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第1章 異世界

《1匹の白いスライム》

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 これは今のお話より過去、世界から精霊王アイオーンの存在が失われる少し前と後の出来事。

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「アイリス…何故…」

 私は突然この森へとやってきた。
 先程まで巨大な龍の前にいたはずなのだが。

 俺の最愛の…アイリスの手によって。

「ちくしょう!……」
 目の前に佇む青い光…ここに飛ばされ目の前にいた真っ白なスライムに斬りかかったドロップだ。

 手に取るとスキルの書と分かるのだがこれが何なのか、初めて見るそれに戸惑いを隠せないでいた。
 ただ今は、少しでも戻れる可能性を信じたいのだ、当然すぐさまそれを開いたのだ。

【※※※アイテム】
【※※※スキル】
【※※※ドロップ】を習得しました。

 続く鑑定不可の文字。
 なんだこれは?私は夢を見ているのか…?

 何をすればいいのか、これで何かしたら戻れるのか…?
 私は考え、思い描く魔法を唱えようともしてみたのだがそれもうまくいかない。

 このようなスキルというものを、今取得したことに意味はあるのか?
 考えても考えても答えが見つかることはなかったのだった。

 森を出て西へと歩いていた、どうも見たことのある景色なのだが、ここがどこなのかは全くわからない。

 ようやく森を抜け、広がる光景は先日見たものと酷似する。
「城…あれは?!」

 見下ろす先にあるものは私が仕えているアウロス城、アウロス王国もっとも尊厳のある建物。
 その形、その景色はまさに彼の知っている王都そのものだった。

 私はもっと東の…東の方にいたはずなのだ。大陸を渡って各地を歩いていたのだから。

 アイリスは魔法に長けていた。
 それに、どんな困難な状況でも彼女は前を向き、決して諦めようとはしなかった。

 攻撃防御はもちろん、パーティーの動きを俊敏にしたり魔物の動きを止めることにも長けていた。
 そんな彼女だから、私をここまで送ることは可能なのかもしれない。

 とにかくここに来た以上報告するべきなのだろう…龍と…あいつの存在を!

 城下町はいつもより警備が厚く、普段なら顔を見れば通してくれたものを、わざわざ冒険者カードを出さなくてはいけなかった。
 何故なのだろうか…?『ボロボロのカードだな』と笑われたりもしたのだが、ともあれ城へと向かう。

「リチャード国王!リチャード国王は何処いづこに!」
 私は出うる限りの声で叫ぶ。

 するとどうだろう、衛兵には取り押さえられ、さらには国王を侮辱しているなどと言われる始末。

 私は枷をつけられたまま国王に会わせられたのだが、そこにいるのはリチャード国王の子の子の子…サルヴァン国王だという…。

 もはや意味がわからない…。
 ここは私の知っている世界では無いようなのだ。ならばアイリスはどこにいるのだ?今世界はどうなっているのだ?
 考えても答えなど見つかるはずも無いのだった。

 それから私はしばらく檻に入れられていたのだが、何かおかしいと感じてくださったのだろうか?時折牢まで足を運んではサルヴァン国王はしっかりと私の話に耳を傾けてくださる。

 …私はあの時代よりおよそ70年後、そこで王を守る側近を務めているのだった…。
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