隠しスキルを手に入れた俺のうぬ惚れ人生

第１章 異世界

２８話 キングとクイーンと少女とイフリート

　脇に刺された小刀をこれ以上どうこうするつもりもないようで、少女は一本引き下がる。
　まるで挨拶がわりに刺してやったとでも言いたそうであった。

「やはりお主であったか…」
「あの時は随分と好き勝手やってくれてたじゃない？」
「敵対したつもりなど儂にはこれっぽっちも無かったんじゃがのぉ…」

　二人の会話に割って入ることもできないでいて、俺とドルヴィンは呆然と立ち尽くすのみであった。

　少女が『せっかく豚ちゃん使って遊んでたのにー』と言っていたのだけど、ギルド長は全く相手にしない様子。
　少女を見ながら『さっさと逃げろ』とこちらに手を振っていたのだった

「まぁいいや、久しぶりだしちょっと暴れない？」
「その申し出は断ってもよいのかのぉ…」
「良いわけないじゃん！行くよ！」

　突如拳と拳の衝突が始まった。
　時折魔法のようなものも使ったりするのが感じられるのだけど、何が起こっているのかさっぱりわからない。

「おいっ！」
　ドルヴィンが俺の腕を引っ張った。そこでようやく逃げなくてはいけない事を思い出したのだ。

「あれ？ピルスルくん…ウデなまっちゃった…？」
　弱いなぁ、とガッカリする少女。
「ふんっ、貴様はいつまでも化け物じゃな…」

　『もういいや』と言い魔法をギルド長に向かって放つ少女、間一髪で避けるギルド長。
「う、ぐっ…」

　完全に避けたように見えたのだけれど、威力も早さも俺たちとは次元が違っているのだった。
　脇に深い傷を負ったギルド長はその場にうずくまってしまう。

「ギルド長！」
　俺はつい声を荒げてしまう。
　それが耳障りだったようで、少女は手のひらをこちらに向けるのだった。

「うるさいなぁ…」
　たった一言少女がそう言うと、矢のように尖らせた炎の魔法を放ってくる。
「させるかっ！」
　すんでのところでギルド長が少女の腕に氷の塊をぶつけ軌道が逸れた。

　またも邪魔が入った、と言わんばかりに少女が震えながら言った。
「痛いなぁ、もうっ頭あったまきた！」
少女が苛つく様はまるで悪魔のようである。両の手に炎を纏わせ、ゆっくりとこちらに向かって歩き出すのだ。

「シュウ！構えろ！なんでもいい！」
　ギルド長が叫ぶ。

　一瞬意識を持っていかれていた俺は、ハッとし矢を番える。

「なに？もういいよ面白くない。せっかくいっぱい貯めたけど使っちゃおうかな」
　少女が喋る、まだ使っていない技を見せようというのか。

「…あれ、君どこかで…あぁ傷痕で見た君かぁ、あの時はひどい事してくれたじゃん。
　せっかく一杯、いーっぱい貯めたのにぜーんぶ使っちゃった。あの後ソフィア様に怒られちゃったんだからね」

　あの時？攻撃した時のことか…？
　俺は氷の矢をたしかに何発も彼女に向けていたのだが。

「シュウ聞くな！奴はイフリート、四大精霊でも魔人と呼ばれる悪魔じゃ！」
　俺は青い矢を射ち出し、それがイフリートに当たると纏っている炎が全身に広がりより一層恐ろしく感じられたものだ。

　すぐにハッとし、普通の矢を射ったのだが、当然ダメージがあるはずもない。
　イフリートに届く前に炎で燃え尽きてしまうのだ。
「シュウ！矢をこちらに向けよ！」
ギルド長は白い矢で無くてはならないと言うのだが、目の前にイフリートが構えているのだからそんな準備をしている余裕は無いはずなのだ。

「無駄だよー、この力使ったらどんなのもぜーんぶ消しちゃえるんだから。
　そうそう、君、やっぱり面白そうだし一緒に来ない？」

　少女はえらく自信満々に語る。足を止めて…。
　こちらとしても以前戦った時には、全くダメージらしいものを与えられなかったと思っているのだ。
　きっとさっきまではその力も使わず、純粋にギルド長との再会を拳で語り合ったのだと思う。

　そういえば俺もこいつには借りがあるんだったな…。
「…イフリート、君からもらった刻印、ありがたく使わせてもらっている…。
　君が何者かはよくわからないが、簡単について行きますとは言えないな、俺だって男だ！」

「簡単に死なれちゃ困るからねー、死ぬまでは使ってていいよ？で、今死ぬの？」
　両の手を腰に当て『どうせ当たらないから、早く射ちなよ』とこちらを見つめるイフリート。

　手元には白くエンチャントされた矢が出来上がっている。
「くらえっ！！」
　『ヒュン…』と射ち、炎の中に吸い込まれていく。
　その瞬間、首元のチョーカーが光ったのだ。

　イフリートは未だ問題ない、と構えていたのだが、当たらないはずの矢は、すんなりとその胸に突き刺さった。

「貴様…！一体何をした？！」

『グァァ』と叫ぶ少女、そこに追撃を仕掛けるギルド長。
　大きな怪我をしてまだそれだけ動けるのだから、こちらもまた人間離れしているのと思ってしまう。

「ちぃっ…貴様ら、覚えてろよ！」
　ギリギリ追撃をかわしたイフリートは、逃げるように消えていった。

　俺たちは、すぐに回復を行いギルド長はなんとか倒れずに済んだ。
　だが、相当な深手を負ったせいで、しばらくはまともに動けないだろうとの事であった。

そして、俺は5日間の謹慎を命じられるのだった…。