110 / 132
106話 冒険者サンドラ17
しおりを挟む
ソルトヒル、酒場。
4階層の発見と攻略の失敗に冒険者たちは沸きたっていた。
いかに凄腕とはいえ、サンドラたちは外様なのだ。
むざむざと手柄を奪われるのは面白くない。
外様の凄腕が遅れをとったダンジョンを攻略すると地元冒険者の鼻息は荒くなる。
「ちっ、面白くないね」
「まあまあ、仏頂面してくれるな。今日は雇い主と会うんだからよ」
周囲の反応にいらだつサンドラと、なだめるドアーティ。
そう、今日は彼らに調査依頼を出したダンジョンブレイカーに成果報告をするために待機しているのだ。
ここに荷物持ちをしたローガンは同席していない。
「まあ、たしかに新しい階層の発見と攻略がセットなら言うことなしでやんした。けど感触は悪くはないでやんすよ」
「ここのダンジョンは実入りがいい。攻略にこだわらなければ十分に生活はできるだろう」
リンとオグマも本意ではないなりに納得のいく成果ではあったらしい。
特に4階層での箱の反応は大きかったらしく、報酬も期待しているのだろう。
「お待たせしたかな」
そこへタイミングよく現れたのは赤魔法使い――ダンジョンブレイカーと名乗る男だ。
今日は仲間らしき男を2人引き連れてきている。
おかしな格好をしている赤魔法使いとは違い、いかにもやりそうな中年の男たちだ。
隣のオグマがテーブルの下でサンドラの足を軽く踏んだ。
恐らく観察のスキルで何かを感じ取ったのだろう。
恐らくは『警戒しろ』と伝えているのだ。
(なるほど、コイツら……殺し屋か? 兵隊くずれかもしれないね)
サンドラは探索やモンスター対策を主眼にした冒険者とは違うニオイを男たちから感じた。
男たちは『人と戦う』ための装備を身につけ、衛兵などにはない崩れた雰囲気をまとっている。
これは理屈ではない。
「急で申し訳ないが、お伝えしたように成果を聞きに来ました。こちらは私の――同僚と言ったところで」
赤魔法使いが連れの2人を軽く紹介した。
そちらの2人は無言のままだ。
「ダンジョンブレイカーのパーティーメンバーってトコかい。ま、いいさ。報告から始めようか。ドアーティ」
「あいよ、試練の塔からいくぞ」
ドアーティがマッピングをした図面の上でオグマが箱の反応を順に説明する。
(まさか周りのヤツらもこんな場所で何万ダカットだかの報告をしてるとは思わないだろうね)
いかにもな部屋で密談をするのはかえって周囲の興味を引くだろう。
赤魔法使いはこうしたことにも慣れているのかもしれない。
(問題は報告の中身か)
サンドラにはイマイチ成果のほどは理解できないが、赤魔法使いの反応を見るに悪くはないようだ。
この場においてはサンドラとリンは蚊帳の外である。
「こちらが塩の洞穴――」
「――なるほど、これは」
塩の洞穴に関して赤魔法使いは『ほぼ特定』と判断したようだ。
いくつか小分けにした革袋がドチャリと音を立ててテーブルに並べられていく。
「追加2万です。いかがですか?」
「む、これは……ここまで評価してくれるとはありがたい」
皆で相談するよりも早く、オグマとドアーティは『諾』と頷く。
これには呆れるより他にない。
「たいへん有意義な調査報告でした。それでは我らはこれで」
「いや、待ってほしい。調査と言うからには『この後』もあるはず。我らの腕は証明したはず、次の仕事も任せてもらえまいか」
なんと、立ち去ろうとする赤魔法使いたちにオグマが売り込みを始めた。
さすがにこれはパーティーのルール違反である。
サンドラが「ちょいと待ちな」と割込む。
だが、赤魔法使いは慌てた様子もなく、スッとサンドラに手の平を向けて動きを制した。
「オグマさん、でしたか。次の仕事となりますと魔法使いの彼女のみですね。残念ですが次の仕事まで時間もありませんし――」
このタイミングで隣の男が「おい」と赤魔法使いをたしなめた。
口が軽い赤魔法使いのお目付け役なのだろうか。
「オグマもつまらないこと言うんじゃないよ」
「そうでやんす、オイラはパーティーから抜ける気ないでやんす」
サンドラやリンから責められたオグマは口をへの字にして黙り込んだ。
恐らく本人も『やりすぎた』とは思っているのだろう。
「まあまあ、今回はいい仕事をさせてもらったわけだな。また『次』も頼みますよ」
ここでドアーティがうまく取りなし、なんとなく場を治めた。
年の劫というものだろう。
赤魔法使いたちが去ってよりドアーティは手を叩き「仕事あがりだ、飲むぞ」と料理とビールを人数分注文した。
(仕事あがり、か――たしかにね)
そう、仕事を終わらせて大金を稼いだ。
成果だけを見れば破格の大成功だろう。
イマイチすっきりしないのは、サンドラの感情の問題である。
「ほいじゃ、まあオグマの旦那から一言。こういうのは時間が経つと良くないからな」
「む、そうだな……スマン、出過ぎたマネをした」
ドアーティに促され、オグマが軽く謝罪をした。
ここでドアーティが「さぁ、仕事の成功を祝して乾杯だ」と音頭をとる。
もちろんサンドラもリンもパーティー内で揉めるつもりはない。
「ま、いいさ。たしかに実入りはデカかったんだ。気持ちは分かるさね」
「ひひっ、この1杯はおごりでやんすね」
このリンの一言にはオグマも苦笑いをし「承知した」と頷いた。
今のパーティは探索や戦闘だけでなく、本当に『かみ合っている』のだ。
こうした仲間は探して見つかるものではない。
「そういや、今日はローガンは何をしてるんだ?」
「ソロでダンジョンでやんす」
皆が、意図的に先ほどの件から示し合わせたように話題をずらしていく。
彼らは冒険者として見たこともない大金を稼いだのだ。
つまりそれは冒険者としての引退、パーティからの脱退が近づいた者もいるわけである。
4階層の発見と攻略の失敗に冒険者たちは沸きたっていた。
いかに凄腕とはいえ、サンドラたちは外様なのだ。
むざむざと手柄を奪われるのは面白くない。
外様の凄腕が遅れをとったダンジョンを攻略すると地元冒険者の鼻息は荒くなる。
「ちっ、面白くないね」
「まあまあ、仏頂面してくれるな。今日は雇い主と会うんだからよ」
周囲の反応にいらだつサンドラと、なだめるドアーティ。
そう、今日は彼らに調査依頼を出したダンジョンブレイカーに成果報告をするために待機しているのだ。
ここに荷物持ちをしたローガンは同席していない。
「まあ、たしかに新しい階層の発見と攻略がセットなら言うことなしでやんした。けど感触は悪くはないでやんすよ」
「ここのダンジョンは実入りがいい。攻略にこだわらなければ十分に生活はできるだろう」
リンとオグマも本意ではないなりに納得のいく成果ではあったらしい。
特に4階層での箱の反応は大きかったらしく、報酬も期待しているのだろう。
「お待たせしたかな」
そこへタイミングよく現れたのは赤魔法使い――ダンジョンブレイカーと名乗る男だ。
今日は仲間らしき男を2人引き連れてきている。
おかしな格好をしている赤魔法使いとは違い、いかにもやりそうな中年の男たちだ。
隣のオグマがテーブルの下でサンドラの足を軽く踏んだ。
恐らく観察のスキルで何かを感じ取ったのだろう。
恐らくは『警戒しろ』と伝えているのだ。
(なるほど、コイツら……殺し屋か? 兵隊くずれかもしれないね)
サンドラは探索やモンスター対策を主眼にした冒険者とは違うニオイを男たちから感じた。
男たちは『人と戦う』ための装備を身につけ、衛兵などにはない崩れた雰囲気をまとっている。
これは理屈ではない。
「急で申し訳ないが、お伝えしたように成果を聞きに来ました。こちらは私の――同僚と言ったところで」
赤魔法使いが連れの2人を軽く紹介した。
そちらの2人は無言のままだ。
「ダンジョンブレイカーのパーティーメンバーってトコかい。ま、いいさ。報告から始めようか。ドアーティ」
「あいよ、試練の塔からいくぞ」
ドアーティがマッピングをした図面の上でオグマが箱の反応を順に説明する。
(まさか周りのヤツらもこんな場所で何万ダカットだかの報告をしてるとは思わないだろうね)
いかにもな部屋で密談をするのはかえって周囲の興味を引くだろう。
赤魔法使いはこうしたことにも慣れているのかもしれない。
(問題は報告の中身か)
サンドラにはイマイチ成果のほどは理解できないが、赤魔法使いの反応を見るに悪くはないようだ。
この場においてはサンドラとリンは蚊帳の外である。
「こちらが塩の洞穴――」
「――なるほど、これは」
塩の洞穴に関して赤魔法使いは『ほぼ特定』と判断したようだ。
いくつか小分けにした革袋がドチャリと音を立ててテーブルに並べられていく。
「追加2万です。いかがですか?」
「む、これは……ここまで評価してくれるとはありがたい」
皆で相談するよりも早く、オグマとドアーティは『諾』と頷く。
これには呆れるより他にない。
「たいへん有意義な調査報告でした。それでは我らはこれで」
「いや、待ってほしい。調査と言うからには『この後』もあるはず。我らの腕は証明したはず、次の仕事も任せてもらえまいか」
なんと、立ち去ろうとする赤魔法使いたちにオグマが売り込みを始めた。
さすがにこれはパーティーのルール違反である。
サンドラが「ちょいと待ちな」と割込む。
だが、赤魔法使いは慌てた様子もなく、スッとサンドラに手の平を向けて動きを制した。
「オグマさん、でしたか。次の仕事となりますと魔法使いの彼女のみですね。残念ですが次の仕事まで時間もありませんし――」
このタイミングで隣の男が「おい」と赤魔法使いをたしなめた。
口が軽い赤魔法使いのお目付け役なのだろうか。
「オグマもつまらないこと言うんじゃないよ」
「そうでやんす、オイラはパーティーから抜ける気ないでやんす」
サンドラやリンから責められたオグマは口をへの字にして黙り込んだ。
恐らく本人も『やりすぎた』とは思っているのだろう。
「まあまあ、今回はいい仕事をさせてもらったわけだな。また『次』も頼みますよ」
ここでドアーティがうまく取りなし、なんとなく場を治めた。
年の劫というものだろう。
赤魔法使いたちが去ってよりドアーティは手を叩き「仕事あがりだ、飲むぞ」と料理とビールを人数分注文した。
(仕事あがり、か――たしかにね)
そう、仕事を終わらせて大金を稼いだ。
成果だけを見れば破格の大成功だろう。
イマイチすっきりしないのは、サンドラの感情の問題である。
「ほいじゃ、まあオグマの旦那から一言。こういうのは時間が経つと良くないからな」
「む、そうだな……スマン、出過ぎたマネをした」
ドアーティに促され、オグマが軽く謝罪をした。
ここでドアーティが「さぁ、仕事の成功を祝して乾杯だ」と音頭をとる。
もちろんサンドラもリンもパーティー内で揉めるつもりはない。
「ま、いいさ。たしかに実入りはデカかったんだ。気持ちは分かるさね」
「ひひっ、この1杯はおごりでやんすね」
このリンの一言にはオグマも苦笑いをし「承知した」と頷いた。
今のパーティは探索や戦闘だけでなく、本当に『かみ合っている』のだ。
こうした仲間は探して見つかるものではない。
「そういや、今日はローガンは何をしてるんだ?」
「ソロでダンジョンでやんす」
皆が、意図的に先ほどの件から示し合わせたように話題をずらしていく。
彼らは冒険者として見たこともない大金を稼いだのだ。
つまりそれは冒険者としての引退、パーティからの脱退が近づいた者もいるわけである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
166
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる