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夜の子供達
あらざる神器
夜空と夜月の戦いをこの場に居る者達は、それぞれどちらかの戦いならば目撃している。
だが、今、対峙する二人から放たれる殺気の凄まじさ、恐ろしさは彼らが一度味わったものよりも格段に質を高めている。
夜空と夜月のこれまでの戦いは太陽が空に在る時刻に行われていたが、今は夜。バンパイアの時刻だ。
双子に流れるバンパイアの血は覚醒の時を迎えて、太陽の光を浴びる度に感じる倦怠も苦痛もなく、全身の細胞には尽きる事無く活力が満ちて、直感を含めた感覚の全てが研ぎ澄まされている。
奇しくも血を分けた肉親の戦いの場に於いて、夜月と夜空はその本領をニックやザグフ達へと知らしめているのだった。
夜空と夜月と。その名の化身の如き両者の対峙はまるで夢のように一瞬で形を変えた。
ダスタの動きを追えたニックの目にも追えぬ速さで両者は大地を蹴り、月光を切り裂きながら赤い長剣二振りが交錯する。
キィン、と夜の静寂を切り裂くが如き音は両者の中間点で噛み合った刃の奏でた音だ。
互いに弾き合った刃の内、夜月の握る長剣は実の兄の左首筋から斜めに切り下ろすべく慈悲の無い鋭さで振るわれた。
「はんっ!」
夜空はソレを鼻で笑い飛ばし、長剣の一閃で弾き返しながら切っ先をくるりと返して、弟の首を左から右へと斬り飛ばすべく刃を振るう。
夜月は刃をかわすのに最低限必要な距離だけ後退し、目の前を刃が過ぎ去った直後に引き戻した長剣を夜空の咽喉を狙って突きこむ。互いに兄弟に刃を振るう事への嫌悪も禁忌も罪悪感も、微塵も胸に抱いてはいないようだ。
黒雲を切り裂く雷鳴を思わせる夜月の突きは、両者の戦いを見守っていたザグフとダスタの背筋を凍らせる威力が見て取れた。
「おお!?」
驚きの声を上げたのはニックだった。彼とダマキの目には、夜月によって咽喉を貫かれた夜空の姿が確かに映っていた。だが、夜月の体から迸る物理的な圧力を伴う殺気は留まらず、彼の視線は前方へと向けられている。
「腕は鈍っちゃいねえようだな。ここに来るまでにそれなりの敵とやり合ったか?」
夜月の視線の先には無傷の夜空の姿があった。ニック達が見たのは、弟の突きを後方に飛び退いて避けた夜空の残像だったのだ。
軽い調子で夜月に話しかける夜空だが、彼もまた弟を相手に肉親の情など欠片も感じさせない殺気を滾らせており、隙があれば弟の首を撥ねるも心臓を貫くもやってのけるだろう。
「お前の雇い主程度にはやる相手を滅ぼした。お前の雇い主も同じ道を辿る」
「おうおう、おれが雇い主をみすみす灰にさせる程、間抜けだと思うかよ」
仲の悪い兄弟は、会話の最中もお互いに目に見えない応酬を繰り広げており、ニックとダマキにもこの二人が本気で殺し合っているのだと、否応なしに理解させられていた。
視線は夜月に固定したまま、夜空はザグフと自分の中間地点で足を止めているユハに一つの指示を発する。ユハの実力と身分からしてザグフとの戦いの援護はさせられないが……
「ユハ、そっちの二人組の足止めをしときな。お前はおれの世話役なんだから、これからも傍に居て貰わにゃ困る。無理をするんじゃねえぞ。死なない程度に頑張んな」
夜空の言葉に目隠しをしたままのユハは、それこそ満月のように輝かんばかりの笑みを浮かべる。また一つ、夜空から命じられた事が嬉しくて堪らない、そういう笑みである。
ユハは腰に巻いたリボンの端を握り、しゅるりと音を立てて解いた。青いリボンをまるで鞭のように持ち、ユハは見えぬ目でニックとダマキを見る。
「夜空様の仰せのままに。私、ザグフ・ガルドナ子爵様により夜空様のお世話役として突くられたホムンクルスのユハと申します。名前も知らないお二方、夜空様の命により、死なない程度に足止めをさせていただきたく存じます。どうぞ悪しからずご容赦くださいまし」
直後、パン、と鳴り響いたのはユハの振るったリボンが音の壁を突破した際に生じた破裂音であった。続いてニックが顔面をカバーするように掲げた長剣が大きく震え、ニックは吹っ飛ばされそうになる長剣を強引に抑え込む。
両者の距離はゆうに六メートルはあるが、ユハのリボンは空中で長さを伸ばしてニックへと音速を越えて襲い掛かったのだ。長剣に弾かれたリボンが月を背に鎌首をもたげる大蛇の如くクネクネと曲がりながら再びニックへと襲い掛かる。
「ダマキ、戦えるか!?」
ニックはあのクリキンとの戦いに匹敵する緊張感と警戒心を抱きながら、自警団の中で唯一意識を残している女戦士へと呼びかける。ダマキは右手に長剣を、左手に短剣を握って、ユハを目掛けて既に走り出していた。
「当たり前だ!!」
ニックが頭上から襲い来るリボンを再び弾くが、ユハの右手に操られたリボンは空中で向きを変えて、ダマキを背中から襲った。
果たしてリボンにどれ程の切断力、またあるいは破壊力があるか疑わしい所はあるが、夜空が反逆の牙を剥いた時に始末する為に作りだされたホムンクルスである以上、人間を抹殺する位は容易であろう。
「綺麗な薔薇にはなんとやら、か」
ダマキの背を追うリボンをニックの長剣が絡み取り、背中から串刺しないしは拘束されるのを防ぐ。その間にダマキはユハを長剣の間合いに、一足で収める距離にまで接近していた。
「あんたに恨みはないが、あんたの主人には恨みがあるんでね!」
見た目だけで判断するなら、盲目のたおやかな美女でしかないユハにも、ダマキは容赦をしなかった。本気でその豊かな起伏を描く体を袈裟がけに斬って捨てるつもりなのだ。
対するユハは左手でリボンを手繰り寄せて、自分の左肩に切り込んできたダマキの長剣を受け止めた。柔らかなリボンの布は鋼鉄の刃を受け止めて、微塵も斬り込むのを許さない。
「ふんっ!」
白い絹のドレスに包まれたユハの腹部へ、ダマキの左手の短剣が突き込まれる。月光を跳ね返す銀の刃は、しかして、その場で舞踏のように回転したユハを貫く事叶わず、虚空を素通りした。
「ご無礼」
ユハの静かな声が聞こえた瞬間、ダマキの右頬を強烈な衝撃が襲い掛かり、まぶたの裏でいくつもの火花が散る。
回転したユハの鋭い右の肘がダマキの顔を襲い、したたかに打ちすえたのだ。ホムンクルスの強烈な一撃はダマキの身体を後ろに転がし、思わず左手の短剣を手放してしまったが、すぐさま体勢を整え直して追撃に備えたのは見事と言えた。
ダマキがしゃがみこんだ体勢から、口の中に広がった血を吐き捨てるのと、ユハが自分の周囲でリボンを旋回させ、ニックの投擲した魔法文字を刻んだ魔晶石を打ち砕くのは同時だった。
人体に拳大の穴を開ける程の威力を持った魔力の炸裂は、ユハのリボンによって悉く打ちすえられて、ホムンクルスの美女の体には飛沫一つ触れない。
「あちらのバンパイアや夜月の兄貴よりは大分マシな相手の筈なんだが、容易く行くのを期待してはいけないな。立てるか、ダマキ君」
「ああ、くそ、歯は折れちゃいないがガタガタだ。見た目の割になんて馬鹿力だい」
「顔が吹っ飛ばなかっただけ恩の字なのだろうさ。向こうは夜空と言ったか、彼の言う通り積極的には来ないから、そこが狙いどころではある」
「黒薔薇のニックともあろう男が弱気だね」
「お互いの力量を正確に把握した上での判断だ。彼女がおれ達を足止めするのか、おれ達が彼女を足止めするのか、どちらとも言い難い状況なのは認めるがね」
苛立たしげなダマキをニックが宥める間も、二人の視線と意識はユハへと注がれている。
彼女からは殺気らしいものは微塵も感じられず、事実、彼女はニック達を殺害しようとは微塵も思ってはいまい。ただただ、夜空の命令を遵守する、それが今の彼女が全力を傾けている事だった。
「もう、お話はお済みになりましたか? 夜空様からの御命令を守る為、精一杯お相手を務めさせていただきます」
そして、夜空の語る雇い主も追手を相手に止めていた戦いの手を再開させようとしていた。連れてきた四名の騎士が灰になった事を露とも気にせず、ザグフは目の前の銀色の追手に兜の奥から凶悪な殺意を向ける。
故郷を離れ、今ある支配を打ち砕かんが為に辺境までやってきた自分を追いまわす目障りな猟犬を相手に、同胞といえども容赦する必要がどこにあろうか。
「妹とやらは黄金の剣を振るったが、姉なる貴様は銀の槍を振るうか。このおれを滅ぼすに相応しい逸品なのだろうな。先程の月の光を束ねて放つだけが能ではあるまい?」
揶揄するように言うザグフに、ダスタは石突きから穂先まで銀一色の槍――月針を右手一本で握り、穂先はだらんと大地に向けたまま、構えらしい構えを取らずにいる。
「造反者よ、悠久の時を生きるバンパイアとて時の流れに異を唱える事は出来ない。創造主より始祖が賜った六つの神器は失われ、始祖から分かたれた最も貴き血筋も一つを残すのみとなった。
失われるばかりの中にあって、新たに芽吹いた秩序と道理に背を向けて何とする? 粛々と種族の歴史が辿る変遷を受け入れる器量を持つべきであったぞ、元ガルドナ子爵」
朱塗りの大地の正統なる支配者に造反した以上、かつてザグフの一族に与えられていた名誉と爵位、領地は取り上げられるものだ。
それゆえにダスタはザグフを元ガルドナ子爵と呼んだが、当のザグフは自身の正義に従って造反行為に及んだと考えている。そんな彼からすれば、ダスタの言葉は怒りの炉に薪をくべた上に空気をわんさかと送り込むようなものだ。
ザグフに対する挑発としてわざと口にしたのか、それとも天然なのか。ダスタはザグフのこめかみに青い筋が浮かび上がったとは露知らず、月光に影を落とさぬ足で大地を踏みこんだ。
「まずはその鎧の具合を確かめるとしよう」
「痴れ者がっ! 卑しい猟犬は犬の餌にしてくれるわ」
霧と変わって風に乗ったかの如く素早いダスタの踏み込みに、ザグフは完全に反応した。
鎧への信頼からか、一切の武器を持たぬザグフの右手は五指を伸ばして手刀の形を取り、自分の胸のど真ん中へ突きたてられんとした月針の穂先を叩き落とした。
それこそ爆発が生じたかのような轟音と衝撃が周囲の闇へと伝播し、風と闇の精霊達を驚かせる中、ダスタは引き戻した月針を再び突き込む動作を繰り返す。
ザグフを槍の間合いに収め、大地に根を張る巨木のように腰を落として重心を安定させたダスタの連続突きは駆けながらの第一撃よりも速さ、鋭さ、重さにおいて上回る。
ザグフは両手に何も持たないからこその手数の多さと鎧の絶対的な防御を最大限に活用し、豪雨の如く襲い来る月針の穂先を叩き落とし、そらし、受け止め、自身への非礼なる直撃を許さない。
ダスタの刺突が十を越え、二十を数え、三十にまで到った時、月の針と名付けられた槍は主の手元でぴたりと動きを止めた。
「陛下より賜った月針でも貫けぬ鎧……。貴様は、貴様らはどこでそれを手に入れた? それは今も、いや、始祖の時代より今に到るまでバンパイアの世に存在してはならぬものだと分からないのか? 例え陛下に反逆しようともそれを持つなど、バンパイアとしての恥だ」
夜空の刃が通じず、今またダスタの月針も通じぬザグフの鎧はやはり何かしらの秘密が存在しているらしい。ダスタの声には強敵に対する警戒よりも、鎧そのものとそれを纏うザグフに対する嫌悪と拒絶の意思がありありと浮かんでいる。
「バンパイアの世界という大盤をひっくり返す為には、世界の始まりから否定されたものを用いるのが効率的でな。道理でもあるだろう?
六神器と始祖六家の失われた世界で、それに代わるものを用意してこそ、支配者としての第一歩を踏み出せるというものではないか」
「減らず口を。陛下が貴様らを強く危険視したのも道理。お前達の目的と手段の双方が、ようやく秩序を得つつあるバンパイアの世界を脅かす」
「そのつもりなのだから、当たり前だろうが。まずバンパイアの世界よりも先に、貴様が灰となって滅びるがいい。そして後を追う女王を迎えて詫びよ!」
言うが早いかザグフが砲弾の如く飛び出した。体当たり一つで、小さな砦位なら崩壊させられる速さと力を併せ持ったそれを、ダスタは渾身の力を込めた突きで受けた。
高位のバンパイアたる二人の膂力は百人力にも達しよう。
全力疾走の最中、ザグフは腰の隙間を狙って突き込まれた月針の穂先を左脇に抱え込み、鎧の表面と穂先が擦れて双方の魔力の衝突による大量の火花と紫電が四方へと広がる。
「ぬぅええい!!」
両者の身体に収まりきらなかった衝撃が大地に伝播して、大きく蜘蛛の巣状の亀裂が広がり、ザグフの右の鉄拳がダスタの顔面に打ち出される。
人体はおろか巨人種や竜種でも重傷は免れない拳を、ダスタの左手が顔面すれすれで受け止めるが、強すぎる衝撃によって折れた骨がダスタの手の甲から突き出て、赤い血が飛沫となって飛び散る。
いや、左手だけではなく、ダスタの肘から左腕の付け根に到るまで、骨と血管、筋肉の悉くが砕け、破れ、ズタズタにされてしまう。それもすぐさまバンパイアの再生能力で修復が開始されるが、ザグフの鎧による効果か、常よりも三分の一程の速さになっている。
「このまま陽が昇るまで殴り潰してやろうか?」
「それが地か。とんだ蛮族だな、元ガルドナ子爵。我が槍、月針の真価をとくと味わうがいい!」
ザグフの左脇に抱え込まれたままの月針が、主の呼び声に応えて朧月のように淡い光を発すると、ザグフの鎧の内側からより強力な光が発せられて、ザグフの全身が突如として襲ってきた苦痛に大きく振るえる。
「ぐあああ、これは!? 我が鎧を貫いて、いや、違う、これは内側に生じたのか!?」
「流石に理解が早いな。月針の名のままに、我が槍は月の光を針と変えて敵を貫く。お前の鎧がどれだけ堅固であろうとも、我らにとって恵みたる月の光までは遮るまい」
嘲笑するダスタの言う通り、この時、ザグフの肉体は鎧の内側で針の形を取った月光に全身余すところなく貫かれて、尋常ではない苦痛に苛まれていた。ただの針に刺されるだけならば、ザグフは苦痛の声を洩らさなかっただろう。
だが、彼の身体を貫いているのは、本来、バンパイアに活力を与え、味方となってくれる月光だ。夜と並んで最大の味方である筈の月光が敵となった時、バンパイアに与えられる苦痛は計り知れないものとなるのだった。
「月針を手離せまい? 月の光が貴様と月針を繋いでいるのだ。そのまま全ての血を流しつくし、造反の咎を滅びをもって償うがよい!」
離そうとしても離れぬ月針にザグフが戸惑う中、ダスタはそのままザグフの体を持ち上げて、勢いよく月針を振り抜いてザグフを地面へと叩きつける。
先程の衝突で発生した亀裂を新しくより深い亀裂でもって上書きし、ザグフの体が砕けた地面に半ば埋もれる。
万が一、ザグフが流れ出た自分の血を飲めば、瞬間的にでも力を発揮する可能性を考慮しつつ、ダスタはそのまま月針によって鎧の内側に新たな月光の針を作り出し、造反者の額と心臓を貫かんとする。
「くぁっ!!」
「なに!」
半ば地面に埋もれ、鎧の隙間から血を流すザグフの兜の奥で赤い光が灯り、それは二筋の光線となってダスタを襲った。夜空との戦いでザグフが見せた、瞳の魔力を圧縮して視線に乗せた魔眼光線だ。
不意を突かれた形のダスタだが、咄嗟に首を傾けて右の頬を大きく抉られるだけに被害を留めた。最後の悪足掻き――というダスタの思考は、月針に加わる重量が突如として減った事で否定された。
月の光で繋がっている筈のザグフの左手が、月針を手放していたのだ。馬鹿な、とダスタが思わず口にするよりも、地面から背筋力だけで飛び上がったザグフの右の爪先が彼女の腹部を貫く方が早い。
「が、ぁぐ……」
ザグフが右足を引き抜き、崩れ落ちるダスタの口から大量の血液が吐き出されて、バシャバシャと音を立てて地面に赤い水たまりを作った。
「月光が敵となるなら拒むまでよ。我が鎧が月の光さえも阻めると知らなかった貴様の落ち度だ。
始祖は月の女神と夜の神の御子であった。ならばおれは種族の母たる者すら敵として、大願を成就するのみよ。しかし、月の光の一筋もない夜とはかようなものか。早く慣れねばな」
おのれ、と内心で唸りながら、ダスタは月針を握り直す。鎧の内側に月光の針が生み出せずとも、外からならば話は別だ。月光は月がある限り際限なく発生している。ダスタの攻撃手段は時間制限つきではあるが、ほぼ無尽蔵なのだ。
「みすみすやらせると思うか、猟犬!」
ザグフの左足が月針を握るダスタの右手を踏みつぶし、無数の骨折音が地面とザグフの足の間で鳴り響く。苦痛にも悲鳴一つ洩らさず、ダスタはザグフの隙を伺うべく睨みつけていたが、体勢も状態もどちらもザグフの方が圧倒的に有利だ。
月針によって刺し貫かれた痛みと月光の針は鎧の力によって既に失われ、ザグフの肉体は急速に修復中だ。対してダスタは左腕がかろうじて動かせるようにはなったが、右手ごと月針と動きを封じられている。
「ははは、貴様の持つ黄金の剣も銀の槍もおれの鎧とは相性が悪かったな。おれ以外の者達であったなら、あるいは貴様に討たれたかもしれん。それだけは褒めておくぞ、猟犬」
ブンと音を立ててザグフの右拳が下から掬いあげるように振るわれて、ダスタの顎から上を真っ赤な大輪の花へと変える。少ししてびちゃびちゃと音を立てて、周囲に無数の肉と頭蓋骨の破片と血が降り注いだ。
首から上を失っただけでは、バンパイアは滅びはしない。とはいえ脳を失えば再生するまでは意識を喪失するから、止めを刺す為の一手間としては十分だ。ザグフは今度こそダスタの心臓を貫くべく、赤く濡れた右腕を振り上げる。
後は振り下ろすだけのザグフの右腕が止まったのは、カズノが保護されている小屋が内側から破壊された大きな破砕音が辺りに轟いたからだった。
人一人が通り抜けられるだけの穴が小屋の壁に開き、戦っていた誰もが視線を向ける最中、小屋の内側から誰あろうカズノが姿を見せる。
自らの血を吸ったザグフが近づいた影響によって、バンパイアの腕力がある程度付与されたのか、小屋を破壊したのはカズノ自身だった。
血の匂いに酔ったバンパイアの如く瞳を赤く輝かせたカズノは、周囲を見渡してザグフの姿を見つけると、夢に見る程に恋した相手を前にした笑みを浮かべる。
「ああ、ああ、ザグフ様!」
火が付くように熱く、ではなく霜が降りるように冷たい吐息もまたバンパイアの特徴だ。凍える吐息を発しながら、カズノはふらふらと覚束ない足取りでザグフを目指して歩き出す。
予想外のカズノの行動に、ユハのリボンの猛攻を凌いでいたダマキが真っ先に悲鳴を上げる。夜月とニックはカズノを止めるべく動こうとしていたが、それは互いの敵が阻み、カズノへ近づく事もままならない。
「カズノ、ああ、何をしているんだい!? すぐに小屋の中へと戻りなよ!」
「何を言っているの、ダマキ。ザグフ様がお越しくださったのよ。なら進んで咽喉を晒して血を捧げなければ。ああ、まぶたを閉じる度にずっと思い出していたの。ザグフ様のお顔を。ずっと思い出していたの。首筋を貫く牙の冷たい感触。血を吸われる快楽を」
紅潮した頬に両手を当てて、恍惚と語るカズノの姿にダマキは言葉を失い、茫然と目を見開いている。幼馴染にあまりの姿に大きな衝撃を受けるその姿に、ニックは痛ましげな目を向けている。
一方、赤い長剣を共に振るうのを止めた夜空と夜月もまた、カズノの姿と状態に注意しているようだった。カズノの姿はバンパイアの吸血によって身も心も魅了された被害者そのものの姿だが、母をバンパイアに持つ彼らには何か違和感があったものか。
「カズノ、なんて事を……」
「ふははは、そうだったな。追手共との戦いに熱を入れ過ぎて、思わず忘れそうになっていたぞ。良いだろう。この地に於いて最初に我が牙を受けた女よ。今一度お前の首に我が口づけを授け、特別に同胞として迎え入れてやろう」
ダスタの頭部の再生が始まっていないのを確認してから、ザグフはふらふらとこちらに近づいてくるカズノへと歩み寄ってゆく。ダスタが倒れた今、ザグフの歩みを止める者はいない。
夜月さえも夜空に足止めされて動けぬまま、ザグフとカズノは手を伸ばせば互いの頬に触れられる距離にまで近寄る。カズノは荒くなった息を吐きながら首を右に傾けて、既にザグフによって穿たれていた首筋に二つの牙の痕を晒す。
カズノを守らんと奮闘する者達の見ている前で血を吸ってやろうと、残酷な考えを抱いたザグフが兜を脱ごうとした時、夜空の危険を告げる声が彼の手を止めた。
「子爵、その子から離れな! お守りが動くぞ!!」
夜空の言葉の意味を理解するよりも早く、ザグフの肉体はその場から飛び離れようとしたが、それよりも早くカズノの左手にずっと握られていた木彫りの竜の像が動きだす方が早い。
ちょっとした土産物屋にありそうな竜の像は、ザグフの接近に呼応してその瞳に光を宿すと、見る間に巨大化して成体の竜と変わらぬ大きさになり、カズノをその背に乗せた状態でザグフを右の前脚で思い切り踏みつけていた。
「グオォオー!!」
「なん、だとぉお!?」
本物の竜と変わらない咆哮は、ザグフに魅了されたカズノの精神を打ちのめし、糸の切れた人形のように気絶させる。木彫りとはいえ突如として出現した竜に、ザグフのみならずユハやニック達も仰天していた。動じていないのは、予めお守りを渡していた夜月くらいのものだ。
「妙に余裕があるなとは思っていたが、そういうわけかい、夜月」
よくもまあ、と出しぬかれたというよりも呆れた調子の夜空に、夜月は一瞥と頭頂を割る一撃を同時にくれてやった。
頭上に掲げた長剣で受けた夜空は、けっ、と短く吐き捨てる。
「抜け目のない弟を持ったもんだぜ。しかし、父ちゃんの特製お守りとあっちゃ、ちとやべえ」
困り顔になる夜空の視線の先で、木彫りの竜に踏みつけられていたザグフが怒声と共に拳を振り抜いて、竜の右前肢を大きくかち上げる。これは夜空にとって意外だったのか、お、という顔になった。
「ぐ、こと、ここに到ってまだ予想外の事態が起きるか。何という厄日よ」
苛立ちを隠せぬザグフに、木彫りの竜は左の前肢を横殴りに叩きつける。鱗も爪も全て木製だが、込められた膨大な魔力は木製の竜を本物と遜色ない領域へと押し上げていた。
ザグフは大きく足を開いて正面から左前肢を受け止める。踵が深く地面にうずまり、木彫りの竜の膂力に押されてそのまま数メートル後退してようやく止まる。
このままこの肢を捻じ切ってやろうと、ザグフが両腕に渾身の力を込めた時、竜が大きく口を開いて喉の奥に鮮烈な炎が宿るのを見て、まさか、と流石の彼も口にした。
「まさか!」
次の瞬間木彫りの竜の喉奥から放射された超高温の炎の奔流が自分の左前肢ごとザグフを飲みこみ、膨大な熱量は炎の触れた地面も融解させる。熱せられて赤く変色した大地の領域が広がる中、夜空は強引に夜月の隙を作るべく大上段から斬り込んだ。
「この場は預けるぜ、弟。決着は雇用主殿の館で着けようや!」
二人の薄い影が交差し、夜月の左肩に縦一文字の傷が走り、夜空の左脇腹から鮮血を噴いた。バンパイアの不死性を受け継ぐダンピールの肉体は迅速に修復を始めるが、無理を通した夜空の方が傷は深く、噴き出す血の量が多い。
「夜空様ッ!」
ザグフの危機にも悲鳴を上げなかったユハだが、夜空の初めて見せる苦痛に歪む顔には平静を保てず、咄嗟に彼の名を叫んでいた。
「ユハ、退くぞ。あの竜は一回こっきりの使い捨てだが、その分、性能は高い。それに子爵も格好つけちゃいるが、追手との戦いでそれなりに堪えている筈だ」
ユハは夜空の命令である事に加え、確かにザグフが本調子ではなく受けた傷が治りきっていないと、彼女自身も考えていた為、すぐさま首肯して彼に従う。
夜空がザグフを回収する為に走り出しているが、その彼の向かう先で竜の火炎を突き破ったザグフが姿を見せて、全力の右拳の一撃を竜の眉間に叩き込む。
「おのれ、たかが木の竜如きがぁ!」
ザグフの右手は肩までめり込み、木彫りの竜は苦痛に喘ぐように頭を何度も振り、ザグフはその勢いを利用して腕を引き抜いて竜から距離を取る。猫のようにしなやかに着地する姿は優美でさえあったが、竜のブレスは鎧越しにも堪えたようで、着地と同時に堪らず膝を突いた。
そこに先にユハが辿りついて、ザグフに肩を貸して彼を助け起こす。ユハに遅れる事二秒、夜空もまた雇い主の下へと辿りつき、彼を目掛けて放たれた無数の月の針を長剣を縦横無尽に振るって叩き落とす。
「追手ちゃんが復活したか。子爵の一撃でお守りの方はそう長かねえが、ちと厳しいねえ」
夜空の視線の先には頭部の九割以上を再生し終え、月針をこちらへと向けるダスタの姿が映っている。夜月とダスタと竜とに三方から囲まれた状況だ。夜空ならまず撤退を最優先にするが、彼は雇われの身だ。まずは雇用主の意思を確認しなければ。
「雇い主殿よ、腸が煮えくりかえっているだろうが、ここは一先ず館に戻るのが賢い選択だぜ。あんたを邪魔した木彫りの竜は使い捨てだから次の時には役に立たんし、地の利がある所で迎え撃った方がいい」
少しは再生したのか、ザグフはユハを振り払い、自分の力だけで立つと兜の奥に剣呑な光を宿して夜空を睨む。事と場合によってはこの場で処断すると言いかねない雰囲気に、夜空は肩をすくめて答えた。
「追手ちゃん自体はあんた一人で片付けられるだろうが、夜月の野郎がちと面倒だ。おっと、始末するのに躊躇いがあるわけじゃないぜ。ただどうにも相討ちになりそうなんで、おれとしては完全に有利な状況で戦いたいわけよ」
「ふん、あくまで自分の為か。よかろう。おれの為などと言いだしていたら、貴様の頭の中を疑うところだが、そうであるのなら納得もする」
「合意は取れたって事にするぜ。それじゃ、戦略的撤退と洒落込みますかね。じゃあ、あばよ、弟とその他の諸君!」
夜月が木彫りの竜を持っていたように、夜空もまた何かしらの魔法の品を持っていてもおかしくはない。彼はコートの内ポケットから黒い渦を内包した硝子壜を取り出して、誰が止める間もなくそれを足元に叩きつける。
万が一の場合に備えて、ザグフから支給されていた転移用の魔法具だ。割れた硝子壜から溢れだした闇が夜空達の周囲を満たして、夜月とダスタの目を持ってしても見通せない領域が出来上がる。
「もう移動したな」
闇の中に飲み込まれた直後に双子の兄達の気配が消え去ったのを感じ取り、夜月は長剣を何処かへと仕舞いこむと木彫りの竜へと近づき、その背で気を失ったままのカズノを受け取る。額に大穴の開いた竜を見上げ――
「君の働きに感謝する。助かった」
「クゥウウ」
夜月の感謝の言葉を受けて、木彫りの竜は役目を果たした安堵に包まれながら元の小さな像へと変わり、ポトリと音を立てて地面に落ちた。
大慌てで走り寄って来たダマキから奪い取られるようにしてカズノの脱力した体を渡して、夜月は足元に転がるお守りを拾い上げて、懐に仕舞う。
「なあ、あんた」
カズノの呼吸が安定したものであるのを確かめてから、ダマキは恐る恐る夜月に話しかける。垣間見た彼の実力もあるが、敵側に夜月の兄という人物がいるのが、彼女には気掛かりだ。
「あの夜空とかいうあんたの兄貴なんだけどさ……」
「奴か。同じ時期にこちらに渡ってきたが、港町で別れて以来、それきりだ。信じるか、信じないかは君に任せる」
「いや、信じるよ。あんたが兄貴を相手にしても剣を鈍らせないってのも、さっきまでの戦いぶりを見ていたら否応なしに信用できる。でも、本当に何も感じないのかい? 相手は兄弟なんだろ」
「身内のしでかした事だ。ならば尚の事、身内の手で後始末をつけるべきだろう。それに父と母の手を煩わせる位ならば、おれの手で片付ける。ただそれだけだ」
「ふうん。……あんたのその言い方からして、本当にそうなんだろうね。質問したあたしが怖くなる位に、冷たくって強い意思だよ。本気でおっかないね、あんたは」
夜月を見るダマキの目には、理解の及ばないものに対する黒々とした恐怖が渦を巻いていた。そしてそんな感情にまるで関心を示さないのが、夜月という青年だった。ニックは悲しげに眉根を寄せながら夜月に声をかけた。
「君の兄さんは館で決着をと言っていたが、追うのか?」
「ああ。今夜の内にこの戦いを終わらせる。再びの襲撃はあるまいが、君達はここで彼女と村を守れ。ザグフの手先は来なくても、戦いの気配に惹かれた魔物や悪霊の類が侵入してくる可能性がある」
「……少しはマシになったつもりだが、今度もおれは足手まといか。すまないな、君には何の事か分からないだろうが、個人的な愚痴だ。村の守りは任せてくれ。バンパイア相手には力が足りなくても、そこらの魔物相手なら負けはしないさ」
ふっ切った顔でそう告げるニックの顔を数瞬の間見つめて、夜月は踵を返した。
「任せる」
漆黒のコートを翻し、ザグフ達のやってきた方向へと向かい、足を踏み出す。
ダマキとニックの視線を背中に追いながら、夜月はすぐさま全力での疾走に切り替えた。転移によって姿を消した夜空達の居場所が分かっているのか、夜月の動きに迷いは見られない。
村を囲う柵を風のように軽やかに飛び越え、道なき森の中も一瞬も速度を緩めずに全力で疾走してゆく。ダンピールたる彼の身体には夜と月の活力が満ち、兄に負わされた傷も既に癒えきっている。
そんな夜月にふわりと上空に浮かんだ人影から声がかけられた。敵意はない。
「よろしければご一緒に行きませんか、ミスター」
「ダスタと言ったか」
「ええ。正統なる朱塗りの大地の支配者たるジークライナス女王陛下より、造反者討伐の任を与えられた追手ですわ」
首から上を吹き飛ばされた痕跡はわずかもなく、完全に傷の癒えたダスタは夜月の右手側に降り立ち、夜月と並走しながら気さくな調子で話しかける。
「貴方のお兄様には妹のアシュがお世話になりました。兄に殺されそうになり、その弟に救われるとは、奇妙なもの」
「追手は君達二人だけか?」
「ええ、今回の追手は私達だけ。夜空というダンピールの存在もそうだったけれど、ザグフの鎧もいささか想定を越えていたと言わなければならないわ」
「鎧、か」
夜月は知らないが、夜空の一撃をもってしても破れなかったザグフの鎧は、ダスタの母国の想定を越えた品であった。事前に得られた情報通りであったなら、アシュないしはダスタだけでザグフとその一党を滅ぼせたはずなのである。
「おれ達がこの大陸にやって来たのは自分達の意思でだが、この村に足を運んだ理由はいささか異なる」
「なにかしらの導きか、指示があったと?」
「そんなところだ。一つ違いを挙げるのなら、おれはザグフの前に奴の同胞らしいバンパイアと戦っている。これに見覚えは?」
夜月は走りながらコートのポケットに左手を突っ込み、縦に斬られたダイヤモンドを嵌めこんだペンダントを取り出して、ダスタに見せた。ダスタがそのペンダントに心当たりがあったのは、驚愕の表情に代わる様子だけで十分に分かる。
「それは“虚ろなる無垢”。まさか、それを斬ったのは貴方?」
「ああ。自称聖騎士の快楽殺人鬼だった。いや、快楽殺人鬼になったバンパイアというべきか。おれも君に聞きたい。このペンダントとザグフの鎧、あれは神器だな?」
「――――」
息を飲むダスタの姿を横目に見ながら、夜月は彼の中で整理されていた情報を確認するように淡々と言葉を重ねた。
「バンパイアの始祖が創造神から授けられた神器は六つ。ザグフの鎧もこのペンダントもその六つの中には含まれていないものだ。だが、これは紛れもなくバンパイアの使用を前提とした神器に違いない。
おれに分かるのはそこまでだ。おれが聞きたいのはこの神器は何だ? 始祖に授けられる事のなかった神器か、それとも何かの理由があって封じられていたこれらを、ザグフを含む造反者達が見つけたか、そんなところか?」
「……本来、これは我らの秘事。陛下の許しなく口にする事は許されない。けれど、ああ、けれど、貴方のその瞳、その美貌、こうしているだけでも私の魂を振るわせる、貴方に流れるバンパイアの血。そしてあの赤い長剣!
貴方と、貴方のバンパイアの親はいったい、何者なのですか!? もし私の考える通りであるのなら、私は貴方に知る限りの全てをお教えしましょう」
余裕など欠片もない切実とさえ言えるダスタの問いに、夜月は答えず視線を前方へと向けた。ダスタに向けた問いに答えが得られなくとも構わないと、その横顔が雄弁に語っている。
「おれの親が誰だろうと、おれのする事は変わらん」
「ええ、そう、そうですね。私もまたザグフを滅ぼすのに変わりはない」
自らにそう強く言い聞かせたダスタの瞳には、冷徹なる処刑人に相応しい光が戻っていた。
だが、今、対峙する二人から放たれる殺気の凄まじさ、恐ろしさは彼らが一度味わったものよりも格段に質を高めている。
夜空と夜月のこれまでの戦いは太陽が空に在る時刻に行われていたが、今は夜。バンパイアの時刻だ。
双子に流れるバンパイアの血は覚醒の時を迎えて、太陽の光を浴びる度に感じる倦怠も苦痛もなく、全身の細胞には尽きる事無く活力が満ちて、直感を含めた感覚の全てが研ぎ澄まされている。
奇しくも血を分けた肉親の戦いの場に於いて、夜月と夜空はその本領をニックやザグフ達へと知らしめているのだった。
夜空と夜月と。その名の化身の如き両者の対峙はまるで夢のように一瞬で形を変えた。
ダスタの動きを追えたニックの目にも追えぬ速さで両者は大地を蹴り、月光を切り裂きながら赤い長剣二振りが交錯する。
キィン、と夜の静寂を切り裂くが如き音は両者の中間点で噛み合った刃の奏でた音だ。
互いに弾き合った刃の内、夜月の握る長剣は実の兄の左首筋から斜めに切り下ろすべく慈悲の無い鋭さで振るわれた。
「はんっ!」
夜空はソレを鼻で笑い飛ばし、長剣の一閃で弾き返しながら切っ先をくるりと返して、弟の首を左から右へと斬り飛ばすべく刃を振るう。
夜月は刃をかわすのに最低限必要な距離だけ後退し、目の前を刃が過ぎ去った直後に引き戻した長剣を夜空の咽喉を狙って突きこむ。互いに兄弟に刃を振るう事への嫌悪も禁忌も罪悪感も、微塵も胸に抱いてはいないようだ。
黒雲を切り裂く雷鳴を思わせる夜月の突きは、両者の戦いを見守っていたザグフとダスタの背筋を凍らせる威力が見て取れた。
「おお!?」
驚きの声を上げたのはニックだった。彼とダマキの目には、夜月によって咽喉を貫かれた夜空の姿が確かに映っていた。だが、夜月の体から迸る物理的な圧力を伴う殺気は留まらず、彼の視線は前方へと向けられている。
「腕は鈍っちゃいねえようだな。ここに来るまでにそれなりの敵とやり合ったか?」
夜月の視線の先には無傷の夜空の姿があった。ニック達が見たのは、弟の突きを後方に飛び退いて避けた夜空の残像だったのだ。
軽い調子で夜月に話しかける夜空だが、彼もまた弟を相手に肉親の情など欠片も感じさせない殺気を滾らせており、隙があれば弟の首を撥ねるも心臓を貫くもやってのけるだろう。
「お前の雇い主程度にはやる相手を滅ぼした。お前の雇い主も同じ道を辿る」
「おうおう、おれが雇い主をみすみす灰にさせる程、間抜けだと思うかよ」
仲の悪い兄弟は、会話の最中もお互いに目に見えない応酬を繰り広げており、ニックとダマキにもこの二人が本気で殺し合っているのだと、否応なしに理解させられていた。
視線は夜月に固定したまま、夜空はザグフと自分の中間地点で足を止めているユハに一つの指示を発する。ユハの実力と身分からしてザグフとの戦いの援護はさせられないが……
「ユハ、そっちの二人組の足止めをしときな。お前はおれの世話役なんだから、これからも傍に居て貰わにゃ困る。無理をするんじゃねえぞ。死なない程度に頑張んな」
夜空の言葉に目隠しをしたままのユハは、それこそ満月のように輝かんばかりの笑みを浮かべる。また一つ、夜空から命じられた事が嬉しくて堪らない、そういう笑みである。
ユハは腰に巻いたリボンの端を握り、しゅるりと音を立てて解いた。青いリボンをまるで鞭のように持ち、ユハは見えぬ目でニックとダマキを見る。
「夜空様の仰せのままに。私、ザグフ・ガルドナ子爵様により夜空様のお世話役として突くられたホムンクルスのユハと申します。名前も知らないお二方、夜空様の命により、死なない程度に足止めをさせていただきたく存じます。どうぞ悪しからずご容赦くださいまし」
直後、パン、と鳴り響いたのはユハの振るったリボンが音の壁を突破した際に生じた破裂音であった。続いてニックが顔面をカバーするように掲げた長剣が大きく震え、ニックは吹っ飛ばされそうになる長剣を強引に抑え込む。
両者の距離はゆうに六メートルはあるが、ユハのリボンは空中で長さを伸ばしてニックへと音速を越えて襲い掛かったのだ。長剣に弾かれたリボンが月を背に鎌首をもたげる大蛇の如くクネクネと曲がりながら再びニックへと襲い掛かる。
「ダマキ、戦えるか!?」
ニックはあのクリキンとの戦いに匹敵する緊張感と警戒心を抱きながら、自警団の中で唯一意識を残している女戦士へと呼びかける。ダマキは右手に長剣を、左手に短剣を握って、ユハを目掛けて既に走り出していた。
「当たり前だ!!」
ニックが頭上から襲い来るリボンを再び弾くが、ユハの右手に操られたリボンは空中で向きを変えて、ダマキを背中から襲った。
果たしてリボンにどれ程の切断力、またあるいは破壊力があるか疑わしい所はあるが、夜空が反逆の牙を剥いた時に始末する為に作りだされたホムンクルスである以上、人間を抹殺する位は容易であろう。
「綺麗な薔薇にはなんとやら、か」
ダマキの背を追うリボンをニックの長剣が絡み取り、背中から串刺しないしは拘束されるのを防ぐ。その間にダマキはユハを長剣の間合いに、一足で収める距離にまで接近していた。
「あんたに恨みはないが、あんたの主人には恨みがあるんでね!」
見た目だけで判断するなら、盲目のたおやかな美女でしかないユハにも、ダマキは容赦をしなかった。本気でその豊かな起伏を描く体を袈裟がけに斬って捨てるつもりなのだ。
対するユハは左手でリボンを手繰り寄せて、自分の左肩に切り込んできたダマキの長剣を受け止めた。柔らかなリボンの布は鋼鉄の刃を受け止めて、微塵も斬り込むのを許さない。
「ふんっ!」
白い絹のドレスに包まれたユハの腹部へ、ダマキの左手の短剣が突き込まれる。月光を跳ね返す銀の刃は、しかして、その場で舞踏のように回転したユハを貫く事叶わず、虚空を素通りした。
「ご無礼」
ユハの静かな声が聞こえた瞬間、ダマキの右頬を強烈な衝撃が襲い掛かり、まぶたの裏でいくつもの火花が散る。
回転したユハの鋭い右の肘がダマキの顔を襲い、したたかに打ちすえたのだ。ホムンクルスの強烈な一撃はダマキの身体を後ろに転がし、思わず左手の短剣を手放してしまったが、すぐさま体勢を整え直して追撃に備えたのは見事と言えた。
ダマキがしゃがみこんだ体勢から、口の中に広がった血を吐き捨てるのと、ユハが自分の周囲でリボンを旋回させ、ニックの投擲した魔法文字を刻んだ魔晶石を打ち砕くのは同時だった。
人体に拳大の穴を開ける程の威力を持った魔力の炸裂は、ユハのリボンによって悉く打ちすえられて、ホムンクルスの美女の体には飛沫一つ触れない。
「あちらのバンパイアや夜月の兄貴よりは大分マシな相手の筈なんだが、容易く行くのを期待してはいけないな。立てるか、ダマキ君」
「ああ、くそ、歯は折れちゃいないがガタガタだ。見た目の割になんて馬鹿力だい」
「顔が吹っ飛ばなかっただけ恩の字なのだろうさ。向こうは夜空と言ったか、彼の言う通り積極的には来ないから、そこが狙いどころではある」
「黒薔薇のニックともあろう男が弱気だね」
「お互いの力量を正確に把握した上での判断だ。彼女がおれ達を足止めするのか、おれ達が彼女を足止めするのか、どちらとも言い難い状況なのは認めるがね」
苛立たしげなダマキをニックが宥める間も、二人の視線と意識はユハへと注がれている。
彼女からは殺気らしいものは微塵も感じられず、事実、彼女はニック達を殺害しようとは微塵も思ってはいまい。ただただ、夜空の命令を遵守する、それが今の彼女が全力を傾けている事だった。
「もう、お話はお済みになりましたか? 夜空様からの御命令を守る為、精一杯お相手を務めさせていただきます」
そして、夜空の語る雇い主も追手を相手に止めていた戦いの手を再開させようとしていた。連れてきた四名の騎士が灰になった事を露とも気にせず、ザグフは目の前の銀色の追手に兜の奥から凶悪な殺意を向ける。
故郷を離れ、今ある支配を打ち砕かんが為に辺境までやってきた自分を追いまわす目障りな猟犬を相手に、同胞といえども容赦する必要がどこにあろうか。
「妹とやらは黄金の剣を振るったが、姉なる貴様は銀の槍を振るうか。このおれを滅ぼすに相応しい逸品なのだろうな。先程の月の光を束ねて放つだけが能ではあるまい?」
揶揄するように言うザグフに、ダスタは石突きから穂先まで銀一色の槍――月針を右手一本で握り、穂先はだらんと大地に向けたまま、構えらしい構えを取らずにいる。
「造反者よ、悠久の時を生きるバンパイアとて時の流れに異を唱える事は出来ない。創造主より始祖が賜った六つの神器は失われ、始祖から分かたれた最も貴き血筋も一つを残すのみとなった。
失われるばかりの中にあって、新たに芽吹いた秩序と道理に背を向けて何とする? 粛々と種族の歴史が辿る変遷を受け入れる器量を持つべきであったぞ、元ガルドナ子爵」
朱塗りの大地の正統なる支配者に造反した以上、かつてザグフの一族に与えられていた名誉と爵位、領地は取り上げられるものだ。
それゆえにダスタはザグフを元ガルドナ子爵と呼んだが、当のザグフは自身の正義に従って造反行為に及んだと考えている。そんな彼からすれば、ダスタの言葉は怒りの炉に薪をくべた上に空気をわんさかと送り込むようなものだ。
ザグフに対する挑発としてわざと口にしたのか、それとも天然なのか。ダスタはザグフのこめかみに青い筋が浮かび上がったとは露知らず、月光に影を落とさぬ足で大地を踏みこんだ。
「まずはその鎧の具合を確かめるとしよう」
「痴れ者がっ! 卑しい猟犬は犬の餌にしてくれるわ」
霧と変わって風に乗ったかの如く素早いダスタの踏み込みに、ザグフは完全に反応した。
鎧への信頼からか、一切の武器を持たぬザグフの右手は五指を伸ばして手刀の形を取り、自分の胸のど真ん中へ突きたてられんとした月針の穂先を叩き落とした。
それこそ爆発が生じたかのような轟音と衝撃が周囲の闇へと伝播し、風と闇の精霊達を驚かせる中、ダスタは引き戻した月針を再び突き込む動作を繰り返す。
ザグフを槍の間合いに収め、大地に根を張る巨木のように腰を落として重心を安定させたダスタの連続突きは駆けながらの第一撃よりも速さ、鋭さ、重さにおいて上回る。
ザグフは両手に何も持たないからこその手数の多さと鎧の絶対的な防御を最大限に活用し、豪雨の如く襲い来る月針の穂先を叩き落とし、そらし、受け止め、自身への非礼なる直撃を許さない。
ダスタの刺突が十を越え、二十を数え、三十にまで到った時、月の針と名付けられた槍は主の手元でぴたりと動きを止めた。
「陛下より賜った月針でも貫けぬ鎧……。貴様は、貴様らはどこでそれを手に入れた? それは今も、いや、始祖の時代より今に到るまでバンパイアの世に存在してはならぬものだと分からないのか? 例え陛下に反逆しようともそれを持つなど、バンパイアとしての恥だ」
夜空の刃が通じず、今またダスタの月針も通じぬザグフの鎧はやはり何かしらの秘密が存在しているらしい。ダスタの声には強敵に対する警戒よりも、鎧そのものとそれを纏うザグフに対する嫌悪と拒絶の意思がありありと浮かんでいる。
「バンパイアの世界という大盤をひっくり返す為には、世界の始まりから否定されたものを用いるのが効率的でな。道理でもあるだろう?
六神器と始祖六家の失われた世界で、それに代わるものを用意してこそ、支配者としての第一歩を踏み出せるというものではないか」
「減らず口を。陛下が貴様らを強く危険視したのも道理。お前達の目的と手段の双方が、ようやく秩序を得つつあるバンパイアの世界を脅かす」
「そのつもりなのだから、当たり前だろうが。まずバンパイアの世界よりも先に、貴様が灰となって滅びるがいい。そして後を追う女王を迎えて詫びよ!」
言うが早いかザグフが砲弾の如く飛び出した。体当たり一つで、小さな砦位なら崩壊させられる速さと力を併せ持ったそれを、ダスタは渾身の力を込めた突きで受けた。
高位のバンパイアたる二人の膂力は百人力にも達しよう。
全力疾走の最中、ザグフは腰の隙間を狙って突き込まれた月針の穂先を左脇に抱え込み、鎧の表面と穂先が擦れて双方の魔力の衝突による大量の火花と紫電が四方へと広がる。
「ぬぅええい!!」
両者の身体に収まりきらなかった衝撃が大地に伝播して、大きく蜘蛛の巣状の亀裂が広がり、ザグフの右の鉄拳がダスタの顔面に打ち出される。
人体はおろか巨人種や竜種でも重傷は免れない拳を、ダスタの左手が顔面すれすれで受け止めるが、強すぎる衝撃によって折れた骨がダスタの手の甲から突き出て、赤い血が飛沫となって飛び散る。
いや、左手だけではなく、ダスタの肘から左腕の付け根に到るまで、骨と血管、筋肉の悉くが砕け、破れ、ズタズタにされてしまう。それもすぐさまバンパイアの再生能力で修復が開始されるが、ザグフの鎧による効果か、常よりも三分の一程の速さになっている。
「このまま陽が昇るまで殴り潰してやろうか?」
「それが地か。とんだ蛮族だな、元ガルドナ子爵。我が槍、月針の真価をとくと味わうがいい!」
ザグフの左脇に抱え込まれたままの月針が、主の呼び声に応えて朧月のように淡い光を発すると、ザグフの鎧の内側からより強力な光が発せられて、ザグフの全身が突如として襲ってきた苦痛に大きく振るえる。
「ぐあああ、これは!? 我が鎧を貫いて、いや、違う、これは内側に生じたのか!?」
「流石に理解が早いな。月針の名のままに、我が槍は月の光を針と変えて敵を貫く。お前の鎧がどれだけ堅固であろうとも、我らにとって恵みたる月の光までは遮るまい」
嘲笑するダスタの言う通り、この時、ザグフの肉体は鎧の内側で針の形を取った月光に全身余すところなく貫かれて、尋常ではない苦痛に苛まれていた。ただの針に刺されるだけならば、ザグフは苦痛の声を洩らさなかっただろう。
だが、彼の身体を貫いているのは、本来、バンパイアに活力を与え、味方となってくれる月光だ。夜と並んで最大の味方である筈の月光が敵となった時、バンパイアに与えられる苦痛は計り知れないものとなるのだった。
「月針を手離せまい? 月の光が貴様と月針を繋いでいるのだ。そのまま全ての血を流しつくし、造反の咎を滅びをもって償うがよい!」
離そうとしても離れぬ月針にザグフが戸惑う中、ダスタはそのままザグフの体を持ち上げて、勢いよく月針を振り抜いてザグフを地面へと叩きつける。
先程の衝突で発生した亀裂を新しくより深い亀裂でもって上書きし、ザグフの体が砕けた地面に半ば埋もれる。
万が一、ザグフが流れ出た自分の血を飲めば、瞬間的にでも力を発揮する可能性を考慮しつつ、ダスタはそのまま月針によって鎧の内側に新たな月光の針を作り出し、造反者の額と心臓を貫かんとする。
「くぁっ!!」
「なに!」
半ば地面に埋もれ、鎧の隙間から血を流すザグフの兜の奥で赤い光が灯り、それは二筋の光線となってダスタを襲った。夜空との戦いでザグフが見せた、瞳の魔力を圧縮して視線に乗せた魔眼光線だ。
不意を突かれた形のダスタだが、咄嗟に首を傾けて右の頬を大きく抉られるだけに被害を留めた。最後の悪足掻き――というダスタの思考は、月針に加わる重量が突如として減った事で否定された。
月の光で繋がっている筈のザグフの左手が、月針を手放していたのだ。馬鹿な、とダスタが思わず口にするよりも、地面から背筋力だけで飛び上がったザグフの右の爪先が彼女の腹部を貫く方が早い。
「が、ぁぐ……」
ザグフが右足を引き抜き、崩れ落ちるダスタの口から大量の血液が吐き出されて、バシャバシャと音を立てて地面に赤い水たまりを作った。
「月光が敵となるなら拒むまでよ。我が鎧が月の光さえも阻めると知らなかった貴様の落ち度だ。
始祖は月の女神と夜の神の御子であった。ならばおれは種族の母たる者すら敵として、大願を成就するのみよ。しかし、月の光の一筋もない夜とはかようなものか。早く慣れねばな」
おのれ、と内心で唸りながら、ダスタは月針を握り直す。鎧の内側に月光の針が生み出せずとも、外からならば話は別だ。月光は月がある限り際限なく発生している。ダスタの攻撃手段は時間制限つきではあるが、ほぼ無尽蔵なのだ。
「みすみすやらせると思うか、猟犬!」
ザグフの左足が月針を握るダスタの右手を踏みつぶし、無数の骨折音が地面とザグフの足の間で鳴り響く。苦痛にも悲鳴一つ洩らさず、ダスタはザグフの隙を伺うべく睨みつけていたが、体勢も状態もどちらもザグフの方が圧倒的に有利だ。
月針によって刺し貫かれた痛みと月光の針は鎧の力によって既に失われ、ザグフの肉体は急速に修復中だ。対してダスタは左腕がかろうじて動かせるようにはなったが、右手ごと月針と動きを封じられている。
「ははは、貴様の持つ黄金の剣も銀の槍もおれの鎧とは相性が悪かったな。おれ以外の者達であったなら、あるいは貴様に討たれたかもしれん。それだけは褒めておくぞ、猟犬」
ブンと音を立ててザグフの右拳が下から掬いあげるように振るわれて、ダスタの顎から上を真っ赤な大輪の花へと変える。少ししてびちゃびちゃと音を立てて、周囲に無数の肉と頭蓋骨の破片と血が降り注いだ。
首から上を失っただけでは、バンパイアは滅びはしない。とはいえ脳を失えば再生するまでは意識を喪失するから、止めを刺す為の一手間としては十分だ。ザグフは今度こそダスタの心臓を貫くべく、赤く濡れた右腕を振り上げる。
後は振り下ろすだけのザグフの右腕が止まったのは、カズノが保護されている小屋が内側から破壊された大きな破砕音が辺りに轟いたからだった。
人一人が通り抜けられるだけの穴が小屋の壁に開き、戦っていた誰もが視線を向ける最中、小屋の内側から誰あろうカズノが姿を見せる。
自らの血を吸ったザグフが近づいた影響によって、バンパイアの腕力がある程度付与されたのか、小屋を破壊したのはカズノ自身だった。
血の匂いに酔ったバンパイアの如く瞳を赤く輝かせたカズノは、周囲を見渡してザグフの姿を見つけると、夢に見る程に恋した相手を前にした笑みを浮かべる。
「ああ、ああ、ザグフ様!」
火が付くように熱く、ではなく霜が降りるように冷たい吐息もまたバンパイアの特徴だ。凍える吐息を発しながら、カズノはふらふらと覚束ない足取りでザグフを目指して歩き出す。
予想外のカズノの行動に、ユハのリボンの猛攻を凌いでいたダマキが真っ先に悲鳴を上げる。夜月とニックはカズノを止めるべく動こうとしていたが、それは互いの敵が阻み、カズノへ近づく事もままならない。
「カズノ、ああ、何をしているんだい!? すぐに小屋の中へと戻りなよ!」
「何を言っているの、ダマキ。ザグフ様がお越しくださったのよ。なら進んで咽喉を晒して血を捧げなければ。ああ、まぶたを閉じる度にずっと思い出していたの。ザグフ様のお顔を。ずっと思い出していたの。首筋を貫く牙の冷たい感触。血を吸われる快楽を」
紅潮した頬に両手を当てて、恍惚と語るカズノの姿にダマキは言葉を失い、茫然と目を見開いている。幼馴染にあまりの姿に大きな衝撃を受けるその姿に、ニックは痛ましげな目を向けている。
一方、赤い長剣を共に振るうのを止めた夜空と夜月もまた、カズノの姿と状態に注意しているようだった。カズノの姿はバンパイアの吸血によって身も心も魅了された被害者そのものの姿だが、母をバンパイアに持つ彼らには何か違和感があったものか。
「カズノ、なんて事を……」
「ふははは、そうだったな。追手共との戦いに熱を入れ過ぎて、思わず忘れそうになっていたぞ。良いだろう。この地に於いて最初に我が牙を受けた女よ。今一度お前の首に我が口づけを授け、特別に同胞として迎え入れてやろう」
ダスタの頭部の再生が始まっていないのを確認してから、ザグフはふらふらとこちらに近づいてくるカズノへと歩み寄ってゆく。ダスタが倒れた今、ザグフの歩みを止める者はいない。
夜月さえも夜空に足止めされて動けぬまま、ザグフとカズノは手を伸ばせば互いの頬に触れられる距離にまで近寄る。カズノは荒くなった息を吐きながら首を右に傾けて、既にザグフによって穿たれていた首筋に二つの牙の痕を晒す。
カズノを守らんと奮闘する者達の見ている前で血を吸ってやろうと、残酷な考えを抱いたザグフが兜を脱ごうとした時、夜空の危険を告げる声が彼の手を止めた。
「子爵、その子から離れな! お守りが動くぞ!!」
夜空の言葉の意味を理解するよりも早く、ザグフの肉体はその場から飛び離れようとしたが、それよりも早くカズノの左手にずっと握られていた木彫りの竜の像が動きだす方が早い。
ちょっとした土産物屋にありそうな竜の像は、ザグフの接近に呼応してその瞳に光を宿すと、見る間に巨大化して成体の竜と変わらぬ大きさになり、カズノをその背に乗せた状態でザグフを右の前脚で思い切り踏みつけていた。
「グオォオー!!」
「なん、だとぉお!?」
本物の竜と変わらない咆哮は、ザグフに魅了されたカズノの精神を打ちのめし、糸の切れた人形のように気絶させる。木彫りとはいえ突如として出現した竜に、ザグフのみならずユハやニック達も仰天していた。動じていないのは、予めお守りを渡していた夜月くらいのものだ。
「妙に余裕があるなとは思っていたが、そういうわけかい、夜月」
よくもまあ、と出しぬかれたというよりも呆れた調子の夜空に、夜月は一瞥と頭頂を割る一撃を同時にくれてやった。
頭上に掲げた長剣で受けた夜空は、けっ、と短く吐き捨てる。
「抜け目のない弟を持ったもんだぜ。しかし、父ちゃんの特製お守りとあっちゃ、ちとやべえ」
困り顔になる夜空の視線の先で、木彫りの竜に踏みつけられていたザグフが怒声と共に拳を振り抜いて、竜の右前肢を大きくかち上げる。これは夜空にとって意外だったのか、お、という顔になった。
「ぐ、こと、ここに到ってまだ予想外の事態が起きるか。何という厄日よ」
苛立ちを隠せぬザグフに、木彫りの竜は左の前肢を横殴りに叩きつける。鱗も爪も全て木製だが、込められた膨大な魔力は木製の竜を本物と遜色ない領域へと押し上げていた。
ザグフは大きく足を開いて正面から左前肢を受け止める。踵が深く地面にうずまり、木彫りの竜の膂力に押されてそのまま数メートル後退してようやく止まる。
このままこの肢を捻じ切ってやろうと、ザグフが両腕に渾身の力を込めた時、竜が大きく口を開いて喉の奥に鮮烈な炎が宿るのを見て、まさか、と流石の彼も口にした。
「まさか!」
次の瞬間木彫りの竜の喉奥から放射された超高温の炎の奔流が自分の左前肢ごとザグフを飲みこみ、膨大な熱量は炎の触れた地面も融解させる。熱せられて赤く変色した大地の領域が広がる中、夜空は強引に夜月の隙を作るべく大上段から斬り込んだ。
「この場は預けるぜ、弟。決着は雇用主殿の館で着けようや!」
二人の薄い影が交差し、夜月の左肩に縦一文字の傷が走り、夜空の左脇腹から鮮血を噴いた。バンパイアの不死性を受け継ぐダンピールの肉体は迅速に修復を始めるが、無理を通した夜空の方が傷は深く、噴き出す血の量が多い。
「夜空様ッ!」
ザグフの危機にも悲鳴を上げなかったユハだが、夜空の初めて見せる苦痛に歪む顔には平静を保てず、咄嗟に彼の名を叫んでいた。
「ユハ、退くぞ。あの竜は一回こっきりの使い捨てだが、その分、性能は高い。それに子爵も格好つけちゃいるが、追手との戦いでそれなりに堪えている筈だ」
ユハは夜空の命令である事に加え、確かにザグフが本調子ではなく受けた傷が治りきっていないと、彼女自身も考えていた為、すぐさま首肯して彼に従う。
夜空がザグフを回収する為に走り出しているが、その彼の向かう先で竜の火炎を突き破ったザグフが姿を見せて、全力の右拳の一撃を竜の眉間に叩き込む。
「おのれ、たかが木の竜如きがぁ!」
ザグフの右手は肩までめり込み、木彫りの竜は苦痛に喘ぐように頭を何度も振り、ザグフはその勢いを利用して腕を引き抜いて竜から距離を取る。猫のようにしなやかに着地する姿は優美でさえあったが、竜のブレスは鎧越しにも堪えたようで、着地と同時に堪らず膝を突いた。
そこに先にユハが辿りついて、ザグフに肩を貸して彼を助け起こす。ユハに遅れる事二秒、夜空もまた雇い主の下へと辿りつき、彼を目掛けて放たれた無数の月の針を長剣を縦横無尽に振るって叩き落とす。
「追手ちゃんが復活したか。子爵の一撃でお守りの方はそう長かねえが、ちと厳しいねえ」
夜空の視線の先には頭部の九割以上を再生し終え、月針をこちらへと向けるダスタの姿が映っている。夜月とダスタと竜とに三方から囲まれた状況だ。夜空ならまず撤退を最優先にするが、彼は雇われの身だ。まずは雇用主の意思を確認しなければ。
「雇い主殿よ、腸が煮えくりかえっているだろうが、ここは一先ず館に戻るのが賢い選択だぜ。あんたを邪魔した木彫りの竜は使い捨てだから次の時には役に立たんし、地の利がある所で迎え撃った方がいい」
少しは再生したのか、ザグフはユハを振り払い、自分の力だけで立つと兜の奥に剣呑な光を宿して夜空を睨む。事と場合によってはこの場で処断すると言いかねない雰囲気に、夜空は肩をすくめて答えた。
「追手ちゃん自体はあんた一人で片付けられるだろうが、夜月の野郎がちと面倒だ。おっと、始末するのに躊躇いがあるわけじゃないぜ。ただどうにも相討ちになりそうなんで、おれとしては完全に有利な状況で戦いたいわけよ」
「ふん、あくまで自分の為か。よかろう。おれの為などと言いだしていたら、貴様の頭の中を疑うところだが、そうであるのなら納得もする」
「合意は取れたって事にするぜ。それじゃ、戦略的撤退と洒落込みますかね。じゃあ、あばよ、弟とその他の諸君!」
夜月が木彫りの竜を持っていたように、夜空もまた何かしらの魔法の品を持っていてもおかしくはない。彼はコートの内ポケットから黒い渦を内包した硝子壜を取り出して、誰が止める間もなくそれを足元に叩きつける。
万が一の場合に備えて、ザグフから支給されていた転移用の魔法具だ。割れた硝子壜から溢れだした闇が夜空達の周囲を満たして、夜月とダスタの目を持ってしても見通せない領域が出来上がる。
「もう移動したな」
闇の中に飲み込まれた直後に双子の兄達の気配が消え去ったのを感じ取り、夜月は長剣を何処かへと仕舞いこむと木彫りの竜へと近づき、その背で気を失ったままのカズノを受け取る。額に大穴の開いた竜を見上げ――
「君の働きに感謝する。助かった」
「クゥウウ」
夜月の感謝の言葉を受けて、木彫りの竜は役目を果たした安堵に包まれながら元の小さな像へと変わり、ポトリと音を立てて地面に落ちた。
大慌てで走り寄って来たダマキから奪い取られるようにしてカズノの脱力した体を渡して、夜月は足元に転がるお守りを拾い上げて、懐に仕舞う。
「なあ、あんた」
カズノの呼吸が安定したものであるのを確かめてから、ダマキは恐る恐る夜月に話しかける。垣間見た彼の実力もあるが、敵側に夜月の兄という人物がいるのが、彼女には気掛かりだ。
「あの夜空とかいうあんたの兄貴なんだけどさ……」
「奴か。同じ時期にこちらに渡ってきたが、港町で別れて以来、それきりだ。信じるか、信じないかは君に任せる」
「いや、信じるよ。あんたが兄貴を相手にしても剣を鈍らせないってのも、さっきまでの戦いぶりを見ていたら否応なしに信用できる。でも、本当に何も感じないのかい? 相手は兄弟なんだろ」
「身内のしでかした事だ。ならば尚の事、身内の手で後始末をつけるべきだろう。それに父と母の手を煩わせる位ならば、おれの手で片付ける。ただそれだけだ」
「ふうん。……あんたのその言い方からして、本当にそうなんだろうね。質問したあたしが怖くなる位に、冷たくって強い意思だよ。本気でおっかないね、あんたは」
夜月を見るダマキの目には、理解の及ばないものに対する黒々とした恐怖が渦を巻いていた。そしてそんな感情にまるで関心を示さないのが、夜月という青年だった。ニックは悲しげに眉根を寄せながら夜月に声をかけた。
「君の兄さんは館で決着をと言っていたが、追うのか?」
「ああ。今夜の内にこの戦いを終わらせる。再びの襲撃はあるまいが、君達はここで彼女と村を守れ。ザグフの手先は来なくても、戦いの気配に惹かれた魔物や悪霊の類が侵入してくる可能性がある」
「……少しはマシになったつもりだが、今度もおれは足手まといか。すまないな、君には何の事か分からないだろうが、個人的な愚痴だ。村の守りは任せてくれ。バンパイア相手には力が足りなくても、そこらの魔物相手なら負けはしないさ」
ふっ切った顔でそう告げるニックの顔を数瞬の間見つめて、夜月は踵を返した。
「任せる」
漆黒のコートを翻し、ザグフ達のやってきた方向へと向かい、足を踏み出す。
ダマキとニックの視線を背中に追いながら、夜月はすぐさま全力での疾走に切り替えた。転移によって姿を消した夜空達の居場所が分かっているのか、夜月の動きに迷いは見られない。
村を囲う柵を風のように軽やかに飛び越え、道なき森の中も一瞬も速度を緩めずに全力で疾走してゆく。ダンピールたる彼の身体には夜と月の活力が満ち、兄に負わされた傷も既に癒えきっている。
そんな夜月にふわりと上空に浮かんだ人影から声がかけられた。敵意はない。
「よろしければご一緒に行きませんか、ミスター」
「ダスタと言ったか」
「ええ。正統なる朱塗りの大地の支配者たるジークライナス女王陛下より、造反者討伐の任を与えられた追手ですわ」
首から上を吹き飛ばされた痕跡はわずかもなく、完全に傷の癒えたダスタは夜月の右手側に降り立ち、夜月と並走しながら気さくな調子で話しかける。
「貴方のお兄様には妹のアシュがお世話になりました。兄に殺されそうになり、その弟に救われるとは、奇妙なもの」
「追手は君達二人だけか?」
「ええ、今回の追手は私達だけ。夜空というダンピールの存在もそうだったけれど、ザグフの鎧もいささか想定を越えていたと言わなければならないわ」
「鎧、か」
夜月は知らないが、夜空の一撃をもってしても破れなかったザグフの鎧は、ダスタの母国の想定を越えた品であった。事前に得られた情報通りであったなら、アシュないしはダスタだけでザグフとその一党を滅ぼせたはずなのである。
「おれ達がこの大陸にやって来たのは自分達の意思でだが、この村に足を運んだ理由はいささか異なる」
「なにかしらの導きか、指示があったと?」
「そんなところだ。一つ違いを挙げるのなら、おれはザグフの前に奴の同胞らしいバンパイアと戦っている。これに見覚えは?」
夜月は走りながらコートのポケットに左手を突っ込み、縦に斬られたダイヤモンドを嵌めこんだペンダントを取り出して、ダスタに見せた。ダスタがそのペンダントに心当たりがあったのは、驚愕の表情に代わる様子だけで十分に分かる。
「それは“虚ろなる無垢”。まさか、それを斬ったのは貴方?」
「ああ。自称聖騎士の快楽殺人鬼だった。いや、快楽殺人鬼になったバンパイアというべきか。おれも君に聞きたい。このペンダントとザグフの鎧、あれは神器だな?」
「――――」
息を飲むダスタの姿を横目に見ながら、夜月は彼の中で整理されていた情報を確認するように淡々と言葉を重ねた。
「バンパイアの始祖が創造神から授けられた神器は六つ。ザグフの鎧もこのペンダントもその六つの中には含まれていないものだ。だが、これは紛れもなくバンパイアの使用を前提とした神器に違いない。
おれに分かるのはそこまでだ。おれが聞きたいのはこの神器は何だ? 始祖に授けられる事のなかった神器か、それとも何かの理由があって封じられていたこれらを、ザグフを含む造反者達が見つけたか、そんなところか?」
「……本来、これは我らの秘事。陛下の許しなく口にする事は許されない。けれど、ああ、けれど、貴方のその瞳、その美貌、こうしているだけでも私の魂を振るわせる、貴方に流れるバンパイアの血。そしてあの赤い長剣!
貴方と、貴方のバンパイアの親はいったい、何者なのですか!? もし私の考える通りであるのなら、私は貴方に知る限りの全てをお教えしましょう」
余裕など欠片もない切実とさえ言えるダスタの問いに、夜月は答えず視線を前方へと向けた。ダスタに向けた問いに答えが得られなくとも構わないと、その横顔が雄弁に語っている。
「おれの親が誰だろうと、おれのする事は変わらん」
「ええ、そう、そうですね。私もまたザグフを滅ぼすのに変わりはない」
自らにそう強く言い聞かせたダスタの瞳には、冷徹なる処刑人に相応しい光が戻っていた。
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