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12.嘘(4)
しおりを挟む……——なあ、七海。俺はお前の事なら何でも知ってると思ってた。甘いものが好き、とか、意外と涙脆いとか、辛いものが苦手だとか。でも違ったんだな。
酒に弱いのも、本当は自分のこと俺って言うのも、全然知らなかった。なあ、もっと知りたいよ、お前の事。全部知りたい。何でこんなに知りたいと思うんだろうな? それはたぶん、七海の事が好きだから。
好きだから、さっき傍に居たいって、クビになりたくないって言ってくれたとき、すごく嬉しかった。俺もお前に傍に居てほしいし、ずっと一緒にいたい。
七海は俺のこと、どう思ってるんだ? 傍に居たいって言ってくれたのは嬉しいけど、それだけ?
俺、たまに嫌な奴になっちゃうんだ。七海は優しいから、俺の世話を焼いてくれるだろ? 料理作ってくれたり、紅茶を淹れてくれたり。ネクタイを結んでくれたり、あと今日はマフラーを貸してくれた。そういうの全部、俺だけにだったらいいのにって思ってる。七海は格好良くて優しいから、他の人にそんな事したらその人が七海のことを好きになっちゃうだろ。だから嫌なんだ。他の人と話してるの見てるともやもやするんだ。七海が俺の物になればいいのにって思ってる。七海を独り占めしたい。俺……嫌な奴だよな。
もし、もしもの話だけど……七海が俺と同じ気持ちだったとしても、何も言えないのは分かってる。俺はまだ子供だし……あー、早く大人になりたい。大人になったら、俺だって堂々と七海の事が好きって言えるようになる。七海も……俺のこと、好きになってくれるかなあ……
なあ、好きだ……俺、七海が好きだよ。でも俺、七海の主人だし男だから、こんなの変だし駄目な事だって分かってる。だから面と向かって伝えられないんだけど……伝えたい。好きって言いたい。それで、七海の気持ちも知りたい。七海の声で、本当の気持ちを教えてほしい。七海も、俺と同じ気持ちだったらいいなあ……
七海がさ、俺のこと守ってくれてるの知ってるんだ。今日も、船乗ってたとき高嶋に演奏会のこと言われてたんだろ? この前、電話で父さんにも幸兄さんにも言われてたよな。俺が嫌な思いをしないように取り計らってくれてたんだよな。
このまま七海に守られてばっかりだったら、いつまでも大人になれないよな……だから、俺……演奏会、出るよ。ピアノ弾くよ。七海が俺のピアノ好きって言ってくれたから、また弾きたいって思ったんだ。
ちゃんと聴いててくれよ、七海。
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