私の主人はワガママな神様

どろろ

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15.幸せのため(7)

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 非情な宣告を受けたその日は、色々な事に身が入らなかった。どうしても、今の目の前の仕事より先々のことを考えてしまう。
 晴太郎に仕えてから10年も経っている。それだけの期間、晴太郎のことを第一に考えて生きてきた。それが急に没収される。それに対して何も感じないほど、七海は無情な人間ではない。

 いつものように、とはいかないが仕事を終えて家に帰る。夕食の支度をして、時間になったら塾終わりの晴太郎を迎えに行く。
 いつもと同じことをしているのに、心はどうしてかざわざわとして落ち着かない。ひどく落ち込んでいるのか、それとも幸太郎の言う事に対して、嫌だとか無理だとか反対出来なかったことを後悔しているのか。自分で自分がよく分からない。こんな事は初めてだった。
 
 晴太郎が通う塾のビルの前。広い道路の適当な位置に路駐する。講義終了まであと3分程度。そしたら、晴太郎が来る。
 彼が来るまでになんとか気持ちを切り替えようと、大きく深呼吸した。目を瞑って、座席の背もたれに背中を預けて。吸って、吐いてを繰り返す。
 こんな時、彼の声が聞きたい。綺麗で真っ直ぐな澄んだ声。彼の笑顔が見たい。キラキラと、まるで夜空を照らす星々。暗闇を照らすように輝く笑顔。ああ、早く来て欲しい——……早く彼に会いたい。

 バタン。

「七海、ただいま!」

 車のドアが開く音と、澄んだ声。目を開くと、隣にキラキラとした笑顔。
 今、いちばん会いたかった大切な人。
 すっと心が落ち着いた。何回深呼吸しても治らなかったのに。誰と話しても、好物を食べても、どうしても治らなかった心のざわざわが、彼の顔を見たら嘘だったのではないかと思うほど静まった。
 いつも七海を助けてくれるのは、この人だ。

「おかえりなさい、晴太郎様」

 一緒にいると自然と笑顔になる。心が安らぐ。不思議な力を持っている、七海の神さま。

「あれ、七海寝てた? 疲れてるのか?」
「いいえ、大丈夫です。さあ、帰りましょう」
「うん。あ、なあ聞いてくれ。今日学校の授業でさ——……」

 こんな風に、助手席に座る彼の話を聞けるのは、あと何回だろうか。
 今日は週初めだからか、彼は助手席で眠らずに、学校の授業のことや友人たちのことを家に着くまでずっと話していた。
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