ。‥お願いできるだろうか?」
タムは難しい顔をして少し考え込んでいる。そして何度か何か言おうとしてやめ、を繰り返して、ようやく話し始めた。
「登りたいのはマヒロ様なのですね。少々ご縁がありまして、私は一度この家でもマヒロ様にお会いしたことがあります」
「そうか!‥では事情は汲んでいただけるだろうか?」
ルウェンの問いに、タムは一度目を伏せた。
「‥‥ご案内は、途中までならできます。ですが、高山を登り切るのは無理です。ヒトの足では無理なんです。私が高山を抜けてアツレンに来れたのは‥龍人タツト様に偶然助けていただいたからなのです」
ルウェンは驚き、目を瞠った。
「ハルタカ様ですか?」
「‥いえ、別の龍人タツト様です。‥ルウェン様、一度マヒロ様にお会いできませんでしょうか。私から直接、色々とマヒロ様にお話ししてみて、それから決めたいと思います」

ルウェンは少し考えた。マヒロの知人であるなら、マヒロを訪ねて屋敷に行ってもそこまで怪しまれまい。そこで話し合ってもらって、タㇺから騎士団本部に連絡をつけてもらえれば何とかなるかもしれない。
「わかりました。‥では、ナシュも一緒に行ってもらってもいいですか?子どもが一緒の方が警戒されないかもしれない。領主が危険な登山を警戒してマヒロを行かせまいとしているので」
タムは頷いた。
「明日にでもお屋敷の方へ伺わせていただきます」
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