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【第1話】 魔道具師パティ
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「いい加減にしなさいよパティ!」
物見の塔のあるギルドの建物内。
多くの冒険者がいる中、カウンター奥の扉の向こうからアビルマの怒号が聞こえてくる。
剣を持ち火や雷を生み出す魔術具を携えた冒険者たちは、いつもの変わらない光景に笑っていた。
ギルドの最上階からは、町を囲う塀の向こう、魔物の棲む荒野や森を見渡すことができた。
その物見の部屋と呼ばれる場所に、いつからか住み着いているのが幼い見た目のパテマ、通称パティである。
「だ、だってぇ……
ウルルラビットの毛皮の仕上げには乾燥した火龍草が一番なんだもん……」
「で? 毛艶を出す為に磨いていたらウッカリと濡らしてしまったってわけ?」
乾燥させた火龍草は、水に触れ戻ろうとする際に内部のマナが急激に暴れ出す。
カルディナという世界ではマナは一般的であり、魔道具もまた、このマナの影響で効果を生み出している。
「で、でも爆発前にちゃんと止めたよっ!」
パティは食い下がる。
ここで火龍草を使用禁止にされるのは辛かったのだ。
涙目になりながら訴えかけるも、アビルマは断固拒否。
二人の前に置かれた黒焦げた木箱を見れば、誰だって同じ結論に至るだろう。
「ダメ、今後火龍草の使用は一切禁止だよっ!
それに、アンタどこで手に入れたのよ?
まさかとは思うけど……」
なにか思い当たることがあるらしく、アビルマはパティに詰め寄る。
「あ、あはは……一個だけだよ……」
一個というのは魔道具のことである。
魔道具の売り買いは基本的にギルドを通さなくてはいけないが、許可を得た道具屋などでも一部は取扱いがあった。
こっそりと魔道具を売り捌き、そのお金で私欲の為に火龍草を買い求めていた、というのが真相である。
『一個だけ』というパティの言葉で全てを察したアビルマはさらに激昂する。
「ごごご、ごめんなさぁぁぁいい!!」
そんなパティの叫び声とアビルマの怒号が聞こえてくるのは、もはやギルドでは定例行事であったのだ。
「罰として新人研修!
ちょうどアンタの好きそうなウブな子が来てるよ。
……ったく、今回は『死ななきゃ大丈夫』みたいなことしないでおやりよ。
前の若い子なんて毎度ビクビクしながらギルドに来てたんだからねっ」
「はぁーい……」
アビルマに命じられ、しゅん……としょげた様子のパティ。
内心では小言を聞かなくて済んだ分、いつもよりは気が楽だった。
研修の内容は『冒険者としての心得』を教えることであり、決して剣や魔道具の扱いを教えるわけではない。
通常ならば数日かけて教本を使い教えていくものではあるが、そんなまどろっこしいことをパティがするはずもなかった。
生活の大半はこの物見部屋で過ごしており、人に会うことも少ないせいか髪は乱れたまま。
それが肩の下まで伸びてくると、煩わしいのか自身で適当に切ってしまうものだからひどいものである。
一応は冒険者の資格も持っており、人にものを教えるほどの実力はあるのだが、そんなことよりも魔道具に向き合う方が彼女には優先すべきことだった。
「仕方ないなぁ……」
そう呟きながらボサボサのザンバラ髪を掻きむしりながら下へと降りていくパティ。
ダボついた麻の服の上から、気休め程度の胸当てをつける。
その胸当てもまた女性用ではなく男性用の大きなものを、まるでショルダーバッグの様に肩にかけているのだから、なにも知らない冒険者から見てみればふざけた格好であった……
物見の塔のあるギルドの建物内。
多くの冒険者がいる中、カウンター奥の扉の向こうからアビルマの怒号が聞こえてくる。
剣を持ち火や雷を生み出す魔術具を携えた冒険者たちは、いつもの変わらない光景に笑っていた。
ギルドの最上階からは、町を囲う塀の向こう、魔物の棲む荒野や森を見渡すことができた。
その物見の部屋と呼ばれる場所に、いつからか住み着いているのが幼い見た目のパテマ、通称パティである。
「だ、だってぇ……
ウルルラビットの毛皮の仕上げには乾燥した火龍草が一番なんだもん……」
「で? 毛艶を出す為に磨いていたらウッカリと濡らしてしまったってわけ?」
乾燥させた火龍草は、水に触れ戻ろうとする際に内部のマナが急激に暴れ出す。
カルディナという世界ではマナは一般的であり、魔道具もまた、このマナの影響で効果を生み出している。
「で、でも爆発前にちゃんと止めたよっ!」
パティは食い下がる。
ここで火龍草を使用禁止にされるのは辛かったのだ。
涙目になりながら訴えかけるも、アビルマは断固拒否。
二人の前に置かれた黒焦げた木箱を見れば、誰だって同じ結論に至るだろう。
「ダメ、今後火龍草の使用は一切禁止だよっ!
それに、アンタどこで手に入れたのよ?
まさかとは思うけど……」
なにか思い当たることがあるらしく、アビルマはパティに詰め寄る。
「あ、あはは……一個だけだよ……」
一個というのは魔道具のことである。
魔道具の売り買いは基本的にギルドを通さなくてはいけないが、許可を得た道具屋などでも一部は取扱いがあった。
こっそりと魔道具を売り捌き、そのお金で私欲の為に火龍草を買い求めていた、というのが真相である。
『一個だけ』というパティの言葉で全てを察したアビルマはさらに激昂する。
「ごごご、ごめんなさぁぁぁいい!!」
そんなパティの叫び声とアビルマの怒号が聞こえてくるのは、もはやギルドでは定例行事であったのだ。
「罰として新人研修!
ちょうどアンタの好きそうなウブな子が来てるよ。
……ったく、今回は『死ななきゃ大丈夫』みたいなことしないでおやりよ。
前の若い子なんて毎度ビクビクしながらギルドに来てたんだからねっ」
「はぁーい……」
アビルマに命じられ、しゅん……としょげた様子のパティ。
内心では小言を聞かなくて済んだ分、いつもよりは気が楽だった。
研修の内容は『冒険者としての心得』を教えることであり、決して剣や魔道具の扱いを教えるわけではない。
通常ならば数日かけて教本を使い教えていくものではあるが、そんなまどろっこしいことをパティがするはずもなかった。
生活の大半はこの物見部屋で過ごしており、人に会うことも少ないせいか髪は乱れたまま。
それが肩の下まで伸びてくると、煩わしいのか自身で適当に切ってしまうものだからひどいものである。
一応は冒険者の資格も持っており、人にものを教えるほどの実力はあるのだが、そんなことよりも魔道具に向き合う方が彼女には優先すべきことだった。
「仕方ないなぁ……」
そう呟きながらボサボサのザンバラ髪を掻きむしりながら下へと降りていくパティ。
ダボついた麻の服の上から、気休め程度の胸当てをつける。
その胸当てもまた女性用ではなく男性用の大きなものを、まるでショルダーバッグの様に肩にかけているのだから、なにも知らない冒険者から見てみればふざけた格好であった……
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