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1章 ダンジョンと少女

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 さらに険しい奥地は、もはや森の中といってよいものであった。
 地面には湿った落ち葉が積もっていて、踏むたびにぐちゃぐちゃと音を立てて水が飛び跳ねる。

 大木のそばには苔も生えており、いかに日光が当たらないのかがよくわかる。

「私はルアノ。二人はどうしてここに?」
 先頭を歩く女のその質問に、凍花は『気付いたらこんなところに……』と答える。
 その後ろをラビも歩き、その手は凍花の腕を掴んでいた。

 すぐ先に小屋は確かに存在した。
 一際大きな木に屋根のついた平屋が乗っていて、一本の枝には縄梯子が垂れ下がっている。
「うわぁ……」
 その見事な建築技術に、凍花は思わず感動してしまう。
 ツリーハウスというものを見るのは、日本での生活を含めても初めてなのである。

 小さな頃に男の子が秘密基地を作っていた、なんてレベルの話ではない。
 世界には目の前のものより大きなツリーハウスも存在するのだろうが、2、3人が休むには十分すぎる大きさのそれに見惚れてしまうのだった。

「もしかして、ルアノさんはここで生活しているんですか?」
「そんなわけないじゃない。ふふ……」
 縄梯子を一歩、また一歩。

 建物にはドアもついており、開けた先にはしっかりとした部屋になっている。
 しかし、家財道具らしきものは存在せず、生活している様子は感じられない。
 まさに休むために作られた小屋が存在し、凍花とラビはそこで横になったのである。

 入り口の傍には弓と矢筒。
 それを担いだルアノは冒険者なのであろうか?
「ちょっと周りの様子を見てくるわね」
「あ、ルアノさ……」
 パタンとドアは閉じられて、凍花が声をかけるもルアノはすぐにどこかへ行ってしまった。

 ……静かな小屋の中に鳥の囀りが聞こえてくる。
 環境が突然変わり、思うことはあっても言葉として出てこない。
 次から次へと情報が入り、凍花は何がどうなっているのか理解が追い付かない。
「優しそうな人でしたね……」
 ラビはそう呟くと、すやすやと寝息をたてており、それが凍花の心を少しだけ癒してくれる。

 日も沈みかけた頃、鳥の羽ばたく音が聞こえたと思うとルアノが小屋に戻ってきた。
 手には野草といくつかの果物があり、それらを凍花たちに渡して再び外へ出ようとしていた。

 次に戻ってくるのは明け方か深夜か?
 タイミングを逃せばいつまでも話ができないかもしれない。
「教えてほしいことがあるんですけど、村に向かうにはどっちに行くといいんですか?」
 凍花が話しかけると、ドアノブに手をかけたままルノアはフッと頭上を見上げてから一呼吸おいて答えた。
「村? それなら向こうの方になるわね。
 でも今日は遅いから明日にするといいわ」
 聞きたかったことはすんなりと聞けたところで、ニコッとした笑顔で外に出ていくルノア。

 ラビはぐっすりと寝ており、少し経って凍花もスライムを枕にして寝ることにしたのである。
 


 
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