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1章 ダンジョンと少女
シノクラの宿
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「お姉ちゃん、ここじゃないですか?」
「本当に街のハズレにあるんだね。
まぁ贅沢言える立場じゃないんだけどね。
すみませーん……」
良く言えば味がある、悪く言えばボロっちい。
そんな看板も無い木造二階建ての宿が街の隅に建っている。
中に入ると薄暗いロビーが広がっていて、数人の冒険者がそこで酒を飲んでいるようだった。
「なんだいお嬢ちゃん、お父さんでも探しに来たのか?
あいにくここには穀潰ししかいやしないよ?」
女将のその言葉を聞いて、座っている冒険者も笑って言う。
「間違いねぇ、こんなところで飲んでる父親なんざ捨てちまった方が嬢ちゃんのためだぜ」
安い宿だから改修費用も出す気はなく、ボロボロの建物で寝泊まりさえできれば良いという客向けの宿。
他では1人で泊まっても一泊50ラメ。
今更他の宿を探す余裕も無いので、凍花は手持ちの30ラメを出してオババの名前を出してみた。
「二人ねぇ……別に部屋は一つでいいんだろ?
じゃあ25ラメだね。残り5ラメで朝飯とお湯を用意してやるが、どうするかい?」
「そ、それでお願いします」
「じゃあお湯を先に用意しちまうね。
部屋はさっさと片付けてくるから、少しだけ待ってるんだね」
部屋までタオルと桶を持ってきたり、背中を拭いてくれたり。
そんなサービスはこの宿では期待はしてはいけないという。
中庭に面した掘立て小屋が洗い場で、魔法で出したお湯がタライになみなみと注がれていく。
「終わったらそこの溝からお湯を捨てておいてくれ。
馬鹿な男どもが残り湯を飲んだとしても、あたしゃ責任が取れんからね」
「あはは……捨て忘れたらと思うと怖いですね」
スライムで身体は綺麗になるのだが、やはり濡れタオルで拭いた身体は気持ちが良い。
薄暗い小屋の中で顔から順にタオルを当てて、それを見ながらラビもまた同じように湯の温かさを感じていた。
「いやぁ、ほんと生き返るわー」
「女将さん、優しい人でしたね。
トラちゃんもスラちゃんも普通に受け入れてくれてたし」
「そうね。テイマーがいるみたいだし、別に珍しくも無いのかもしれないけど」
ラビも受け入れてもらえたら……なんて言いたい凍花だが、それが難しいだろうことはよくわかっている。
ラビはダンジョンコアを持つ魔物であり、やはり人間とは違う存在なのだ。
そして自分自身も。
無邪気な笑みを見せるラビをからかって、久しぶりのベッドで凍花は横になる。
森を抜け、マリアから人間の温かさに触れ、ダンジョンを攻略する難しさを知った。
それでもどうにか異世界で生きていけている。
ここは日本の常識など……
ーー
「お姉ちゃん、もうお日様が登っちゃうよ」
「ん……うーん……資料を忘れたょぉ……」
「お姉ちゃんってばー」
「……てばじゃなくてー……凍花だってばぁ……まぁペンネームくらいどっちでもいいけどさぁ……」
「トウカお姉ちゃん!」
「ーー?!」
長い夢を見ていた気がする。
朝は満員の電車に揺られ、帰りは終電に間に合うように急いで駆け込む。
家では資料をまとめさせられ、会社に着くなり小言から始まる一日。
ゴルフや接待の話にかこつけてセクハラまがいの発言を受け流す日々。
営業周りで帰って来て悪臭を振り撒く上司。
人の身だしなみにはネチネチと注意するくせに、自分はいつも襟が立ちシャツが出ている。
今思えば、どうして我慢していたのだろうか?
それが普通の生活だと思っていたから、少し忙しく人より少し理不尽だというだけで済ませていた。
今思えば劣悪な環境だったのは間違いないのだろう……
「大丈夫? お姉ちゃん……」
「う、うん。ちょっと昔の夢を見てただけだから」
ラビはすでに外套を深く被っていて、いつでも出発できる体制。
いつの間にか食事の用意も済んでいて、朝はパンを一個と塩味の野菜スープのようだ。
ラビと共に食事に手をつけ、少し残っていた干し肉をスープに浮かべ、二人は食べ進めていた。
凍花は軽く笑みを浮かべて、これからのことを考える。
ダンジョンを攻略すれば新しく召喚できる魔物が増える。
幸いこの街にはダンジョンも多く存在しており、行き先には困らない。
それにしても黄色く変色した野菜の入ったスープである。
豆は逆に未熟なものも混ざっていて、噛めば固く味もない。
やはり野菜にも旬はある。
美味しい時期に収穫できるのがなお良し。もちろん畑にも十分な栄養が必要であろう……
「本当に街のハズレにあるんだね。
まぁ贅沢言える立場じゃないんだけどね。
すみませーん……」
良く言えば味がある、悪く言えばボロっちい。
そんな看板も無い木造二階建ての宿が街の隅に建っている。
中に入ると薄暗いロビーが広がっていて、数人の冒険者がそこで酒を飲んでいるようだった。
「なんだいお嬢ちゃん、お父さんでも探しに来たのか?
あいにくここには穀潰ししかいやしないよ?」
女将のその言葉を聞いて、座っている冒険者も笑って言う。
「間違いねぇ、こんなところで飲んでる父親なんざ捨てちまった方が嬢ちゃんのためだぜ」
安い宿だから改修費用も出す気はなく、ボロボロの建物で寝泊まりさえできれば良いという客向けの宿。
他では1人で泊まっても一泊50ラメ。
今更他の宿を探す余裕も無いので、凍花は手持ちの30ラメを出してオババの名前を出してみた。
「二人ねぇ……別に部屋は一つでいいんだろ?
じゃあ25ラメだね。残り5ラメで朝飯とお湯を用意してやるが、どうするかい?」
「そ、それでお願いします」
「じゃあお湯を先に用意しちまうね。
部屋はさっさと片付けてくるから、少しだけ待ってるんだね」
部屋までタオルと桶を持ってきたり、背中を拭いてくれたり。
そんなサービスはこの宿では期待はしてはいけないという。
中庭に面した掘立て小屋が洗い場で、魔法で出したお湯がタライになみなみと注がれていく。
「終わったらそこの溝からお湯を捨てておいてくれ。
馬鹿な男どもが残り湯を飲んだとしても、あたしゃ責任が取れんからね」
「あはは……捨て忘れたらと思うと怖いですね」
スライムで身体は綺麗になるのだが、やはり濡れタオルで拭いた身体は気持ちが良い。
薄暗い小屋の中で顔から順にタオルを当てて、それを見ながらラビもまた同じように湯の温かさを感じていた。
「いやぁ、ほんと生き返るわー」
「女将さん、優しい人でしたね。
トラちゃんもスラちゃんも普通に受け入れてくれてたし」
「そうね。テイマーがいるみたいだし、別に珍しくも無いのかもしれないけど」
ラビも受け入れてもらえたら……なんて言いたい凍花だが、それが難しいだろうことはよくわかっている。
ラビはダンジョンコアを持つ魔物であり、やはり人間とは違う存在なのだ。
そして自分自身も。
無邪気な笑みを見せるラビをからかって、久しぶりのベッドで凍花は横になる。
森を抜け、マリアから人間の温かさに触れ、ダンジョンを攻略する難しさを知った。
それでもどうにか異世界で生きていけている。
ここは日本の常識など……
ーー
「お姉ちゃん、もうお日様が登っちゃうよ」
「ん……うーん……資料を忘れたょぉ……」
「お姉ちゃんってばー」
「……てばじゃなくてー……凍花だってばぁ……まぁペンネームくらいどっちでもいいけどさぁ……」
「トウカお姉ちゃん!」
「ーー?!」
長い夢を見ていた気がする。
朝は満員の電車に揺られ、帰りは終電に間に合うように急いで駆け込む。
家では資料をまとめさせられ、会社に着くなり小言から始まる一日。
ゴルフや接待の話にかこつけてセクハラまがいの発言を受け流す日々。
営業周りで帰って来て悪臭を振り撒く上司。
人の身だしなみにはネチネチと注意するくせに、自分はいつも襟が立ちシャツが出ている。
今思えば、どうして我慢していたのだろうか?
それが普通の生活だと思っていたから、少し忙しく人より少し理不尽だというだけで済ませていた。
今思えば劣悪な環境だったのは間違いないのだろう……
「大丈夫? お姉ちゃん……」
「う、うん。ちょっと昔の夢を見てただけだから」
ラビはすでに外套を深く被っていて、いつでも出発できる体制。
いつの間にか食事の用意も済んでいて、朝はパンを一個と塩味の野菜スープのようだ。
ラビと共に食事に手をつけ、少し残っていた干し肉をスープに浮かべ、二人は食べ進めていた。
凍花は軽く笑みを浮かべて、これからのことを考える。
ダンジョンを攻略すれば新しく召喚できる魔物が増える。
幸いこの街にはダンジョンも多く存在しており、行き先には困らない。
それにしても黄色く変色した野菜の入ったスープである。
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