【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

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104 回復期に

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アーセルは言われた言葉を理解することが一瞬できなかった。
幼い頃から自分の傍にいた、この陽気なマリキシャがいなくなる。
国王になれば、傍で自分を支えていくと言ってくれていた筈なのに。
瞬きを忘れたかのようなアーセルに黄色い目に射抜かれて、ルウェンは困ったように笑った。
「うん、今アーセルが話せないのにこういう話をするのは悪いよな。‥でも、早めに言っておきたかったんだ。身体が回復したらきっとかなり忙しくなるし、俺の後任とか考える時間があまりとれないかもしれないだろ?」
そう言って、水飲むか?とコップを口に近づけてくれた。されるがままに水を飲んで、またルウェンを見上げた。
声が出ないのがもどかしい。
しかし、声が出たとして、自分は何と言えばいいのだろう。この幼馴染の気持ちにこれまで全く気づいていなかった自分が。マヒロへの気持ちを丸ごと表に出して、ルウェンに様々な負担を強いていただろうこの自分が。

これから国王として、フェンドラ領主とは比べ物にならないほどの激務に晒される。それなのに、この世で一番信頼できる右腕は、自分から離れると言うのか。
しかし、ルウェンの想いを知ってしまった今、自分の傍にいてくれるよう頼めるほどの厚顔さはさすがにアーセルも持ち合わせていない。
「後任を考える時間」とルウェンは言っていた。この、他に類を見ないほど優秀で自分の心情をよく汲み取ってくれる人物の後任を探す?そんな人物がどこにいるというのだろうか。

長きにわたって傍にいたはずの友の想いに気づかなかった自分に対する、これは罰なのだろうか。これからの険しい道を、もうおのれ一人で歩いて行け、と天に言われているのだろうか。

心の中では、行かないでくれ、俺の傍で支えてくれと叫んでいる。だが、それは途轍もなく自己中心的な願いであり、ルウェンの心をさらに傷つけるものでしかないことが、アーセルにはわかっていた。
声が出ないのは、幸いだったのかもしれない。


そんなアーセルの心の動きも知らず、ルウェンは半分ほど残ったランガののった皿を取り上げ、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃな。また後で来る。ランガは取っておくから、食べたかったら後でまた持ってくるよ」
そう言うとそのまま部屋を出てしまった。
アーセルは重い瞼を閉じて、これからのことについて思案に耽った。



龍鱗を取り出されたマヒロの身体は、なかなか衰弱が酷かった。ようやく高山登山の損傷が回復しかけてきたところに受けた損傷だったからか、なかなか体力が戻らなかった。
ハルタカは折を見てはマヒロにタツリキを流し、滋養のある食べ物を食べさせたり、マヒロがしっかり寝付くまで側にいて背をさすってやったりと甲斐甲斐しく世話をしていた。

そんな日々を送るうちに、マヒロが、ハルタカの住処に着いてからもう一か月以上が経っていた。

ソウガイに龍鱗を抜かれてから十日以上が過ぎ、ようやくマヒロは自分で起き上がれるようになり、少しなら立って歩けるまでに体力が回復した。ハルタカに懇願してお風呂にも入らせてもらえるようになった。
固形物も咀嚼して呑み込むだけの体力がついた時には、ハルタカは涙を流さんばかりに喜んだ。やはり、今にも死にそうな状態でマヒロが横に寝ていたあの経験は、かなりハルタカの心に深い傷をつけてしまったらしい。
ハルタカのマヒロに対する扱いはかなり過保護で鬱陶しいなと思ってしまう事もあったが、ハルタカの気持ちを考えると無碍にもできずマヒロはされるがままに世話を焼かれていた。

正直、この生活は居心地がよく幸せだった、ということもある。

ハルタカの傍にさえいれば、マヒロは不足を感じることがなかった。精神的に安定して、多幸感を味わえる。これは、この世界に来て様々なことを経験したからこそそう思えるのではないか、とマヒロは考えていた。
ハルタカは、ほとんどマヒロの視界から外れることなく傍にいてくれる。最近は何も言わずとも、マヒロがしたいことを汲み取ってくれるようになってしまい、(このままだと、ボケる気がする‥!)とマヒロは危機感を煽られていたくらいだ。

少しずつ住処を歩き回れるようになり、普通の食事も摂れるようになり始めてから、マヒロはハルタカとこれからの生活について長い長い話し合いを持った。
やはり、ハルタカは自分のもとから離れてほしくない、の一点張りだった。マヒロを失いそうになった傷は、ハルタカの心を深々と抉りいつまでもじくじくと疼いている。その傷が、すぐには手の届かないところにマヒロを送り出すということを強く拒んだ。

しかし、マヒロは粘った。
マヒロがこの世界の事を、自分の役割の事をきちんと考え、答えを出さない限り、ソウガイが十年後に素直に龍鱗を返してくれる保証はない、と思っている。だからこぞ、もっとヒトと関わりヒトと共に生活をしてこの世界の様々な事象に触れていかねばならないのだ、というマヒロの考えは変わらなかった。
何度も何度も意見は平行線をたどり、衝突した。

随分長い時間が経って、ハルタカは天を見上げ大きなため息をついた。
「‥‥わかった」
マヒロはぱっと顔を輝かせ、椅子から立ち上がってハルタカの方を見た。
「ホント?本当に?ヒトの中で暮らしてもいい?」
ハルタカは、じろ、とややきつい眼差しでマヒロを睨んだ。‥どうしてこの愛おしい番いは自分からすぐに離れようとするのだろう。こんなに愛していると言ってくれるのに。笑顔でもってそれを示してくれるのに。その愛情と同じくらいの強さで、自分の意見をハルタカに言ってくる。
「色々やっておきたいことはある。またピアスも作るし、他にもいろいろとマヒロに危険が及ばないようにしておきたいし。それから‥‥」
ハルタカはそこまで言って急に口を噤み、熱っぽい目つきになってマヒロの方を見た。その変化にマヒロはどきりとした。それでなくとも美しいハルタカの顔で、そういう目つきをされるといつもドキドキさせられる。
「一つだけ、条件がある」

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