54 / 132
52話 死者の国4
しおりを挟む
ナイトストーカーを倒したのち、館の階段を下りる。
4階層は人工的な石造りの回廊のようだ。
手が込んでいた3階層とは違い、1階層や2階層のように素っ気ない印象である。
「面白いでしょう? 全体としてのテーマって言うんですかね。このダンジョンにはそんな意図を感じるんです」
エルフ社長が言うには、初めの洞穴を旅した死者は3階層の『死者の国』へたどり着く。
そして館へ招かれ、さらに館の地下へといざなわれる。
そうしたストーリー性があるのだと言うのだ。
「なるほど、ひとつひとつの階層ではなく、全体としてのイメージですか」
「私が勝手に感じているだけですけどね。ダンジョンは色々ありますよ。そんなこだわりを感じるのが楽しいんですよ」
エルフ社長は「ひとつとして同じダンジョンはありませんから」と愛おしげにダンジョンの壁面をなでた。
(なんというか……ダンジョンそのものが好きなんだろうな、この人は)
ずいぶんと多くのダンジョンを見ているようだし、その関係でレベルが上がったのだろうか。
しばらく進むと、少し大きめの部屋で冒険者たちが休んでいる。
回復の泉のようだ。
「さて、ここの回復の泉は中グレードですね。魔力も回復しますから一服していきましょう」
エルフ社長は泉の水をすくい、噛むようにゆっくりと飲み下した。
考えてみれば社長は何度も魔法を使っている。
ここで一息いれるのは悪くない。
「20分後に出発しましょうか。私は少し休みます。さすがにくたびれました」
言うが早いか、社長は腰の荷物を枕にして寝転ぶと、小さくイビキをかきはじめた。
時計を確認するとダンジョンに進入してより3時間も経過している。
休息は必要だろう。
俺も回復の泉で水筒を満たし、喉を潤した。
泉の水は、この場から離れると回復の効果は無くなるが飲料水にはなる。
俺は社長のそばに腰を下ろし、携帯食料をかじった。
これは米の粉に栄養や塩分を加えて成形したカロリーバーである。
あまりウマいものでもないが、行軍中の補給には便利である。
ほどなくするとエルフ社長がむくりと起き、首をゴキゴキと鳴らした。
ちょうど10分、計ったように正確な睡眠だ。
「やあ、カロリーバーですか。それもいいですけどね、これどうですか?」
「ヨーカンですね。ダンジョンで甘いものが食べられるとは思いませんでした」
社長はヨーカンを小さく切り分け、俺に一口くれた。
強烈な甘みとアズキの優しい味が疲れを癒やしてくれるようだ。
「安物の甘ったるいヨーカンには渋いお茶です」
「あっ、どうもすいません」
なんと保温水筒の中身は熱い緑茶である。
ダンジョンでも社長の食に対するこだわりは尽きぬものらしい。
「さて、20分ですね。行きましょうか」
「了解です。いつでもいけます」
もう社長には疲れの色は全く見えない。
ベテランは休み方もベテランだということだろう。
「このダンジョンは全6層ですが、マスタールー厶は次の5層になります。経路は頭に入ってますから寄り道せずに行きましょう――あ、そこ落とし穴です」
すっかり回復したエルフ社長は足取りも軽く先に進む。
「スケルトンウォリアーと、あちらはスケルトン……なんでしょうかね?」
ダンジョンの雰囲気は変わってもモンスターは使いまわしらしい。
スケルトンウォリアーのレベルは19、新顔の鎧を着込んで両手剣を構えたスケルトンソードマン? は少なくともそれより上だろう。
エルフ社長のロープダートは打撃力には欠けるので鎧を着込んだ彼らと相性は良くない。
ここは俺が前に出た。警棒を使った二刀流も完成させたいし都合がいい。
ソードマンの打ち込みは意外なほど鋭いが太刀筋が素直だ。
踏み込みつつ右の長剣でいなして、左の警棒を突き入れる。
警棒は吸い込まれるようにソードマンの顔面を粉砕した。
(よし、長剣で守り、警棒で攻める形も問題はない)
ウォリアーは片手で斧と盾を構えているが、ソードマンに比べれば斧を力任せに振り回すのみだ。
斧を握る拳を狙い警棒を叩きつけ、そのまま肩から体当たりを食らわせた。
ウォリアーは賑やかな音を立てて転倒し、俺はそのままウォリアーの顔面を踏み砕く。
「おみごと。左手で警棒を使う訓練ですかな?」
「そうです。最近は左右で長剣は体力的にキツくて……ラクをするために苦労して工夫している最中です」
エルフ社長も「それは面白い」と笑っている。
「ラクをするために苦労を重ねる。この矛盾は人生の常です」
「はは、そんな大した話ではありません」
スケルトンソードマン以外にも、4階層の新顔としてはベナンガランという飛び回る女の生首が現れた。
内臓がぶら下がっており、かなりグロく臭いがキツい。
コイツは魔法を使うのだが、むき出しの内臓という分かりやすい弱点がある。
魔法を使う前にエルフ社長のロープダートの的にされていた。
4階層の攻略は順調に進み、ほどなくボス部屋に至る。
「ボリュームゾーンを狙ってるという話ですが、階層が変わっても難度が上がった感じがしませんね。手応えの変化があまりありません」
「確かにそうですな。全体としてのイメージが優先で、細部のバランスや作り込みには手間をかけていない印象です。3階層も農村をイメージしてるのに耕作地はありませんでしたし、3階のボスより2階のボスのほうが手強い印象ですからねえ」
社長はさすが、細かいとこまでよく見ている。
俺がぼんやりイメージしていることを口で説明してくれたのだ。
「さて、4階のボスですが、見た感じ下級のリッチですね。恐らくは攻撃魔法や死霊術を駆使してくるはずですよ」
リッチとは死霊術の使い手が自らにその魔法を使い、不死の肉体を得た姿だとされる。
見た目はフードつきのマントを巻きつけたミイラだ。
「それでは、先手必勝でいきます」
部屋に入ると、リッチがこちらに反応した。
なにやら魔力を練りはじめたが、遅い。
俺がそのまま飛びかかろうとした瞬間、俺は何かに足を捕まれバランスを崩した。
見れば何もなかった床にスケルトンの群れが這い回っており、俺の足を掴んだのだ。
なんらかの召喚魔法だろう。
そして、俺がスケルトンに気を取られた瞬間、リッチから電撃の魔法が放たれた。
さすがにこれはかわせない。
「ぐおおっ! やりやがったな!」
さすがに魔法を食らえば痛い。
だが、ここでエルフ社長のロープダートが唸りを上げ、スケルトンたちを破壊した。
「ザコはコチラで!」
「助かります!」
スケルトンは社長に任せ、俺はリッチを狙う。
再度、リッチから電撃が飛んだ。
だが、俺は魔法を食らいながら前進し、長剣でリッチを肩から深々と切り裂いた。
「これで4階層攻略か……」
少し痛い思いもしたが、問題なくクリアだ。
やはり経路を知る社長のおかげでスムーズだ。
「宝箱がありますね。最後の階層ボスですし、開けてみますか?」
「よろしくお願いします。実は気になっていたんですよ」
エルフ社長は「久しぶりの罠解除ですな」とニヤリと笑い、宝箱の罠解除に取り掛かった。
見守るだけの俺も一種独特の緊張と高揚を感じる……これが宝箱の魅力だろうか。
カチリと音が鳴り、宝箱の蓋が開く。
なんと、そこには『時間をおけば水の湧き出る水筒(小)』があった。
これは時間経過で水筒の中に水が溜まるだけの魔道具である。
だが、グレードが低いため1日で小さな水筒が満ちる程度の水量しかない。
ハッキリ言って、俺の感覚ではハズレだ。
一応魔道具ではあるが……特に珍しいものとも便利なものとも言い難い。
「水の出る水筒か……水量も少ないし、キャンプや料理に使うのも難しいですね」
「まあ、魔道具はそれだけで喜ばれるはずですよ。これにて4階層も終わりです」
ちょっとガッカリした様子のエルフ社長に促され階段をおりる。
次はいよいよ5階層。
マスタールームのある階層だ。
4階層は人工的な石造りの回廊のようだ。
手が込んでいた3階層とは違い、1階層や2階層のように素っ気ない印象である。
「面白いでしょう? 全体としてのテーマって言うんですかね。このダンジョンにはそんな意図を感じるんです」
エルフ社長が言うには、初めの洞穴を旅した死者は3階層の『死者の国』へたどり着く。
そして館へ招かれ、さらに館の地下へといざなわれる。
そうしたストーリー性があるのだと言うのだ。
「なるほど、ひとつひとつの階層ではなく、全体としてのイメージですか」
「私が勝手に感じているだけですけどね。ダンジョンは色々ありますよ。そんなこだわりを感じるのが楽しいんですよ」
エルフ社長は「ひとつとして同じダンジョンはありませんから」と愛おしげにダンジョンの壁面をなでた。
(なんというか……ダンジョンそのものが好きなんだろうな、この人は)
ずいぶんと多くのダンジョンを見ているようだし、その関係でレベルが上がったのだろうか。
しばらく進むと、少し大きめの部屋で冒険者たちが休んでいる。
回復の泉のようだ。
「さて、ここの回復の泉は中グレードですね。魔力も回復しますから一服していきましょう」
エルフ社長は泉の水をすくい、噛むようにゆっくりと飲み下した。
考えてみれば社長は何度も魔法を使っている。
ここで一息いれるのは悪くない。
「20分後に出発しましょうか。私は少し休みます。さすがにくたびれました」
言うが早いか、社長は腰の荷物を枕にして寝転ぶと、小さくイビキをかきはじめた。
時計を確認するとダンジョンに進入してより3時間も経過している。
休息は必要だろう。
俺も回復の泉で水筒を満たし、喉を潤した。
泉の水は、この場から離れると回復の効果は無くなるが飲料水にはなる。
俺は社長のそばに腰を下ろし、携帯食料をかじった。
これは米の粉に栄養や塩分を加えて成形したカロリーバーである。
あまりウマいものでもないが、行軍中の補給には便利である。
ほどなくするとエルフ社長がむくりと起き、首をゴキゴキと鳴らした。
ちょうど10分、計ったように正確な睡眠だ。
「やあ、カロリーバーですか。それもいいですけどね、これどうですか?」
「ヨーカンですね。ダンジョンで甘いものが食べられるとは思いませんでした」
社長はヨーカンを小さく切り分け、俺に一口くれた。
強烈な甘みとアズキの優しい味が疲れを癒やしてくれるようだ。
「安物の甘ったるいヨーカンには渋いお茶です」
「あっ、どうもすいません」
なんと保温水筒の中身は熱い緑茶である。
ダンジョンでも社長の食に対するこだわりは尽きぬものらしい。
「さて、20分ですね。行きましょうか」
「了解です。いつでもいけます」
もう社長には疲れの色は全く見えない。
ベテランは休み方もベテランだということだろう。
「このダンジョンは全6層ですが、マスタールー厶は次の5層になります。経路は頭に入ってますから寄り道せずに行きましょう――あ、そこ落とし穴です」
すっかり回復したエルフ社長は足取りも軽く先に進む。
「スケルトンウォリアーと、あちらはスケルトン……なんでしょうかね?」
ダンジョンの雰囲気は変わってもモンスターは使いまわしらしい。
スケルトンウォリアーのレベルは19、新顔の鎧を着込んで両手剣を構えたスケルトンソードマン? は少なくともそれより上だろう。
エルフ社長のロープダートは打撃力には欠けるので鎧を着込んだ彼らと相性は良くない。
ここは俺が前に出た。警棒を使った二刀流も完成させたいし都合がいい。
ソードマンの打ち込みは意外なほど鋭いが太刀筋が素直だ。
踏み込みつつ右の長剣でいなして、左の警棒を突き入れる。
警棒は吸い込まれるようにソードマンの顔面を粉砕した。
(よし、長剣で守り、警棒で攻める形も問題はない)
ウォリアーは片手で斧と盾を構えているが、ソードマンに比べれば斧を力任せに振り回すのみだ。
斧を握る拳を狙い警棒を叩きつけ、そのまま肩から体当たりを食らわせた。
ウォリアーは賑やかな音を立てて転倒し、俺はそのままウォリアーの顔面を踏み砕く。
「おみごと。左手で警棒を使う訓練ですかな?」
「そうです。最近は左右で長剣は体力的にキツくて……ラクをするために苦労して工夫している最中です」
エルフ社長も「それは面白い」と笑っている。
「ラクをするために苦労を重ねる。この矛盾は人生の常です」
「はは、そんな大した話ではありません」
スケルトンソードマン以外にも、4階層の新顔としてはベナンガランという飛び回る女の生首が現れた。
内臓がぶら下がっており、かなりグロく臭いがキツい。
コイツは魔法を使うのだが、むき出しの内臓という分かりやすい弱点がある。
魔法を使う前にエルフ社長のロープダートの的にされていた。
4階層の攻略は順調に進み、ほどなくボス部屋に至る。
「ボリュームゾーンを狙ってるという話ですが、階層が変わっても難度が上がった感じがしませんね。手応えの変化があまりありません」
「確かにそうですな。全体としてのイメージが優先で、細部のバランスや作り込みには手間をかけていない印象です。3階層も農村をイメージしてるのに耕作地はありませんでしたし、3階のボスより2階のボスのほうが手強い印象ですからねえ」
社長はさすが、細かいとこまでよく見ている。
俺がぼんやりイメージしていることを口で説明してくれたのだ。
「さて、4階のボスですが、見た感じ下級のリッチですね。恐らくは攻撃魔法や死霊術を駆使してくるはずですよ」
リッチとは死霊術の使い手が自らにその魔法を使い、不死の肉体を得た姿だとされる。
見た目はフードつきのマントを巻きつけたミイラだ。
「それでは、先手必勝でいきます」
部屋に入ると、リッチがこちらに反応した。
なにやら魔力を練りはじめたが、遅い。
俺がそのまま飛びかかろうとした瞬間、俺は何かに足を捕まれバランスを崩した。
見れば何もなかった床にスケルトンの群れが這い回っており、俺の足を掴んだのだ。
なんらかの召喚魔法だろう。
そして、俺がスケルトンに気を取られた瞬間、リッチから電撃の魔法が放たれた。
さすがにこれはかわせない。
「ぐおおっ! やりやがったな!」
さすがに魔法を食らえば痛い。
だが、ここでエルフ社長のロープダートが唸りを上げ、スケルトンたちを破壊した。
「ザコはコチラで!」
「助かります!」
スケルトンは社長に任せ、俺はリッチを狙う。
再度、リッチから電撃が飛んだ。
だが、俺は魔法を食らいながら前進し、長剣でリッチを肩から深々と切り裂いた。
「これで4階層攻略か……」
少し痛い思いもしたが、問題なくクリアだ。
やはり経路を知る社長のおかげでスムーズだ。
「宝箱がありますね。最後の階層ボスですし、開けてみますか?」
「よろしくお願いします。実は気になっていたんですよ」
エルフ社長は「久しぶりの罠解除ですな」とニヤリと笑い、宝箱の罠解除に取り掛かった。
見守るだけの俺も一種独特の緊張と高揚を感じる……これが宝箱の魅力だろうか。
カチリと音が鳴り、宝箱の蓋が開く。
なんと、そこには『時間をおけば水の湧き出る水筒(小)』があった。
これは時間経過で水筒の中に水が溜まるだけの魔道具である。
だが、グレードが低いため1日で小さな水筒が満ちる程度の水量しかない。
ハッキリ言って、俺の感覚ではハズレだ。
一応魔道具ではあるが……特に珍しいものとも便利なものとも言い難い。
「水の出る水筒か……水量も少ないし、キャンプや料理に使うのも難しいですね」
「まあ、魔道具はそれだけで喜ばれるはずですよ。これにて4階層も終わりです」
ちょっとガッカリした様子のエルフ社長に促され階段をおりる。
次はいよいよ5階層。
マスタールームのある階層だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
166
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる