【ダンジョン公社、求人のお知らせ】 勤務地、72号ダンジョン。 オープニングスタッフ募集中。 未経験OK、アットホームな職場です。

小倉ひろあき

文字の大きさ
48 / 132

46話 究極のカレーをお見せします

しおりを挟む
 奇妙な旅人が帰り、家の雰囲気が落ち着きを取り戻した。
 いつ見ても奇妙な2人づれだ。

「マルセ、エドはまた来ると言ってくれたんだ。そう気落ちするな」

 村長は義妹が少し気落ちしているのを察し、励ました。
 この義妹はあの旅人にひとかたならぬ好意を抱いているようだ。

 だが、それは無理もない。
 出会いからして悪漢から救われた劇的なものである。
 それに加えてあの男振りだ。

 旅人だとは言うものの、仕立ての良い服で身綺麗にしており旅塵りょじんというものを感じさせない。
 加えて長剣を佩き、従者を連れる身分なのだ。
 その堂々とした態度や体格の良さから騎士ではないかと村長は感じていた。

 さすがに独身とは考えづらい年ではあるが……

「そうだね、もう会えないと思ってたのに会えたんだもん。喜ばなきゃね」
「そうよ。次は手料理でもてなしましょ」

 明らかに強がりだが、とりあえず義妹に笑顔が戻ったことに村長夫妻は胸をなでおろした。

(これでよし。あとは女同士、女房に任せよう)

 ダンジョンからの水量が増し、開墾できる範囲は広がった。
 今は仕事はいくらでもある。
 村長は野良仕事に戻ることにした。

「村長か、今訪ねようと思ってたんだ」

 工事現場の脇を通ると声をかけてきた者がいる。
 街のギルドから工事の責任者としてやってきている男だ。
 この厳つい男は村に冒険者ギルドの支部ができれば支部長として就任する予定らしい。

「やあ、支部長。何か問題か?」
「まだ支部長じゃねえよ。さっき村長の家を見ねえ顔が訪ねただろう? ありゃ誰だね」

 意外なことに支部長(あくまで予定だが)の要件はエドであったらしい。
 その真剣な表情から世間話ではなさそうだ。

「む、誰かと言われると難しいが……ちょっと前にふらっと現れた旅人だ。品もいいし、ちょっと助けてもらってな。恩がある」

 村長も2度ほど会ったのみだ。
 詳しい事情など何も知らない。

 だが、支部長はアテが外れたのか「それだけか」と不満げだ。

「そうだな、あとは……何かを探しているようだな。いつも若い獣人の従者をつれている。直接見たわけではないが、腕っぷしはかなり強いそうだ」
「探し物……? いや、人かもしれんな」

 支部長は少し考え込み「腕っぷしはそうだろうな」と呟いた。

「あれは少なくとも騎士だ。だが、目立つ獣人をつれて歩いてるからには密偵のたぐいじゃねえだろう」
「服も上等、見事な剣を佩いている。『少なくとも』騎士ってやつだな」

 村長がおどけると、支部長は大真面目に「その通りだ」と頷いた。

「ま、下手に藪を突くより仲良くするのが無難だろ。上手くすればダンジョンの暴走スタンピードやらで助太刀してくれるかもしれないぜ」

 この支部長の言葉はおそらく正しいと村長は感じた。

 エドは旅先で見ず知らずの娘を助けるため多数と戦うような義侠心の持ち主なのだ。
 まるでおとぎ話に出てくる遍歴の騎士ではないか。

(……俺も他人から聞いたら信じないだろう。ああした男はいるのだな)

 あの獣人の従者も、どこかで助けて引き取ったのかもしれない。
 村長の想像はどんどん膨らんでいく。

「防衛と言えば兵舎と塩倉ができれば街から衛兵が来るだろう。村の規模から考えれば、おそらく5人前後だろうな」

 村長は支部長の言葉で現実に引き戻された。

「兵舎は門の脇に――」
「そうだな。その辺は――」

 いつの間にか話題はエドから離れ、工事の打ち合わせとなる。
 今、この村は急激に大きくなりつつあり、村長の仕事は山積していたのだ。



「おっ、帰ってきたっすね!」

 俺とアンが帰ダンジョン(帰社?)すると、威勢よくタックが出迎えてくれた。
 ダンジョン内にカレーの香りが充満している。

「おっ、カレーか。コイツは間違いがないな」

 アンも「いい匂いですー」と喜んでいる。
 カレーが嫌いなやつは今までの人生で1人しかみたことがない……まあ、そいつも古くなったカレーに当たったとかだから、厳密に言えばカレーが嫌いなわけではあるまい。

「ははっ、みんな大好きカレーライスっす! 肉じゃがと同じ材料ならカレーのほうがおいしいっす! 肉じゃがで女子力アピールはなんか違うっす!」
「たしかになあ。俺も肉じゃがが料理上手なイメージには疑問だったんだよ。あんなもん俺でも作れるしな」

 カレーが作れる者ならば肉じゃがは作れる。
 調味料のカレー粉がショウユとミリンになるかの違いだ。

「え、エドも料理をするんですか……」
「いや、料理ってほどじゃないが身の回りのことくらいはな」

 なぜかリリーの顔色が悪い。
 少し心配である。

「すぐに出せるっすよ! テーブルで待ってて欲しいっす!」

 タックはそのままキッチンに向かい、俺たちは大人しく待つことにした。
 アンはそわそわしているが手伝いたいのかもしれない。

「料理か、家じゃサッパリやらねえのになあ。どうなることやら」
「ははっ、年頃の娘さんだからな。家じゃ色々あるんだろうさ」

 なんだかんだでこのダンジョンは機能的なエラーが起きたことはない。
 それだけでもタックの優秀さは証明されているのだが、父親から見ればまた違うのだろう。

「へいお待ちっ! なんの変哲もないカレーっす!」

 タックがドンと並べたカレーはたしかになんの変哲もない『おうちカレー』って感じのラッキョが添えられたカレーライスだ。
 水が入ったガラスのコップにスプーンを浸しているのはタックのこだわりだろうか。

「それじゃ、いただきます」
「めしあがれっす!」

 タックが席に着いたところで皆で「いただきます」と食事を始める。

「どうっすか? アタシは福神漬よりラッキョ派っす!」
「うん、ウマいよ。なんと言うかな……普通にウマい」

 そりゃそうである。
 市販のカレールウを使ってマズいカレーを作るのは難しい。

 特徴のない中辛は誰もが好む味だ。

「うん、こういうのでいいんだよな。家で食べるカレーって感じだ」

 ごろごろとした大きな具が嬉しい家庭の味だ。
 なんだか酷くノスタルジックな気分になってくる。

「俺の母親のカレーも似たような感じだったな。ただ、肉はブタ肉だった気がする」
「私の家はトリ肉でした。このカレー、とってもおいしいです」

 隣のアンもニコニコとしながら食べている。
 やはりカレーは老若男女種族を越えて、誰もが好きな魔王領の国民食だ。
 女子力アピール(?)にこのチョイスをしたタックは策士である。

 ゴルンなどは無言で3杯もおかわりをしていた。
 娘の手料理が嬉しくないわけがない。

「おいしかった。ごちそうさま」
「おそまつさまっす!」

 皆の高評価にタックも上機嫌である。

 食後はアンがコーヒーを淹れてくれた。
 なんでカレーを食べるとコーヒーが飲みたくなるのかは謎だ。

「カレースタンドって、なぜかコーヒーあるよな」
「私はカレーの隠し味にちょっとコーヒー入れるんです。よく合うんです」

 皆でぼんやりとカレー談義をしていると、カチャリと磁器が当たる高い音がした。
 見ればリリーのようだが、リリーが大きな音を立てるなど珍しい。

「リリー、どうしたんだ? さっきから様子が変だが」
「……たしかに変なのかもしれませんね」

 リリーは「くっ」と小さくうめいた。
 その表情は辛そうを通り越して悲痛なものになっている。

「1週間後の昼食を私に作らせてください。そこで究極のカレーをお見せします」

 リリーが不思議な宣言をし、タックとアンが「究極の!?」「カレー!?」と息を合わせて応えた。
 この3人仲いいな。

「あ、ああ。リリーがいいならいいんじゃないかな? よく分からんが」
「ふっ、面白いっす! 究極のカレーとやら、見せてもらうっす!」

 こうして、ダンジョンでカレー対決が始まった。

 本当によく分からないので、そっとしておこう。
 若者の間で流行ってる何かだろう。

 ただ、娘の手料理を食べたゴルンは感無量だったようで「今晩飲みに行かねえか」と誘われてしまった。
 もちろんオッケーである。

 次はレオにお土産も忘れないようにしよう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...