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116 子果を授かるとは
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「‥そう言えば、ジャックとエレネさんって結婚‥伴侶になってからどのくらいなの?」
練香の下の炭に火を入れながらジャックは思案した。
「え~と‥あ、もうすぐ十年?くらいかなあ‥僕が二十五歳のときに伴侶誓言式をしたから」
「そう言えばジャック三十五歳なんだよね‥見た目それだから忘れてるけど‥」
ジャックの見た目は、高校生男子、という感じである。マヒロはこの世界の人々の年齢だけはいつまでたっても当てられる気がしないなと思っている。
「こういう事、聞いていいかわからないけど‥子どもとかって考えてないの?」
ジャックはニコッと笑って応えてくれた。
「いえ!考えてますよ?そろそろかなとは思ってるんです。もう十分に子果納め金も溜まっていますし‥王位移譲期間が終わったら子果清殿に行こうかという話はしてます」
マヒロは、ん?と記憶をたどった。
この世界では子どもは性交によっては生まれないのだったか。確か子果というものを授かるとか聞いたような。随分前に聞いたっきりなので忘れてしまっているところがある。
「ごめん、この世界での子どもってどういう感じで生まれるの?教えてくれる?」
ジャックは香炉をサイドテーブルに設置すると、マヒロの着替えを準備し始めた。
「そうですね、子果清殿はわかります?」
「う~ん‥前に聞いた気がするけど忘れたかも」
「じゃあ、最初から説明しますね。子どもが欲しい伴侶は、みんなで子果清殿に行って子果を授けてもらいます。子果が実った時にしっかり子どもを育てられる力があります、という証明のために、その時子果納め金というのを子果清殿に納めます」
「いくらくらいなの?」
「そうですね、アツレンでは共金貨(大陸共通金貨)一枚ってところですかね」
これまでに触れ合った人々の様々な生活から考えれば、共金貨一枚は、一般的な庶民の年収の半分ほどにあたる。決して安くはない。
「結構高いんだねえ‥」
ジャックはなんでもないことのように答えた。
「実際に子どもが生まれたら返してもらえますからね。子どものために使うことができます」
「そうなんだ‥」
「金銭的余裕がないのに子どもにだけ恵まれても育てられませんからね」
性交によって生まれるのではないから、あくまで出産は計画的に行われるのだな、とマヒロは思った。しかし「子果を授けてもらう」とはどういう事だろうか。
「子果清殿に行ったら何するの?」
「子果樹、という子果の生る木があるんですけど、そこに行ってムリキシャとともに子果樹に祈ります。運がよければ子果がそこで実るんです。祈ったものにしかその子果は採取できません」
「へえ‥」
「子果が実るかどうか、いくつ実るかもその時でないとわかりません。‥運よく実ったら、その子果を食べてから性交します。すると胎に子が宿るんですよ」
「はああ‥」
なかなか運任せな妊娠だ。だが子果さえ食べれば必ず子供ができるのであれば効率はいいのか?
「子果を食べれば子どもが生まれるんだね」
そこで初めて、ジャックは眉を下げた。少し悲しそうな顔をしている。
「珍しいことではありますけど‥子果を食べても子が宿らない場合もあります、‥そういうときはその伴侶たちは結構つらいんですよね。子果を授かったのに子が実らないなんて、とかいうヒトがたまにいるんで」
日本社会でも、不妊は大きな問題になっていて、それで悩んでいる人も多い、と聞いたことがある。世界が変わっても悩みはそんなに変わらないのかもしれない、とマヒロは苦い気持ちで考えた。
「子どもがお腹にできるのってどうやって決まるの?」
「そうですね、多くの場合は突っ込まれる方に実りますね」
ジャック‥結構即物的な言い方だね‥
「そう、なんだ‥」
「はい。だからエレネと僕の場合なら多分僕の胎に宿るかなあ」
「ジャック‥あの、そこまで言わなくてもいいよ‥」
聞いといてなんだけど、ともににょもにょ口の中で呟くマヒロに、ジャックは全く気にする様子もなくマヒロの髪を梳き始めた。
「さ~今日は久しぶりにお肌と髪の手入れもしましょうね!‥‥ん?マヒロ様、‥お手入れしてませんね‥?」
「あ、いや、あの、ほら、ハルタカのところにはさ、道具も化粧品もなかったからさ‥」
あははは、と力なく笑うマヒロを睨むジャックの視線が痛い。これは強制エステフルコースかなとマヒロがびくびくしている(ジャックのリンパマッサージは死ねるほど痛い)と、控えめなノックの音が響いた。ジャックが扉のところまで行き開けると、そこには少しリラックスした格好に変わったアーセルの姿があった。
「このような時間にすまない。マヒロ様‥少し、話ができるだろうか?」
「うん、大丈夫。ここで?」
「いや‥団欒室に来てもらえるだろうか?」
「わかった」
そう言ってアーセルとともに部屋を出ようとしたマヒロは、ジャックにそっと囁いた。
「‥ハルタカには、少し話してくるって伝えておいてくれる?変に隠さないでも大丈夫だから」
「承知致しました」
ジャックも囁き返した。そして薄手のショールをマヒロの肩にかける。
「夜はまだ少し冷えますからね」
「ありがとう」
そのまま、アーセルの後ろについて団欒室に向かった。
アツレンの屋敷には、大きな団欒室と小さな団欒室がある。今日は小さな団欒室の方に案内された。部屋に入れば
、中央の机に温かいお茶の支度ができていた。
アーセルは手ずからお茶を淹れてマヒロに供した。一人用の背もたれが高いソファに座り、マヒロはお茶を飲んだ。少し酸味があって口の中がすっきりするようなお茶だった。
「美味しい」
「よかったです」
そう言ってアーセルは笑い、自分もお茶を含んだ。
練香の下の炭に火を入れながらジャックは思案した。
「え~と‥あ、もうすぐ十年?くらいかなあ‥僕が二十五歳のときに伴侶誓言式をしたから」
「そう言えばジャック三十五歳なんだよね‥見た目それだから忘れてるけど‥」
ジャックの見た目は、高校生男子、という感じである。マヒロはこの世界の人々の年齢だけはいつまでたっても当てられる気がしないなと思っている。
「こういう事、聞いていいかわからないけど‥子どもとかって考えてないの?」
ジャックはニコッと笑って応えてくれた。
「いえ!考えてますよ?そろそろかなとは思ってるんです。もう十分に子果納め金も溜まっていますし‥王位移譲期間が終わったら子果清殿に行こうかという話はしてます」
マヒロは、ん?と記憶をたどった。
この世界では子どもは性交によっては生まれないのだったか。確か子果というものを授かるとか聞いたような。随分前に聞いたっきりなので忘れてしまっているところがある。
「ごめん、この世界での子どもってどういう感じで生まれるの?教えてくれる?」
ジャックは香炉をサイドテーブルに設置すると、マヒロの着替えを準備し始めた。
「そうですね、子果清殿はわかります?」
「う~ん‥前に聞いた気がするけど忘れたかも」
「じゃあ、最初から説明しますね。子どもが欲しい伴侶は、みんなで子果清殿に行って子果を授けてもらいます。子果が実った時にしっかり子どもを育てられる力があります、という証明のために、その時子果納め金というのを子果清殿に納めます」
「いくらくらいなの?」
「そうですね、アツレンでは共金貨(大陸共通金貨)一枚ってところですかね」
これまでに触れ合った人々の様々な生活から考えれば、共金貨一枚は、一般的な庶民の年収の半分ほどにあたる。決して安くはない。
「結構高いんだねえ‥」
ジャックはなんでもないことのように答えた。
「実際に子どもが生まれたら返してもらえますからね。子どものために使うことができます」
「そうなんだ‥」
「金銭的余裕がないのに子どもにだけ恵まれても育てられませんからね」
性交によって生まれるのではないから、あくまで出産は計画的に行われるのだな、とマヒロは思った。しかし「子果を授けてもらう」とはどういう事だろうか。
「子果清殿に行ったら何するの?」
「子果樹、という子果の生る木があるんですけど、そこに行ってムリキシャとともに子果樹に祈ります。運がよければ子果がそこで実るんです。祈ったものにしかその子果は採取できません」
「へえ‥」
「子果が実るかどうか、いくつ実るかもその時でないとわかりません。‥運よく実ったら、その子果を食べてから性交します。すると胎に子が宿るんですよ」
「はああ‥」
なかなか運任せな妊娠だ。だが子果さえ食べれば必ず子供ができるのであれば効率はいいのか?
「子果を食べれば子どもが生まれるんだね」
そこで初めて、ジャックは眉を下げた。少し悲しそうな顔をしている。
「珍しいことではありますけど‥子果を食べても子が宿らない場合もあります、‥そういうときはその伴侶たちは結構つらいんですよね。子果を授かったのに子が実らないなんて、とかいうヒトがたまにいるんで」
日本社会でも、不妊は大きな問題になっていて、それで悩んでいる人も多い、と聞いたことがある。世界が変わっても悩みはそんなに変わらないのかもしれない、とマヒロは苦い気持ちで考えた。
「子どもがお腹にできるのってどうやって決まるの?」
「そうですね、多くの場合は突っ込まれる方に実りますね」
ジャック‥結構即物的な言い方だね‥
「そう、なんだ‥」
「はい。だからエレネと僕の場合なら多分僕の胎に宿るかなあ」
「ジャック‥あの、そこまで言わなくてもいいよ‥」
聞いといてなんだけど、ともににょもにょ口の中で呟くマヒロに、ジャックは全く気にする様子もなくマヒロの髪を梳き始めた。
「さ~今日は久しぶりにお肌と髪の手入れもしましょうね!‥‥ん?マヒロ様、‥お手入れしてませんね‥?」
「あ、いや、あの、ほら、ハルタカのところにはさ、道具も化粧品もなかったからさ‥」
あははは、と力なく笑うマヒロを睨むジャックの視線が痛い。これは強制エステフルコースかなとマヒロがびくびくしている(ジャックのリンパマッサージは死ねるほど痛い)と、控えめなノックの音が響いた。ジャックが扉のところまで行き開けると、そこには少しリラックスした格好に変わったアーセルの姿があった。
「このような時間にすまない。マヒロ様‥少し、話ができるだろうか?」
「うん、大丈夫。ここで?」
「いや‥団欒室に来てもらえるだろうか?」
「わかった」
そう言ってアーセルとともに部屋を出ようとしたマヒロは、ジャックにそっと囁いた。
「‥ハルタカには、少し話してくるって伝えておいてくれる?変に隠さないでも大丈夫だから」
「承知致しました」
ジャックも囁き返した。そして薄手のショールをマヒロの肩にかける。
「夜はまだ少し冷えますからね」
「ありがとう」
そのまま、アーセルの後ろについて団欒室に向かった。
アツレンの屋敷には、大きな団欒室と小さな団欒室がある。今日は小さな団欒室の方に案内された。部屋に入れば
、中央の机に温かいお茶の支度ができていた。
アーセルは手ずからお茶を淹れてマヒロに供した。一人用の背もたれが高いソファに座り、マヒロはお茶を飲んだ。少し酸味があって口の中がすっきりするようなお茶だった。
「美味しい」
「よかったです」
そう言ってアーセルは笑い、自分もお茶を含んだ。
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