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36話 意外と体幹がいい

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 翌日、当たり前だが占有している連中がモニターに映る。
 DPで換算するとウマイが、彼らは他の冒険者を追い返しており、なんとなく気分が悪い。

 占有者は宝箱やモンスターの素材にはあまり関心がないようだ。
 腕利きが交代でパーティーを率いてソルトゴーレムを狩り、人足が運び出す。
 それだけをダラダラと繰り返している。

(あまり統制がとれていないな、このまま大人しくしているとは思えないが……)

 責任者らしき若い文官は腕利きの3人に集団の統制を任せているようで、塩の量ばかり気にしているようだ。
 案の定、男たちの規律は低い。
 ダンジョンの範囲内を出たり入ったりしているのが見て取れる。
 付近には開拓村くらいしかないので騒ぎを起こさないか心配だ。

「あの、嫌いなものいれちゃいましたか?」

 ふと、声をかけられて我に返ると、ションボリした顔のアンがいた。
 せっかく朝食を作ってくれたのに、俺がしかめ面をしていたので不安になったようだ。

 獣人は耳やシッポに感情が現れやすいので、彼女が落ち込んだのはよく分かる。

「すまん、悪かった。モニターを見て考えごとをしていた」

 俺はアンに謝り、朝食と向き合った。
 厚焼き玉子のサンドイッチ、ダイコンのサラダ、オニオンスープにオレンジジュースまでついている。

 俺は「いただきます」と手を合わせ、サンドイッチをつまんだ。
 分厚い玉子焼きがずっしりと頼もしい。

「あ、これカラシが利いててウマイな」

 甘い玉子焼きをカラシがサポートして、いい感じだ。

「良かったです。でも苦手なものがあったら言ってくださいね」

 俺が感想を伝えると、アンは少し気を取り直したようだ。

「ああ、あまり思いつかないが、出てきたらちゃんと言うよ」

 強烈な発酵食品とかでもない限り大丈夫だが、まあ種族の味覚はあるのでダメなら伝えたほうがいいだろう。
 とりあえず、今日は苦手なものは皆無だ。

 ダイコンのサラダも、ダイコン自体がほんのり甘く食べやすい。
 オニオンスープとオレンジジュースもしょっぱいのと甘いのでいい感じだ。

「オニオンスープは作り方変えたんです。お姉さまからタマネギは火を通しすぎるとイヤな臭いがでるって聞いたんです」
「へえ、そうか。リリーは詳しそうだよなあ」

 なんでもない会話であるが、アンがリリーを慕っている様子が見てとれて微笑ましい。

「リリーはアンが来るまではお弁当派だったんだよ。彼女も料理するのかねえ」
「きっと素敵なお料理をテキパキ作るんですー」

 たしかにリリーは紅茶を淹れる名人だし、料理も上手そうだ。
 味覚が優れているのだろう。

 アンが淹れてくれたコーヒーを飲みながらボンヤリしていると、モニターに異変があった。
 開拓村の村人らしき数人が陣幕に食事や水を運んでいたようだが、トラブルのようだ。

 陣幕から少し離れたところで開拓村の女性に絡んでいる冒険者がいる。
 3人がかりで無理やり木陰に引きずり込んでいるところを見るに、同意の上ではないだろう。
 周囲も注意をするわけでもなくはやし立てたりニヤニヤと笑うのみだ。

「アン、すぐにレオを起こしてくれ」

 俺はアンにモニターをなるべく見せないようにしながら席を立ち、腰に剣帯を佩く。
 するとすぐにレオがアンに抱かれてやってきた。
 このネコ型獣人、部屋にいるのに歩くのも億劫おっくうらしい。

「レオ、すまんが急ぎでゴーレムとガーゴイルのストックを合わせて10ばかし洞穴の入り口付近に送ってくれ。そこで騒ぎが起きている間に俺をこの地点に送ってほしい。帰還はそうだな――60秒で俺を再転移で呼び戻してほしい。このバカを懲らしめたいんだ」

 怖い思いをしている女性には悪いが、丁寧にいかないと助けた先で『魔族とつるんでる』みたいな、おかしな疑いをかけられてしまうだろう。
 秘密裏に助けてやりたい。

 レオはすぐに状況を理解し「うあおおん」と唸り声を上げた。
 どうやら怒っているようだ。

 すぐさまレオはゴーレム部屋からガーゴイルを6体ゴーレムを4体無作為に選び、入口付近に転移する。

 ゴーレムたちは『侵入者を排除せよ』の指示どおり適当に暴れはじめた。
 不意を衝かれた数人の男がガーゴイルに殴り倒され、続くゴーレムは陣幕をメチャクチャに破壊している。

 無防備だった男たちは大混乱に陥り、逃げ回るのみだ。
 腕利きらしき3人が対抗しようとしているが、いかんせん数が違うし、騒ぐ味方が邪魔でうまく動けていない。

「レオ、いまだ! 60秒で帰還だぞ!」

 俺が声をかけると、すぐにレオは転移を起動させた。
 すぐに視界が白くなり、木立ちの中に切り替わる。
 幸い転移時の魔力光も木々に遮られて目立たないはずだ。

 俺は身を低くし、剣を抜いた。
 女性にのしかかっていた男たちは騒ぎに気を取られて俺の接近に全く気がつかないようだ。

(このまま死ねるんだ、ありがたく思え!)

 俺は女性にのしかかっていた男を後ろに引き倒すと同時に喉を裂いた。
 わざわざ引き倒したのは女性に血がかからないように配慮したのだ。

 残りの2人が驚いて振り返るが、声を発する前に上顎から上を跳ね飛ばす。
 男たちの頭部は「カッ」と骨を断つ音を軽く立て、その場にコロリと転がった。

 超硬魔道合金であるオリハルコンの刃だ。
 俺が振るえば人体など容易く切断できる。

 女性は何が起きたのか理解できず、俺を見て「ヒッ」と小さく悲鳴をあげた。

 服は裂かれ、何度も顔を殴られた跡がある。
 男の俺に怯えても仕方ない。

「しっ、静かにお逃げなさい。ここは私に任せて」

 女性は目を見開き、何か言いたそうに口をモゴモゴと動かした。

「ヤツらに見つかる前にお逃げなさい。アナタはもうここに近づいてはなりません」

 俺が再度「早く、逃げられなくなります」と口にすると、ようやく女性は村の方に駆け出した。

(これでよし、後は――)

 俺は殺した男らの死因が特定できないよう、魔法で衝撃波を加え念入りにすり潰した。

 すると、ここで時間が来たのか視界が白くぼやけていく。
 どうやら時間が来たようだ。

 再び視界はマスタールームに移る。
 レオが俺をねぎらうように「うわん」と高く鳴いた。

「エドさん、ご無事で良かったです」
「ああ、嫌なものを見せたな。悪かった」

 アンは少し顔色が悪い。
 俺は抱き寄せ、軽く背中を叩いて落ち着かせることにした。

 まだまだ子供なのだ。
 モニター越しに見るショッキングな画像には耐性がついていても、婦女暴行は毛色が違う。

(決まりだな。アイツらは排除だ)

 アチラも自分勝手に占有したのだ。
 コチラも自分勝手に排除するのみである。

 なにより、俺の身内であるかわいいアンを怯えさせたのだ。
 俺にとっては十分な理由になる。

 しばらくすると、タックやリリーが出勤してきたが、アンに寄り添って慰めている俺を見てスゴいリアクションをとっていた。

 特にリリーは物理的に殴られたような勢いでのけぞっていたが……意外と体幹がいいな。



■リザルト■


冒険者レベル14(死亡)DP138
冒険者レベル10(死亡)DP98
冒険者レベル12(死亡)DP120
冒険者レベル12(死亡)DP121
人足レベル8(死亡)DP82
人足レベル8(死亡)DP81
負傷ポイント合計DP216
滞在ポイント合計DP163

合計DP1019
残りDP3925
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