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第16話 認められた日
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ほとんど途切れることなく来店する客に対応しているうちに、気づけば午後5時になっていた。遅番のバイトの子たちが出勤してきて、その子たちに連絡事項などの引継ぎをすると帰る支度を始める。
エプロンをロッカーに仕舞い、カバンを肩にかけて帰ろうとしたとき、休憩室に顔を出した店長に呼び止められた。
「南さん、ちょっといい?」
「え?はい……」
何か失敗してしまっただろうか、と冷や冷やしながらカバンを下す。店長はにこにこ笑っていても、その内容がお説教であることなどざらにある。
「これ」
そう言って店長が差し出したのは、私が提出したメニュー案だった。個別に呼び出されるほどひどいものを出しただろうか。私の背中を冷たい汗が伝っていく。
「すごくよかった。ベリーの紫陽花タルト! おしゃれだし、パッと目を引くし、ほかの子はゼリーとかが多かったんだけど、ゼリーってちょっとうちじゃ合わないでしょ。悪い案ではないんだけど、どうしようかなって悩んでて。そしたら南さんのがきて、これだって思ったんだよね!」
店長は嬉しそうにそうまくしたてる。私はというと、想像もしていなかった褒めの言葉にびっくりしてしまって、何も言えなかった。
「あ、肝心なこと言ってなかった。採用です、これ。考えてくれてありがとうね」
「い、いえ、こちらこそ……。まさか、採用してもらえるとは思っていなかったので……」
改めてそう言われて、嬉しさがこみ上げる。まさか自分のものが選ばれるなんて思っていなかった。きっとほかの社員さんのものや、柳くんたちのものになるだろうと思っていたのだ。今までも何度かメニュー案を出したことはあったけれど、採用されたことはない。それがようやく採用されたのだ。自分が認められたようで嬉しかった。
「そう、それでね、明日早速作ろうと思うんだけど、南さん試作付き合ってくれる?明日早めに来れたりするかな」
「はい、大丈夫です!」
その場で飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。自分のメニュー案が採用されて、それを店長の手で作ってもらえる。店長の作る料理やスイーツが好きでここに就職したから、まるで夢みたいだと思った。社員なら当たり前だと思われてしまうかもしれないけれど、それくらい店長の審査は厳しくて、的確だ。
「南さんにも、キッチンでできること増やしてほしいし、せっかくだからタルトの作り方も覚えて。そしたら俺が楽できる」
店長はそう言うと、いたずらっぽく笑う。この店で自分の作ったものが提供される、と思うと恐ろしくて大げさに首を横に振った。
「ここで出してもいいって店長が言ってくれるタルトなんて、一生かかってもできませんよ……」
私がそうつぶやくと、店長は一瞬きょとんとしてから大声で笑った。
「南さんなら大丈夫だよ。俺期待してるからね」
店長はそう言って、ポンと私の背中をたたくと、お疲れ!とキッチンの方へ戻っていく。思わず泣いてしまいそうだった。
毎日毎日接客と同じことの繰り返しの日々で、仕事に対して達成感だとか、やりがいだとかを特別抱いたことはない。店長はそれができるのがすごいんだよ、とよく言ってくれるけれど、私じゃなくてもいいんじゃないかと思わない日はなかった。
それがようやく、私だからできたことが見つかって、それが店長に認められたとなれば、こんなに嬉しいことはないだろう。
今すぐいろんな人に言って回りたくなった。そうだ、配信で話そうか。SNSにもずっと浮上していなかったけれど、今日は偶然金曜日だし、配信をするにはちょうどいい。
帰り道でそう思い至り、家に帰ってPCをつけようとしたけれど、電源ボタンに伸びる手が寸前で止まった。
でも、誰も一緒に喜んでくれなかったら?もしかしたらまた、何かと理由をつけて私がすごいわけじゃない、なんて言われてしまうかもしれない。
そう考えると、配信をする気はスッと失せた。この喜びは、自分の中だけに仕舞っておこう。
エプロンをロッカーに仕舞い、カバンを肩にかけて帰ろうとしたとき、休憩室に顔を出した店長に呼び止められた。
「南さん、ちょっといい?」
「え?はい……」
何か失敗してしまっただろうか、と冷や冷やしながらカバンを下す。店長はにこにこ笑っていても、その内容がお説教であることなどざらにある。
「これ」
そう言って店長が差し出したのは、私が提出したメニュー案だった。個別に呼び出されるほどひどいものを出しただろうか。私の背中を冷たい汗が伝っていく。
「すごくよかった。ベリーの紫陽花タルト! おしゃれだし、パッと目を引くし、ほかの子はゼリーとかが多かったんだけど、ゼリーってちょっとうちじゃ合わないでしょ。悪い案ではないんだけど、どうしようかなって悩んでて。そしたら南さんのがきて、これだって思ったんだよね!」
店長は嬉しそうにそうまくしたてる。私はというと、想像もしていなかった褒めの言葉にびっくりしてしまって、何も言えなかった。
「あ、肝心なこと言ってなかった。採用です、これ。考えてくれてありがとうね」
「い、いえ、こちらこそ……。まさか、採用してもらえるとは思っていなかったので……」
改めてそう言われて、嬉しさがこみ上げる。まさか自分のものが選ばれるなんて思っていなかった。きっとほかの社員さんのものや、柳くんたちのものになるだろうと思っていたのだ。今までも何度かメニュー案を出したことはあったけれど、採用されたことはない。それがようやく採用されたのだ。自分が認められたようで嬉しかった。
「そう、それでね、明日早速作ろうと思うんだけど、南さん試作付き合ってくれる?明日早めに来れたりするかな」
「はい、大丈夫です!」
その場で飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。自分のメニュー案が採用されて、それを店長の手で作ってもらえる。店長の作る料理やスイーツが好きでここに就職したから、まるで夢みたいだと思った。社員なら当たり前だと思われてしまうかもしれないけれど、それくらい店長の審査は厳しくて、的確だ。
「南さんにも、キッチンでできること増やしてほしいし、せっかくだからタルトの作り方も覚えて。そしたら俺が楽できる」
店長はそう言うと、いたずらっぽく笑う。この店で自分の作ったものが提供される、と思うと恐ろしくて大げさに首を横に振った。
「ここで出してもいいって店長が言ってくれるタルトなんて、一生かかってもできませんよ……」
私がそうつぶやくと、店長は一瞬きょとんとしてから大声で笑った。
「南さんなら大丈夫だよ。俺期待してるからね」
店長はそう言って、ポンと私の背中をたたくと、お疲れ!とキッチンの方へ戻っていく。思わず泣いてしまいそうだった。
毎日毎日接客と同じことの繰り返しの日々で、仕事に対して達成感だとか、やりがいだとかを特別抱いたことはない。店長はそれができるのがすごいんだよ、とよく言ってくれるけれど、私じゃなくてもいいんじゃないかと思わない日はなかった。
それがようやく、私だからできたことが見つかって、それが店長に認められたとなれば、こんなに嬉しいことはないだろう。
今すぐいろんな人に言って回りたくなった。そうだ、配信で話そうか。SNSにもずっと浮上していなかったけれど、今日は偶然金曜日だし、配信をするにはちょうどいい。
帰り道でそう思い至り、家に帰ってPCをつけようとしたけれど、電源ボタンに伸びる手が寸前で止まった。
でも、誰も一緒に喜んでくれなかったら?もしかしたらまた、何かと理由をつけて私がすごいわけじゃない、なんて言われてしまうかもしれない。
そう考えると、配信をする気はスッと失せた。この喜びは、自分の中だけに仕舞っておこう。
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