【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
113 / 120

113 ルウェンとアーセル、そしてハルタカ

しおりを挟む
ルウェンがアーセルの腕を引いて立ち上がらせた。そしてアーセルの膝の埃を払ってやる。
「お前、二度とこんなことをするなよ‥もう、王座に就かれる身なんですから自重してくださらないと困ります」
後半は、少し口調を改めたルウェンを見て、アーセルはまた笑った。
マヒロはそんな二人を見て、大きく息を吐いて椅子にもたれた。とりあえず何とかなったかもしれない。マヒロから見ても、ルウェンは何かを吹っ切れたような顔に見えたし、アーセルは随分落ち着いているように見えた。

とはいえ、ルウェンの恋情は十何年も胸の中で育ってきたものだ。すぐにアーセルを諦められるものでもないだろうし、ルウェンが言うように新しい伴侶を見つけることは、実際には難しいかもしれない。
(‥自分がうまくいっちゃったからだけど‥みんな好きになった人に好きになってもらえたらいいのにな‥)
もう、ここにはいないティルンの事を思い出し、マヒロは何とも言えない気持ちになった。

恋愛とは本当にままならない。相手のためを思って行動したとしても、それが必ず報われるとは限らない。
だが、そうやって必死に好いたヒトのために何かをした者にとって、その経験は何かに生きてくるはずだ、とマヒロは思いたかった。
(私は大して何もしてないけど‥ハルタカに好きになってもらえたのは、運がよかったんだな)
マヒロはそう思って隣に座るハルタカをちらりと見た。立ち上がったまま何か話しているアーセルとルウェンを厳しい顔で見つめている。マヒロはそっとハルタカの袖を引いた。
「どうした?」
「顔、怖いってばハルタカ」
「‥‥生まれつきだ」
「絶対違う、何かまだ怒ってる」
「むしろなぜ、マヒロがあの者を許せるのかが私にはわからない」

そう言ってハルタカはむっすりしたままだ。仕方がないなあと思いながら、マヒロはそっとハルタカの手を握った。
ハルタカがマヒロの顔をじっと見てくる。身体を少しハルタカに寄せて囁いた。
「でも‥あのことがきっかけで、ハルタカへの気持ちが絶対に揺るがないものになったかな、って気はしてるんだけど‥」
どちらかと言えば常日頃から無表情なハルタカの顔に、さっと朱が刷かれた。握っていた手が、くるりと返され逆にぎゅっと握られる。
そしてそのままぐっと身体を引き寄せられ、ハルタカの胸の中に抱き込まれた。
「ちょ、ハルタカ」
「マヒロは、時々私の理性を飛ばそうとするな‥」
「うん?」
「‥‥このまま、住処に帰ってもいいか?」
マヒロは目を見開いてぐいぐいハルタカの胸を押した。
「絶対ダメ!」
言い合いながらハルタカの腕から抜け出そうとしているマヒロと逃すまいとしているハルタカの傍にルウェンが寄ってきて膝をついた。そしてハルタカに向かって話しだす。

「ハルタカ様。俺‥私のことはきっとお許しいただけないと思います。私個人としてはどんな贖罪を要求されようともお受け致します。ただ、私以外のフェンドラの人間には罪はありません」
「そうか?実際にマヒロを毒したのはあの王の子であるシンリキシャだろう」
ルウェンは負けずに言葉を返した。
「確かにそうですが‥ティルン様はもう十分、あなた様から罰されているかと存じます。他の人々には罪はないはずです」
ハルタカも自分が正気でない状態でティルンを追い詰めたことは記憶にあるのだろう。ルウェンのその言葉には反応しなかった。横でマヒロが「え?どういうこと?」と小さく呟いてはいたが。
「ですから、処罰は私のみにお願いします。ただ、もし許されればあと一年ほどお待ちいただけるとありがたい。新国王の即位が終わるまで猶予をいただきたいのです」
「‥‥お前に猶予を与える理由などない」
ルウェンは黙って膝をついたまま下を向いた。マヒロが慌てて横からハルタカを掴んだ。
「ハルタカ、だから私はもう気にしてないってば!そんな、処罰とか望んでないしやめてよ」
「マヒロ様、いいんです。ハルタカ様のお怒りはご尤もなんですから」
「でも」
そこへアーセルも近くに寄ってきた。立ったまま、ハルタカの顔をじっと見つめる。
「ハルタカ様、部下のしたこと重ねてお詫び申し上げる」
「領主騎士の詫びはもう聞いた」
「では、私の願いをお聞きください」
ハルタカは少し眉を上げて座ったままアーセルを見上げた。
「何だ」
龍人タツト様の使命はこの世の安寧と聞き及びます。我が国は王位移譲のためこの一年ほどは大きく揺れ動きましょう。私はそれを収めてゆかねばなりません。‥‥そのためにはこのルウェンという有能な右腕が必要なのです。我が国の安寧のため、どうかご猶予を願えませんか」
ハルタカは、その言葉を聞いてアーセルとルウェンを交互に見つめた。アーセルの言葉を聞いたルウェンは顔を上げてハルタカを見上げている。横からは縋るようなマヒロの視線も感じる。ハルタカは軽く一度目を瞑ってから返事をした。
「では、一年待とう」
「!ありがとうございます!!」
「ありがとうございます、感謝申し上げます」
「いやそもそも処罰いらないって!」
三者三様の声が応接室に響いた。そこへ、また扉を叩く音がした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...