【思案中】物見の塔の小少女パテマ 〜魔道具師パティのギルド生活〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
33 / 90

捕獲作成終了

しおりを挟む
「前に教わったことを一個一個思い出してみたんです」
 シンはようやく捕らえたピアラビットを手に、フェルトの元にやってきていた。
「まさか魔物にそんな性質があったなんて思わなかったよ。
 でも確かにアイツらは草むらにしかいないからね」
「一応他にも考えはあったんですよ。
 草むら全体を凍結させてピアラビットの動きを止めちゃうとか」
「あははっ、それはさすがに無理でしょシンさん。
 そんな強力な魔道具があったら、見てみたいものですよ」
「えっ……と、そうですよねっ!
 素材だけで幾らかかってるのかわからないですし、こんなことには使えないですよねっ」
 小さなねずみ取りにかかった2匹のピアラビット。
 解体についてはベルクラウスが一からやってくれることになり、そのねずみ取りごと動く魔物を手渡すことになった。
 罠の仕掛けには綿花が詰められていて、どうやらピアラビットはこの綿花に引き寄せられたのだろうと推察するベルクラウス。
 手元にはもう1匹のピアラビットが置かれており、そちらはベタベタとした粘着性のあるものが毛にまとわりついていた。
「ったく……こんな捕まえ方があるなら早く教えろっつーの……」
「ベルさん、こっちのピアラビットはどうするんですか?」
 同じ解体の作業を行う仲間が、山のように積まれたピアラビットを指差して問う。
「うるせぇっ、そんなもん捨てておけっ!」
 イライラとさせられるベルクラウス。
 とりもちで動きを封じるのは簡単だったが、その際に付いた汚れを取り除く方が大変だった。
 捕まえてさえしまえば毛皮に使える部位を避けて核を破壊することは簡単だ。
 あっという間に2匹のピアラビットは小さな毛皮となり、それを渡されたフェルトも大満足の様子。
 問題があるとすれば、大量に大きな罠を作成する必要があることだ。
 ただ、それ自体は時間さえかければどうにかなることで、フェルトは早速その罠を注文する手筈を整えた。

 その一連のやりとりを見てアビルマも声をかける。
「はぁ、ようやく出来たのかい?」
「あ、はいっ。
 『マナの近い所に集まる』ということを思い出したら、それほど難しくありませんでした」
 形を成していないスライムはともかく、多くの魔物は似たマナを感じると近づく習性を持っている。
 町の近くには強い魔物は滅多に出ず、山奥だと手強い魔物ばかりだったりすることは知られているが、その原因は魔物のこの習性によるものだと。
 そうパティから教わっていたのだ。
 仲間同士で集まり群れをなす。
 それは、もしかしたらそのようにプログラムされており、より強大な魔物によって破壊されることを防ぐためなのかもしれない。
 シンはパティの言った『プログラム』の一言から、そこまで考えを広げて行動をとったのだ。
 それを嬉しそうにアビルマに報告するシン。
「それは良かったよ。
 ほら、さっさと上にいるあの子にも報告してきてやんな」
「そ、それなんですけど……ちょっと待ってください」
 報酬として銅貨30枚、色をつけてあと5枚を受け取ったシンは、先に買い物に行きたいと言う。
 待ち焦がれたマナの感じる剣を買うのだろう。
 その話を以前から聞かされていたアビルマはそう思った。
「まぁ仕方ないさね。
 なるべく早く戻るんだよ」
「はいっ、また来ますっ!」
 シンは急くようにギルドを後にして、町に消えていったのだ。
「やれやれ、パティの機嫌が悪いって知ったらどう思うかねぇ?」
 アビルマはため息を一つ吐き、毛皮を持つフェルトに目をやった。
「昨日はずっと食べてないんでしょ?
 何かあったんですか?」
 アビルマの視線には当然フェルトも気付いていた。
 フェルトもまた、依頼が片付いたらシンはすぐにパティの元に行くだろうと思っていたのだ。
「一人で考え込んじゃっても、良いことなんて全く無いってのに」
 早く帰ってこないだろうか?
 きっと下が騒がしいことにパティも気付いていて、シンが来るんじゃないかと待っているだろう。
 今頃モヤモヤして周囲の物に八つ当たりでもしているだろうか?
 受付に立つ二人は、そんな風に全く同じことを想像していたのだった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

処理中です...