9 / 132
9話 試練の塔3
しおりを挟む
サンドラと名乗った赤毛の冒険者と別れた後、俺は頭を抱えていた。
現役冒険者の意識調査をしてみたのだが、どうも俺の認識とズレていたようだ。
彼女は『都市から近く』『どのレベルでもそれなりに稼げる』からこの試練の塔をリピートしていたそうだ。
俺は冒険者を都市から歩かせて強敵をぶつければ勝手に『頑張ったエクスタシー』を感じて満足すると思っていたのだが、真逆の答えに困惑していた。
(うーむ、少しマズイかも知れんぞ)
俺が直卒していた部隊は困難に打ち勝つことを喜びとし、強敵と戦うことを誉れとする荒武者ぞろいだった。
魔属領に不法侵入してくる自称勇者の冒険者たちも似たような気質だと感じていたのだが……迷宮探索者はまた別なのかも知れない。
(そうなると、立地とコンセプトはすでに間違えたのではなかろうか……)
もちろん、サンドラだけが特殊な思考だと考えることもできる。
だが、不安感はぬぐいきれない。
『エドっちって見境ないのねえー。アンタも苦労するわよ』
『違います。エドは意識調査をしただけです。ちゃんと見てたんですか?』
ヘッドセットの向こうでは2人が楽しそうに盛り上がっている。
俺は先を進むことにした。
『あのサンドラって子、2階でヘマをするレベルじゃないわよ。でもね、油断や不運が重なれば命取りになるのがダンジョン探索よね』
「そうだな。冒険者とは命がけ……それは戦ってきた俺はよく知っているが、その覚悟がない者は意外と多いのかもしれないな」
軍でも楽して強くなりたい英雄願望の持ち主も入隊する。
だが、彼らは先達の愛情により矯正され、幾度もの実戦をくぐり抜け、鍛練と勝利の喜びを知るのだ。
「低レベルの冒険者とは、新兵のようなものなのだな……リリー、帰ったら少し相談したい。今後のことについてだ」
『はい、今回の見学では私も得るものが多かったです。タックさんも交えたミーティングで情報を共有すべきだと思っていました』
おそらくリリーも冒険者の現実に触れてコンセプトとのズレに気づいている。
『アンタたち、今後について話し合うのに、もっとロマンチックな会話できないの?』
「いや、大切なことさ。困難を与えて満足感を与えるというコンセプトは修正しなくてはな」
ウェンディは『ふうん、脳筋てわけでもないのね』と嬉しげに笑う。
彼(?)は初めから気づいていたのだろう。
『アナタたちのコンセプトも悪くないわよ。でも困難の末に高い報酬で満足感をあたえるにはレベル10では低すぎる。場所も中途半端ね』
俺は遭遇したジャイアントボアという大蛇を蹴り潰しながらウェンディの言葉に耳を傾けた。
『今なら場所は無理でも修正は利くわね。それで、対策は?』
「それをリリーと話し合うのさ」
雑談しているうちにボス部屋にたどり着いた。
2階のボスはレッサードラゴン。
小ぶりなドラゴンと呼ぶべきか、デカいトカゲと呼ぶべきか微妙なラインのモンスターだ。
モンスター学上では亜竜に属し、よく飼い慣らせば騎竜にもなる。
だが、こいつはリポップモンスター、飼い慣らすどころか顔を見た途端に襲いかかってきた。
俺はレッサードラゴンが吐き出す炎のブレスを避け、顔面を蹴り飛ばす。
さすがに低レベルとはいえ、耐久力に定評のあるドラゴン系モンスターを素手で一撃とはいかない。
そのまま魔法を何発か撃ち込みトドメを刺した。
『ホントに憎たらしいくらい強いわねー、本職じゃない格闘と魔法で圧倒的ね』
「いや、レッサードラゴン以上の敵が出てくるなら素手は自信がない。3階のボスは遠慮しておこう」
高レベルの見学をしてもすぐには活かせない。
それに、ウェンディが漏らした『憎たらしいくらい』というのは本音だろうと俺は察した。
これは見学である。
お互いにムキになる必要はない。
(自分の造ったダンジョンを攻略される悔しさ、分かる気がするな)
なんだかんだ、ウェンディも負けず嫌いのようだ。
◆
3階に上がると、そこは一転して光の世界だ。
水晶のような透明の床にまばゆい照明、2階とあまりに照度が違い、目がチカチカする。
『ふふ、驚いたでしょ? ここは私の自慢なの。一筋縄ではいかないわよ』
ウェンディが自慢するのも分かる。
美しい輝きの回廊だ。
なぜかリリーが『くっ』と悔しげにうめいている。
『さ、このフロアにはダンジョントラップは無いわよ。思う存分進んで頂戴』
「ダンジョントラップ『は』ないのか。注意するとしよう」
俺はウェンディの忠告に苦笑し、回廊を進む。
すると、モンスターがひしめく大きな部屋に出た。
槍を持つトランプの兵隊、動く全身鎧、ラッパを吹くレッサーデーモン、いかにもなモンスターたちの隊列が20体以上だ。
『ここはモンスター部屋やモンスターラッシュと呼ばれる大部屋です。囲まれないように注意してください、数で攻めてきます』
「了解だ! 一気に行くぞ!」
俺が勇んでモンスター部屋に飛び込むと、なぜか踏み込んだ右足が床に沈み転倒してしまった。
脛ぐらいまでの穴が開いており、油のような液体で満たされている。
(ぐっ、コイツも……モンスターか!)
囚われた右足に焼けつくような痛みを感じた。
俺は足元に炎の魔法を叩き込み、穴から脱出する。
『透き通った水晶の床に穴を開けて無色のスライムで満たしたのよ。どう? 参考になったかしら』
「ああ、見事だ!」
囲まれないために飛び出したのだが、転倒したことで完全に出遅れた。
さすがにちょっと恥ずかしい。
しかし、モンスターは待ってはくれない。
好機と見たか、トランプの兵隊が俺に向かい槍を繰り出してきた。
俺は距離をとりながらこれをかわし、様子を見る。
ここまで凝った落とし穴を用意してあるのだ――槍に仕掛けがあっても不思議ではない。
(どうやら、モンスターの武器に特殊能力は付与されていないな。だが、問題は足元か)
下手に動くとまた落とし穴に足を取られてしまう。
俺は作戦を変更し、モンスターたちに包囲をさせることにした。
少なくともモンスターが立つ位置に落とし穴はない。
包囲の後ろからレッサーデーモンはラッパから衝撃波を放ち、動く鎧は剣を突き出して俺を牽制する。
先ほどのスライムをふくめ、連携はないが互いにカバーする距離感だ。
だが、そんなことはどうでもよい。
怒りのボルテージが俺の中で高まってくるのを感じた。
(赤っ恥をかかせやがって、ぶっとばしてやる!)
蓄積した怒りが俺の中のスイッチを切り替えた。
完全に逆恨みだが、知ったことではない。
俺はあえて衝撃波を受けながら接近し、剣を振りかぶる鎧を力任せにぶん殴った。
ガインッと衝撃音を立てながら鎧はぶっ飛び、トランプの兵隊を巻き込んで倒れる。
俺はそのまま動く鎧の剣を奪い、レッサーデーモンを頭からカチ割った。
安物の剣は一撃でへし折れ、俺は残った柄をカラリと捨てる。
「武器もなく、罠にかかり、囲まれる! ふはは、戦いとはこうでなくてはな!」
ウェンディは知恵を絞り、少ない戦力で俺に一泡ふかせてやれと狙っていたのだ。
(こんなに愉快な話があるかっ!)
俺は乱戦の中で動く鎧を殴りつけ、レッサーデーモンを引き裂き、トランプの兵隊を蹂躙した。
見つけた床のスライムも火球で炎上させる。
『今ので最後です。さすがはエドですね』
リリーの声にふと我に返る。
手の中にいる引きちぎったトランプの兵隊がラストだったようだ。
『やるわねー、完全に初見殺しの罠にかかってほぼ無傷。装備があったらソロで攻略されそうよ』
「いや、一張羅を汚してしまった……ここでギブアップさ。明日からの出勤で頭が痛いよ」
たかだかレベル15~20前後のモンスターでも工夫次第で戦える……最後にこれを知ったのはデカい。
『それじゃ、マスタールームに戻すわね』
ウェンディの言葉と共に視界が歪む。
気がつけば、俺はマスタールームに転移していた。
「おかえりなさいエドっち。なにか得るものがあったようね」
「本当に勉強になりました。ウェンディさんの教えを受けなければ分からないことばかりでしたよ」
俺が礼を述べると「ウェンディよ」と片目をつぶりながら訂正された。
「ああ、ありがとうウェンディ」
「どういたしまして。1度はダンジョンに招待してね」
俺とウェンディはガッチリと握手を交わした。
彼(?)は個性的な人物だが、経験を重ねた本物のダンジョンマスターだ。
「エド、お疲れさまでした」
リリーもヘッドセットを外しながらねぎらってくれた。
「ああ、リリーもお疲れさま。助かったよ、俺だけだと何度罠にかかったか分からないからな」
「ふふ、クリーニングでしたら公社のそばにクリーニング店がありますよ。今からだと明日の出社には間に合わないかもしれませんが」
リリーは俺の足元を見てクスリと笑う。
スライムを踏み抜いた右足は膝の辺りまでネットリとした液体で濡れていた。
「参ったな、今日は服もこんなんだし、ここまでにしよう。公社の服装規定はどうなってるんだい?」
「規約には『ふさわしいもの』という曖昧な文言のみですね。エドは渉外ではありませんし、派手な服を避けてジャケットを羽織れば十分だと思いますよ」
その十分な服が無いから困っているわけだが、あまり情けないことも言えない。
「あー、せっかくだから出社用に新調するかな。明日使いたいから吊るしになるだろうけど……どこか紳士服店はあったかな?」
「あら、なら私が使ってるアパレルのお店を紹介するわよん」
アパレルのお店とはいまいちピンと来ないが、俺は「ありがとう助かるよ」と屋号を教えてもらった。
うまく誤魔化して服屋を教えてもらえたのは大成功だ。
「それじゃ送るわよ。エドっち、リリー、またね」
ウェンディに転送してもらい、公社に戻る。
「それではリリー、お互い明日までに考えをまとめておくことにしよう」
「はい。そろそろ他で書類もできているでしょうし、私はそちらに寄ってから退社しますね」
リリーと軽く挨拶をして退社をする。
アパレルの店、クリーニング店に向かうためだ。
その後、このアパレルの店で癖の強い男性(?)店員が俺の服を見立ててくれたのだが……
オススメされたのは妙に体にピッタリとしたズボンと着丈が非常に短いジャケット、これは本当にオシャレなのだろうか?
(……略礼服をもう1着作るかな)
早く馴染みの服が返ってきてほしいものだ。
俺はクリーニング店で早めの仕上げをお願いすることにした。
現役冒険者の意識調査をしてみたのだが、どうも俺の認識とズレていたようだ。
彼女は『都市から近く』『どのレベルでもそれなりに稼げる』からこの試練の塔をリピートしていたそうだ。
俺は冒険者を都市から歩かせて強敵をぶつければ勝手に『頑張ったエクスタシー』を感じて満足すると思っていたのだが、真逆の答えに困惑していた。
(うーむ、少しマズイかも知れんぞ)
俺が直卒していた部隊は困難に打ち勝つことを喜びとし、強敵と戦うことを誉れとする荒武者ぞろいだった。
魔属領に不法侵入してくる自称勇者の冒険者たちも似たような気質だと感じていたのだが……迷宮探索者はまた別なのかも知れない。
(そうなると、立地とコンセプトはすでに間違えたのではなかろうか……)
もちろん、サンドラだけが特殊な思考だと考えることもできる。
だが、不安感はぬぐいきれない。
『エドっちって見境ないのねえー。アンタも苦労するわよ』
『違います。エドは意識調査をしただけです。ちゃんと見てたんですか?』
ヘッドセットの向こうでは2人が楽しそうに盛り上がっている。
俺は先を進むことにした。
『あのサンドラって子、2階でヘマをするレベルじゃないわよ。でもね、油断や不運が重なれば命取りになるのがダンジョン探索よね』
「そうだな。冒険者とは命がけ……それは戦ってきた俺はよく知っているが、その覚悟がない者は意外と多いのかもしれないな」
軍でも楽して強くなりたい英雄願望の持ち主も入隊する。
だが、彼らは先達の愛情により矯正され、幾度もの実戦をくぐり抜け、鍛練と勝利の喜びを知るのだ。
「低レベルの冒険者とは、新兵のようなものなのだな……リリー、帰ったら少し相談したい。今後のことについてだ」
『はい、今回の見学では私も得るものが多かったです。タックさんも交えたミーティングで情報を共有すべきだと思っていました』
おそらくリリーも冒険者の現実に触れてコンセプトとのズレに気づいている。
『アンタたち、今後について話し合うのに、もっとロマンチックな会話できないの?』
「いや、大切なことさ。困難を与えて満足感を与えるというコンセプトは修正しなくてはな」
ウェンディは『ふうん、脳筋てわけでもないのね』と嬉しげに笑う。
彼(?)は初めから気づいていたのだろう。
『アナタたちのコンセプトも悪くないわよ。でも困難の末に高い報酬で満足感をあたえるにはレベル10では低すぎる。場所も中途半端ね』
俺は遭遇したジャイアントボアという大蛇を蹴り潰しながらウェンディの言葉に耳を傾けた。
『今なら場所は無理でも修正は利くわね。それで、対策は?』
「それをリリーと話し合うのさ」
雑談しているうちにボス部屋にたどり着いた。
2階のボスはレッサードラゴン。
小ぶりなドラゴンと呼ぶべきか、デカいトカゲと呼ぶべきか微妙なラインのモンスターだ。
モンスター学上では亜竜に属し、よく飼い慣らせば騎竜にもなる。
だが、こいつはリポップモンスター、飼い慣らすどころか顔を見た途端に襲いかかってきた。
俺はレッサードラゴンが吐き出す炎のブレスを避け、顔面を蹴り飛ばす。
さすがに低レベルとはいえ、耐久力に定評のあるドラゴン系モンスターを素手で一撃とはいかない。
そのまま魔法を何発か撃ち込みトドメを刺した。
『ホントに憎たらしいくらい強いわねー、本職じゃない格闘と魔法で圧倒的ね』
「いや、レッサードラゴン以上の敵が出てくるなら素手は自信がない。3階のボスは遠慮しておこう」
高レベルの見学をしてもすぐには活かせない。
それに、ウェンディが漏らした『憎たらしいくらい』というのは本音だろうと俺は察した。
これは見学である。
お互いにムキになる必要はない。
(自分の造ったダンジョンを攻略される悔しさ、分かる気がするな)
なんだかんだ、ウェンディも負けず嫌いのようだ。
◆
3階に上がると、そこは一転して光の世界だ。
水晶のような透明の床にまばゆい照明、2階とあまりに照度が違い、目がチカチカする。
『ふふ、驚いたでしょ? ここは私の自慢なの。一筋縄ではいかないわよ』
ウェンディが自慢するのも分かる。
美しい輝きの回廊だ。
なぜかリリーが『くっ』と悔しげにうめいている。
『さ、このフロアにはダンジョントラップは無いわよ。思う存分進んで頂戴』
「ダンジョントラップ『は』ないのか。注意するとしよう」
俺はウェンディの忠告に苦笑し、回廊を進む。
すると、モンスターがひしめく大きな部屋に出た。
槍を持つトランプの兵隊、動く全身鎧、ラッパを吹くレッサーデーモン、いかにもなモンスターたちの隊列が20体以上だ。
『ここはモンスター部屋やモンスターラッシュと呼ばれる大部屋です。囲まれないように注意してください、数で攻めてきます』
「了解だ! 一気に行くぞ!」
俺が勇んでモンスター部屋に飛び込むと、なぜか踏み込んだ右足が床に沈み転倒してしまった。
脛ぐらいまでの穴が開いており、油のような液体で満たされている。
(ぐっ、コイツも……モンスターか!)
囚われた右足に焼けつくような痛みを感じた。
俺は足元に炎の魔法を叩き込み、穴から脱出する。
『透き通った水晶の床に穴を開けて無色のスライムで満たしたのよ。どう? 参考になったかしら』
「ああ、見事だ!」
囲まれないために飛び出したのだが、転倒したことで完全に出遅れた。
さすがにちょっと恥ずかしい。
しかし、モンスターは待ってはくれない。
好機と見たか、トランプの兵隊が俺に向かい槍を繰り出してきた。
俺は距離をとりながらこれをかわし、様子を見る。
ここまで凝った落とし穴を用意してあるのだ――槍に仕掛けがあっても不思議ではない。
(どうやら、モンスターの武器に特殊能力は付与されていないな。だが、問題は足元か)
下手に動くとまた落とし穴に足を取られてしまう。
俺は作戦を変更し、モンスターたちに包囲をさせることにした。
少なくともモンスターが立つ位置に落とし穴はない。
包囲の後ろからレッサーデーモンはラッパから衝撃波を放ち、動く鎧は剣を突き出して俺を牽制する。
先ほどのスライムをふくめ、連携はないが互いにカバーする距離感だ。
だが、そんなことはどうでもよい。
怒りのボルテージが俺の中で高まってくるのを感じた。
(赤っ恥をかかせやがって、ぶっとばしてやる!)
蓄積した怒りが俺の中のスイッチを切り替えた。
完全に逆恨みだが、知ったことではない。
俺はあえて衝撃波を受けながら接近し、剣を振りかぶる鎧を力任せにぶん殴った。
ガインッと衝撃音を立てながら鎧はぶっ飛び、トランプの兵隊を巻き込んで倒れる。
俺はそのまま動く鎧の剣を奪い、レッサーデーモンを頭からカチ割った。
安物の剣は一撃でへし折れ、俺は残った柄をカラリと捨てる。
「武器もなく、罠にかかり、囲まれる! ふはは、戦いとはこうでなくてはな!」
ウェンディは知恵を絞り、少ない戦力で俺に一泡ふかせてやれと狙っていたのだ。
(こんなに愉快な話があるかっ!)
俺は乱戦の中で動く鎧を殴りつけ、レッサーデーモンを引き裂き、トランプの兵隊を蹂躙した。
見つけた床のスライムも火球で炎上させる。
『今ので最後です。さすがはエドですね』
リリーの声にふと我に返る。
手の中にいる引きちぎったトランプの兵隊がラストだったようだ。
『やるわねー、完全に初見殺しの罠にかかってほぼ無傷。装備があったらソロで攻略されそうよ』
「いや、一張羅を汚してしまった……ここでギブアップさ。明日からの出勤で頭が痛いよ」
たかだかレベル15~20前後のモンスターでも工夫次第で戦える……最後にこれを知ったのはデカい。
『それじゃ、マスタールームに戻すわね』
ウェンディの言葉と共に視界が歪む。
気がつけば、俺はマスタールームに転移していた。
「おかえりなさいエドっち。なにか得るものがあったようね」
「本当に勉強になりました。ウェンディさんの教えを受けなければ分からないことばかりでしたよ」
俺が礼を述べると「ウェンディよ」と片目をつぶりながら訂正された。
「ああ、ありがとうウェンディ」
「どういたしまして。1度はダンジョンに招待してね」
俺とウェンディはガッチリと握手を交わした。
彼(?)は個性的な人物だが、経験を重ねた本物のダンジョンマスターだ。
「エド、お疲れさまでした」
リリーもヘッドセットを外しながらねぎらってくれた。
「ああ、リリーもお疲れさま。助かったよ、俺だけだと何度罠にかかったか分からないからな」
「ふふ、クリーニングでしたら公社のそばにクリーニング店がありますよ。今からだと明日の出社には間に合わないかもしれませんが」
リリーは俺の足元を見てクスリと笑う。
スライムを踏み抜いた右足は膝の辺りまでネットリとした液体で濡れていた。
「参ったな、今日は服もこんなんだし、ここまでにしよう。公社の服装規定はどうなってるんだい?」
「規約には『ふさわしいもの』という曖昧な文言のみですね。エドは渉外ではありませんし、派手な服を避けてジャケットを羽織れば十分だと思いますよ」
その十分な服が無いから困っているわけだが、あまり情けないことも言えない。
「あー、せっかくだから出社用に新調するかな。明日使いたいから吊るしになるだろうけど……どこか紳士服店はあったかな?」
「あら、なら私が使ってるアパレルのお店を紹介するわよん」
アパレルのお店とはいまいちピンと来ないが、俺は「ありがとう助かるよ」と屋号を教えてもらった。
うまく誤魔化して服屋を教えてもらえたのは大成功だ。
「それじゃ送るわよ。エドっち、リリー、またね」
ウェンディに転送してもらい、公社に戻る。
「それではリリー、お互い明日までに考えをまとめておくことにしよう」
「はい。そろそろ他で書類もできているでしょうし、私はそちらに寄ってから退社しますね」
リリーと軽く挨拶をして退社をする。
アパレルの店、クリーニング店に向かうためだ。
その後、このアパレルの店で癖の強い男性(?)店員が俺の服を見立ててくれたのだが……
オススメされたのは妙に体にピッタリとしたズボンと着丈が非常に短いジャケット、これは本当にオシャレなのだろうか?
(……略礼服をもう1着作るかな)
早く馴染みの服が返ってきてほしいものだ。
俺はクリーニング店で早めの仕上げをお願いすることにした。
0
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした
鈴木竜一
ファンタジー
健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。
しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。
魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ!
【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】
※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる