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新たな動き
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ソルグランドは、ワイルドハント司令室との連絡用の通信機であるイヤーカフを山犬耳に着けて、所属二日目からさっそく魔物退治に出撃していた。
大学の講堂を思わせる司令部にはバルクラフトの他、選抜されたスタッフとコクウの姿がある。正面の立体モニターには、ソルグランドを後方から見ている視点の映像が映し出されている。
「せめてもう数日、スタッフの皆さんとの打ち合わせと親交を深める時間が欲しかったところですね」
アフリカの大地で戦うソルグランドの姿を見ながら、コクウが口にした内容に傍らの最上段にある席に座るバルクラフトは頷き返した。
フェアリヘイムを介さない長距離転移、長距離通信のどちらも今は成功しているが、戦闘中にどんなエラーが吐き出されるか分かったものではない。
こうしてモニタリングしている今も、どうなるかとスタッフの心中は荒波を立てている。バルクラフトも応援に出せる戦力はなく、出来るのはせいぜい情報支援と緊急時にソルグランドを回収することくらいだから、緊張していないと言えば嘘になる。
「一級の魔物の出現だがこれまでと変わらない襲撃か、それとも次の魔物側の動きに対する伏線か。コクウさんはどう思われるか?」
「魔物側の切り札に相当する魔物少女を立て続けに退けたソルグランドは、優先して排除するべき対象です。それを考慮すれば、伏線と考えて警戒はしておくべきでしょう。
ただ、あちらもフェアリヘイムでソルグランドさんと遭遇したのは想定外だったはず。今回のソルグランドさんのアフリカ出張も、あちらにとっては予定外なのではないでしょうか?」
「つまり今回に限っては全くの偶然の可能性もあると? ふむ、なら次は偶然以外の可能性を探るべく、魔物の出現地帯を散らしてくるか……」
「そもそも魔物は世界中に出現していますから、こちらで判別するのは難しいのが難点でありますね。不自然にあっけなく倒せるか、あるいは守りに専念する素振りを見せたら、怪しいと考えておきましょう」
「ところで、ある意味でソルグランドさんの初陣だが、コクウさんは露ほども心配をしないものなのだね」
「それはもちろん。日本を離れて初めての環境で戦うことへの心配はありますが、彼女の心身がどれだけ強いかは、よく承知しております。なにより、私こそ彼女をもっとも信じなければならないのですから」
自分を責めるか、言い聞かせるような言い方だ、とバルクラフトは夜羽音の声から、確かな感情の響きを聞き取っていた。
一方のソルグランドだが、夕焼けのサバンナで先んじて魔物と戦闘中だった現地の魔法少女を、破殺禍仁勾玉で守りながら交戦を開始している。
血の涙を流す白い仮面を着けた、渦巻く赤い砂の竜巻。それがソルグランドの対峙している一級相当の魔物の姿だ。全高はざっと百メートルほどか。
触れる端からプラーナを吸い取り、さらに強制的に全身から出血させる異能を備えた魔物で、竜巻状の肉体は千々に散らしてもすぐに集結し、ほぼ損傷無しに復活する特性を備えている。
接近戦を挑むタイプの魔法少女にとって極めて厄介なタイプで、遠距離タイプにしてもプラーナを用いた攻撃では、砂状の身体に散らされた上に吸収される為、決して相性がよいタイプではない。
「竜巻仮面とでも呼んでおくか? ディザスターみたいに心をへし折る必要がない以上は、速攻で討たせてもらおう」
瞬時に体内のプラーナを高めたソルグランドの右手に闘津禍剣が、そして左手には小さな火種が生まれる。手を握ればそれだけで隠れてしまう小さな火種。それこそ竜巻の魔物を消し去る決め手だった。
後にデザーラディと識別名称を付けられた魔物は、瞬時に数百メートルに広がり、ソルグランドと背後に庇う魔法少女達のプラーナと血を味わうべく包み込んでくる。
「しっ!」
鋭い吐息がソルグランドの唇から零れ、闘津禍剣の縦一文字の斬撃が、デザーラディの砂の身体だけでなく存在の核となるプラーナそのものを斬り裂き、再生を許さない。
再び繋がろうとしても断面からはさらさらと赤い砂が流れ落ちるばかり。デザーラディの判断は速かった。
再生を即座に諦めて、二つに分かれた体のプラーナが尽きる前にと、ソルグランドに迫る速度を上げた。生存ではなく殺戮を優先するのも、魔物達の特徴であった。
「お前さん程度にはちとやりすぎかもしれんが、俺のはしょせん模倣。むしろちょうどいい火力かもな。罪なき罪の炎の産声を。火夢須灯」
日本神話における火の神、神産みにおいて母たる伊邪那美を焼き、死因となってしまった神が複数の名前の一つ、『火産霊』にあやかった名を付けられた火種が、ソルグランドの手から解き放たれる。
所詮は模倣、さりとて行使したのは八百万の神々の権能を委ねられた最新の女神。日の本から遠く離れたアフリカの大地に、母なる大神を焼いた火が再現される。
夜羽音が、模倣とはいえ心臓に悪いと見守る中で、デザーラディは解き放たれた炎に飲まれて刹那と耐え切れずに消滅していた。
デザーラディの消滅と同じく火夢須灯もまた消えるのを見届けてから、ソルグランドはピンと立てた耳を左右に動かしながら、司令室へ問いかける。
「魔物の追加の出現、潜んでいた伏兵の気配ともになし、と。司令室、そちらのレーダーとかセンサーに反応は?」
『広域レーダー、各種センサーに反応なし。魔物の反応、完全に消滅しました。ソルグランド、帰投してください』
ソルグランドは男性オペレーターからの指示に頷き返し、緊急要請に応じて助けた魔法少女を振り返り、小さな傷があるだけで命に別条がないのを確認する。
真っ白い一枚布を体に巻き付けて、肩や胸、脇腹など要所を赤い装甲で守った姿の魔法少女だ。手には穂先の折れた長槍が握られていて、デザーラディの異能によって、全身から出血している。
「俺はもう戻るが、医療班とか同じ支部の仲間が来るまで大丈夫そうかい?」
「え、ええ。骨が折れたりはしていないから、大丈夫。貴方は……このあたりの魔法少女じゃ……あ! ソルグランド? 日本に現れたとても強いって噂の」
「お? こっちにも俺の噂が届いているのか。そう、そのソルグランドさんだよ。ワイルドハントの初仕事で、こっちまで足を延ばしたってわけでな。君が無事ならなによりだ。それじゃあ、また縁があったらどっかで会おうや」
ソルグランドは怪我や病を治した逸話のある神々の権能を引き出し、現地の魔法少女に止血と痛み止めの治療を施してから、その場を後にする。
帰りは、ゲートを使ってやってきた際に、ソルグランドにマーキングが施されていて、それを目印にして、帰還用のゲートがすぐそばに作り出される。ソルグランドの影響なのか、ゲートが鳥居の形をしていた。夜羽音が渡した技術が含まれているのかもしれない。
「それじゃあな。自分の命をまずは大事にしなよ。命あっての物種って言うだろ?」
魔法少女の基本機能として言語翻訳が備わっているのに、ソルグランドの中の大我は改めて感謝した。ねぎらいの言葉を掛けても通じていないとあっては、恥ずかしいやら空しいやらだ。
こうしてワイルドハントに籍を置いてから、初めてのソルグランドの戦いは一級の魔物を相手に会敵から一分と満たない間に撃破という、改めて彼の戦闘能力の高さを知らしめる結果となった。
地球上での長距離転移、オペレートの成功と直接的な戦闘以外でも収穫はあり、今後、ソルグランドが世界中を飛び回るのにも支障はないと期待が持てる。ソルグランドとしては夜羽音の他神話体系への根回しも無事に出来ていた、とこっそり安堵していた。
ロイロ島のゲート室に戻ったソルグランドだったが、彼にとってもワイルドハントの司令部の者達にとっても、想定外の事態が生じたのはそれからわずか二時間後のことである。
愛用の湯飲みを始めとした食器類と最低限の着替えの他、一輪挿しの陶器と小さな簡易神棚が飾られている以外はほとんど飾り気のない部屋で、お守りづくりに励んでいたソルグランドに召集が掛かる。
既にワイルドハントの隊員全員分のお守りは渡し終えており、出張先で出会う魔法少女とロイロ島の人々に渡そうと数千個単位で作成中だった。
『魔法少女ソルグランド、ゲートルームへ急いでください。ゴットランド島近海に二級相当の魔物の群れが出現しました。現地の魔法少女が対応中ですが、救援要請が届いています』
「おいおい、二時間しか経っていないぞ。フォビドゥンが初めて姿を見せた時よりはマシだが、今度も陽動だったりしないよな!?」
「ふむ、となるとフェアリヘイムか国連か、どこかの国の首都狙いもあり得ますね。魔物側が戦略的な動きを見せると、こちらも守るべき場所を絞れますが、現状では候補が多すぎるのが困りものですな」
「冷静に言わんでください。しっかし、アフリカの次はゴットランド島かよ。バルト海の島だったか?」
すぐさま用意された個室を飛び出て、ワイルドハント基地内にあるゲートルームへの最短経路を頭の中に引っ張り出す。
「あるいは探られているのでしょう」
「なにを?」
「ソルグランドが地球のどこにまで出現するのか? 移動時間は? それ次第で魔物側は狙いを変えてくるかもしれません」
コクウの推測を耳にして、ソルグランドもまた思考の一部を割いてその可能性を吟味する。大我よりはるかに明晰なソルグランドの頭脳は、コクウの推測を否定しなかった。大我はこの女神の肉体の能力について、全幅の信頼を置いている。
「俺がフェアリヘイムに姿を見せたから、活動範囲が日本近辺だけではないと連中が察し、今日はアフリカにも姿を見せたもんだから、改めて俺の性能調査に踏み切った?」
「魔法少女の中で最高戦力である貴方を確実に排除する為、本腰を入れ始めたとしてもおかしくはありません。しばらくは世界中を飛び回る可能性を、バルクラフト司令にも伝えておきます」
「お願いします。俺の方は、とりあえず魔法少女を助けることに集中します」
「ええ。それこそ第一になさなければならない重大事。どうぞお気をつけて」
司令室へ向かう夜羽音と途中で別れて、ソルグランドはソニックブームですれ違う職員を吹き飛ばさないよう調整しながら、可能な限りの最高速度でゲートルームへと向かう。
ゲート間を移動するのではなく送り出し、引き戻す為の特殊なゲートは、ワイルドハント専用に用意された特殊な施設だ。ルームの内装や雰囲気に違いは見られないが、起動に必要とされるエネルギーの量は多く、操作もより繊細さが要求される。
地球とフェアリヘイムだけでは困難なゲートが完成したのは、ヤオヨロズを騙った日本神話群の協力と、世界中の神々が加護を授けた恩恵に他ならない。
「あちらさんにどんな思惑があろうと、俺のやることに変わりはないやね」
魔法少女の助けとなる。これは戦場がどこであれ、相手が誰であれ、自分がどこに所属しようとも、揺らがないソルグランドと真上大我の“芯”だった。
例えこの後、ひっきりなしに魔物が世界各地に出現し、二週間以上に渡り休みなく魔物と戦い続けたとしても。
大学の講堂を思わせる司令部にはバルクラフトの他、選抜されたスタッフとコクウの姿がある。正面の立体モニターには、ソルグランドを後方から見ている視点の映像が映し出されている。
「せめてもう数日、スタッフの皆さんとの打ち合わせと親交を深める時間が欲しかったところですね」
アフリカの大地で戦うソルグランドの姿を見ながら、コクウが口にした内容に傍らの最上段にある席に座るバルクラフトは頷き返した。
フェアリヘイムを介さない長距離転移、長距離通信のどちらも今は成功しているが、戦闘中にどんなエラーが吐き出されるか分かったものではない。
こうしてモニタリングしている今も、どうなるかとスタッフの心中は荒波を立てている。バルクラフトも応援に出せる戦力はなく、出来るのはせいぜい情報支援と緊急時にソルグランドを回収することくらいだから、緊張していないと言えば嘘になる。
「一級の魔物の出現だがこれまでと変わらない襲撃か、それとも次の魔物側の動きに対する伏線か。コクウさんはどう思われるか?」
「魔物側の切り札に相当する魔物少女を立て続けに退けたソルグランドは、優先して排除するべき対象です。それを考慮すれば、伏線と考えて警戒はしておくべきでしょう。
ただ、あちらもフェアリヘイムでソルグランドさんと遭遇したのは想定外だったはず。今回のソルグランドさんのアフリカ出張も、あちらにとっては予定外なのではないでしょうか?」
「つまり今回に限っては全くの偶然の可能性もあると? ふむ、なら次は偶然以外の可能性を探るべく、魔物の出現地帯を散らしてくるか……」
「そもそも魔物は世界中に出現していますから、こちらで判別するのは難しいのが難点でありますね。不自然にあっけなく倒せるか、あるいは守りに専念する素振りを見せたら、怪しいと考えておきましょう」
「ところで、ある意味でソルグランドさんの初陣だが、コクウさんは露ほども心配をしないものなのだね」
「それはもちろん。日本を離れて初めての環境で戦うことへの心配はありますが、彼女の心身がどれだけ強いかは、よく承知しております。なにより、私こそ彼女をもっとも信じなければならないのですから」
自分を責めるか、言い聞かせるような言い方だ、とバルクラフトは夜羽音の声から、確かな感情の響きを聞き取っていた。
一方のソルグランドだが、夕焼けのサバンナで先んじて魔物と戦闘中だった現地の魔法少女を、破殺禍仁勾玉で守りながら交戦を開始している。
血の涙を流す白い仮面を着けた、渦巻く赤い砂の竜巻。それがソルグランドの対峙している一級相当の魔物の姿だ。全高はざっと百メートルほどか。
触れる端からプラーナを吸い取り、さらに強制的に全身から出血させる異能を備えた魔物で、竜巻状の肉体は千々に散らしてもすぐに集結し、ほぼ損傷無しに復活する特性を備えている。
接近戦を挑むタイプの魔法少女にとって極めて厄介なタイプで、遠距離タイプにしてもプラーナを用いた攻撃では、砂状の身体に散らされた上に吸収される為、決して相性がよいタイプではない。
「竜巻仮面とでも呼んでおくか? ディザスターみたいに心をへし折る必要がない以上は、速攻で討たせてもらおう」
瞬時に体内のプラーナを高めたソルグランドの右手に闘津禍剣が、そして左手には小さな火種が生まれる。手を握ればそれだけで隠れてしまう小さな火種。それこそ竜巻の魔物を消し去る決め手だった。
後にデザーラディと識別名称を付けられた魔物は、瞬時に数百メートルに広がり、ソルグランドと背後に庇う魔法少女達のプラーナと血を味わうべく包み込んでくる。
「しっ!」
鋭い吐息がソルグランドの唇から零れ、闘津禍剣の縦一文字の斬撃が、デザーラディの砂の身体だけでなく存在の核となるプラーナそのものを斬り裂き、再生を許さない。
再び繋がろうとしても断面からはさらさらと赤い砂が流れ落ちるばかり。デザーラディの判断は速かった。
再生を即座に諦めて、二つに分かれた体のプラーナが尽きる前にと、ソルグランドに迫る速度を上げた。生存ではなく殺戮を優先するのも、魔物達の特徴であった。
「お前さん程度にはちとやりすぎかもしれんが、俺のはしょせん模倣。むしろちょうどいい火力かもな。罪なき罪の炎の産声を。火夢須灯」
日本神話における火の神、神産みにおいて母たる伊邪那美を焼き、死因となってしまった神が複数の名前の一つ、『火産霊』にあやかった名を付けられた火種が、ソルグランドの手から解き放たれる。
所詮は模倣、さりとて行使したのは八百万の神々の権能を委ねられた最新の女神。日の本から遠く離れたアフリカの大地に、母なる大神を焼いた火が再現される。
夜羽音が、模倣とはいえ心臓に悪いと見守る中で、デザーラディは解き放たれた炎に飲まれて刹那と耐え切れずに消滅していた。
デザーラディの消滅と同じく火夢須灯もまた消えるのを見届けてから、ソルグランドはピンと立てた耳を左右に動かしながら、司令室へ問いかける。
「魔物の追加の出現、潜んでいた伏兵の気配ともになし、と。司令室、そちらのレーダーとかセンサーに反応は?」
『広域レーダー、各種センサーに反応なし。魔物の反応、完全に消滅しました。ソルグランド、帰投してください』
ソルグランドは男性オペレーターからの指示に頷き返し、緊急要請に応じて助けた魔法少女を振り返り、小さな傷があるだけで命に別条がないのを確認する。
真っ白い一枚布を体に巻き付けて、肩や胸、脇腹など要所を赤い装甲で守った姿の魔法少女だ。手には穂先の折れた長槍が握られていて、デザーラディの異能によって、全身から出血している。
「俺はもう戻るが、医療班とか同じ支部の仲間が来るまで大丈夫そうかい?」
「え、ええ。骨が折れたりはしていないから、大丈夫。貴方は……このあたりの魔法少女じゃ……あ! ソルグランド? 日本に現れたとても強いって噂の」
「お? こっちにも俺の噂が届いているのか。そう、そのソルグランドさんだよ。ワイルドハントの初仕事で、こっちまで足を延ばしたってわけでな。君が無事ならなによりだ。それじゃあ、また縁があったらどっかで会おうや」
ソルグランドは怪我や病を治した逸話のある神々の権能を引き出し、現地の魔法少女に止血と痛み止めの治療を施してから、その場を後にする。
帰りは、ゲートを使ってやってきた際に、ソルグランドにマーキングが施されていて、それを目印にして、帰還用のゲートがすぐそばに作り出される。ソルグランドの影響なのか、ゲートが鳥居の形をしていた。夜羽音が渡した技術が含まれているのかもしれない。
「それじゃあな。自分の命をまずは大事にしなよ。命あっての物種って言うだろ?」
魔法少女の基本機能として言語翻訳が備わっているのに、ソルグランドの中の大我は改めて感謝した。ねぎらいの言葉を掛けても通じていないとあっては、恥ずかしいやら空しいやらだ。
こうしてワイルドハントに籍を置いてから、初めてのソルグランドの戦いは一級の魔物を相手に会敵から一分と満たない間に撃破という、改めて彼の戦闘能力の高さを知らしめる結果となった。
地球上での長距離転移、オペレートの成功と直接的な戦闘以外でも収穫はあり、今後、ソルグランドが世界中を飛び回るのにも支障はないと期待が持てる。ソルグランドとしては夜羽音の他神話体系への根回しも無事に出来ていた、とこっそり安堵していた。
ロイロ島のゲート室に戻ったソルグランドだったが、彼にとってもワイルドハントの司令部の者達にとっても、想定外の事態が生じたのはそれからわずか二時間後のことである。
愛用の湯飲みを始めとした食器類と最低限の着替えの他、一輪挿しの陶器と小さな簡易神棚が飾られている以外はほとんど飾り気のない部屋で、お守りづくりに励んでいたソルグランドに召集が掛かる。
既にワイルドハントの隊員全員分のお守りは渡し終えており、出張先で出会う魔法少女とロイロ島の人々に渡そうと数千個単位で作成中だった。
『魔法少女ソルグランド、ゲートルームへ急いでください。ゴットランド島近海に二級相当の魔物の群れが出現しました。現地の魔法少女が対応中ですが、救援要請が届いています』
「おいおい、二時間しか経っていないぞ。フォビドゥンが初めて姿を見せた時よりはマシだが、今度も陽動だったりしないよな!?」
「ふむ、となるとフェアリヘイムか国連か、どこかの国の首都狙いもあり得ますね。魔物側が戦略的な動きを見せると、こちらも守るべき場所を絞れますが、現状では候補が多すぎるのが困りものですな」
「冷静に言わんでください。しっかし、アフリカの次はゴットランド島かよ。バルト海の島だったか?」
すぐさま用意された個室を飛び出て、ワイルドハント基地内にあるゲートルームへの最短経路を頭の中に引っ張り出す。
「あるいは探られているのでしょう」
「なにを?」
「ソルグランドが地球のどこにまで出現するのか? 移動時間は? それ次第で魔物側は狙いを変えてくるかもしれません」
コクウの推測を耳にして、ソルグランドもまた思考の一部を割いてその可能性を吟味する。大我よりはるかに明晰なソルグランドの頭脳は、コクウの推測を否定しなかった。大我はこの女神の肉体の能力について、全幅の信頼を置いている。
「俺がフェアリヘイムに姿を見せたから、活動範囲が日本近辺だけではないと連中が察し、今日はアフリカにも姿を見せたもんだから、改めて俺の性能調査に踏み切った?」
「魔法少女の中で最高戦力である貴方を確実に排除する為、本腰を入れ始めたとしてもおかしくはありません。しばらくは世界中を飛び回る可能性を、バルクラフト司令にも伝えておきます」
「お願いします。俺の方は、とりあえず魔法少女を助けることに集中します」
「ええ。それこそ第一になさなければならない重大事。どうぞお気をつけて」
司令室へ向かう夜羽音と途中で別れて、ソルグランドはソニックブームですれ違う職員を吹き飛ばさないよう調整しながら、可能な限りの最高速度でゲートルームへと向かう。
ゲート間を移動するのではなく送り出し、引き戻す為の特殊なゲートは、ワイルドハント専用に用意された特殊な施設だ。ルームの内装や雰囲気に違いは見られないが、起動に必要とされるエネルギーの量は多く、操作もより繊細さが要求される。
地球とフェアリヘイムだけでは困難なゲートが完成したのは、ヤオヨロズを騙った日本神話群の協力と、世界中の神々が加護を授けた恩恵に他ならない。
「あちらさんにどんな思惑があろうと、俺のやることに変わりはないやね」
魔法少女の助けとなる。これは戦場がどこであれ、相手が誰であれ、自分がどこに所属しようとも、揺らがないソルグランドと真上大我の“芯”だった。
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