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1章 ダンジョンと少女
エルフ
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「ふふふ、ぐっすり寝ているわ」
深夜、二人の寝静まったころに小屋に入ってくる人影があった。
フードを取り、その長いブロンドの髪を後ろにかき分ける。
指の隙間からは先の尖った長い耳が現れ、女は不敵な笑みを浮かべていた。
「いえ、念には念を……あぁ、今日はなんて極上の獲物なのかしら……」
ゆっくりと近づき、手に構えた弓の弦をしっかりと引き絞る。
真っ暗な小屋の中で、大きな二つの影が寝そべっているのを確認し、その頭部と思しき箇所めがけて屋を向ける。
あとは弦をつかむ指を離すだけで一体の獲物を仕留めることができるのだ。
さすがに頭部を射抜かれては声を上げることもできぬであろう……
すぐにもう一匹も肉塊にして美味しくいただいてやろうではないか。
「さようなら、罠にかかった羽虫どもよ……」
そして矢は頭部を見事に射抜いたのである。
その少し前、凍花はさすがに女の怪しさに首をひねっていた。
ラビを見ても驚くわけでもなく、さも当然かのようにふるまっていた。
「あの村だけが獣人を魔物扱いしてるって感じでもなかったしなぁ……」
そもそも肌を露出させた女性が一人で森の奥地にいるだろうか?
小一時間で着くような場所に村はなさそうで、その場所を言う時でさえも一呼吸の間をおいていた。
そもそも、その村の住人であるならば、自分たちがどれだけ遠いところから迷い込んできたのかと心配になるレベルの話であろう。
「仕方ない……疑いたくはないけど、殺されるよりはマシだしね」
すでに周囲は真っ暗闇。
灯りも無く、目の前にいるはずのラビでさえ輪郭くらいしかわからない。
夜目が効くようになって、ようやくこれである。
……そして完全に寝静まるであろう深夜。
部屋の隅で息をひそめていた凍花は、残念なことに予想していた中で最悪なルアノの姿を見ることとなった。
『シュッ……バキッ』
矢は躊躇なく頭を射抜き、頭蓋骨は完全に砕けてしまう。
思いのほか大きな音が出てルアノは少し驚いた様子であったが、そのまま次の矢を番えて放つと再び骨の砕ける音が響くのだった。
「……あら?
不思議な人間もいたものね……」
ルアノがそんなことを言うのも無理はない。
通常、人は死んでも姿はそのままである。
いくら暗闇とはいえ、そのシルエットが消えるなどということはありえないのだ。
そんなルアノの疑問に答えるように、凍花は部屋の隅から話しかける。
「そりゃまぁ……魔物だから消えて当然よね。
ちなみに……貴方の場合は消えるのかしらね?」
その声に驚いたルアノは、再び矢を番えて即座に放つ。
その動作に一切の躊躇はないが、矢はどうしてか影まで届かない。
その影の手前にある何かが、ルアノの攻撃を防いでいたのだ。
「レイスたち、捕まえちゃって!」
ヒュウと風が吹いたようにルアノの周囲にレイスが集まると、そのまま身動きが取れない程にルアノを壁際に押し付けていた。
物理耐性持ちの魔物を召喚し、影武者にはスケルトンを2体用意した。
骨を曲げてシルエットを整えて待った結果なのだが、本音を言えば杞憂で終わってほしかったと思う凍花。
「エルフみたいな耳だったし、女性だから油断しそうにはなったよ。
でも、そんな常識は通用しないんだって、ちょっと前に知ったばかりだったからさ。
君たちも生きてるんだものね……ごめんね」
殺されそうになって、そのまま生かしておくわけにはいかなかった。
願わくば仲間になってほしかったし、エルフからダンジョンの情報が得られる可能性だってあった。
それでも、翌朝までなどという甘い考えを持てばきっと次は確実に殺されるであろう。
寝ずに見張っていても、おそらく油断や隙が生じてしまう。
「君のことは蜘蛛みたいな存在だったって、日本に戻ったら伝えることにするよ」
罠を仕掛けて獲物を待つ。
益虫である蜘蛛には申し訳ないとさえ思ってしまう。
そうしてラビが寝ている側で、ジェラートスライムによって氷漬けになり息絶えるルアノであった。
深夜、二人の寝静まったころに小屋に入ってくる人影があった。
フードを取り、その長いブロンドの髪を後ろにかき分ける。
指の隙間からは先の尖った長い耳が現れ、女は不敵な笑みを浮かべていた。
「いえ、念には念を……あぁ、今日はなんて極上の獲物なのかしら……」
ゆっくりと近づき、手に構えた弓の弦をしっかりと引き絞る。
真っ暗な小屋の中で、大きな二つの影が寝そべっているのを確認し、その頭部と思しき箇所めがけて屋を向ける。
あとは弦をつかむ指を離すだけで一体の獲物を仕留めることができるのだ。
さすがに頭部を射抜かれては声を上げることもできぬであろう……
すぐにもう一匹も肉塊にして美味しくいただいてやろうではないか。
「さようなら、罠にかかった羽虫どもよ……」
そして矢は頭部を見事に射抜いたのである。
その少し前、凍花はさすがに女の怪しさに首をひねっていた。
ラビを見ても驚くわけでもなく、さも当然かのようにふるまっていた。
「あの村だけが獣人を魔物扱いしてるって感じでもなかったしなぁ……」
そもそも肌を露出させた女性が一人で森の奥地にいるだろうか?
小一時間で着くような場所に村はなさそうで、その場所を言う時でさえも一呼吸の間をおいていた。
そもそも、その村の住人であるならば、自分たちがどれだけ遠いところから迷い込んできたのかと心配になるレベルの話であろう。
「仕方ない……疑いたくはないけど、殺されるよりはマシだしね」
すでに周囲は真っ暗闇。
灯りも無く、目の前にいるはずのラビでさえ輪郭くらいしかわからない。
夜目が効くようになって、ようやくこれである。
……そして完全に寝静まるであろう深夜。
部屋の隅で息をひそめていた凍花は、残念なことに予想していた中で最悪なルアノの姿を見ることとなった。
『シュッ……バキッ』
矢は躊躇なく頭を射抜き、頭蓋骨は完全に砕けてしまう。
思いのほか大きな音が出てルアノは少し驚いた様子であったが、そのまま次の矢を番えて放つと再び骨の砕ける音が響くのだった。
「……あら?
不思議な人間もいたものね……」
ルアノがそんなことを言うのも無理はない。
通常、人は死んでも姿はそのままである。
いくら暗闇とはいえ、そのシルエットが消えるなどということはありえないのだ。
そんなルアノの疑問に答えるように、凍花は部屋の隅から話しかける。
「そりゃまぁ……魔物だから消えて当然よね。
ちなみに……貴方の場合は消えるのかしらね?」
その声に驚いたルアノは、再び矢を番えて即座に放つ。
その動作に一切の躊躇はないが、矢はどうしてか影まで届かない。
その影の手前にある何かが、ルアノの攻撃を防いでいたのだ。
「レイスたち、捕まえちゃって!」
ヒュウと風が吹いたようにルアノの周囲にレイスが集まると、そのまま身動きが取れない程にルアノを壁際に押し付けていた。
物理耐性持ちの魔物を召喚し、影武者にはスケルトンを2体用意した。
骨を曲げてシルエットを整えて待った結果なのだが、本音を言えば杞憂で終わってほしかったと思う凍花。
「エルフみたいな耳だったし、女性だから油断しそうにはなったよ。
でも、そんな常識は通用しないんだって、ちょっと前に知ったばかりだったからさ。
君たちも生きてるんだものね……ごめんね」
殺されそうになって、そのまま生かしておくわけにはいかなかった。
願わくば仲間になってほしかったし、エルフからダンジョンの情報が得られる可能性だってあった。
それでも、翌朝までなどという甘い考えを持てばきっと次は確実に殺されるであろう。
寝ずに見張っていても、おそらく油断や隙が生じてしまう。
「君のことは蜘蛛みたいな存在だったって、日本に戻ったら伝えることにするよ」
罠を仕掛けて獲物を待つ。
益虫である蜘蛛には申し訳ないとさえ思ってしまう。
そうしてラビが寝ている側で、ジェラートスライムによって氷漬けになり息絶えるルアノであった。
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