【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
114 / 120

114 応接室の五人

しおりを挟む
「失礼致します、タムですがよろしいでしょうか」
その声にすぐさまマヒロが返事をして扉のところまで駆けよった。
「どうぞ!はいはい」
マヒロが明けた扉の向こうで、少し驚いた様子のタムが見えた。マヒロはそんな様子にも頓着せず、タムをぐいぐい引っ張って長椅子に座らせた。
「タム、ルウェンが色々手伝ってくれるって!私は何もしてないけど、アーセルの説得がうまくいった感じ?」
にこにこ笑ってそう告げるマヒロに、ルウェンが焦ったように言葉を発した。
「い、いえ、マヒロ様の後押しとハルタカ様からの許可をいただいたからこそです!ありがとうございます」
そう言って最敬礼をしようとするルウェンを、今度はマヒロが引っ張り上げた。
「いいっていいって、とにかくよかった!あ~、ほっとしたらお腹空いたよ~、ご飯まだかな?」
タムはマヒロを見ながら思わずといった感じで笑った。
「ふふ、もうすぐみたいですマヒロ様。今カッケンさんと給仕が色々とテーブルに仕度をしているのを見てきましたから」
「うわ~楽しみ!」
そう言ってくふふと笑っているマヒロの肩を、ハルタカがそっと抱いた。
「マヒロ、領主たちに言うことがあったのではないか?」
言われてアッと言う顔をしたマヒロが、ハルタカの腕に掴まりながら三人の顔を順番に見まわした。
「えっと‥あの~、多分‥ハルタカの番いになりました‥」
そう言ってそっと前髪を上げた。
そこに現れた小さな爪の先ほどの龍鱗を、三人は最初わからなかったようだが、ゆっくりと近づいてそれを確認するなり全員が息を呑んだ。
そもそも、龍人タツトの番いは、龍人タツトに囲い込まれるのが常で番った後に人里に降りてくることなどめったにない。ましてや番いの証である龍鱗を見たことがある、という記述などこれまでのどんな古文書にも歴史書にも見られなかったものだ。
そのようなものを今、目の当たりにしたという事実に、三人は息をするのも忘れて目の前の若者ワクシャを見つめた。
マヒロはそんなことは一切知らないので、何だか随分驚いているなあ、という感覚しかない。ハルタカはおそらく三人の驚きを理解しているが、別に自分からどうこう説明するものでもないと思っているので無言のままである。
驚きと緊張に包まれた三人と、なぜここまで驚かれているのかわからないマヒロと、ただ無表情のままのハルタカ、という変な空間の中で、最初に言葉を発したのはタムだった。

「あ、あの、そうですか、マヒロ様、おめでとうございます。ハルタカ様も」
「ありがと」
「うむ」
タムとマヒロたちのやり取りを目にして、ようやく息がつけるようになったルウェンとアーセルも、もごもごと祝辞を口にした。
「おめでとうございます、マヒロ様、ハルタカ様」
「おめでとうございます。‥‥まさか、もう本当に番っておられるとは思っておりませんでした」
アーセルの言葉は、少し重く湿ったものだった。マヒロが決死の覚悟で高山に臨んだ折に、マヒロの気持ちがハルタカだけに真っ直ぐ向いていることは承知していた筈だが、「番った」と実際に聞かされればまだ複雑なものがあるのだろう。
ルウェンがそんなアーセルの背を優しく叩く。
タムはその一連の様子を観察して、ハルタカの方に声をかけた。
「では、マヒロ様が降りてこられるのは本日が最後ということですか?」
ぎょっとしたマヒロがタムの方を向いて素早く否定する。
「ええっ⁉そんなことないよ、私はまだこの世界について知らないことがいっぱいあるんだから、勉強したいって思ってる。ハルタカにもそれは伝えてるよ」
マヒロの言葉を聞いて、三人はまた驚愕の表情のまま固まってしまった。

さすがに『カベワタリ』なだけあって、思いもよらないことを言ってくる。
龍人タツトの番いがヒトの間に混じって暮らすなど、聞いた事がない。そもそも龍人タツト自体が市井の者たちと触れる機会がほとんどないに等しいのに、番いともなればなおさらだ。龍人タツトの番いに対する執着が度を越えている、というのはこの世界での常識だった。だからこそ、三人は信じられない、といった顔でマヒロとハルタカの顔を交互に見てしまう。
その雰囲気を感じ取ったマヒロは、だんだん不安になってきて思わずハルタカを縋るように見つめた。
「‥え、いいんだよね?ハルタカ、いいって言ってくれたもんね?」
「‥‥‥いい、というか‥いいとは、思っては、いないのだが‥」
ハルタカはそっとマヒロから視線をそらして、口の中でもごもご何か呟いている。それを見た三人が、ああ‥と何かを察した顔でマヒロを見て、同じように視線をそらした。
マヒロは一人焦ってハルタカの腕を掴み、言い募る。
「え、何言ってんの?いいって言ったよね?いっぱい話をしたじゃん。なんかピアスとか色々するって、あ!ほら、チビ龍鱗出たから大丈夫って言ったよね?!」
「‥‥‥‥まあ、言ったな‥」

三人は不承不承、ハルタカが肯定するのを聞いて、思わずハルタカに同情した。常識が、前提が違う、ということはなかなか大きなことなのだ。
マヒロはとりあえずのハルタカの言葉を聞いてほっとした顔を見せ、タムの方を向いて満面の笑顔を見せた。
「ほら、だからタム、また来るよ!っていうか、どこか住む場所を探したいんだよね‥」
再びぎょっとした顔をした三人が一斉にハルタカの顔を見た。ハルタカは一瞬、三人の顔を見たが黙ってその顔を伏せた。
タムはちらりとアーセルの顔を伺う。アーセルは力強く頷いた。横でルウェンもぶんぶんと首を縦に振っている。
タムは立ち上がり、マヒロの傍に寄った。
「‥‥マヒロ様、よろしければその‥お住まいはフェンドラが面倒を見ましょう。あの、アーセル様もルウェン様もそのようにしてほしいとのことですし。ハルタカ様もその方がよろしいのでは‥」
「頼む」
やや食い気味に返事をしたハルタカを見て、マヒロが少し驚いた顔をした。それから腕組みをして顎に手を当て、う~んと考え込んだ様子を見せる。
「‥でもなあ、これまでもお世話になりっぱなしだからなあ‥」
ハルタカの眉間に大きく皺が刻まれていくのを見て、慌ててアーセルも言葉を続けた。
「いえ、マヒロ様!本来であれば国を挙げて『カベワタリ』を保護するべきところだったのです!全く、その、世話になっているとか思っていただかなくて結構です!むしろ、こちらで面倒を見させていただきたく」
ルウェンも続いた。
「そうですよ、マヒロ様‥あの、よかったらマヒロ様のお住まいについてのことを俺の復帰の初仕事にさせてもらえませんか?色々と考えますので!」
ハルタカの眉間の皺が、やや開かれた。マヒロはそれは目に入っていなかったが、三人がそのように言ってくれるのを聞いて、またう~んと考え込んだ。
マヒロが話し出すまでの僅かな時間が、三人にはとても長く感じられた。
「‥わかった!じゃあ、お世話になろうかな、ハルタカもその方が安心みたいだし」
「ありがとうございます!」
「いや、ありがとうは私の台詞だからね?」
「いえいえ、龍人タツトの番い様のお世話ができるとは、とても光栄なことです」
「そうですよマヒロ様。どうぞ気兼ねなくお過ごしください」
「マヒロ様のご希望など、また改めてお聞かせください」
三人三様の返事に、またマヒロは笑った。ハルタカが抱いていた肩から手を離し、マヒロの頭を自分の方に寄せてそっと口づけた。
「‥お前の希望を伝える時に、私も同席して構わないか?」
「ふふ、勿論いいよ!」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...