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第3章 消えた街

第14話 九頭龍

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 【龍は古来より人と共にあり】
 古くからこの世界で言われている言葉である。
 龍という存在は、世界が生まれた時から存在し続けており、ずっと人族の暮らしを見守り続けているのだそうだ。

「騎士団の話をした時に、ドラゴン退治とか言ってなかったか?確かワイバーンを退治しに行った時」
 俺はそうピルスルに尋ねていた。
 ピルスルは確かにそう俺に言ったはずなのだ、そんな時は『そんな時は騎士団の役目だ』と。

 すると『あぁあれの事か』と答える。
「あれは、自分の腕を過信した馬鹿者が龍にちょっかいをかけないようにじゃ。
 騎士団でも手を焼くほどの相手ならば誰も勝てるとは思わんじゃろ」
 まぁ、実際は騎士団でも相手にならない程強いらしいのだが。

 ミドもまた知っている伝承などを交えて説明をしていた。
「龍は全てで10頭とされています。
 それぞれの大地を見守るとされる9頭の龍、そして古の戦いでもその圧倒する力で他者を寄せつけなかったという龍族の長【聖龍】が存在しました」
 だが、聖龍もまた精霊王アイオーンと共に、その姿は消滅したものとされていた。

 精霊族に関しては多くは分かっていない。四大属性を司る大精霊は、代替わりもしているのだ。
 それに、俺たちを襲ったのも精霊族であり、その意図も掴めずにいる。

「ウチは精霊には会いとぅないわ」
「同感じゃな、あやつらは人の姿はしておるが、人間らしい心は持ち合わせておらんように感じたわい」
 ノームのような協力的な者ばかりだとしたら、そんな事はなかったのだろうが……。

「でも龍の居場所なんて、ウチらよう知らへんで?」
「それでしたら私のいた屋敷の書架に何冊かそれらしいものがありましたが」
 ミドの屋敷という事は、王都まで戻る必要があるわけだ。もしかしたら少しくらい内容を憶えていないかと聞いてみた。

「龍族とか魔族とか、そんなの御伽噺だと思ってちゃんと聞いてないもん」
「まぁ儂も実際に会うまでは信じておらんかったから仕方ないわい」
 結局『何となくこの辺りにいたような……』という曖昧な話であった為、ちゃんと確認をした方が良いだろうという結論になったのだ。

「そうなると、南西の海岸沿いのルートの方が早いわね。
 途中に街があったはずだわ、そこに寄って行きましょう」
 このガーデニアの南には、切り立った崖が存在し、その先に海が存在するのだが漁に出られるような場所ではない。
 そんな街にも、わずかな魚が並んでいるのは、その西にある街から入ってくる物なのだそうだ。
 ヤードさんがそんな話をしていたのを思い出していた。

「そういえば聞いたことがありますわ。その街【アクアポート】では水神様を祀る風習があるのだとか。
 もしかしたら九頭龍の一頭がその街の周辺に棲むのかもしれませんわね」
「でも魚やったら王都でも沢山獲れていたみたいですし。そのような風習でしたらあちこちにあるんじゃないでしょうか?」

 まぁとにかく調べてみてダメだったら王都に向かうって事で良いじゃないか、と俺たちは出発する準備を行い、翌朝には出発する事にしたのだった。
 それは、俺のインベントリに食料やアイテムを突っ込むだけの簡単な作業なのだが……。もし、急に俺がいなくなったら皆は一体どうするつもりなのだろうな?

「お主は儂らの命を預かっておるのじゃ、不用意な行動は避けるようにするんじゃぞ」
 その日の夜、まるで俺の考えている事を読み取ったかのように、ピルスルが迫真の表情で語りかけてきたのはとても印象的であった。
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