スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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3巻

3-2

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「どうしてっ?」
「もしかしたら、他のスキルも習得しようと思ったらできちゃうのかなって」

 試しに【合成】【召喚】【赫灼一閃ミスティルテイン】の習得を試みると、前者二つはテセスの予想通り習得可能であった。
 だが、コルンの固有スキル【赫灼一閃ミスティルテイン】に限っては無理だった。
 それを聞いたコルンは、息を吹き返したように喜んでいる。

「やっぱり俺のスキルはスゲェんだな」

 とりあえずコルンは放置して、テセスは【料理】スキルを習得した。
 同じスキルを複数人が持っていてもあまりメリットを感じないからと言っていたが、習得した途端に他のスキルは習得できなくなったみたいだ。
 まぁでも、せっかく見つけた未知のスキルなのだから、ぜひとも取っておきたかったし、後悔はしてないみたい。
 スキルは啓示の儀式でしか授かれないと思っていたけれど、レベルが上がったり、何かに習熟したりすることでも習得できるようだ。
 そこまでの域に達する人なんて滅多にいないから、知られていないのかもしれない。
 僕は僕で、こっそりと他のスキルが取れないものかと試してみた。
 中には習得可能と出てきたスキルもあったけれど、もっといいスキルがあるかもしれないと思うと決めきれない。
 それに、今はまだ【マスター合成】のスキルも使いこなせていないのだから、やめておこう……
 新しいスキルが習得可能であるならば、一度ヤマダさんに相談してみるべきだとも思う。ダンジョン攻略に必要なスキルだってあるかもしれないし。
 スキルについては、おいおい考えていくことにしよう。
 気を取り直して、僕は合成を行うことにした。
 これから十階層より下の階層へと向かうにあたって、僕たちの防具も強化したいと考えていたのだ。
 魔銀ミスリルの防具は確かに強い。だけど、防御力は強化しまくっても『50』がいいところ。
 ヤマダさんと会った時にこっそり見たのだけど、『防御力+2000』とか『状態異常無効化』といった、トンデモ性能な装備を身につけていたのだ。
 何をどうしたら、あんな装備ができ上がるのか?
 いや、宝箱から入手したと言っていたし、ヤマダさんが作ったわけではないのだろう。

「またえらく大量に集めたもんだな」

 僕の取り出した素材を見て、コルンが驚く。
 取り出したハイラビットの毛皮は三十枚だが、これでもインベントリ内にある量の半分以下だ。
 四階層のボスのドロップ品で、合成することで防具ができ上がるという素材。
 これをメイン素材として、サブ素材には絡新婦じょろうぐもの糸、ワンダープラントからドロップした液体銀を追加して合成した。
 でき上がるアイテムの基本性能はメイン素材にる。素材が良ければ効果も高く、有益な特性がつくことが多い。
 さらにリリアの【マスター召喚】と同じように、合成する時に付与する特性を選ぶことができ、それ次第で完成品の性能も変わってくるのだ。
 だからクロを召喚した時に、『きっとそういうことなんだろうなぁ』という程度には、お互い気づいていた。
 だからといって、まさかリリアがリスト内の魔物全部を解放リリースして『特性』にしてしまうとは思っていなかったけど。むやみに召喚するつもりはないという、リリアの意思表示なのだろうか?
 いでサブ素材はアイテムの性能の底上げと、特殊効果の付与が主。
 今回追加する液体銀は魔法耐性をわずかに高めてくれるので、魔法を使ってくる魔物相手に有効だ。
世界樹辞典ワールドディクショナリー』には特殊な組み合わせで強力なアイテムが作れると書いてあるのだけど、その素材のシルエットは、どう見ても三本の剣だった。
 素材というより、剣同士の合成で製作できるのだと思う。
 他にも、薬草を追加素材にすると最大HPが上がったりする。一枚で『HP+1』になるが、百枚追加しても『HP+99』だったので、これが最大値なのかもしれない。

「よしっ、でき上がったよ」

 僕は完成した防具を横にいたテセスへ渡した。
 モコモコっとした見た目のそれに、リリアが真っ先に感想を述べる。

「へぇー、結構暖かそうじゃないの」
「うん、すごく暖かいわ。それに手触りもいいわよ。寒さをしのげるのもありがたいけど、これだったらオシャレな感じもするわね」

 これからの寒い季節、暖かいからといって全身をただの毛皮で覆うのは違うような気がする。
 僕やコルンならいいのだけど、テセスとリリアにはもっと可愛い服を着てもらいたい。
 だから、素肌が出てしまう首元に巻きつけるような防具を作れないかと考え、『毛皮のマフラー』を合成してみた。
 あまり着込みすぎると動きづらいけど、これだったらそれほど邪魔にならないだろう。
『火属性強化(弱)』『てん』『こうたく』の特性を選んでみたのだが、結果は悪くなかったようだ。
 レベルが上がって、より多くの特性をつけることができたら、もっともっと良いアイテムが作れるに違いない。



 3話


 残ったハイラビットの毛皮で、似たような『毛皮のマフラー』を作る。
 液体銀はそれほど多く入手できていないので、『光沢』の特性は入れられなかったが、代わりに『ミルク』を追加して、特性『さらさら』を付与してみた。
 たったそれだけの変更で防御力は下がるし、『回避+5』の効果も消えてしまったけど、これは武器屋や雑貨屋におろす分なので問題ない。

「これも手触りがいいから、きっとみんな買ってくれるわよ」

 自信ありげにテセスが言う。
 売り物と見た目が一緒のアイテムなら、僕たちが普段から身につけていても怪しまれることはないだろう。
 ただし、買い取ってくれる武器屋の親父さんと雑貨屋の店主には僕が特殊なアイテムを作れることがバレているので、二人がこれまで通り黙っていてくれるなら、という条件付きだけど。
『毛皮のマフラー』を卸すのは自分たちが目立たないためという目的もあるが、実は、またもやお金に困っている状況だったりする。
 金貨二枚もあれば十分……なんて思っていたのに、一年も経たずに使い切ってしまったのは、ダンジョン内で新しい素材がたくさん手に入るからだ。
 なんと言っても、金属の消費が激しすぎることが要因。
 サラマンデル湿地帯でリザードを狩って魔銀ミスリル含有素材を集めればいいのだが、最近はエメル村の冒険者が強くなったせいか、そこでも姿を見かけるようになって、僕たちは行くのを避けていた。
 なので、冒険者がリザード狩りで入手した魔銀ミスリル含有素材を武器屋に売り、店の親父さんから僕が買い取るという流れになってしまっている。
 お金はかかるし、冒険者の持ち帰る量はさほど多くない。
 夜中にコッソリ湿地帯に行こうとも思ったが、そういう時に限って冒険者が姿を見せる。
 せっかく湿地帯まで足を運んだなら、ギリギリの時間まで狩りをしたいということなのだろうか?
 ともあれ、金策が必要になった僕は、どんなアイテムなら売れるだろうかと思案した。
 がいとうやローブなんて、ごく一部の人しか買わないし、なるべく多くの人が寒さを凌ぐために身につけられるもの――できれば高級品とそうでないものとに分けられる、そんなアイテムを探した結果が、この『毛皮のマフラー』だったのだ。

「高級品の方も、そのくらいでいいんじゃないか?」

 僕が調子に乗って、ありったけのハイラビットの毛皮を使用し終わる頃に、コルンからそんな言葉が飛んできた。

「放っておくと、また売り物にならないものばかりになっちゃうからね。品質の高すぎるアイテムが大量にあるなんて、後できっと困っちゃうよ?」

 さらにリリアからはそう言って注意されてしまった。
 ちゃんと毛皮を一枚一枚洗浄して高品質に……というほどのことはしていないが、それでも品質は良さそうだ。高い防御力を持っている。
 実は、何度も品質の良すぎるアイテムを作って失敗しているんだよね。
 魔銀ミスリルの剣よりも攻撃力の高い『ボーンソード』とか、パパっとふりかけるだけで周囲の人たちが回復しちゃう『いやしのしずく』とか。
『いやしの雫』って、戦闘中に使ったらアイテムがふりかかった魔物にも効果があるのか?
 それに、国同士の戦争とかに使われたら凄いことになる気がする……
 すでに色々なアイテムを卸している身で言えたことではないけどね。

《毛皮のマフラー:防御力+5》
《上質な毛皮のマフラー:防御力+12》

 今回作ったアイテムはこんな感じだ。
 あとは、価格設定と、より多くの村の人たちに買ってもらうことを考えないといけない。


 ◆ ◆ ◆


「アメルさん、また使ってみてもらってもいいですか?」

 村に戻った僕は、新しい依頼所に出向いた。正式には複合施設なのだけど、誰もが依頼所と呼んでいるので、結局名前もそのままに……

「えぇ、もちろんいいわよ。でも、本当にお金を払わなくてもいいの? 結構高そうなものばかりなのに」
「いいんですよ。アメルさんが『気に入った』と言うだけで、みんながこれを買ってくれるんですし」

 宣伝のためなので、もちろんアメルさんには高級品を。ぶっちゃけて言うと、僕たちのよりも防御力の高いものを渡してある。
 それ以外の高級品を数点、こちらは雑貨屋の店主に。
 四階層を突破した冒険者はりがいい人が多いから、小金貨一枚でも買う者はいるだろう。
 通常のものはウルフの毛皮で作った品なので、小銀貨一枚くらいか? これは二十個でも三十個でも用意できる。
 それでも皮のくらいの防御力があるみたいだし、そう考えると格安……だと思うのだが。

「そんなに性能がいいなら、武器屋の親父さんに持っていってやったほうがいいんじゃないのか?」

 防御力や使った素材なんかを説明すると、雑貨屋の店主が眉根を寄せてそう言った。
 売り物ならそれなりの商品説明が必要だと思って言っただけなのだが、店主は防御力と聞いて防具をイメージしてしまったみたいだ。
 見た目は防寒具でしかないので、雑貨屋が適していると思ったのだけど。

「それと、この間の雨具の代金だ。それほど需要があるわけじゃないから三着しか売れてないが、えーっと……はいよっ、銀貨で六枚だな」

 以前入手した、カエル――キュリオストードというモンスターの皮から作った服は、耐水・耐電気効果があって、はっすい性も非常に良かった。
 そんなわけで農作業をしている人向けに、『雨具』として販売を頼んだのだけど、あまり評判は良くないみたいだ。
《防御力+15》という効果は高すぎて公表していいものか悩む上、『雷が落ちても安心です!』と言ったところで信じてはもらえない。
 結局のところ、『水に強い!』としか言えなかった。
 八着渡して、在庫が五着。やっぱり価格が高すぎたのだろう。
 ちなみにキュリオストードの皮で付与可能な『毒カウンター』とかいう不穏な響きの特性は、もちろん選ばずに合成しておいた。
 一番売れているのは……やっぱり下級ポーション。安いし。
 ただ、中には容器の小瓶目当てで買う人もいるみたい。
 空き瓶って、ある程度溜まったら雑貨屋で回収してもらうのが普通なんだけど、僕が作った小瓶は特に女性を中心に花瓶代わりに使われているらしい。
 それならまだいいが、中には僕の作った小瓶に水を入れて、他の街で『若返りの薬』などと言って詐欺行為を行う者もいるのだとか。
 瓶が綺麗だからと騙される人がいるそうなので、これは問題だなぁ……

「ありがとうっ、また何か作ったらお願いね」
「おうよ、センの頼みならいくらでも聞いてやるぜ。お前さんがいなけりゃ、俺の店は潰れてたかもしれんからな」

 店主が言っているのは、勇者一行の騒動の時のことだ。
 ちょっと前にエメル村に勇者がやってきたのだが、そのお付きの兵士たちは、国への献上という名目で村の店に対して略奪まがいのことを行った。
 そこで僕たちは、『魔王って人から預かった』と言って、被害にったお店に手持ちの素材やアイテムを渡して回ったのだ。まぁ、預かったなんて嘘だとバレているのだけど。
 そもそも、僕とリリアが作ったアイテムが原因でエメル村は国に目をつけられてしまったわけだし、僕としては罪滅ぼしのつもりだった。

「ははっ、大袈裟だよ。それにあれは……」
「そうだったな。マオーさんにもよろしく言っといてくれ」

 国の兵士たちは、さすがに人目の多い中では略奪行為はできないようで、この複合施設に移転した後はピタリとやんだ。
 ただ今度は、僕たちが魔族に肩入れしているようだと王様に報告したらしい。
 最近は調査目的と称して冒険者たちを拘束したりするものだから、そちらはちょっと対応を考えなくちゃいけないと思う。
 ちなみに村人にとってのダンジョンは、資源が大量に採れるし、魔物も中から出てこないから、今のところそこまで危険ではないもの、という認識らしい。
 なんか……エメル村の人たちって、すごく強いと思う。メンタルが。
 店主とマフラーのやり取りをしていると、急に勇者が依頼所にやってきた。
 あまりに突然で、僕は思わず持っていたマフラーを一つ、後ろ手に隠してしまった。

「……ん? 今何を隠した?」

 魔銀ミスリル装備に身を包んだ青年、勇者アステア。
 心なしか最初に見た時より雰囲気が変わった気がするが、銀髪に深緑の目、なによりもバリエさんに売ったはずの魔銀ミスリルの剣を脇に差している者を、僕が見間違うはずがない。
 ……隠すのを見られたが、そのあと、焦ってインベントリに片付けてしまったことには気づかれていないらしい。
 僕は改めてインベントリからマフラーを出し、勇者に見せる。
 悩んだのだが、普通の毛皮のマフラーよりも高級なほうが隠した言い訳をしやすい気がして、そちらに替えた。

「貴様、なぜこれを隠したのだ?」

 先ほどより口調がキツくなり、以前のオドオドした感じは見られない。
 何かが勇者の性格を変えたのか、それともこちらが素の性格だったのか?

「ぼ、僕みたいな駆け出しが、こんな高級な防寒具を買ったなんてバレたら……きっとみんなに生意気だって言われるんじゃないかと思って」

 そんな言い訳をしながらも、なんだかちょっとだけいらってしまった。
 噂では、勇者は去年啓示の儀式を受けたばかりの少年。つまりは年下だ。
 僕だって一人前とまでは言えなくても、彼よりは先輩だしスキルレベルも上だと思う。
 ……そういえば勇者って、どんなスキルを持っているのだろう……?

「そうか。だがそのアイテムは強い。それを身につけていれば、貴様でもウルフの一匹や二匹くらいは倒せるだろう。せいぜい頑張るがいい……」
「あ、はい……」

 なんだか圧倒されてしまい、力なく返答する僕。
 あれ? 仲間たちにしか防御力のことは言っていないハズなのだが、なぜ『強い』とわかったのだろう。
 もしかして、勇者はアイテムの強さがわかるとか?
 僕が端に避けると、勇者は雑貨屋でいくつかのアイテムを購入して出ていった。どうやらダンジョンへ向かったようだ。
 勇者がダンジョンへ入るのはこれで三回目くらいなのだが、いずれも七階層は突破しているという。スケルトンやグールのいる八階層を抜け、ケットリーパーのいる九階層へたどり着いたら、リリアの【マスター召喚】も怪しまれることになってしまうけれど……

「……ま、そんなに早くは突破できないよね?」

 一人で呟いて、依頼所から出て十階層へと転移した。


 ◆ ◆ ◆


「もうさぁ、今度から村に来る前に追い返しちゃう?」

 十階層で合流したリリア、テセス、コルンに勇者が村に来たことを報告すると、リリアからそう提案された。
 ケットリーパーのクロを召喚し、村に来ようとする勇者御一行を追い返すという作戦。
 勇者たちは村の中ではなく、少し離れた場所に転移してから徒歩で入ってくるので、それは可能ではある。
 直接村に転移してこないのは、急に目の前に現れて村人を驚かせるのは避けたいという気持ちもあるのだろう。
 ……と、村の皆は言うのだけど、それだけ気を遣ってくれるなら、いっそ村に来ること自体をやめてほしい。
 リリアの勇者を追い返す案は、実行したところで村に直接転移されるようになっては意味がないので、当然却下した。

「じゃあ、転移のアクセサリーを破壊してやるわよ!」

 確かにそれはいい案かもしれない。
 だけど、勇者なら転移の魔法媒体くらい、すぐに作れる気もするな。

「いや、村の外で待ち伏せして倒しちゃうのはどうだ?」

 突然、コルンがとんでもないことを言い出した。



 4話


「はっ倒して、これでもかってぐらい痛めつけて、もう村にちょっかいを出せないように……」
「いやいや、そんなことしたら余計に村に迷惑がかかっちゃうよ」

 あまりのとんでも発言にビックリした僕は、コルンの言葉を遮ってそれを否定した。
 ユーグから『勇者』は世界の救世主となる存在だと教えてもらったのだし、それが事実だろうが間違っていようが、一定数の信者はいる。

「救世主と国を相手に喧嘩を売るってことよね」

 テセスも僕と同じ心配をしているようで、首をひねっていた。

「いいじゃねーか。全員ぶっ飛ばして、俺たちが正しいんだって教えてやれば」
「馬鹿ね、コルンは。センとテセスは村へ報復されないか心配してるのよ。だったら、ダンジョンでクロを召喚して倒してもらったほうがいいわ。それなら私たちの犯行だってバレないじゃない。ね? セン」

 え? あ、いや、そんなことは考えていなかったのだけど。
 ちょっとリリアの雰囲気が怖くて、『違うよ』とは言い出せなかった……
 コルンはリリアの案に賛同して盛り上がっているし、テセスも『それならいいかも』と言っている。

「でもここじゃあ召喚できないからさ、やるんだったらケットリーパーのいる九階層よね。勇者はもう七階層を突破したんでしょ? 行ってみましょう」

 僕が何も言えないままどんどん話は進み、結局、テセスを除いた三人で八階層の終わり付近で様子を見ることになった。
 人数が少ないほうがバレにくいだろうということと、テセスは新しく習得した【料理】スキルを試したいとのことで、十階層に居残りである。
 止めてくれる気配は全くなかったので、僕が間違っているのかと心配になってしまう……

『勇者とともに世界を平和に』

 そんな風にユーグに言われたと思うのだが、八階層でリリアとコルンが楽しげに待ち構えているのを見ると、頭が混乱してくる。
 時々、周囲からスケルトンやグールが現れるけれど難なく倒し、勇者が来るのを今か今かと待ち構えていた。
 僕の手書きのマップによると、ここに来る道は一つだけ。
 その方向のみクロに見張らせて、あとは適当に魔物を退治し続けている。
 魔法では目立つからと、弓で魔物を退治するコルン。そして勇者を警戒するリリア。
 僕はハラハラしながら見守るばかりだ。

「来たっぽいよ。誰かを見つけてクロが戻ってきたわ」

 こんな奥まで来られる冒険者はまだ村にはいないはずだから、おそらく勇者で間違いないだろう。

「じゃあ、見つからないうちに下の階層に行かなきゃ。コルン、行くよっ」
「おっ、もう来たのか? 今行くよっ……と」

 矢を放ち、迫っていた一体のグールを倒してからコルンもまた九階層への道を進む。
 ダンジョンの九階層、そこにいるケットリーパーは黒猫の魔物。
 最初に来た時は魔物の相手は最小限にして、とにかく安全に早く着こうと十階層を目指していた。
 でも、改めてやってくると色々と違ったものが見えてくる。
 たとえば、ケットリーパーとは別のもう一種類の魔物。クロケットモールは地中を移動する、黄金色のモグラのようなやつだ。
 かなり硬そうな地面なのに平然と割って出てくるし、ダンジョンもまたすぐに地面を修復しちゃうので不思議としか言いようがない。
 使う技は混乱効果のある怪音波。これは歌にも聞こえるが、魔力を乗せた音の波といったものだとか。
 あとは『会心の一撃が出やすい引っ掻き攻撃』らしいのだが、クロケットモールが地中から完全に出てくることは今のところないので、この攻撃は見たことがない。
 どちらも『世界樹辞典ワールドティクショナリー』に載っている説明で、ヤマダさん監修なだけあってたまに意味のわからない言葉があるのが難点だ。
 この九階層の魔物素材は、『マタタビフルーツ』とかいう果物と、『じゃがいも』……なんでじゃがいも?
 とにかく、使えそうなアイテムがいっぱいであることもわかった。
 ただ、今は素材集めどころではないので、通路の奥まで下がって勇者を待つ。


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