35歳ニートがテストプレイヤーに選ばれたのだが、応募した覚えは全く無い。

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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22話

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「す、すまねぇ……
 もうお嬢ちゃんたちの素材は買い取れねぇんだ……」
 親父さんがいつもの少女二人組に謝罪を述べている。
 そりゃあ毎日のように高価な素材を売りにこられては、ギルドの運営資金は底を尽きてしまう。

「ちぇっ……しょうがないわね」
「ねぇチャッピー、そろそろ別の街に行った方が良いんじゃないの?」
「そうね……ラスボスの手がかりも見つかったし。
 それに、スキルレベルもこの街じゃこれ以上は無理そうだわ……」

 きっと、何か理由があってお金が欲しいんだろうな。
 それにしてもチャッピーと呼ばれた獣人は、えらくピリピリした雰囲気だなぁ。
「……ん? チャッピー?」
「なによ、誰か私のこと呼んだ?」
 聞き覚えのある名前に僕の手は止まり、ふと二人の少女と目があってしまう。

「女の子? んー……でもどこかで……
 茜の知ってる子?」
「私も知らないわチャッピー。
 毎日ここに座っているから、見覚えがあるだけじゃないの?」
 僕を見てヒソヒソと会話をする二人。
 確かにコサージュとブレスレットまで着けている僕が男に思われる方が珍しい。

「いや、同じ名前の変なマスコットキャラがいたなぁって思ってさ。
 ごめん、気にしないでよ」
 語尾も普通だし、キャラクターがいきなりNPCとして出てくるなんて考えられないよ。
 たまたま同じ名前の設定になっちゃただけだろうな、獣人だし。

 しかし、僕の話を聞いた二人の動きは固まってしまう。
 どうしたのかと、僕も二人の方を再びチラリ。
「ねぇ……そのマスコットって、犬か猫みたいなやつで、語尾に『のら』なんて付けてないわよねぇ……」

 獣人の子が僕に詰め寄ってくる。
 ドキッとしてしまったが、僕は冷静になって『そういえばそうだったかなぁ~』なんて返す。
 な、何か変なことを言ってしまったのか?
 っていうか、それを知っているこの獣人族の少女は実はプレイヤーなのか?

「わかった!
 君たちも、あの変なマスコットを探しているんだね?」
 それなら納得だ。
 ようやく初めての他のプレイヤーに出会えたのだ。
 そんな気持ちで僕は嬉しくなった。

「違うわよっ!
 私がそのチャッピーよ! 変で悪かったわね!」
 せっかくプレイヤーだったというのに、なかなかに最悪な挨拶で迎えた出会い。
 隣にいる茜という女性はチャッピーの親友らしいのだけど、どうやら好きでこのゲームの世界に来たのではないと言う。

「う……うん。
 確かに声はそんな感じのアニメ声だったけどさぁ……」
「わかればいいのよ。
 それと、このゲームを終わらせるのにアンタにももちろん協力してもらうわよ」
「えっ? あー……ログアウトできるんだぁ……」

 実はかなり諦めていた。
 それっぽいシステムを見れるようにはなってきたが、いつまでもログアウトの項目は表示されないでいたのだ。
 現実の僕はどうなっているかなんて、もはやどうでもいいことだった。
 家族のことは気になるけれど、滅多に口を聞くこともない。

 今の僕にとっては、そんな世界よりも、このゲームの世界が現実になりつつあったのだ。
「できるんだぁ……じゃないわよ!
 こんな世界、早く出たいんだからラスボスを倒しに行くわよっ!」
 どうしてそんなに切羽詰まる勢いでまくし立てるのだろうか?
 ゲームなのだから、もう少しのんびりしてもいいんじゃないのか?

「あ……あの……」
 隣にいた茜も口を開く。
「実は、チャッピー……指名手配されちゃってて……」
 なにを突然言うのかと。
 チャッピーがイライラとする横で茜は僕に説明するが、要約すると色々な街や村でやりたい放題だったらしい。

「ふんっ……そんなに嫌なら別にいいわよ。
 どうせレアスキルの習得方法も知らないようなプレイヤー、放っておいたらどこかでのたれ死んでるに決まってるわ」
 チャッピーがそう言い残してギルドから出て行く。
 茜もそれを追いかけて、僕は再び一人になってしまった。

「おうっ、なんかよくわかんねぇが、面倒そうなのに巻き込まれちまったな」
「うーん、そうなのかなぁ……?
 でも、あの様子だったら多分、もうギルドには来ないと思うよ」
「そうか、そうだと助かるんだが」

 親父さんがカウンターに頬杖をつきながら出入り口を眺めている。
 本当に嵐のような少女たちだったとでも思っているのだろう。

 しかし、非常に気になることをいくつか喋っていた。
 一つはラスボスの存在。
 放っておいたら世界が崩壊するとか、そんなものでなければいいのだが。
 そしてレアスキル。
 入手方法をチャッピーは知っているようだった。
 どんなものかは知らないけれど、ラスボスと戦うためには必須のスキルなのだろう。

 そしてもう一つ。
 なぜ……あのマスコットのチャッピーは、プレイヤーとなって街にやってきたのか……である。
 色々と秘密がありそうで不安ばかりが募ってしまう。

 そして僕は、翌朝になって二人の宿泊する宿を訪ねたのだった。
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