35歳ニートがテストプレイヤーに選ばれたのだが、応募した覚えは全く無い。

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
26 / 41

22話

しおりを挟む
「す、すまねぇ……
 もうお嬢ちゃんたちの素材は買い取れねぇんだ……」
 親父さんがいつもの少女二人組に謝罪を述べている。
 そりゃあ毎日のように高価な素材を売りにこられては、ギルドの運営資金は底を尽きてしまう。

「ちぇっ……しょうがないわね」
「ねぇチャッピー、そろそろ別の街に行った方が良いんじゃないの?」
「そうね……ラスボスの手がかりも見つかったし。
 それに、スキルレベルもこの街じゃこれ以上は無理そうだわ……」

 きっと、何か理由があってお金が欲しいんだろうな。
 それにしてもチャッピーと呼ばれた獣人は、えらくピリピリした雰囲気だなぁ。
「……ん? チャッピー?」
「なによ、誰か私のこと呼んだ?」
 聞き覚えのある名前に僕の手は止まり、ふと二人の少女と目があってしまう。

「女の子? んー……でもどこかで……
 茜の知ってる子?」
「私も知らないわチャッピー。
 毎日ここに座っているから、見覚えがあるだけじゃないの?」
 僕を見てヒソヒソと会話をする二人。
 確かにコサージュとブレスレットまで着けている僕が男に思われる方が珍しい。

「いや、同じ名前の変なマスコットキャラがいたなぁって思ってさ。
 ごめん、気にしないでよ」
 語尾も普通だし、キャラクターがいきなりNPCとして出てくるなんて考えられないよ。
 たまたま同じ名前の設定になっちゃただけだろうな、獣人だし。

 しかし、僕の話を聞いた二人の動きは固まってしまう。
 どうしたのかと、僕も二人の方を再びチラリ。
「ねぇ……そのマスコットって、犬か猫みたいなやつで、語尾に『のら』なんて付けてないわよねぇ……」

 獣人の子が僕に詰め寄ってくる。
 ドキッとしてしまったが、僕は冷静になって『そういえばそうだったかなぁ~』なんて返す。
 な、何か変なことを言ってしまったのか?
 っていうか、それを知っているこの獣人族の少女は実はプレイヤーなのか?

「わかった!
 君たちも、あの変なマスコットを探しているんだね?」
 それなら納得だ。
 ようやく初めての他のプレイヤーに出会えたのだ。
 そんな気持ちで僕は嬉しくなった。

「違うわよっ!
 私がそのチャッピーよ! 変で悪かったわね!」
 せっかくプレイヤーだったというのに、なかなかに最悪な挨拶で迎えた出会い。
 隣にいる茜という女性はチャッピーの親友らしいのだけど、どうやら好きでこのゲームの世界に来たのではないと言う。

「う……うん。
 確かに声はそんな感じのアニメ声だったけどさぁ……」
「わかればいいのよ。
 それと、このゲームを終わらせるのにアンタにももちろん協力してもらうわよ」
「えっ? あー……ログアウトできるんだぁ……」

 実はかなり諦めていた。
 それっぽいシステムを見れるようにはなってきたが、いつまでもログアウトの項目は表示されないでいたのだ。
 現実の僕はどうなっているかなんて、もはやどうでもいいことだった。
 家族のことは気になるけれど、滅多に口を聞くこともない。

 今の僕にとっては、そんな世界よりも、このゲームの世界が現実になりつつあったのだ。
「できるんだぁ……じゃないわよ!
 こんな世界、早く出たいんだからラスボスを倒しに行くわよっ!」
 どうしてそんなに切羽詰まる勢いでまくし立てるのだろうか?
 ゲームなのだから、もう少しのんびりしてもいいんじゃないのか?

「あ……あの……」
 隣にいた茜も口を開く。
「実は、チャッピー……指名手配されちゃってて……」
 なにを突然言うのかと。
 チャッピーがイライラとする横で茜は僕に説明するが、要約すると色々な街や村でやりたい放題だったらしい。

「ふんっ……そんなに嫌なら別にいいわよ。
 どうせレアスキルの習得方法も知らないようなプレイヤー、放っておいたらどこかでのたれ死んでるに決まってるわ」
 チャッピーがそう言い残してギルドから出て行く。
 茜もそれを追いかけて、僕は再び一人になってしまった。

「おうっ、なんかよくわかんねぇが、面倒そうなのに巻き込まれちまったな」
「うーん、そうなのかなぁ……?
 でも、あの様子だったら多分、もうギルドには来ないと思うよ」
「そうか、そうだと助かるんだが」

 親父さんがカウンターに頬杖をつきながら出入り口を眺めている。
 本当に嵐のような少女たちだったとでも思っているのだろう。

 しかし、非常に気になることをいくつか喋っていた。
 一つはラスボスの存在。
 放っておいたら世界が崩壊するとか、そんなものでなければいいのだが。
 そしてレアスキル。
 入手方法をチャッピーは知っているようだった。
 どんなものかは知らないけれど、ラスボスと戦うためには必須のスキルなのだろう。

 そしてもう一つ。
 なぜ……あのマスコットのチャッピーは、プレイヤーとなって街にやってきたのか……である。
 色々と秘密がありそうで不安ばかりが募ってしまう。

 そして僕は、翌朝になって二人の宿泊する宿を訪ねたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...