35歳ニートがテストプレイヤーに選ばれたのだが、応募した覚えは全く無い。

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
25 / 41

21話

しおりを挟む
「ねぇ……本当に良かったの?」
「良いのよ……言ったでしょ、この世界はゲームなんだって」
 暗い夜道を、チャッピーは茜と共に小さな村から逃げるように歩いていた。

 死んだらそこで終わりのデスゲーム。
 チャッピー的には、その呼び名が一番しっくりとくるらしい。
 そんな世界で助かる方法はただ一つ。
『最恐のモンスターを殺すこと……』

「でも、やっぱりリアル過ぎて……うぅ……」
 小さな村で一人の冒険者を雇った二人だったのだが、すぐにその冒険者はパーティーから離脱していた。
 解散したのではない、死んだのだ。
「もう覚悟は決めたじゃないのよ。
 それに後ろから刺したのは私だけど、あなたももう共犯なのよ」

 遂にやってしまったのだ。
 バグ技であるレアスキル解禁方法。
 今日の夜……いや明日の朝くらいにでも、あの冒険者の知り合いは悲しむのだろう。
 だが、それはあくまでもAIによる行動である。
 頭では理解できても、心がそれを拒否してしまうのだった。

 それから一週間ほどして、スノウとアイズの住むアールフォートの街では市場が混乱する出来事が起きていた。
「なんで買い取ってくれねぇんだ!
 いつでも相場価格で買い取るからこそ、今のギルドが成り立ってるんじゃねぇのかよ!」

 狩りに出向き野営までして、三日ぶりに街に戻った冒険者の出した素材は、なぜか親父さんから買取り不可と言われたのだ。
 別に素材が悪いわけではなく、ギルドに蓄えられた資金が底を尽きそうだっただけである。

「本当にすまねぇ……だが、これ以上買取ばかりが続いちゃあ、運営が続けられねぇんだ……」
 つい先日、少女たちが多くの素材を持ってきたらしい。
 若いのに腕が立つのだなと、普通に感心したそうだ。

 僕もその場にいたから、姿だけはなんとなく覚えている。
 人間と、あまり見かけないけれど獣人の少女の二人組だった。
 ホットミルクを飲みながら、珍しい素材を買い取る親父さんの嬉しそうな表情を見ていたのだ。

「親父さん、この間買い取った素材を売ったらダメなの?」
「バカ言うな!
 ポーションじゃあるめぇし、あんな高価なもん、そんなホイホイ売れるわけねぇだろうが!」
 確かに宝石系の素材は高い。
 求婚や見栄で買う者がほとんどで、正直装備品としては価値は無い。
 なぜなら加工できる者がいないから。

 僕も、装備生成スキルのレベルがようやくカンストし、そこから派生した【装飾生成スキル】を習得してようやく加工できるようになったくらいなのだ。
 だから、正直ずっと宝石系の素材が欲しかった。

「僕が買い取っちゃダメ?
 えっと……150万Gくらいなら出せたと思うんだけど」
 とは言うものの現金は持ち歩いていない。
 ほぼ全てアイズが管理をしているからだが、その管理場所がギルドの隠し金庫なのだ。

「もうスノウ! 無駄遣いしちゃダメだって言ってるじゃないの!」
 ビールを運びながら、アイズは僕に注意する。
 そうは言っても資本金がなければ運営はできまい。
「仕方ないわね……今回だけだからね!」
「お、おう。悪りぃ、ちょっと待ってな……」
 親父さんが奥の部屋に行く。
 買取を拒否されていた冒険者も、待たされることにイライラしている様子。

「良かったら座って待っててよ。
 迷惑をかけたお詫びに、きっと、アイズがビールを用意してくれるからさ」
 チラッとアイズの方を見る僕。
「んもうっ……ごめんなさい、よかったら一杯奢るから飲んでいきなさいよ」
 冒険者もそこまで言われれば怒りも収まってしまったようだ。

「ぷはぁっ!
 全く、俺がモンスターと戦っている間にどうしちまったんだか……」
 僕の前に座って、勢い良くビールを飲む冒険者。
「可愛い女の子たちだったよ。
 ここで毎日飲んでいれば会えるんじゃないかなぁ?」
「おっ、そうか。
 だったら俺も、ちょっと通い詰めてみるかなぁ」

 独身の男には気になる存在らしいのだ。
 僕もこんなに小さくなければ、いっぱしの男並みには女性に興味はある。
 まぁ、いつもアイズがいるから僕は幸せなのだけど。

 それにしても、今まで見たことのないタイプの冒険者だった。
 目の前の男ではなく、その少女二人組。
 冒険者が少女というだけでも珍しいのに……

「おうっ、待たせたな!」
 奥の部屋からお金と宝石を持ってきて親父さん。
 金庫の中から、宝石の代金135万Gを引かせてもらったと言う。
 残金が幾らかを聞いてみたら、実はまだ半分あるのだそう。

【ペリドット:風への強い抵抗力を備えた魔宝石】
【ルビー:火への強い抵抗力を備えた魔宝石】
 なるほど、魔法と宝石を合わせて魔宝石なのか。
 素材さえ手に入れば、持っていたスキルで入手方法もわかるし、先行投資だと思えば全然高い買い物ではない。

【風のブレスレット:物理と魔法に対する高い抵抗力を持つ、素早さ上昇効果】
【炎のコサージュ:武器による攻撃に属性を付与する効果をもつ、攻撃力上昇効果】

 もはやエンドコンテンツではないか?
 最初に来た街で、もうすでに裏ボスと戦える力があるんじゃないか……
 僕はギルドでミルクを飲みながら、装飾品を作りながら、そんなことを思うのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...