50 / 52
第48話「温泉寺の十一面観音像」
しおりを挟む
第48話「温泉寺の十一面観音像」
部屋のユニットバスでふたりで軽くシャワーを浴び、ふたりは浴衣に着替えるとホテルを出た。南柳通から木屋町通りと川沿いの道を歩いた。美男美女のカップルに、すれ違う人の視線が向けられた。
「みんな螢さんのことを見てますよ。「僕の螢さん」って思っていいんですよね。」
と囁く凪の言葉が耳にこそばかった。旅館、ホテルや外湯や土産物、飲食店を横目に歩くと、約10分でロープウェイの城崎温泉駅に着いた。
チケットを買うと、すぐにロープウェイは発車し、山の斜面を登りだした。すぐに中間駅の「温泉寺」に着いた。
温泉寺は養老4年(西暦720年)に城崎温泉を開いた道智上人により天平10年(西暦738年)に開創された古い寺との事だった。
重要文化財に指定されている高さ2メートルの御本尊の十一面観音像の顔を見たとき、蛍と凪は顔を見合わせ、同時に声を上げた。
「あー、朝のお医者さんのおばちゃんや!」
ふっくらとした顔立ちに細い目に福耳の優しい面立ちはまさに、心療内科医師そのものだった。左手に持った花瓶の角度は、1時間前の凪の「ぴー」の勃った時の角度に一致していると蛍は思った。(寺の娘って言ってたけど、このお寺の観音様やったんや!凪君、すっかり復活しました。本当にありがとうございました。)と蛍は深々と頭を下げた。
「次は、螢さんの心を軽くしなきゃね。あなたは大人だから自分でできるわね。」と蛍は観音様から言われた気がした。(せやな…、後は、私の問題やな…。)再度、一礼して本堂を後にした。
参拝を終わり、帰りはロープウェイを使わず、参道で降りて行った。手をつないで、どうでもいいことをおしゃべりしながら歩くだけでも楽しかった。山を下りた先の源泉でふたりで「温泉卵」を食べ、城崎スイーツ本店でジェラートと本わらび餅を食べた。かりんとう専門店の円山菓寮で、「かりんとう専門店ならではの黒糖カラメル」が美味しいと噂の「ゆらゆら湯上りプリン」を部屋食用に買い、途中の酒屋でワインとワイングラスを買い込み、早めの昼食を取りホテルに戻った。
蛍はフロントで、連泊と、夜の貸し切り風呂を申し入れた。手続きが済むとふたりで部屋に戻り、一息ついた。
「あー、それにしても朝のおばちゃんが観音様やったとはなー!そりゃ、神様やったら、何でもござれやわな!神様にはかなわへんわ!カラカラカラ。」
「いや、僕にとっては、螢さんは「女神様」ですから、同じですよ。今まで、いろいろ僕のためにしてくれましたんで、今日、明日は何でも言いつけてください。螢さんの為なら何でもしますから。」
「じゃあ、まずは、北新地のホストみたいに、ワインの相手でもしてもらおか!」
「はい、喜んで!」
と冷蔵庫からさっき買ってきたワインとグラスを出すと、凪は蛍の持つワイングラスに注いだ。美味しそうにワインをたしなむ蛍を見ながら、凪が呟いた。
「僕、一生、蛍さんの傍にいさせて欲しいです。」
蛍は、真っ赤になって、しどろもどろに答えた。
「な、凪君、ど、どさくさに紛れて、い、今のって「プロポーズ」か?うーん、本気にしてしまうで!」
凪は、真剣な顔をして、
「僕は、本気です。もう、家を出てもいいと思ってます。螢さんの傍にいられるなら、高校もやめて働きます。だめでしょうか?」
と「ド直球」で返してきた。(うーん、そう言ってくれるんはうれしいねんけど…。碧姉ちゃんのこともあるし…。黒瀬社長との事も、凪君に話さなあかんよな…)蛍は、自分の状況を考えるとブルーになったが、それを凪に感じさせてはいけないと思い、努めて明るくお替りを要求し、返事ははぐらかした。
蛍は飲んでいるうちに、昨晩、2時間半しか寝ていない疲れも出て、急に眠気が出てきた。時計を見ると午後1時だった。凪も少し眠そうにしているのを確認して、
「凪君、今日も晩御飯の後、一緒にお風呂入って、その後「いちゃいちゃ」するなら、ちょっとお昼寝しとこっか。」
との投げかけに、凪も賛成してくれたので、一枚の布団で一緒に手をつないで眠りに落ちた。
「ピピピピピピ」。蛍のスマホがなった。(うーん、5時間も寝てしもてたんかな…。凪君もよう寝てるな。ん、スマホにメールと電話の着信が入ってるわ。ゲロゲロ、碧姉ちゃんとその弁護士からや。変な内容でなかったらええねんけど…。)
蛍は、寝息を立てている凪を起こさないようにそっと布団を出ると、ユニットバスの中から、昨日から無視していた碧の弁護士の留守番電話を聞いた。「急ぎ、連絡ください。」との内容は、昨日と変わっていなかった。碧の携帯からのメッセージも弁護士からのものだった。(うーん、凪君のこともあるし、ここはいっちょ当たってみておくか。)と覚悟を決めて、指定の番号に折り返しの電話を入れた。弁護士事務所の受付から碧の主任弁護士に繋がれた。その3分後、蛍の予想外の申し出がなされた。(えっ、そんなことってありえんの…。信じられへんわ…。)蛍は返答に詰まった。
部屋のユニットバスでふたりで軽くシャワーを浴び、ふたりは浴衣に着替えるとホテルを出た。南柳通から木屋町通りと川沿いの道を歩いた。美男美女のカップルに、すれ違う人の視線が向けられた。
「みんな螢さんのことを見てますよ。「僕の螢さん」って思っていいんですよね。」
と囁く凪の言葉が耳にこそばかった。旅館、ホテルや外湯や土産物、飲食店を横目に歩くと、約10分でロープウェイの城崎温泉駅に着いた。
チケットを買うと、すぐにロープウェイは発車し、山の斜面を登りだした。すぐに中間駅の「温泉寺」に着いた。
温泉寺は養老4年(西暦720年)に城崎温泉を開いた道智上人により天平10年(西暦738年)に開創された古い寺との事だった。
重要文化財に指定されている高さ2メートルの御本尊の十一面観音像の顔を見たとき、蛍と凪は顔を見合わせ、同時に声を上げた。
「あー、朝のお医者さんのおばちゃんや!」
ふっくらとした顔立ちに細い目に福耳の優しい面立ちはまさに、心療内科医師そのものだった。左手に持った花瓶の角度は、1時間前の凪の「ぴー」の勃った時の角度に一致していると蛍は思った。(寺の娘って言ってたけど、このお寺の観音様やったんや!凪君、すっかり復活しました。本当にありがとうございました。)と蛍は深々と頭を下げた。
「次は、螢さんの心を軽くしなきゃね。あなたは大人だから自分でできるわね。」と蛍は観音様から言われた気がした。(せやな…、後は、私の問題やな…。)再度、一礼して本堂を後にした。
参拝を終わり、帰りはロープウェイを使わず、参道で降りて行った。手をつないで、どうでもいいことをおしゃべりしながら歩くだけでも楽しかった。山を下りた先の源泉でふたりで「温泉卵」を食べ、城崎スイーツ本店でジェラートと本わらび餅を食べた。かりんとう専門店の円山菓寮で、「かりんとう専門店ならではの黒糖カラメル」が美味しいと噂の「ゆらゆら湯上りプリン」を部屋食用に買い、途中の酒屋でワインとワイングラスを買い込み、早めの昼食を取りホテルに戻った。
蛍はフロントで、連泊と、夜の貸し切り風呂を申し入れた。手続きが済むとふたりで部屋に戻り、一息ついた。
「あー、それにしても朝のおばちゃんが観音様やったとはなー!そりゃ、神様やったら、何でもござれやわな!神様にはかなわへんわ!カラカラカラ。」
「いや、僕にとっては、螢さんは「女神様」ですから、同じですよ。今まで、いろいろ僕のためにしてくれましたんで、今日、明日は何でも言いつけてください。螢さんの為なら何でもしますから。」
「じゃあ、まずは、北新地のホストみたいに、ワインの相手でもしてもらおか!」
「はい、喜んで!」
と冷蔵庫からさっき買ってきたワインとグラスを出すと、凪は蛍の持つワイングラスに注いだ。美味しそうにワインをたしなむ蛍を見ながら、凪が呟いた。
「僕、一生、蛍さんの傍にいさせて欲しいです。」
蛍は、真っ赤になって、しどろもどろに答えた。
「な、凪君、ど、どさくさに紛れて、い、今のって「プロポーズ」か?うーん、本気にしてしまうで!」
凪は、真剣な顔をして、
「僕は、本気です。もう、家を出てもいいと思ってます。螢さんの傍にいられるなら、高校もやめて働きます。だめでしょうか?」
と「ド直球」で返してきた。(うーん、そう言ってくれるんはうれしいねんけど…。碧姉ちゃんのこともあるし…。黒瀬社長との事も、凪君に話さなあかんよな…)蛍は、自分の状況を考えるとブルーになったが、それを凪に感じさせてはいけないと思い、努めて明るくお替りを要求し、返事ははぐらかした。
蛍は飲んでいるうちに、昨晩、2時間半しか寝ていない疲れも出て、急に眠気が出てきた。時計を見ると午後1時だった。凪も少し眠そうにしているのを確認して、
「凪君、今日も晩御飯の後、一緒にお風呂入って、その後「いちゃいちゃ」するなら、ちょっとお昼寝しとこっか。」
との投げかけに、凪も賛成してくれたので、一枚の布団で一緒に手をつないで眠りに落ちた。
「ピピピピピピ」。蛍のスマホがなった。(うーん、5時間も寝てしもてたんかな…。凪君もよう寝てるな。ん、スマホにメールと電話の着信が入ってるわ。ゲロゲロ、碧姉ちゃんとその弁護士からや。変な内容でなかったらええねんけど…。)
蛍は、寝息を立てている凪を起こさないようにそっと布団を出ると、ユニットバスの中から、昨日から無視していた碧の弁護士の留守番電話を聞いた。「急ぎ、連絡ください。」との内容は、昨日と変わっていなかった。碧の携帯からのメッセージも弁護士からのものだった。(うーん、凪君のこともあるし、ここはいっちょ当たってみておくか。)と覚悟を決めて、指定の番号に折り返しの電話を入れた。弁護士事務所の受付から碧の主任弁護士に繋がれた。その3分後、蛍の予想外の申し出がなされた。(えっ、そんなことってありえんの…。信じられへんわ…。)蛍は返答に詰まった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる