4 / 47
第4話 売り言葉に買い言葉
しおりを挟む
あんなに嫌な思いをしていたはずなのに、私はどうして今日もあのゲームの配信をしているのだろう。理由は明白で、やらないとリスナーが増えないし、むしろ減るからだ。
私ができる配信なんてせいぜい下手くそなゲーム配信か、雑談配信くらいだ。絵が描けるわけでも、歌が上手いわけでもないから、それ以外にできることがない。幸い私の下手なゲーム配信でも見てくれる人はいる。むしろ雑談配信をするとその人たちが減ってしまって虚しくなるから、私は今日も楽しんでるふりをしてゲームをする。
「きた? きたかな、見えてる?」
『見えてるよ』
『こんヨナ~』
「お、きちゃあ、ありがとー。てことでね、今日もこのゲームやりますけども」
もたれるときしむ椅子に体重をかけて、キャラ選択画面に移行する。正直どのキャラクターを使っても上手くいかないから、最近は見た目が好みのキャラクターしか使っていない。
「いやマジでむずいわこのゲーム。人口ちょっと減らないかな!」
『草』
『みんな上手いもんね』
「そ! みんな上手すぎるマジ……あ、マッチングした」
ガシャン、という音とともに戦闘画面へ変わった。ローディング中に同時接続者数を確認する。始まったばかりだからかまだ30人程度しかいない。でもこれもいつも通りだ。
「さて、今日こそは勝つぞー! ……いやゴミ武器しかないが!?」
『ゴミとか言わないであげてw』
『武器だって頑張ってるんやで』
「役立ってこその武器でしょうが!」
ほとんどほかの配信者の受け売りのゲーム知識で、なんとなくのトークをする。武器なんてどれを持ったって結局当たらないんだから意味がない。
「あ、待って敵いる!? いや無理無理、こっち来んな! うわ!」
ダンダンと銃声がして、視点を変えようと思った時には遅かった。画面があっという間に赤くなって、浮かぶのはやっぱり敗北の二文字。
「いやもう初手はダメだって……弱いものいじめよくない……」
『秒で死んでて草』
『どんまい』
『きたら死んでた』
「配信始めて5分も経っとらんが! 嘘じゃん、死亡RTAするな」
すぐにホーム画面に戻される。さすがに最近はこんなひどい死に方はしなかったから、少しへこんだ。
「いやあ、今日だめかもしれんな」
茶化しながらそう言ってコメント欄に目を向けると、喉の奥の方がきゅっと閉まった。
『へたくそ』
今日もいる。相変わらず初期設定のアイコンで、ユーザーネームは「あ」。私が見逃していたのかもう流れかけていたそのコメントは、完全にコメント欄から消えるともう1度打ち込まれた。
『へたくそ』
「うるっさいなあ! へたくそって、知ってるし!」
そう口走ってから、やってしまったと体中から血の気が引いた。何回もコメントされてるんだから、黙ってブロックすればいい話なのに、思わず反応してしまった。
『落ち着いてもろて』
『ヨナちゃん下手じゃないよ~! 大丈夫!』
『次いこ』
リスナーたちのコメントに目がすべる。書いてある言葉はわかるのに、うまく頭の中に入ってこない。切り替えなきゃ、切り替えなきゃ。
『武器違うの持てば』
そうコメントをしたのは、「あ」だった。へたくそ以外に文字打てたんだ、なんて口に出せばもっと荒れてしまいそうな言葉が思い浮かび、ごまかすように咳払いをする。
「ごめんごめん……、そうね、次違う武器にしようかな。てか武器選ぶ段階とかじゃなかったけど!」
笑う、ただ笑う。さっきの発言なんてなかったように、冷えたあの空気を消すように、画面の中の「月島ヨナ」は笑う。でも画面の前の私の顔は、ひどく引きつっているだろう。
その後の配信は、どこか違う世界から自分のことを見ているような、そんな感覚でいつの間にか終わっていた。「あ」はその後も普通にコメントをしていて、私もなぜかそれに普通に返していた。ただ心臓の音がずっとうるさかったことだけを覚えている。
私ができる配信なんてせいぜい下手くそなゲーム配信か、雑談配信くらいだ。絵が描けるわけでも、歌が上手いわけでもないから、それ以外にできることがない。幸い私の下手なゲーム配信でも見てくれる人はいる。むしろ雑談配信をするとその人たちが減ってしまって虚しくなるから、私は今日も楽しんでるふりをしてゲームをする。
「きた? きたかな、見えてる?」
『見えてるよ』
『こんヨナ~』
「お、きちゃあ、ありがとー。てことでね、今日もこのゲームやりますけども」
もたれるときしむ椅子に体重をかけて、キャラ選択画面に移行する。正直どのキャラクターを使っても上手くいかないから、最近は見た目が好みのキャラクターしか使っていない。
「いやマジでむずいわこのゲーム。人口ちょっと減らないかな!」
『草』
『みんな上手いもんね』
「そ! みんな上手すぎるマジ……あ、マッチングした」
ガシャン、という音とともに戦闘画面へ変わった。ローディング中に同時接続者数を確認する。始まったばかりだからかまだ30人程度しかいない。でもこれもいつも通りだ。
「さて、今日こそは勝つぞー! ……いやゴミ武器しかないが!?」
『ゴミとか言わないであげてw』
『武器だって頑張ってるんやで』
「役立ってこその武器でしょうが!」
ほとんどほかの配信者の受け売りのゲーム知識で、なんとなくのトークをする。武器なんてどれを持ったって結局当たらないんだから意味がない。
「あ、待って敵いる!? いや無理無理、こっち来んな! うわ!」
ダンダンと銃声がして、視点を変えようと思った時には遅かった。画面があっという間に赤くなって、浮かぶのはやっぱり敗北の二文字。
「いやもう初手はダメだって……弱いものいじめよくない……」
『秒で死んでて草』
『どんまい』
『きたら死んでた』
「配信始めて5分も経っとらんが! 嘘じゃん、死亡RTAするな」
すぐにホーム画面に戻される。さすがに最近はこんなひどい死に方はしなかったから、少しへこんだ。
「いやあ、今日だめかもしれんな」
茶化しながらそう言ってコメント欄に目を向けると、喉の奥の方がきゅっと閉まった。
『へたくそ』
今日もいる。相変わらず初期設定のアイコンで、ユーザーネームは「あ」。私が見逃していたのかもう流れかけていたそのコメントは、完全にコメント欄から消えるともう1度打ち込まれた。
『へたくそ』
「うるっさいなあ! へたくそって、知ってるし!」
そう口走ってから、やってしまったと体中から血の気が引いた。何回もコメントされてるんだから、黙ってブロックすればいい話なのに、思わず反応してしまった。
『落ち着いてもろて』
『ヨナちゃん下手じゃないよ~! 大丈夫!』
『次いこ』
リスナーたちのコメントに目がすべる。書いてある言葉はわかるのに、うまく頭の中に入ってこない。切り替えなきゃ、切り替えなきゃ。
『武器違うの持てば』
そうコメントをしたのは、「あ」だった。へたくそ以外に文字打てたんだ、なんて口に出せばもっと荒れてしまいそうな言葉が思い浮かび、ごまかすように咳払いをする。
「ごめんごめん……、そうね、次違う武器にしようかな。てか武器選ぶ段階とかじゃなかったけど!」
笑う、ただ笑う。さっきの発言なんてなかったように、冷えたあの空気を消すように、画面の中の「月島ヨナ」は笑う。でも画面の前の私の顔は、ひどく引きつっているだろう。
その後の配信は、どこか違う世界から自分のことを見ているような、そんな感覚でいつの間にか終わっていた。「あ」はその後も普通にコメントをしていて、私もなぜかそれに普通に返していた。ただ心臓の音がずっとうるさかったことだけを覚えている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる