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封ずる鍵にして印たる剣アフラ
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俺が制御キーに意識を向けたのを察したのか、ビジュラが左手をクロークの内側に戻し、銃の代わりに親指ほどの大きさの銀色の筒を複数取り出した。
あれもイセイド関連の品か? ビジュラは筒をジャノメの作る鎖の防波堤の向こう側へとまとめて放り投げた。空中でばらけた筒は強烈な振動を発生させて、周囲の魔物達をまとめて粉微塵に粉砕する。
振動? 振動を使って敵を分解する爆弾? 目の見えないクロネにも異変は伝わったようで、愛刀に闘気を注ぎ込んでいる彼女が目線を向けていた。
俺の内心の推理に答えるようにして、ビジュラは放り投げた筒の正体を口にする。左手には既に新しい筒を握っていて、投げる寸前だった。
「超振動破砕弾。とっておきその二だね」
再び筒──超振動破砕弾が投擲されて、メナスの生み出した怪物がまとめて粉砕される。その威力たるや凄まじく、巨象やクジラを模した大型の怪物が一瞬で跡形もなく分解されるのだ。
「うぉ!?」
咄嗟に大きく体を右に傾けて、メナスが瞳から発射した光線を間一髪で避ける。一瞬前まで俺の頭があった空間を貫いた光線は、後方の壁に命中して同じ太さの穴を開けたようだ。
視線がほとんどそのまま即死級の攻撃に化けるか。見られると石になるだとか、心を操られるだとか、身体が痺れるといった魔眼の類は珍しかないが、メナスにやられると厄介の度合いが違うな。
メナスの視線は俺を追って、再び光の視線を放つ機会を狙っている。もちろん、その間にも新たな怪物どもが生み出されて、ビジュラやクロネ達に襲い掛かっている。
蟻の下半身に獅子の上半身をくっつけたの、鰐の頭に亀の甲羅と猫の手足をくっつけたのやら、生き物をめちゃくちゃに混ぜたのから、銀色の表皮に覆われた目鼻口なしの人型モドキまで、節操なく生み出している。
メナスの周囲を走り回る俺の耳に立て続けに破裂音が届く。蜥蜴の身体に魚の頭を生やした三ルーメほどの怪物の口から、圧縮した空気で銃弾状の牙を撃ちだしたのだ。
ビジュラの使っていた銃弾よりも速く威力もある牙の弾丸を弾いて砕いたのは、縦横無尽に宙を走ったジャノメの鎖だった。
更に距離を詰めてきた怪物に対し、ジャノメは鎖を両腕に巻き付けると、即席の手甲を作り出して化け物達を次から次へと殴り飛ばしてゆく。
鎖を操るのと同じくらい、手足を振り回して怪物の頭蓋や腹をぶち抜くのが似合っている。
「狙いがあんならさっさとしろ、セツラ。我慢比べになったらこっちが不利だぜ」
ジャノメが怪物共を殴り飛ばす最中、ビジュラは左手に“れーざーがん”を握り直して援護射撃を再開しながら、新たな情報を開示してきた。
「今の彼女の中身はからっぽだけれど、ここから回復されたら一気に勝ち目がなくなるからね。倒すなら一番弱っている今の内だよ」
「弱ってんのか、これで!?」
思わずジャノメが叫んだのも無理はない。俺も薄々そうなんじゃないかとは思っていたが、改めて突き付けられるとちょっぴりげんなりとする。
「再起動できるギリギリのエネルギーしか残っていなかったからね。ここで私達を捕食して栄養の足しにするつもりかも」
なるほど、腹ペコのところにのこのこと表れた餌か、俺達は。
口を動かしている間も武器の引き金を引き続けるビジュラに対し、ハヤテは両手に水晶や鉱物の塊を握りながら心底嫌そうに尋ねた。
口を動かしている場合ではないが、動かさずにはいられなかったのだろう。
「これだけ怪物を生み出しておいて、力が尽きかけているのか? 本当にか?」
「彼女にとって異形の怪物を生み出すのは、人間にとって呼吸をするのと同じこと。どんなにお腹が空いていても、生きている内は呼吸をするでしょう?
テリブル・プラネット・マザーという名前には、星を恐怖で包み込むって意味もあるの。惑星制圧兵器の別名も伊達じゃないね」
なんだ、その物騒と言うか規模の大きな話は? そこまでの相手か。カツカツの状態で戦えてよかったのか、関わった時点で不運だったと嘆くべきか。ま、ここまで来たら勝つっきゃないけどさ。
メナスの視線を振り切りつつ、制御キーまでは後、一、二秒あればいけるか? 俺の視線とクロネの目隠しの奥の視線が交錯する。たぶん。この間にも闘気を練り続けていたクロネが、大上段に木刀を振り上げて一気に駆けだす。
水たまりから飛び出してくる槍のような貝を持った烏賊や鋸のような鼻先の魚を皮一枚で回避し、駆虫に血しぶきの舞う中、クロネの木刀は眼前に広がる水たまり──生命の源へと叩きつけられる!
「武天流“海乱怒涛”!」
海を乱す──その名に相応しい破壊力の一撃は新たな怪物共が生まれようとしていた水たまりを真っ二つに割り、流し込まれた闘気が更に生まれかけの怪物達を一匹残らず撃滅していた。
文字通り精魂を込めた一刀の代償に、クロネの頬や額にはびっしりと汗が浮かび上がり、その場に膝をついてしまう。
「すまない。あとは……まかせた」
この瞬間、メナスの瞳が俺ではなくクロネへと向けられる。海乱怒涛の一撃をもって、脅威度が俺を上回ったのだ。制御キーまで、あと一歩。
メナスの攻撃がクロネの命を絶つか、俺が制御キーを手にして勝利を掴むのが先か……先んじたのはハヤテだった。
「炎の牙 光の骨 陽炎の尾 雷電の瞳 蜃気楼の鬣 フォールガンマより赤い影を落とされよ ボルラガン!!」
遠い惑星か異次元の世界フォールガンマに存在するナニカはハヤテの訴えに答え、空間の壁を越えて赤い影を割れた青い水たまりとメナスへと落とした。
瞬間、俺達には一切の熱を感じさせず、メナスが雷電の迸る炎に包まれる。ボルラガンとやらの赤い影は、そのまま触れたモノだけを焼く超高熱へと変化したのである。
「何かやる気なら早くしろ、セツラ」
「分かった!」
ハヤテの激を受けた俺の手が制御キーを拾い上げ、ぐるりと体の向きを変えて進行方向をメナスへと固定する。
水たまりはそのほとんどが消失し、メナスの足元にわずかに残るきり。
メナスは全身から不可視の衝撃波を放ち、超常存在の赤い影を振り払った。巨体のそこかしこが高熱を帯びて赤く爛れているが、それも見る見るうちに癒えて行く。
「本当に腹ペコか? 起き抜けにこれだけ大騒ぎしたんだ。目も冴えている頃合いだろうが、もう一度眠りに着きな。二度と起きる気にならないくらい、深い眠りに」
チャクラが廻る。プラーナが巡る。力が五体に満ちる。精神が研ぎ澄まされ、魂が熱を帯びる。この一瞬、俺はより高みの世界へと疑似的に繋がっていた。
制御キーの細長い板状の刀身に刃はなく、確かにこれは剣というよりも特大の鍵みたいなものだ。
重量は問題なし、握り心地は問題なし。しかし、なんだ、この制御キーの中にあるとんでもない力は? これをメナスに叩き込めるなら、再び眠りに就かせるのも難しくなさそうだ。
床を蹴り最短距離を駆ける俺をメナスが認識し、異様に細長い十本の指先を俺へと向ける。その指先が十文字に割れて、その奥から青黒い肉の弾丸が無数に発射される。
音より十数倍以上の速さで発射されるソレを、俺は無念無想のまま制御キーで弾き返し、床や天井へ肉の弾丸が叩きつけられて、空気の破裂音に遅れて肉の潰れる音がした。
心身に充溢するプラーナが俺に人体の限界を超えた速度を許す。変わらず連射される肉の弾丸を制御キーで弾きながら距離を詰める俺に、不意にしわがれた老人の声が届いた。発生源は、あろうことか制御キーだ!
「これは面白い奴がわしを手にしたものだ」
肉の弾丸を弾くのに極限の集中を強いられ、俺の接近速度が若干落ちる中、制御キーの中身(?)は構わず話し続ける。
「わしはアフラと呼ぶがいい。本来、メナスの再起動を封じるのがわしの役目だった」
俺がアフラを名乗る鍵と話す気になったのは、古代文明の施設にありがちな人工知能だろうに、声に後悔が混じっているように聞こえたからだ。
「それがどうしてメナスの再起動を許したんだ!」
「メナスの半永久機関の生み出すエネルギーをわしが無限に吸い尽くし、この施設の維持に消費して封印を行っていたが、メナスを製造した勢力が奴を開放する為に小細工を仕掛けてきたのだ。その影響を排除する為に労力を取られ過ぎた」
「それでこうなったってわけか!」
空中で牙を生やし、目玉の生まれた新しい肉の弾丸を真っ二つにして、俺はメナスを睨む。空っぽだとは信じがたいほどの力を内包する彼女の核、それがどこかをプラーナを通じて見定める為だ。
「わしの中にはメナスから奪い取ったエネルギーが溜まっておる。小僧、メナスのどこでもよい。わしを突き立てるのじゃ。そこから蓄えたエネルギーを注ぎ込んで、内部から崩壊させる」
「もとはメナスの力なんだろう。逆に吸収されて回復されるなんて笑えない話にはならんだろうな!」
斬り落とした肉の弾丸はもう百を超えた。距離が詰まった為か、メナスは瞳から放つ光線に加えて、十本の指先を鞭のように細長く伸ばし、前後左右上下から振るってくる。
アフラから必要そうな情報を聞き出すのも、そろそろ余裕がなくなってきたか。
「安心せい。性質を反転させて対消滅するように変換済みよ。わしはメナスが再起動を果たした場合、彼女を消滅させるのが役目なのじゃ」
随分と人間臭い話し方をする上、なんだかメナスに思うところのある声音だが、この土壇場で疑っても仕方がないか。
「他に選択肢もなし。勝っても負けても、これで終いだ!」
“刻み円月”からの“月輪”で俺を包囲しようとしていたメナスの指は弾き飛ばし、瞳から発射された光線が左の脇腹をかすめた革鎧と服を抉られた程度だ。なんの支障もない
受けるも避けるも考えない。ひたすらに敵を斬る事のみに集中し、特化し、他を顧みない突撃からの斬撃──トライド流剣法“我貪”。
一心不乱に駆ける俺に向けてメナスの腹が前触れもなく左右に開いた。青い光が水面のように揺れて、俺の腕よりも太い肉の槍がまっすぐに突き出される。
斬る事だけを考え、視界すら意図的に絞った俺の腹に命中し、皮膚を貫いた瞬間、その下を流れる俺のプラーナに触れた先端が爆散した。俺の体内を巡る高速で巡る高密度のプラーナに耐えきれなかったのだ。
「体内限定とはいえ自前のエネルギーシールドか。お前さん、とんでもない体をしとるな」
アフラの呆れた声を無視して、俺はメナスの懐へ潜り込む最後の一歩を蹴った。振り上げた右大上段から小細工無しの斬り下ろし。斬り返しも斬撃の軌道変更もなしの、純粋な振り下ろしだ。
アフラの刃の無い刀身が容赦なくメナスの胸元に突き刺さり、その切っ先を深々と埋める。柔肌とさえ言える感触なのに、鋼鉄よりもはるかに硬い。更に体内の膨大なプラーナが刃を阻むが、全開で回すチャクラに後押しされた俺の一振りが勝った。
「よっしゃ、こっからはこのアフラに任せい!」
アフラの意気揚々とした声と共に、内部に蓄えられていた力がメナスの体内へと一斉に放出されるのを柄越しに感じた。
あれもイセイド関連の品か? ビジュラは筒をジャノメの作る鎖の防波堤の向こう側へとまとめて放り投げた。空中でばらけた筒は強烈な振動を発生させて、周囲の魔物達をまとめて粉微塵に粉砕する。
振動? 振動を使って敵を分解する爆弾? 目の見えないクロネにも異変は伝わったようで、愛刀に闘気を注ぎ込んでいる彼女が目線を向けていた。
俺の内心の推理に答えるようにして、ビジュラは放り投げた筒の正体を口にする。左手には既に新しい筒を握っていて、投げる寸前だった。
「超振動破砕弾。とっておきその二だね」
再び筒──超振動破砕弾が投擲されて、メナスの生み出した怪物がまとめて粉砕される。その威力たるや凄まじく、巨象やクジラを模した大型の怪物が一瞬で跡形もなく分解されるのだ。
「うぉ!?」
咄嗟に大きく体を右に傾けて、メナスが瞳から発射した光線を間一髪で避ける。一瞬前まで俺の頭があった空間を貫いた光線は、後方の壁に命中して同じ太さの穴を開けたようだ。
視線がほとんどそのまま即死級の攻撃に化けるか。見られると石になるだとか、心を操られるだとか、身体が痺れるといった魔眼の類は珍しかないが、メナスにやられると厄介の度合いが違うな。
メナスの視線は俺を追って、再び光の視線を放つ機会を狙っている。もちろん、その間にも新たな怪物どもが生み出されて、ビジュラやクロネ達に襲い掛かっている。
蟻の下半身に獅子の上半身をくっつけたの、鰐の頭に亀の甲羅と猫の手足をくっつけたのやら、生き物をめちゃくちゃに混ぜたのから、銀色の表皮に覆われた目鼻口なしの人型モドキまで、節操なく生み出している。
メナスの周囲を走り回る俺の耳に立て続けに破裂音が届く。蜥蜴の身体に魚の頭を生やした三ルーメほどの怪物の口から、圧縮した空気で銃弾状の牙を撃ちだしたのだ。
ビジュラの使っていた銃弾よりも速く威力もある牙の弾丸を弾いて砕いたのは、縦横無尽に宙を走ったジャノメの鎖だった。
更に距離を詰めてきた怪物に対し、ジャノメは鎖を両腕に巻き付けると、即席の手甲を作り出して化け物達を次から次へと殴り飛ばしてゆく。
鎖を操るのと同じくらい、手足を振り回して怪物の頭蓋や腹をぶち抜くのが似合っている。
「狙いがあんならさっさとしろ、セツラ。我慢比べになったらこっちが不利だぜ」
ジャノメが怪物共を殴り飛ばす最中、ビジュラは左手に“れーざーがん”を握り直して援護射撃を再開しながら、新たな情報を開示してきた。
「今の彼女の中身はからっぽだけれど、ここから回復されたら一気に勝ち目がなくなるからね。倒すなら一番弱っている今の内だよ」
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思わずジャノメが叫んだのも無理はない。俺も薄々そうなんじゃないかとは思っていたが、改めて突き付けられるとちょっぴりげんなりとする。
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口を動かしている間も武器の引き金を引き続けるビジュラに対し、ハヤテは両手に水晶や鉱物の塊を握りながら心底嫌そうに尋ねた。
口を動かしている場合ではないが、動かさずにはいられなかったのだろう。
「これだけ怪物を生み出しておいて、力が尽きかけているのか? 本当にか?」
「彼女にとって異形の怪物を生み出すのは、人間にとって呼吸をするのと同じこと。どんなにお腹が空いていても、生きている内は呼吸をするでしょう?
テリブル・プラネット・マザーという名前には、星を恐怖で包み込むって意味もあるの。惑星制圧兵器の別名も伊達じゃないね」
なんだ、その物騒と言うか規模の大きな話は? そこまでの相手か。カツカツの状態で戦えてよかったのか、関わった時点で不運だったと嘆くべきか。ま、ここまで来たら勝つっきゃないけどさ。
メナスの視線を振り切りつつ、制御キーまでは後、一、二秒あればいけるか? 俺の視線とクロネの目隠しの奥の視線が交錯する。たぶん。この間にも闘気を練り続けていたクロネが、大上段に木刀を振り上げて一気に駆けだす。
水たまりから飛び出してくる槍のような貝を持った烏賊や鋸のような鼻先の魚を皮一枚で回避し、駆虫に血しぶきの舞う中、クロネの木刀は眼前に広がる水たまり──生命の源へと叩きつけられる!
「武天流“海乱怒涛”!」
海を乱す──その名に相応しい破壊力の一撃は新たな怪物共が生まれようとしていた水たまりを真っ二つに割り、流し込まれた闘気が更に生まれかけの怪物達を一匹残らず撃滅していた。
文字通り精魂を込めた一刀の代償に、クロネの頬や額にはびっしりと汗が浮かび上がり、その場に膝をついてしまう。
「すまない。あとは……まかせた」
この瞬間、メナスの瞳が俺ではなくクロネへと向けられる。海乱怒涛の一撃をもって、脅威度が俺を上回ったのだ。制御キーまで、あと一歩。
メナスの攻撃がクロネの命を絶つか、俺が制御キーを手にして勝利を掴むのが先か……先んじたのはハヤテだった。
「炎の牙 光の骨 陽炎の尾 雷電の瞳 蜃気楼の鬣 フォールガンマより赤い影を落とされよ ボルラガン!!」
遠い惑星か異次元の世界フォールガンマに存在するナニカはハヤテの訴えに答え、空間の壁を越えて赤い影を割れた青い水たまりとメナスへと落とした。
瞬間、俺達には一切の熱を感じさせず、メナスが雷電の迸る炎に包まれる。ボルラガンとやらの赤い影は、そのまま触れたモノだけを焼く超高熱へと変化したのである。
「何かやる気なら早くしろ、セツラ」
「分かった!」
ハヤテの激を受けた俺の手が制御キーを拾い上げ、ぐるりと体の向きを変えて進行方向をメナスへと固定する。
水たまりはそのほとんどが消失し、メナスの足元にわずかに残るきり。
メナスは全身から不可視の衝撃波を放ち、超常存在の赤い影を振り払った。巨体のそこかしこが高熱を帯びて赤く爛れているが、それも見る見るうちに癒えて行く。
「本当に腹ペコか? 起き抜けにこれだけ大騒ぎしたんだ。目も冴えている頃合いだろうが、もう一度眠りに着きな。二度と起きる気にならないくらい、深い眠りに」
チャクラが廻る。プラーナが巡る。力が五体に満ちる。精神が研ぎ澄まされ、魂が熱を帯びる。この一瞬、俺はより高みの世界へと疑似的に繋がっていた。
制御キーの細長い板状の刀身に刃はなく、確かにこれは剣というよりも特大の鍵みたいなものだ。
重量は問題なし、握り心地は問題なし。しかし、なんだ、この制御キーの中にあるとんでもない力は? これをメナスに叩き込めるなら、再び眠りに就かせるのも難しくなさそうだ。
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音より十数倍以上の速さで発射されるソレを、俺は無念無想のまま制御キーで弾き返し、床や天井へ肉の弾丸が叩きつけられて、空気の破裂音に遅れて肉の潰れる音がした。
心身に充溢するプラーナが俺に人体の限界を超えた速度を許す。変わらず連射される肉の弾丸を制御キーで弾きながら距離を詰める俺に、不意にしわがれた老人の声が届いた。発生源は、あろうことか制御キーだ!
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肉の弾丸を弾くのに極限の集中を強いられ、俺の接近速度が若干落ちる中、制御キーの中身(?)は構わず話し続ける。
「わしはアフラと呼ぶがいい。本来、メナスの再起動を封じるのがわしの役目だった」
俺がアフラを名乗る鍵と話す気になったのは、古代文明の施設にありがちな人工知能だろうに、声に後悔が混じっているように聞こえたからだ。
「それがどうしてメナスの再起動を許したんだ!」
「メナスの半永久機関の生み出すエネルギーをわしが無限に吸い尽くし、この施設の維持に消費して封印を行っていたが、メナスを製造した勢力が奴を開放する為に小細工を仕掛けてきたのだ。その影響を排除する為に労力を取られ過ぎた」
「それでこうなったってわけか!」
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「わしの中にはメナスから奪い取ったエネルギーが溜まっておる。小僧、メナスのどこでもよい。わしを突き立てるのじゃ。そこから蓄えたエネルギーを注ぎ込んで、内部から崩壊させる」
「もとはメナスの力なんだろう。逆に吸収されて回復されるなんて笑えない話にはならんだろうな!」
斬り落とした肉の弾丸はもう百を超えた。距離が詰まった為か、メナスは瞳から放つ光線に加えて、十本の指先を鞭のように細長く伸ばし、前後左右上下から振るってくる。
アフラから必要そうな情報を聞き出すのも、そろそろ余裕がなくなってきたか。
「安心せい。性質を反転させて対消滅するように変換済みよ。わしはメナスが再起動を果たした場合、彼女を消滅させるのが役目なのじゃ」
随分と人間臭い話し方をする上、なんだかメナスに思うところのある声音だが、この土壇場で疑っても仕方がないか。
「他に選択肢もなし。勝っても負けても、これで終いだ!」
“刻み円月”からの“月輪”で俺を包囲しようとしていたメナスの指は弾き飛ばし、瞳から発射された光線が左の脇腹をかすめた革鎧と服を抉られた程度だ。なんの支障もない
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一心不乱に駆ける俺に向けてメナスの腹が前触れもなく左右に開いた。青い光が水面のように揺れて、俺の腕よりも太い肉の槍がまっすぐに突き出される。
斬る事だけを考え、視界すら意図的に絞った俺の腹に命中し、皮膚を貫いた瞬間、その下を流れる俺のプラーナに触れた先端が爆散した。俺の体内を巡る高速で巡る高密度のプラーナに耐えきれなかったのだ。
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アフラの刃の無い刀身が容赦なくメナスの胸元に突き刺さり、その切っ先を深々と埋める。柔肌とさえ言える感触なのに、鋼鉄よりもはるかに硬い。更に体内の膨大なプラーナが刃を阻むが、全開で回すチャクラに後押しされた俺の一振りが勝った。
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