【ダンジョン公社、求人のお知らせ】 勤務地、72号ダンジョン。 オープニングスタッフ募集中。 未経験OK、アットホームな職場です。

小倉ひろあき

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75話 こんな展開があるなんて

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 数日後、俺は内務卿に呼び出されていた。
 あまりおもしろい内容の呼び出しではない。

 査問である。

 いま、俺の前には内務卿をはじめ、偉いさんがズラリとならんでいた。
 俺にかけられた容疑は……まあ、色々あるが、大まかに言えば『魔王様に手を出したのか』である。

「ホモグラフト卿、ここに書いてあるのは事実かね?」
「はい、いいえ内務卿。記事の内容には誤りがあります」

 内務卿がバサッと乱暴に雑誌を投げ出した。
 その雑誌は『週刊文秋』といい、いわゆるゴシップ誌だ。

「どこが違うのか、偽りなく答えることはできるかね?」

 内務卿の脇に座る老人が俺に訊ねた。
 何か報道や式典などで見た顔だが、イマイチ誰だったか思い出せない。

「お答えします。私と魔王陛下が逢引をしていたとありますが、これは明確な誤りです。魔王陛下は軍事上の問題に際し、指揮系統から離れている私にプライベートを装って御下問なされたのです」

 特に問題があるわけではない。
 正直に答える分にはウソ発見器は味方である。
 この答弁は記録されるため改ざんされることもない。

「なるほど、御下問の内容とは何かね?」
「これは軍事上のことなので、この場ではお答えしかねます。しかるべき手続きがあればお答えいたします」

 老人が「なるほど」と頷いた。
 どうやら納得してくれたようだ。

「この記事によりますとアナタと陛下は九花園で仲睦まじく歩き、池のベンチで口づけしたとあります。この画像は加工したものでしょうか?」

 三角メガネをかけたカマキリのような女性がキツめの口調で問いかけてきた。
 まったく知らない顔だ。

(うーん、それにしても写真か……油断したな)

 どうやらゴシップ誌の記者に撮影されていたらしい。

 たしかに画像はそのようにしか見えない角度で撮影されている。
 近衛武官のガードをすり抜けてベストショットを撮影したのならば、カメラマンはかなりの隠密スキルだ。

 余談だが、九花公園とは中庭の名前である。

「私には画像加工したものかは判断がつきません。これは地面に図を書いて説明していたために顔を寄せる状態になった瞬間でしょう。無論、直後に距離を空けたのは言うまでもありません」
「なるほど、では――」

 続けて質問しようとする女性を隣の獣人が「まあまあ、次は私が」と抑えた。
 ある程度の質問時間は決まっているらしい。

 この獣人はライオンに似た立派な中年男性だ。
 かわいらしいアンとは種族が違い、勇ましげなたてがみ・・・・が印象的である。
 服装を見るに裁判官のようだ。

「記事によると『ホモグラフト氏と陛下は互いにマリー、ホモくんと愛称で呼び合い』とあります。これは事実でしょうか、また事実であれば客観的な判断として特別な関係にあるものとは思えませんか?」

 これは嫌な質問だ。
 違うと言えばアウトになるし、かと言って認めればややこしい。

「事実です。私は魔王陛下を愛称で呼ぶことを許されています。しかし、それには理由があります」

 俺は魔王様の妹君であるリリアンヌ・レタンクール女史が部下であること、彼女をリリーと愛称で呼ぶことから説明をすることにした。
 話が長くなるが、これは仕方がない。

「この一連の流れがあり、リリアンヌ・レタンクール女史の姉君である魔王陛下からマリーと呼ぶことをお許し頂いたのです。もちろん非公式の場に限るものであります」

 この答えを聞いた面々からはどよめきや失笑が起きた。
 正直に言えば不快だ。

 今度は内務卿から逆隣の老婦人が「よろしいですか」と軽く挙手をした。
 この老婦人は王室の――つまり魔王様やリリーに長く仕える侍従長だ。
 穏やかな人柄で『おおらかに幼少期の魔王様をいつくしんだ』と特集記事で読んだことがある。

「では、私からは一点のみ。ホモグラフト閣下も陛下も独身です。なんら悪いことをしたわけないでしょう。本件において何が問題になると考えますか?」
「はい、魔王陛下は高貴であり、かつ独身の若い女性です。私のような者と恋愛関係のような風評が立つことは――」

 この侍従長、穏やかで誠意があるだけに答えづらいものがある。
 彼女は「重ねての発言をお許しください」と内務卿にことわり、言葉を続けた。

「私はホモグラフト閣下とマルローネ陛下が相愛なら素晴らしいことだと思います。陛下も28才です。そろそろお相手をと考えておりました。閣下のお気持ちをお聞きすることはできますか?」

 これには参った。
 俺は「む」と言葉が詰まってしまう。

「……突然のお言葉に戸惑うばかりです。あまりに恐れおおいことで、思いもよりません」

 暑くもないに俺の額から汗が流れた。
 まさかこちらの方面から切り込まれるとは予想もしていなかったのだ。

 俺の言葉を聞いた侍従長は「そうですか」と小さくため息をつき、質問を終えた。

 他にも入れ代わり立ち代わりで質問は続く。

 そして出された結論は『自宅での謹慎、および魔王城へ出入りの制限を強く勧める』である。
 期限は一定期間と曖昧あいまいなものだ。

 要は刑事罰はないが、ほとぼりが冷めるまで大人しくしていろと言うことらしい。
 刑法には抵触していないが、彼らの中では問題ありと判断したということだ。

 面倒くさいことこの上ないが……それだけ重大事だと言うことだろう。
 国家元首のスキャンダルは国家の威信にも関わる話なのだ。

(……やっちまったな、これほどの失態は記憶にない)

 魔王城から出た俺は、ぶら下がってくるマスコミに「ノー・コメントだ」とだけ伝え、ダンジョン公社へ向かう。
 さすがにこれは進退伺いをせねばなるまい。



(……また取材の申し込み、この出版社しつこい)

 ひっきりなしに届く取材の申し込み。
 リリーは事務用の魔道具を操作し、メールを未読のまま順に消去していく。
 その際にしつこい出版社と記者の名前を控え『粛清対象いつか消す』リストに追加するのも忘れない。

 週刊文秋の発売が大きな反響を生み、その内容を確認すべく様々なマスコミの取材がダンジョンに舞い込んでいるのだ。
 もうリリーのリストもかなり充実してしまった。

「エドさん、大丈夫っすかねえ?」
「さあな、だが内務卿クラスが出てくる査問てのは穏やかじゃねえぞ。反乱とか大逆の状況証拠がそろった時に容疑者を問い詰める会議だからな」

 タックとゴルンの会話を聞いたアンが「ふぇ」と小さくべそ・・をかいた。

「アン、心配いりませんよ。エドの説明を聞いたでしょう? 私達がうろたえてはいけません」

 リリーがたしなめるとアンは素直に「はい」と返事をした。
 しかし、かく言うリリーも顔には出さないが内心では動揺しているのだ。
 自分の情けなさに自嘲の笑みがこぼれる。

「でも、これ見たら完全におめかししてデートっすからね! どう見てもチューしてるっす!」
「そうね、うまく撮れてるわ。私もエドを知らなければ信じたかもしれませんね」

 リリーの言葉にタックとアンが「うんうん」と頷く。
 エドは無表情でそっけないのに優しい気質の持ち主である。
 つまり、周囲の印象とギャップがあるタイプだ。

 この記事を読んだ人が『あの気難しいホモグラフトが魔王陛下には気を許している』と勘違いしてもおかしくはない。

「自分の顔の作りを理解してないのがダメなんすよ! アタシも何度かくらっときたっす! 無自覚系タラシ中年っす!」
「エドさんかっこいいです。ニュースでも褒めてました」

 そう、問題はタックとアンが言うところにある。
 連日の報道では、約半数が祝福ムードなのだ。

 エドは8年前の戦争で最前線に身を置き続けた武勇の将軍である。
 もともと地味で年寄りばかりの四天王などより国民の人気は高い。

 そこに加えて最近のプロモーション映像だ。
 いまやエドはそこらの主婦や学生にも『なんか見たことある人』くらいの知名度がある。

 つまり領民の大半が『魔王陛下にふさわしい』と納得してしまった。

 批判的な内容も、ことが公になったのに沈黙を続けるエドやマリーの態度に対してのものや、交際を秘密にしていたことに対してのものである。
 領民は続報を望んでいるのだ。

(……今の状況に満足し、油断したわね。まさかこんな展開があるなんて)

 思えば姉のマリーも、エドも、数日前から様子がおかしかった。
 誤報だとしても、2人に何かがあったのは間違いがないのだ。

 この報道があった時、姉のマリーは泣きながらリリーに何度も謝っていた。
 絶対にあやしい。

 リリーの耳に『キリリッ』と不思議な音が届き、ハッと我に返った。
 どうやら、はしたなくも歯ぎしりをしてしまったらしい。

「だ、大丈夫っすよ! エドさんはオッパイが大っきい女性が好きっす!」
「そうですっ! 部屋にあるのは胸が大っきい人の本ばっかりです! 魔王様よりお姉さまが好きなはずです!」

 やや顔色を青くしたタックとアンが慰めてくれるがリリーの心は晴れない。

「どこかでハッキリさせなくてはならないようね」

 リリーが呟くと、タックとアンがビクリと身をすくませた。

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