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51話 死者の国3

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 3層目に下りると広い空間が視界に入る。
 まるでオープンタイプのダンジョンのようだ。

 少し先には集落のように小屋が並び、さらに道が続いている。
 天井も高く、丸い照明がまるで月明かりのようだ。

「これは一体……床は土か? 木立まである」

 とまどう俺に、エルフ社長が「1枚マップですね」と教えてくれた。

「階層を1つの大部屋にしたタイプです。消費DPも多いですから、珍しいかもしれませんね」
「なるほど、これは確かに『死者の国』だ」

 1枚マップのダンジョンなど考えもつかなかった。
 今までの単調なダンジョンからガラリと変わった趣向、これには脱帽するしかない。

(さすがは優良ダンジョンだ……ウチの方が優れてるなどと思い上がりもはなはだしい)

 俺は自分の勘違いを恥じた。
 やはり俺は新人なのだ……他のダンジョンでは学ぶことばかりだ。

「さて、我々は先を進みます。道沿いに進み、集落を越えて館に行けばボスがいます」

 この広さ、こんなダンジョンがあるとは想像もできなかった。
 一体どんな仕掛けがあるのだろうか。

 俺はエルフ社長に続いて道を進む。
 2階層と同じアニマルゾンビだ……ダンジョンの凝り方に比してモンスターは素っ気ない。
 あまりモンスターにこだわりがないダンジョンマスターなのだろうか。

「少しずつモンスターのレベルは上がっていきますよ。さすがに1階のモンスターはでてきませんから」
「DPの消費を抑えられますし、使いまわしの利点も分かるのですが……攻略側からすれば変化をあまり感じられなくなりますね」

 何ごとも一長一短というやつだろう。

 俺が警棒で戦い、社長がロープダートで取りこぼしを片付ける。
 アニマルゾンビくらいならば大した障害でもない。

 俺と社長の息も合ってきており、なんの問題もなく集落までたどり着いた。

「確かに村だ……廃村ですね」

 スペースの問題か、家はかなり小さい小屋のようなものだ。
 だが、それが数十ほども軒を並べる様子は驚くより他はない。
 小屋も、柵もボロボロなのは演出だろうか。
 立ち木まで枯れているようだ。

 足を踏み入れると、物陰から鎧を着込んだスケルトンが現れた。
 斧と盾を持ついっぱしの戦士のようだ。

「スケルトンウォリアーですね。鎧を着こんでいる相手には私では決定力に欠けます。ウォリアーはホモグラフトさんに任せ、私はグラッジやマミーを減らしましょう」

 このエルフ社長の言葉がキッカケになったわけでもないだろうが、続々とグラッジやマミーが現れた。
 住民を模しているならば少しばかり悪趣味だ。

「先の階のボスが出てくるとは、使いまわしが過ぎるんじゃないか!?」

 俺は八つ当たり気味にスケルトンウォリアーの盾を左手の警棒で突き、体勢を崩したところに右手で長剣を振るいトドメを刺した。

(む? 今のは……ちょっといいんじゃないか?)

 周囲を確認すると、まだスケルトンウォリアーはいるようだ。
 そいつは俺を狙い斧を振るうが、イマイチ鋭さがない。

(悪いが練習に付き合ってもらうぞ!)

 俺は斧を警棒で受け流し、足を長剣で狙う。
 見事に剣は足を砕き、そのまま警棒をスケルトンの頭に落とす。

(……やはり、これはいける!)

 最近は左右で自在に長剣を振るうことが難しくなってきていたが、左手が短い警棒ならば問題ないようだ。

 つい面白くなり、次々にモンスターを求め、二刀流を試す。
 いつの間にか周囲のモンスターを全滅させたようだ。
 もう少し練習したかったのだが仕方がない。

「争いの気配がありますね。この先でも冒険者が争っているようですよ」

 エルフ社長は冷静に状況を確認し、争いの気配を感じたようだ。
 モンスターの数が少なかったのは先の冒険者が始末したからだろうか。

「様子が見える位置まで行きましょうか。しかし、加勢するかは別の話ですよ」
「了解しました。こちらからの手出しは控えます」

 慎重に集落の中を進むと、出口の辺りでモンスターが小屋を包囲しているのが確認できた。
 どうやら冒険者パーティーが籠城しているようだ。

「なるほど、出入り口を盾役タンクで防いだか。戦列を再編するまでの時間稼ぎとしては悪くない」
「うーん、これは悪手かもしれませんねえ。助けがなければいずれ冒険者は力尽きます。比べてモンスターはリポップしてしまうわけですよ」

 俺と社長は好き勝手言いながら観戦していたが、どうも冒険者がジリ貧である。
 中から援護のひとつもないところを見るに、戦力の立て直しではなく避難で小屋に立て籠もったのだろう。

「見捨てるのも後生ごしょうが悪いですし、加勢しときますか?」

 俺が冒険者の救出を提案すると、社長は「ならばそうしますか」とアッサリうなずいた。
 あまりこだわりはないようだ。

 俺は「それではいきます」と両手に武器を構えて突入した。
 数は多いが、モンスター自体は大したことはない。

 グラッジの攻撃をかわし、隣のマミーの顔面を長剣で切り裂く。
 するとエルフ社長のロープダートがグラッジを粉砕した。
 回復職ヒーラーの社長はゴーストやゾンビにめっぽう強い。

 俺は左右の武器を振るい、数を減らしていく。
 エルフ社長は俺の取りこぼしを狙い確実にアシストしてくれる。

「助けが来たぞ! 凄腕だ!」
「俺も出るぞ! 守りは頼む!」

 もう決着がつこうかというころ、ようやく小屋から冒険者が飛び出して参戦した。
 申し訳ていどの共闘だが、彼らにも矜持プライドがあるのだろう。
 すぐにモンスターは全滅した。

「すまない、助かった!」

 参戦してきた冒険者が駆け寄り頭を下げてきた。
 だが、別にこちらも恩に着せるつもりもない。

「いえ、たまたまですよ。それではお気をつけて」

 俺たちが先を進もうとすると、冒険者に「待ってくれ!」と呼び止められた。

「すまん、恥を重ねるようだが回復薬ポーションがあれば譲ってもらえないか? もちろん礼はする、ケガ人がいるんだ!」

 この申し出に俺とエルフ社長は顔を見合わせてしまった。

(応急手当のキットに回復薬くらいあるが……)

 俺が腰につけたポーチを開ける前に社長が俺を制して前に出た。
 すこし困り顔である。

「すいませんが、加勢に入ったのはこちらが勝手にやったことです。しかし、そちらの申し出で助けると謝礼をいただかねばなりません」
「もちろんだ、頼む、こっちだ!」

 冒険者にいざなわれ、小屋に入ると血まみれの女がうめき声をあげていた。
 腹を裂かれており、このままでは保たないだろう。

「状況は分かりました。私は回復魔法が使えますから治療しましょう。前金で800ダカットです」

 800ダカットとはだいたい魔貨にして100,000弱ほどか。
 相場は分からないが、ダンジョン3層で緊急の依頼だ。
 こちらもダンジョンの攻略中、貴重な回復魔法の回数を減らすと考えれば決して暴利ではないだろう……むしろ良心的かもしれない。

 しかし、この言葉に冒険者たちは「うっ」と言葉を詰まらせた。
 このパーティーは参戦した冒険者、盾役、ケガ人の3人だが、現金の持ち合わせがないのかもしれない。

「少し待ってくれ、金を数えるから先に治療してくれないか!?」
「それはお互いのためにやめときましょう。現金がなければ……ふむ、その女性の杖をいただければ半額にしますよ」

 エルフ社長が指で示すのは、ケガ人が抱えるようにしている杖だ。
 杖の先には親指の爪ほどの紅石がついている。
 高価なモノではないだろうが、恐らくは魔法の触媒だろう。

 冒険者が「助かる」と頷き、ケガ人から杖を取り上げた。
 ケガ人はやや抵抗したようだが、盾役が何やら小声でなだめている。

「頼む、杖と400だ。金が少し細かいが確認してくれ」
「――はい、ちゃんと受け取りました。傷を見せてください、少し服を破りますよ」

 回復魔法をかける時に服を破るのはおかしなことではない。
 患部に異物が付着していては傷が塞がる瞬間に巻き込んでしまうかもしれないからだ。

「まず傷口を浄め、回復です。いきますよ」

 エルフ社長が傷口に浄化ピュリファイをかけ、続けて治癒ヒールを重ねた。
 ケガ人は傷口が塞がる痛みでうめく――そう、治癒はわりと痛いのだ。

「これでよし。流れた血は戻りませんから本来なら休息が必要ですが、モンスターが集まる前に引き返すことをオススメしますよ」
「助かった。浄化までかけてくれたとは恩に着る」

 社長は冒険者の言葉に「いやいや」と首をふる。

「報酬をいただきましたから恩は感じなくとも結構。それでは我々は先を急ぐので失礼しますよ」

 俺はエルフ社長に促され、足早にその場をたち去った。
 後の判断は彼ら自身に任せれば良いだろう。

「こんなとき、ホモグラフトさんなら無償で助けるのは容易でしょう。ですがそれでは悪目立ちしてしまいます。安くても良いので報酬はもらうようにしたほうが無難でしょう」
「なるほど、参考にします」

 その後、戦闘になるたびにエルフ社長は杖を地に置いて戦っていた。
 明らかに持て余しているようだが、捨てたりしないのは何かこだわりがあるのだろう。

 その後は舘の前でゾンビキメラが2体で門番をしていたり、舘の中ではボスのナイトストーカーがいたが、特に見せ場もなくアッサリと撃破した。
 ちなみにナイトストーカーはレベル20の下級バンパイアで姿を消すのが得意らしい。
 らしい、というのは姿を消す前に撃破したので詳細が分からないのだ。

「なんというか……弱かったですね」
「仕方ありません。ナイトストーカーは姿を消し魔法で攻めるような搦手からめてが得意です。ホモグラフトさんにいきなり首をはねられてはどうしようもありませんよ」

 なるほど、3階層のボスは俺との噛み合わせが最悪だったようだ。

「さあ、階段を下りましょう」

 俺はエルフ社長に続き階段を下りる。
 最後のボスは拍子抜けしたが1枚マップはスゴかった。
 DPの関係で真似をするのは難しそうだがウチのダンジョンでも活かしたいところだ。
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