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第2章 精霊王

10話 ノーム

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 俺たちは第四階層に向かっていた。

 少しばかり三階層が余裕だったからって、決して気を抜いて良い場所ではない。
 ここ第四階層は、ピルスルですら踏み入れたことのない場所なのだから。

「なぁピルスル、ダンジョンってどれもこんなに難しいところなのか?」
「そんなわけ無かろう、ここは四大精霊が棲まうダンジョンじゃからな。
 それ相応にはレベルが高いのじゃろう」
 ローズやレギも、ドルヴィンと共に、よく3、4階層まで行って帰ってくるそうだ。ここではないダンジョンだが。

「上位種とか10回に1回出会えば多い方やわ、ウチらも相手にしよなんて思わへんもん」
「ははっ…私も逃げるもんだと思ってましたよ。
 あんなに可愛らしいウサギさんに気絶させられちゃいましたし」

 二人も上位種をまともに相手にしたのは初めてのようだった。
 ん?じゃあなんで突っ込んでったんだ?自信があったんじゃないのか?
 なんて思ったのだけど、まぁピルスルなりには秘策とかなんかあるんだろうということで、あまり気にしないようにし、俺たちは次の階層にやってきた。

「綺麗やねー、ほんまウチ、これ持って帰って宝物にしよか思うわー」
 ローズが親指ほどはあろうかという透明な石をひとつ手にとって言う。

 そのまま良さそうな感じの石を2、3個見つけては駆けよっていた。魔物がいるかもしれないというのに。
「おやぁ、お客様かなぁ?どのくらいぶりだろうねぇ…」

 ほら見たことか、俺たちは客人扱いじゃないか。

 見回すと、特に魔物の姿が見えることはない。
「どこだっ!」
 俺は、つい声を荒らげてしまう。
 ピルスルもまた、レギを背に周りを警戒していた。

「おやぁ?ぼくに会いに来てくれたんじゃないのぉ?」
「お主、もしやノーム殿か?!」

 まさかのダンジョン主出現、しかし姿は見えず。
 そのままピルスルが語りかけていたのだけれど、立ち話もなんだと、さっさと部屋まで来いと。

 いやすまん、あまりにノームがおっとり喋るもんだから端折はしょらせてもらった
 『おやおやぁ…』『うーん…そうだなぁ…』なんて。
 こっちは今にも戦闘になるんじゃないじゃと構えていたのに、もう完全に気が抜けて矢も番えてない。

 あぁそれと、ローズがかなり怒ってる。

「そうだねぇー…あぁ…それとぉ…
そこのぉ…ぼくぅ?
 ませきは危ないから…もっていかないほうがいいよぅ…」
 なんて言うもんだから。

 『ウチは女や!』なんて目に涙浮かべてたんだよ。
 こんなに可愛いのに男の子に間違えちゃ可哀想でしょノームさん…。

 魔物らしい奴も何体かちらほら見えたんだけど、どれも形は違えど双角錐の結晶の様なもので。
 特に横切っても何もしなかったところを見ると、ウィスプのようなものに近い存在なのかもしれないなとピルスルが言っていた。
(双角錐:ピラミッドを上下にくっつけた様な形のもの双五角錐やねじれ双角錐などもある)

「1匹くらい倒してドロップ確認したくならへん?宝石とか出そうやん」

「別に構わんが、ノームが敵になったらお主は置いてゆくぞ」
「さよかー…」

 こうして第四階層は何事もなく通り過ぎたのだけど…。
 俺の中には、さっきノームが言っていた【魔石】とギルドにある【魔水晶】が。
 そして…先の大戦以前に使われていた【魔素を用いた兵器】の存在がどうにも気になって仕方がないのだった。
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