【思案中】物見の塔の小少女パテマ 〜魔道具師パティのギルド生活〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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薬草採取とスライム

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「今日は追い出されたから仕方なくだからねっ」
「あ、はい。なんだかごめんなさい……」
 ざんばら髪を無理やり束ねて麻糸でグルグルと結び固定するパティ。
 武器と呼べそうな長い剣などは持たず、双手で髪を結びながら短く折りたたまれた刃物を一つ口に咥える姿が、シンにはまるで果物でも収穫しに行くように見えていた。
 一応は防具として革の胸当てがつけられてはいるが、ギルドにやってくる冒険者のように鉄の脛当てや冑などは装着していない。

 しかも、向かうのは町の門ではなく反対方向ときた。
 今から準備のために防具でも買いに行くのだろうか?
 そう考えながらも、自身の手持ちの金などほとんど無いことを知っているシンは不安でならなかった。

「あの……今からどこへ行くんですか?」
「どこって?
 一人前の冒険者になろうっていうのに、そんなことも知らないわけ?」
 賑わいを見せる町の大通りの隅を通りながら、パティの行く先を必死に追いかけるシン。
 少しずつ人気も減っていき、辿り着いたのは町の片隅にある共同墓地である。

 普段は滅多に入る者もおらず、年に二度の面会日を除いては一般人は立ち入り禁止とされている。
「亡くなった方のお墓参りも簡単にはできないんですね……」
 シンは墓地の中にいるスライムを見ながら、封鎖されている理由を知った。
「でも、冒険者には大事な場所。
 もちろんお墓を荒らしたりしちゃダメだけど、魔物の出る場所には良質な薬草が生えてくるのよ。
 さっ、スライム駆除がてら稼がせて貰いましょ!」

 たっ、と一足先に駆けていき、大きな墓を背に足元の草を手際良く採取していくパティ。
 小柄な身体で、別段動きが速いわけでもない。
 次から次へと移動していき、スライムの横を通る時も特に変わった行動はとりやしない。
 それでも、どこを見ているのか何を感じているのかもわからない丸いゼリー状のスライムには、まるでパティの姿が見えていないかのようである。

「うわっ、ちょっ……うぷっ……」
 余裕のパティに比べ、ゼリー状の物体が顔にまとわりつき、退治に手こずっているシン。
 細剣にもまとわりついてしまい、もはやそれは武器として機能していなかった。

 『たかがスライム』と甘く見ている新人冒険者は多い。
 中央の核を壊せばスライムは形状を保てなくなり動きを止める、と頭では理解しているものの、まさか武器を奪われ足を止められ、挙句は息すらさせてもらえなくなる。
 そんなことになるとは思わず、命を落とす……ような冒険者は、さすがに今の時代には存在しない。
 いくら無知でも、ギルドが存在してからは一応は一人前になるまでをギルドが面倒見るようになっている。
 つまり、シンもまた例外ではなく、こんなところで死ぬようなはずもないのだ。

 鮮やかな手捌きで、シンの顔の正面に存在していたスライムの核を突き刺したパティ。
 刃先はシンの眼球ギリギリまで迫っており、これに驚いたシンは完全に動きを止めてしまった。
 スライムはダラリとシンの身体からずり落ちていく。
「ゲホッ……ゲホッ……」
「剣が奪われたら逃げる。
 オールも無いのに小舟を海に浮かべるようなものよ。
 波にさらわれるのを待つだけなのがわからない?」
「す、すみません……」
 依然として刃先は目の前に置かれている。
 この一場面のみ切りとっていえば、恐喝でもしているかのようだが、シンはパティのこの行動に一切の不満は無かった。
 これだけ印象に残る出来事を、今後忘れることはないだろう……

【プロローグおわり】
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