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20.わがまま(4)
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『もう、家出なんて……みんな心配してるわ』
「心配かけるつもりはなかったんだ……ごめんなさい」
『とにかく、無事でよかったわ。何かあったらどうしようかと……』
紗香の声が、いつもの穏やかなものに戻る。晴太郎は彼女にとって大切な家族であり、大事な大事な弟だ。とても心配していたのだろう。
この数日間、そんな大事になっているとは知らずに晴太郎と幸福な時間を過ごしてしまったことに、申し訳なさを感じてしまう。
「紗香様、申し訳ありません。晴太郎様のことは、私がお送りしますので、ご安心を」
「えっ、待て、七海! 俺は帰らないぞ」
「いいえ、いけません。一度帰りましょう。私も東京までご一緒します」
何も知らなかったとはいえ、事の渦中にいることに変わりはない。せめて、晴太郎のことを無事に彼女たちに引き渡そうと提案したが、電話口から思いがけない言葉が帰ってきた。
『いいえ、それはしなくて大丈夫。実は今、そっちに向かっているの』
「……はい?」
『たぶん七海のところにいるって思ったから、黒木と一緒にもう仙台に向かっているのよ。昼前には着くわ』
昼前、と言われて自然と目線が時計に向く。彼女たちが着いたら、二人で過ごす時間はおしまいだ。着々とタイムリミットが迫ってくる。
晴太郎が帰ることに反対はしない。むしろ帰った方が良いと思っている。が、どうしてか胸が騒つく。
『着いたら連絡するけど、駅まで出て来れる?』
晴太郎は七海の腕にしがみ付きながら、嫌々と首を振る。離れたくない、帰りたくないという気持ちは痛いほど伝わってくる。七海だって、晴太郎と離れたくないし、帰したくない。
同じ気持ちだが、この選択は間違っている。それがわかっているからこそ、七海は紗香の問いに答えることが出来なかった。
『……七海? どうしたの?』
「いえ、なんでもありません……お昼に、駅に行きます」
晴太郎がショックを受けたような顔で七海を見上げる。
「すみません、晴太郎様……」
紗香との電話を切った後、七海が力なくそう言うと、晴太郎はゆっくりと首を横に振った。
「ううん、七海は悪くない。元はと言えば、俺のせいだから……仕方ない」
晴太郎の反応が意外で、七海は驚いてしまった。一緒に暮らしていた頃の彼は、きっと嫌だ嫌だと最後まで自身の気持ちを貫いていただろう。
大人の対応を見せた彼の成長に驚くとともに、もう我が儘は聞けなくなってしまったのかという寂しさが、きゅっと七海の胸を締め付けた。
カチカチと、時間の経過を伝える時計の音が、嫌に大きく聞こえた。
「心配かけるつもりはなかったんだ……ごめんなさい」
『とにかく、無事でよかったわ。何かあったらどうしようかと……』
紗香の声が、いつもの穏やかなものに戻る。晴太郎は彼女にとって大切な家族であり、大事な大事な弟だ。とても心配していたのだろう。
この数日間、そんな大事になっているとは知らずに晴太郎と幸福な時間を過ごしてしまったことに、申し訳なさを感じてしまう。
「紗香様、申し訳ありません。晴太郎様のことは、私がお送りしますので、ご安心を」
「えっ、待て、七海! 俺は帰らないぞ」
「いいえ、いけません。一度帰りましょう。私も東京までご一緒します」
何も知らなかったとはいえ、事の渦中にいることに変わりはない。せめて、晴太郎のことを無事に彼女たちに引き渡そうと提案したが、電話口から思いがけない言葉が帰ってきた。
『いいえ、それはしなくて大丈夫。実は今、そっちに向かっているの』
「……はい?」
『たぶん七海のところにいるって思ったから、黒木と一緒にもう仙台に向かっているのよ。昼前には着くわ』
昼前、と言われて自然と目線が時計に向く。彼女たちが着いたら、二人で過ごす時間はおしまいだ。着々とタイムリミットが迫ってくる。
晴太郎が帰ることに反対はしない。むしろ帰った方が良いと思っている。が、どうしてか胸が騒つく。
『着いたら連絡するけど、駅まで出て来れる?』
晴太郎は七海の腕にしがみ付きながら、嫌々と首を振る。離れたくない、帰りたくないという気持ちは痛いほど伝わってくる。七海だって、晴太郎と離れたくないし、帰したくない。
同じ気持ちだが、この選択は間違っている。それがわかっているからこそ、七海は紗香の問いに答えることが出来なかった。
『……七海? どうしたの?』
「いえ、なんでもありません……お昼に、駅に行きます」
晴太郎がショックを受けたような顔で七海を見上げる。
「すみません、晴太郎様……」
紗香との電話を切った後、七海が力なくそう言うと、晴太郎はゆっくりと首を横に振った。
「ううん、七海は悪くない。元はと言えば、俺のせいだから……仕方ない」
晴太郎の反応が意外で、七海は驚いてしまった。一緒に暮らしていた頃の彼は、きっと嫌だ嫌だと最後まで自身の気持ちを貫いていただろう。
大人の対応を見せた彼の成長に驚くとともに、もう我が儘は聞けなくなってしまったのかという寂しさが、きゅっと七海の胸を締め付けた。
カチカチと、時間の経過を伝える時計の音が、嫌に大きく聞こえた。
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