53 / 146
11.七海の弱点(4)
しおりを挟む
*
「紗香と黒木の婚約、そして香菜子と洋太郎の大学卒業を祝って、乾杯!」
社長の乾杯の音頭で、皆一斉にグラス同士を鳴らし始める。夕食会の始まりだ。
小さな宴会場を貸し切っているので、同じ部屋に居るのは中条家の人たちだけ。どれほど騒いでも誰の迷惑にもならない、最高の飲み会だ。
未成年の隣にいたら流石にそれほど勧められないはず。そう思い、主人を盾にするようで申し訳なかったが、なるべく晴太郎の側を離れないようにしようと決めていた。しかし、やはり七海たち従者は食事の席では忙しい。
「七海、ビール瓶を2本こちらへ!」
「はい!」
「すまん、七海。雪の松島ってやつの純米大吟醸を1本貰ってきてくれないか?」
「はい、承知しました」
「水森、グラスを3つ持ってきて下さい」
「は、はい!」
須藤や黒木の指示で動く事が意外と多く、ゆっくりする暇がない。七海や風太郎の従者である水森は、従者たちの中では後輩に当たるので、色々頼まれる事が多い。七海はこのような事に慣れているが、水森はあまり慣れていないようで、てんやわんやしている。
「水森、大丈夫ですか?」
「えっと……すみません、慣れていなくて……次は何をしたら……?」
「そうだな……あ、香菜子様と洋太郎様のグラスが空いているので、お飲み物をお願いします。私は社長と幸太郎様の方へ持っていくので」
「あ、はい! わかりました」
水森はビール瓶を持って双子の元へ向かう。七海も新しいビール瓶を持って社長と幸太郎、そして紗香のいる上座の方へ伺った。
「あら、七海。新しいの持ってきてくれたのね。ありがとう」
「いえ……あれ、ビールではなく日本酒でしたか。新しいのお持ちしますか?」
彼らの手にはビール用のグラスではなく、日本酒用の猪口があった。同じものを持ってこようかと思ったが、彼らの徳利にはまだ並々と中身が入っていた。
「いや、まだ良い。それより、ここに座りなさい」
「え……は、はい」
社長にぽんぽんと隣の空いたスペースを叩かれて、言われるがままに座る。急に改まってどうしたのだろうか。また演奏会の話でもされるのだろうか。
このように社長の近くで話す機会なんて、そんな滅多にない。少し緊張して、ごくりと唾を飲み込んだ。
「七海、お前は…………いつも頑張ってくれてるなあ」
「えっ、は、はい」
「お前もまだ若くて遊びたい年頃なのに、ずっと晴太郎に付きっきりで……晴太郎も伸び伸び暮らしているようだし……本当に感謝しているぞ」
「いえ……あ、ありがとうございます」
改まってなんだと思ったら、急に褒めの言葉の連発。さすがにこれは予想していなくて、七海も驚いた。
「紗香と黒木の婚約、そして香菜子と洋太郎の大学卒業を祝って、乾杯!」
社長の乾杯の音頭で、皆一斉にグラス同士を鳴らし始める。夕食会の始まりだ。
小さな宴会場を貸し切っているので、同じ部屋に居るのは中条家の人たちだけ。どれほど騒いでも誰の迷惑にもならない、最高の飲み会だ。
未成年の隣にいたら流石にそれほど勧められないはず。そう思い、主人を盾にするようで申し訳なかったが、なるべく晴太郎の側を離れないようにしようと決めていた。しかし、やはり七海たち従者は食事の席では忙しい。
「七海、ビール瓶を2本こちらへ!」
「はい!」
「すまん、七海。雪の松島ってやつの純米大吟醸を1本貰ってきてくれないか?」
「はい、承知しました」
「水森、グラスを3つ持ってきて下さい」
「は、はい!」
須藤や黒木の指示で動く事が意外と多く、ゆっくりする暇がない。七海や風太郎の従者である水森は、従者たちの中では後輩に当たるので、色々頼まれる事が多い。七海はこのような事に慣れているが、水森はあまり慣れていないようで、てんやわんやしている。
「水森、大丈夫ですか?」
「えっと……すみません、慣れていなくて……次は何をしたら……?」
「そうだな……あ、香菜子様と洋太郎様のグラスが空いているので、お飲み物をお願いします。私は社長と幸太郎様の方へ持っていくので」
「あ、はい! わかりました」
水森はビール瓶を持って双子の元へ向かう。七海も新しいビール瓶を持って社長と幸太郎、そして紗香のいる上座の方へ伺った。
「あら、七海。新しいの持ってきてくれたのね。ありがとう」
「いえ……あれ、ビールではなく日本酒でしたか。新しいのお持ちしますか?」
彼らの手にはビール用のグラスではなく、日本酒用の猪口があった。同じものを持ってこようかと思ったが、彼らの徳利にはまだ並々と中身が入っていた。
「いや、まだ良い。それより、ここに座りなさい」
「え……は、はい」
社長にぽんぽんと隣の空いたスペースを叩かれて、言われるがままに座る。急に改まってどうしたのだろうか。また演奏会の話でもされるのだろうか。
このように社長の近くで話す機会なんて、そんな滅多にない。少し緊張して、ごくりと唾を飲み込んだ。
「七海、お前は…………いつも頑張ってくれてるなあ」
「えっ、は、はい」
「お前もまだ若くて遊びたい年頃なのに、ずっと晴太郎に付きっきりで……晴太郎も伸び伸び暮らしているようだし……本当に感謝しているぞ」
「いえ……あ、ありがとうございます」
改まってなんだと思ったら、急に褒めの言葉の連発。さすがにこれは予想していなくて、七海も驚いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる